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127:エオナの武器-3

「さて、それじゃあ、少しずつ話しましょうか」

 今更な話だが『Full Faith ONLine』の舞台である『フィーデイ』は大別すれば、10ほどのエリアに分けられる。

 つまりは、世界の中心に位置するローレム山地と言う高レベルエリア。

 クレセート含め、ローレム山地の周囲八方位にそれぞれ存在しているメインエリア。

 そして、その外側にある、人跡未踏の地であるペリビット海とポエナ山地が入り混じるハイエンドエリア。

 この10エリアだ。

 現実となった今ではこのハイエンドエリアの更に外側に未実装領域が存在しているのかもしれないが……まあ、これは今の話には関係ないか。


「g35が所属するギルド『ジェノレッジ』はクレセート寄りのポエナ山地で、高レベルのスィルローゼ神官の参加が基本となるクエストを発見したの。そこでリアルの知り合いと言う事もあり、外部から私が参加することになったの」

 『Full Faith ONLine』での戦闘難易度は、基本的にプレイヤーがゲームを開始する地点である七大都市から離れれば離れるほどに高くなっていく。

 中には魔骸王メンシオス本来の居住地である月下の墳墓のように、周囲と比べて、突出して敵が強くなる場所もあるが、そう言うのは一部だけの例外である。

 そして、この観点で見れば分かるが、ポエナ山地と言うのは高レベルのモンスターとクエストばかりが存在しているエリアになる。

 それこそ、レベル50以上のプレイヤーがPTを組んで、きちんと戦略と戦術を組み立てて対応出来る事が、このエリアに踏み込むために最低限必要な実力となるほどである。

 なので、常日頃からポエナ山地とペリビット海に籠り続けているプレイヤーとなれば……相当の廃人であり、変態であり、奇人である。


「クエストの内容としては、人の立ち入りが封印によって規制されているエリアが存在している。だから、何が原因で封印されているのかを調べて、可能ならその原因を排除するように。と言う、調査や探索系のクエストとしては極一般的な部類のクエストね」

 『ジェノレッジ』は……正しく廃人だった。

 最高レベルの魔法に最高峰の装備、飛び入りの私が居ても乱れないような緻密にして上質な連携、初見殺しのような戦略と戦術にも難なく退ける対応力。

 モンスター討伐とクエストの攻略にしか興味がなかった彼らは都市間模擬戦争のようなPvP系のイベントにはまるで顔を出さなかったが、その実力は確かだった。


「とんでもないクエストだったわ。当時の私はレベル60台で、最高レベルも80の頃だったはずだけど、このクエストのエリアで出現する敵モンスターはどいつもこいつも今のレベル90の一般的なPTぐらいなら壊滅させられるような連中ばかりだったんだから。尤も、『ジェノレッジ』の面々はそのクラスのモンスターを嬉々として狩っていたけど」

「うわぁ……」

「流石と言うかなんと言うか……」

 おまけに、それほどの実力を持っていながら……いや、持っているからこそだろう。

 彼らは誰かがミスをしても罵倒しないし、特定の信仰や魔法などを馬鹿にすることもなかった。

 全ての道具には、適した使い道があり、補い合う事でより価値を高める事が出来る、そう言う理屈の上なのだろうが……傍目にはまるで『ジェノレッジ』と言う一つのギルドが、そのまま一体の生物であるように感じられる程だった。


「でね、そのクエストの目標地点には一本の剣があったのよ」

「剣?」

「銘はスオウノバラ。手にした者の意識を乗っ取り、全ての命ある者を殺しつくすまで止まらない呪われた魔剣よ」

 『ジェノレッジ』は『Full Faith ONLine』を心の底から楽しんでいた。

 だが私とはどうにも反りが合わなかった。

 それは私が彼らの在り方……いや、信仰に違和感を感じたからだろう。

 『ジェノレッジ』の面々の信仰は本当にゲーム的な信仰で、形だけの物で、ゲームのフレーバーでしかなかった。

 それは別に悪いことではないし、私の方が少数派なのは分かっているが、私が彼らと一緒に居たいとは思えない理由だった。


「それってもしかして……」

「ええ、今なら断言できるけど、スオウノバラはスィルローゼ様とヤルダバオトの神器だと思うわ。実際、それだけの力は見せていたから」

「なるほどね。となるとこの剣は……」

 彼らが今どうしているかは分からない。

 だが、恐らくは今もポエナ山地の何処かで戦い続けているだろう。

 『悪神の宣戦』以前から、私のスィルローゼ様へ捧げる祈りが心の底からの物であったように、『ジェノレッジ』の面々の戦いを楽しむ気風も心の底からの物であると私は思っている。

 それこそ、本物の命を賭けている今の状況での戦いの方が、以前の戦いよりも楽しいと感じているかもしれないような集団なのだから。


「姿だけを真似た模造品よ。g35が協力してくれた報酬として、姿だけでも真似てみたら、何かしらの付加価値が付くんじゃないかと造ってくれた剣なの。性能は……まあ、デッドコピー止まりだったけど」

「姿だけ真似てもこの性能になる辺りに、相当な物を感じるけどね……」

 特にg35は……うん、笑顔で最前線に立っているに違いないし、現実化に合わせた武器防具も多数生産しているだろう。

 従姉妹として、それは断言できる。


「あの、ところでエオナ様?そうなるとスオウノバラって今は……」

「ポエナ山地の奥地でそのまま封印されていると思うわ。アレはあの場から動かしたくても動かせない剣だし」

「と言うと?」

「スオウノバラは所有者を操り、目に付いた者全てを殺し尽くす魔剣。でもね、殺す相手が居なくなると……所有者に自害を命じる魔剣でもあるの。おまけに切れ味とかも抜群だから……」

「誘導しようにも多大な被害が出るし、多少の被害が出た後は誰も近づけないようにして、放置される。なるほど、確かに放っておいても問題は無いね」

「そう言う事ね」

 なお、スオウノバラを積極的に封印しに行く必要は無い、と言うか出来ない。

 今の私でもポエナ山地を一人で動き回るのはリスクがあるだろうし、下手をすれば、封印する事が所有と見なされて、操られる可能性もあるのだから。


「とまあ、ローゼンスチェートについてはこんなところね。流石に素材が一年以上前の物だから、アップグレードは幾らでもできると思うわ」

「だろうね。まあ、アンタから貰った素材の検証が済み次第、もう少し詳しい打ち合わせをして、どういう素材を準備して欲しいかを出させてもらうよ」

 そうして、この日の私とウルツァイトさんの話し合いは終わり、私とメイグイはその場を後にする事になった。

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