前へ次へ
125/284

125:エオナの武器-1

「じゃあ、まずは自己紹介からだね。アタシの名前はウルツァイト。『満月の巡礼者』で生産部隊、武器部門に所属してる。メイン信仰は鎚と鍛冶の神ハンスミスでレベルは85だよ」

「私はエオナ。茨と封印の神スィルローゼ様の代行者よ。レベルは……あ、いつの間にか88に上がってるわ」

「私はメイグイです。『満月の巡礼者』斥候部隊の所属ですが、今はギルマスよりエオナ様の付き添いになってます」

 ルナの紹介状を持って私とメイグイが訪れたのは、フルムスの一角に築かれた臨時の鍛冶工房だった。

 そこでは街の復興に必要な金属製品のほか、プレイヤーたちの装備の修復に、街を守る兵士の装備の生産など、幅広く作業が行われていた。

 で、そんな鍛冶工房を訪れた私はウルツァイトと言う名前の褐色の肌に白い髪、それに金色の瞳を持ったツナギ姿の女性に案内されて、工房奥の話し合いのスペースに移動した。


「代行者様か……。噂で聞いた限りじゃ、準神性存在……つまりは白虎や青龍、黒麒麟と言った神獣たちと同格の存在なんだってね」

「一応そうなるわね。ただ、私はなりたての上に、純粋な神獣でもない。あの方たちと比べたら……まだまだ修行不足ね」

 さて、このウルツァイトさんだが……私の事を値踏みするような目で見ている。

 だがそれは私の事を素材の山として見ているのではなく、私が自分の作った武器を持つに相応しい相手であるかを見極める職人の目である。

 うん、ルナの命令だからと何も考えずに従う人間より、ウルツァイトさんの様な人間の方がよほど信頼がおける。

 後は腕次第だが……そこはルナがわざわざ紹介したくらいだから、たぶん大丈夫だろう。


「なるほどね……。じゃ、とりあえず、基本的な部分から確認だね。エオナ、アンタはどういう武器を望む?」

「剣、槍、拳甲。この三種類は今使っている物を改良する形で。後は盾が一つに、短剣が1ダース以上、それと可能なら脚甲もね。こっちの三種類は新規でお願いするわ」

 私は机の上に手持ちの武器を三つとも並べる。

 すると、私の武器を見た途端にウルツァイトさんの視線が一気に厳しくなる。


「剣と槍は随分と痛んでいるね。そして、手入れは最低限か。まあ、ほぼ戦闘専門のソロプレイヤーなら止む無しか。とは言え、此処まで傷んでいると、ほぼ作り直しみたいなものだね。こりゃあ」

 どうやら、私が思っている以上に、私の武器は痛んでいたらしい。

 だが、それほどのダメージを受けているのも仕方がないと言えば仕方がない事である。


「まあ、手入れが足りていない事は否定できないわね。後、無理もだいぶさせてるし」

「無理?」

「武器の製作者が想定していない使い方と言うか……私特有の問題ね」

 私は拳甲……ローゼンアウストを身に着けた上で代行者としての姿を露わにする。

 すると代行者の能力によって金属で出来ていたはずの拳甲は植物製の物へと材質が変化する。


「『スィルローゼ・プラト・ワン・グロウ・アインス』」

「「!?」」

 その上で拳甲を対象に『スィルローゼ・プラト・ワン・グロウ・アインス』を発動。

 植物製の拳甲は成長し、巨大化する。

 普通のサイズから、人の頭ぐらいなら容易に掴んで包めるほどのサイズへと。


「で、この状態で他にもいくつかの魔法をかけたり、投げたりと言った無茶な使い方をするから……」

「なるほど。細かい損耗が進むわけだね。元のサイズに戻った時には、傷も素人じゃ繕えないサイズにまで縮むだろうし」

「そう言う事ね」

 武器の植物化そのものは悪いことではないし、私の能力を考えればむしろ良いことだろう。

 しかし、武器の製作者が装備の材質変化とそれに伴う無茶な使い方……と言うか『悪神の宣戦』からのアレコレなんて異常事態を想定しているはずが無い。

 その結果が、これらの武器の損耗なのだろう。


「なるほどね。なら、今回作る武器は、アンタの能力を前提として考えた方がいいか。あ、折角だからそのままにしておいてくれ。ちょっと強度とか調べたいから」

「分かったわ」

 ウルツァイトさんが色んな機材を持ってくる。

 どうやら私の能力の影響下にある武器がどのような状態にあるかをきちんと調べたいらしい。


「で、調査ついでに幾つか聞きたいことがあるんだけどいいかい?」

「何かしら?」

 さて、強度などを調べている間にも出来る事はある。

 と言う訳で、私はウルツァイトさんの質問に答える。


「まず第一にアンタはどういう素材を生み出せる?出来ればこの場で生み出してみてくれ。どういう性質を持った素材なのかが分かっている方が、アタシとしても今後の予定も立てやすい」

「そうねぇ……」

 私は空いている左手の内で様々なアイテムを生み出す。

 花弁、果実、蕾、茨の棘、それなりに長さのある茨の蔓。

 どうやら、これくらいの素材ならば、スィルローゼ様の御力を借りることなく、あり余っている体力と魔力の分だけで生成できるようだ。


「他には?」

「ちょっと気合いを入れる必要があるけど……ふんっ!」

 私の左手の内に、人の大腿骨に似た形の骨、血の匂いが漂う木製の瓶、それに目に見えるほどの魔力を纏ったローズクォーツが生じる。


「本当に素材の山なんだねぇ……こっちの骨と薔薇水晶とか、普通にゲーム時代でも最高位の素材として扱える品質だよ……」

「流石に生み出すのがちょっと大変だから、無制限には出せないわよ……」

 私は軽く息を吐き出す。

 こう言うところで疲労感を覚えるあたり、やはり私はまだまだ修行不足なのだろう。

 『Full Faith ONLine』で遭遇する準神性存在たちは、激戦を繰り広げた後でもこれらの素材を一度に十何個も生み出していたぐらいなのだから。


「とりあえず、こっちも後で一通り調べさせてもらうよ。妙な特性があるかもしれないからね」

「分かったわ」

 そう言うとウルツァイトさんはアイテム欄にアイテムを収納する。


「後は……そうだね。可能ならだけど、これらの武器を作った職人について教えてもらえるかい?何か特別な仕掛けや思い入れ、意図の類があれば、アタシとしてはそれを尊重したい。手に入れた時のちょっとしたエピソードでも構わないよ」

「そうねぇ……大した話は無かったと思うけれど……まあ、覚えている範囲で話すわ」

 そして私は覚えている範囲で、私の武器についての話を始めた。

前へ次へ目次