120:フルムス攻略作戦第四-4
「まだやる?」
私は金属鎧に右手に持った剣の先を向ける。
当然私の左手にはミナモツキが握られており、衣服に乱れはなく、体に傷はない。
「いや、降参だ。流石に後十数分で勝てと言われても無理だな」
対する金属鎧も肩で息はしているが、傷らしい傷はなく、盾はしっかりと構えられている。
だが、金属鎧以外に第二陣の複製体たちで立っている者はなく、全員が痛みで呻いているか、気絶している。
「貴方たちの勝ちは私を倒す事じゃなくて、ミナモツキを奪う事じゃない」
「それが無理だと言っているんだ。俺たちの今の実力じゃあ、どう足掻いてもミナモツキは奪えない」
金属鎧は悔しそうにそう言うが……私としてもここまで来るのは大変だった。
なにせどうしても手数が足りず、やむを得ず戦闘中に暇を見て茨の棘のナイフと植物の種子を組み合わせた物を周囲の地面にばらまき、『スィルローゼ・プラト・クラフト・ソンタワ・アハト』によって手数を増やさざるを得なかったのだから。
誇っていい。
信仰値が減っている状態でもなお、彼らは本物の実力者だ。
「そもそもだ。エオナ、アンタはまだまだ本気じゃないだろ。片手は塞がっているし、誰一人として死なせないように動いてるだろ」
「ええそうね。私はそう言う風に動いているわ。とは言え、貴方たちの回復魔法や防御魔法の練度を見て、幾らかは本気で打っても大丈夫だと判断していたけど」
「その判断を戦闘中にされてる時点で、こっちに勝ち目はないっての……」
だからこそ、死人も出さずに金属鎧以外の全員を戦闘不能に出来た。
彼らの実力がもう少し低かったら……逆に危なかったかもしれない。
「そういう訳で降参だ。と言うか……」
金属鎧が盾から手を放し、両手を挙げて降参を明言する。
それに合わせて私も肩の力を少しだけ抜く。
その瞬間だった。
「『ヤルダバオト・フレイム・ワン・ボムボル=シュト=フュンフ』!」
近くの建物屋上に現れた人影が私たちに向けて巨大な火球のようなものを放つ。
「『サンライ・サン・ラウド・レイウォル・フュンフ』!」
金属鎧はその攻撃に反応して、即座に自身を中心とした一定範囲の味方全員へのダメージを抑える魔法を発動。
攻撃に備える。
「決闘開始」
だが、それだけでは攻撃は防ぎきれない。
私の攻撃を受けて弱っている彼らにこれ以上のダメージが加われば、致命傷になってしまうだろう。
だから私はワンオバトーの能力で、人影と強制一対一状態に移行。
人影が私以外に傷つけられないようにする。
「捕捉して……」
「なっ!?」
その上で火球を無数の茨で包み込み、球体を作る。
ただし、人影が居る方向にだけ穴が開いた球体だ。
そして、その球体の中で火球は爆発して……
「馬鹿なああぁぁ!?」
「お返しっと」
全ての爆炎と、爆発の勢いで折れた上に燃え上がった茨を人影に向けて射出、蒸発させる。
「……。話の腰が折れたが、今のも俺たちが降参する理由だな。俺たちと戦いつつ、アンタは裏で根っからのヤルダバオト神官な連中の始末をしている。おまけにファシナティオとの戦いで使ってた茨の狼もそうだが、アンタはまだまだ奥の手を持ってる。ミナモツキが誰かの手に渡ったら、その奥の手をアンタは躊躇いなく使ってくるだろ。それら全てを凌げってのは……ま、無理だな。少なくとも今の俺たちじゃ」
金属鎧が何事もなかったかのように話を続ける。
「まあ、一時間後に持っていなかったら潔く諦めはするけど、そう言う状況になったら躊躇いなく使うでしょうね。私自身のプライドとかどうでもいい物だし」
「だよなー」
私は他にも似たようなことを企んでいる奴が居ないかを確認。
どうやら、今のがこの場でなお戦う意思があった最後のヤルダバオト神官だったようなので、金属鎧との会話に戻る。
「そんなわけで諦めるのさ。それにまあ……アンタの口ぶりから察するにそう言う事っぽいしな。今後もよろしく頼むわ」
どうやら金属鎧は私に封印された後にどうなるのか、その事について既に考えが及んでいるらしい。
なので、私は微笑みを見せる。
「そう言えばあなたの名前は?」
「……。え、ああ、名前か。そういや名乗ってなかったな。オリジナルはGtHって名前だ。ファシナティオに取り込まれてたはずだから、今頃はアッチで『満月の巡礼者』に介抱してもらっているはずだ。俺自身の名前は……まあ、GtSでいいんじゃないか。天国でも地獄でもなく、封印が俺の行き先なんだからな」
「そう、なら今後ともよろしくね。ゴトス」
「……。うんまあ、それでいいか。よろしくな、エオナ」
金属鎧改めゴトスは暫し妙な反応……ぼうっとした後に、首を左右に振り、それから微妙そうな雰囲気を出した後に納得した様子を見せるが、直後に他の複製体たちを起こし始めると、少しだけ彼らと話をしてから、揃って私から遠ざかっていく。
そして、手招きするビッケンの方へと向かっていく。
恐らくだが、オリジナルとの対面、それにビッケンが知り合いだとか、そう言う話なのだろう。
それにしてもGo to HeavenかHellかは分からないが、オリジナルの方は随分な名前である。
「さて、これで第二陣も片付いた、と」
そうして、私の周囲から無事に人が居なくなったところで、私は彼女たちの方を向く。
「最後は貴方たちかしら。はっきり言っておくけど、ゴトスたち以上に勝ち目はないわよ?」
「知っているわよそんな事。それでも、この子の片腕を奪った張本人を一発くらいは合法的に殴っておきたいじゃない」
「すみません。エオナさん。でも……どうしてもきちんと戦ってみたいんです。私と二人でエオナさん相手に何処までやれるかを確かめたいんです」
そこに居たのは武器であるレイピアに白い光を纏わせた状態で構える二人のシュピー。
二人とも既に別れを惜しみ泣き合った後なのだろう、目元は少しだけ腫れている。
しかし、その目にはこれまでとは比べ物にならない程の戦意が満ちている。
「そう、ならやってみなさい!」
だから私はそれに応えるように鞭化した剣をシュピーの左腕目掛けて振るい……
「やってやるわよ!」
「やってみせます!」
二人のシュピーは同時にレイピアを私の鞭に当てる事で弾いて見せた。
07/15誤字訂正