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121:フルムス攻略作戦第四-5

「やるじゃない。なら、これはどう?」

「「『ミラビリス・メタル・フロト・ミラウォル・フュンフ』!!」」

 私はさっきよりも強く鞭を振るう。

 するとシュピーたちは鏡の壁を二人で同時に作り出し……それを融合させることによって、私の攻撃を完全に防いでみせる。


「じゃあ、これならどうする?」

 私は壁の裏側が見える位置まで素早く飛び込むと、剣を真上に向けて投げる事で手放して、代わりに茨の棘の短剣を手の内に出現させて一気に複数本投擲。

 刃は潰してあるが、それでも頭に直撃すれば昏倒するだろうし、腹に当たれば悶絶、手足に当たれば骨が折れる可能性だってある攻撃である。


「こうするわ」

「こうしてあげる」

 それをシュピーたちは自分に当たる可能性がある短剣だけを撃ち落とす事で防ぐ。

 それも自分に来るものをそれぞれ撃ち落として防ぐのではなく、二人で協力して、無駄なく、効率よく、まるで舞うような動きでもって撃ち落とす。


「行くわよ!私!」

「行くよ!私!」

「ふんっ!」

 シュピーたちが私に向かって突っ込んでくる。

 私はそれを鞭で迎撃しようとして……止めた。


「剣を……」

「手放した!?」

 代わりに剣を投げて牽制の一撃としつつ、手放した。

 そして向かってくるシュピーの本体に向けて……


「はっ!?」

「っつ!?」

「私!?」

 アイテム欄から拳甲……ローゼンアウストを取り出して殴りつける。


「せいっ!」

「くっ!?」

 続けてシュピーに向けて蹴りを放つ。

 シュピーはそれをしっかりとレイピアの刃で受け止めようとしたが、私の足どころか衣装にすら刃が立たずに弾かれて、武器を飛ばされる。


「どんどん行くわよ!」

「私!」

「分かってる!!」

 だがそれでもシュピーたちは直ぐに対処して見せて、私の追撃を防ぐ。

 元が一人であるからこそ動き、お互いの事を信頼しているからこその動きだった。

 いや、あるいは今のシュピーたちが見せている動きこそが、ミナモツキを正しく使った場合の動きなのかもしれない。

 だが悲しいかな。

 やはり私とシュピーたちとではレベルの差が大きすぎる。


「くっ……」

「このままじゃ……」

 少しずつ私の拳打に対処しきれなくなっていき……やがて二人そろって膝をつくことになる。

 シュピーたちのレベルがもう少し高ければ私からミナモツキを奪うことも出来たかもしれないが……今のシュピーたちではこれが限界だろう。

 そして……時間である。


「すぅ……」

 だから私はゆっくりと足を振り上げ、踵の部分に魔力を集め、直視するのも難しいレベルの青い光を纏う。


「げっ……」

「エオナさん!?」

 シュピーたちがあからさまに顔を青ざめさせる。


「全員防御魔法張れ!!」

「対ショック体勢!!」

「『サンライ・サン・ラウド・レイウォル・フュンフ』!」

 ルナたちも明らかに動揺し、素早く防御魔法を展開するなどの対処を始める。


「茨と封印の神スィルローゼ様。どうかご覧くださいませ。この地に住まう全ての命に一時の束縛を」

「「「っつ!?」」」

 私の踵がその場で振り下ろされ、地面に着くと同時に周囲に光が満ち溢れる。

 その瞬間、フルムス中の地面から茨が沸き立ち、全てのものを拘束していく。

 この後の封印に邪魔が入らないように。


「一時間……と言う事だね……」

「ごめんね、私……手伝って貰ったのに……」

 私がやったことはそう難しい事ではない。

 なにせフルムス中に張り巡らせておいた茨に私の魔力を注ぎ込んで活性化させ、その上で操作しただけなのだから。

 だが、私の思っていた以上に茨は成長し、動きもよかった。

 この辺については……後で検証しておくとしよう。

 今はそれよりもだ。


「さて、一時間が経ち、日は落ちました。ミナモツキは私の手の内にある。故に今からミナモツキの封印を始めます」

 ミナモツキの封印をしなければならない。


「いいんだよ。私の意思で手伝ったんだから」

「それでもだよ……結局、私の力じゃエオナには敵わなかった……」

「『サクルメンテ・ウォタ・ミ=ハド・ドリンク・アインス』」

 私は茨で作った台座の上にミナモツキを置くと、そこへ魔法によって生み出した水を注ぎこむ。

 するとミナモツキは活性化し、神器としての機能を発揮し始める。

 それはつまりミラビリス様とヤルダバオトの力が神器に注がれ始めると言う事でもある。


「茨と封印の神スィルローゼ様。貴方様が代行者であるエオナが求めます」

 だが、それ以上の効果が発揮されることは無い。

 今のミナモツキの所有者は私であり、能力の発動権限も私にある。


「私は……やっぱり弱い……」

「うん、そうだね。私たちは弱い……」

 そして、それ以上に私はヤルダバオト神官であり……封印の力を有するスィルローゼ様の代行者でもある。


「鏡と迷宮の神ミラビリス様の神器にして、悪と叛乱の神ヤルダバオトの神器であるミナモツキ。彼のものを金剛の茨を以って蒼き薔薇の園へと導く力を。無間に極彩色の薔薇が包み込む安寧の間へと繋ぎ止める力を。彼のものの力によって生み出された者たちに安息の世界と新生の機会を。彼のものに注がれし悪と叛乱の神の力を奪い取り、封印の糧とする力を」

 だから、ミナモツキに注がれるミラビリス様とヤルダバオトの力の内、ヤルダバオトの力だけをミナモツキの中に留めさせ、封印する事も出来る。


「『スィルローゼ・ロズ・コセプト・スィル=スィル=スィル・アウサ=スタンダド』」

 そうして魔法の発動と共にフルムス中が虹色の光で包み込まれ始め……


「だから、強くなろう。今よりもずっと。また会えるようになるくらい」

「そうね。強くなりましょう。そして……また会いましょう。私」

 一際強くなった瞬間に、ミナモツキとミナモツキが生み出した複製体たちがまとめて私の中へと送り込まれ、『フィーデイ』から消え去る。


「封印完了」

「う……ああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 そして、光が止むのと同時にシュピーの泣き声がフルムス中に響き渡った。

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