前へ次へ
130/284

130:『エオナガルド』-3

「さて、戦闘方面と道場については問題がなかったし。後は採取とか食事とかの視察ね」

「おー、そうだな……」

「ゴトスさん休んでいてもいいんですよ?」

「いや、この状況で離れるのは何となく嫌な予感がしてな……」

 道場での一件後。

 私はゴトスとシュピー=ミナモツキの二人を連れて、『エオナガルド』の街並みを歩いていた。

 とは言え、『エオナガルド』内部の時間と外の時間が同期している都合上、現在の『エオナガルド』も外と同じで深夜。

 様々な魔法によって道を歩くのに困らない程度の明かりはあるが、基本的には静かな状態である。


「採取の方は……特に問題なさそうかしら」

「はい、今日も問題なく素材が採れて、小規模ながら取引も成立してます」

 さて『エオナガルド』は私の一部である。

 しかし、その成立に当たってはスィルローゼ様にサクルメンテ様、ルナリド様を含めた七大神、ミナモツキの力の源であるミラビリス様、と言った面々だけではなく、他にも様々な神様が関わっている。

 そのため、動物は居ないが、それ以外ならば一通りの植物素材……木材から野菜まで手に入るし、鉱物素材も塩、鉄、銅だけでなく、一部の宝石まで取れるようになっている。

 そんな事をして、私の体は大丈夫なのかと言う疑問や、神様たちの力が尽きないのかと言う疑問もあるだろが……そこは一切の心配はいらない。

 なにせ、こうして採取を出来るのは、私の体力や魔力の余剰分を様々な魔法によって変換しているからであり、取り過ぎるような事になるならば、その前に素材の採取そのものが出来なくなるようになるからだ。

 分かり易く例えるならば、ある種の献血のようなものだろうか。

 適度な献血は体に良いとも言うし。


「食事は……」

「流石に酒はまだだな。後、肉が無いのが、やっぱり響いてる。おかげで料理好きな連中は頭をひねってるよ」

「でも、米と麦が幾らでも採れるって、一部の人たちは喜んでましたよね」

「そりゃあな。『フィーデイ』で米って言えば少なくともオトミルよりは南に行かないと手に入らないものだし。元日本人なら嬉しがるだろ」

「あ、米もあるのね。ふうん……」

「農産物は何でもあると思ってもらっていいぞ。どうにもファウド様とソイクト様が張り切ったらしい」

「そうなの」

 なお、『エオナガルド』は監獄区の周囲に居住区が広がる構造になっているが、意識して見なければ居住区で何が起きているのか、細かいところまでは分からない。

 これは住民たちの好きなようにさせるにあたって、私の目がありすぎては困るだろうと言う判断からだ。

 で、確認してみたが……確かに米はあったし、温室の様なところではバナナやオレンジどころか、ドリアンらしき物の栽培も始まっているし、私が見たことがないような植物も混ざっている。

 勿論、薔薇の栽培だって行われている。


『あ、気づかれましたね』

『まあ、遅かれ早かれ分かった事だろう』

 ついでにファウド様とソイクト様の電波も受信した。


『エオナ。空間リソースはお借りしていますが、育成のためのリソースは私たちの私的な物を使っていますので、その点についてはご安心ください。勿論、余ったリソースはエオナのリソースになるように細工してありますし、出来た作物の所有権などを主張する気もありません』

『それと、この隔離農場でトラブルが発生したと判断した時は、農場内部の物を無断で捨ててもらって構わない。が、可能ならこのまま育てさせてもらってほしい。『フィーデイ』の今後を考えると、それぞれの土地に根差した独自の農産物と言うのも必要だと思うのだ』

「……」

 うんまあ、お二人の言わんとしている事は分かる。

 確かにこう言うのも必要ではあるだろうし、育成に当たって私の力を使っているわけでもないようだ。

 ならば放置でいいだろう。

 ただ……


「えー、ファウド様、ソイクト様、聞こえていると思っているので、これだけ言っておきます。私への事前通知はちゃんとして下さいね。やっていらっしゃること自体に問題は無くても、勝手にやると言うのはそれはそれで別の問題が起きますので」

 最低限言うべき事は言っておく。

 私はお二人の信者ではないので、この辺りはきっちりしておかないと、後々トラブルになりかねない。


『はーい』

『そうだなー』

「はぁ……」

「エオナに無許可だったのか……」

「こう言うところ、神様って案外勝手ですよね……」

 まあ、伝わったかどうかは微妙なところのようだが。

 うーん、ルナリド様がツクヨミノミコトであるように、お二人も偽名の可能性が高い訳だが……考えても無駄か。

 神話だと勝手に色々とやる神様の方が圧倒的に多数だし。


「まあ、神様関係で何かトラブルがあるようだったら、直ぐに私を呼んで。対処するから」

「分かった」

「分かりました」

 とりあえず、今後は定期的に居住区全体にスキャンをかけて、他の神様たちが妙な物を置いていないかチェックしておいた方が良さそうである。

 封印を揺るがすようなものを置かれても困るし。


「と、着いたわね」

 さて、そうして『エオナガルド』の中を歩いていると、私たちの目の前に監獄区の城の次にエオナガルドで大きな建物……スィルローゼ様をメインとした神殿が見えてくる。


「相変わらずデカい建物だよな……」

「他が高くても二階建ての中で、四階くらいある上に、横にも広いですからねぇ……」

「さ、中に入りましょ」

 他の建物の倍以上の高さを持つ建物の中へ、私、ゴトス、シュピーは入っていった。

07/26誤字訂正

前へ次へ目次