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118:フルムス攻略作戦第四-2

 一時間後にミナモツキ共々自分たちが封印されると知った複製体たちの行動は様々だった。


「一時間……どうするよ……」

「どうするもこうするも……なんか色々と疲れたしな……」

「なら、ゆっくり休むか……」

 ある者たちは、その時が来るのをただ待つ事を望んだ。


「カアアァァ……酒が美味い!」

「肉もいい感じだぞ。ああ、真っ当な食事っていいな……」

「本当にそう思うぜ……」

 ある者たちは、ファシナティオの屋敷やミラビリス神殿から運び出された食材で作られた、配給の食事に涙を流し、喜びを分かち合う事を選んだ。


「ひぐっ……ゴメンね……私は複製だから……」

「分かってる。大丈夫だ。分かってる……」

「ありがとうね。今までありがとうね……」

 ある者たちは、自分の知り合いとの別れを嘆き、最後の会話を交わしていた。


「封印されるなんざゴメンだ……」

「ああ、俺もだ……」

「毒の祝杯といこうや」

 ある者たちは、私に封印されることを拒み、自らの命を絶つ決断を下した。


「どうせ、最後なら、そこら辺の奴相手に暴れ……や?」

「っつ!?気を付けろ、刃物を……もって……」

「ははっ、どうやらきっちりこっちの事を把握しているみたいだな……」

 ある者たちは、自暴自棄になって周囲の人間を襲おうとしたため、私が始末した。


「本気か?」

「やってみなきゃ分からねえだろ」

「ま、止めやしねえけどよ……」

 ある者たちは、私の封印に抵抗するべく自分の周囲に結界を施し始めたり、フルムスから脱出して何処かへと向かい始めた。


「……。第一陣の到着かしらね」

「「「……」」」

 そして、ある者たちは封印に抗うべく私の前へと姿を現した。


「エオナだな」

「ええそうよ」

 ファシナティオとの戦いの影響で、私の周囲は幾らかの瓦礫が散らばっている以外は何もない、多数対一の戦闘をするのに適した、綺麗な更地になっている。

 そんな場所に現れたのは約百名ほどの武器を持った複製体の集団。

 レベルも装備の質もバラバラであるが、彼らの目は私に向けられる形で統一されている。


「ミナモツキは?」

「ここにあるわ。茨の籠で覆って取れないようにする。なんて無粋な真似はしないから、安心しなさい」

 私は左手に持っている、中身のないミナモツキを彼らに見せる。

 すると、彼らに一瞬の動揺が走り……直ぐにそれまで以上の戦意で満たされる。

 素晴らしいことに、退く気は一切ないようだ。


「俺たちはお前なんぞに封印はされない」

「何としてでもお前からミナモツキを奪って見せる」

「俺たちにはまだまだやりたいことが残っているんだよ!」

「御託はいいからかかってきなさい。情に流されてくれるような相手でない事は分かっているでしょう?」

 集団の中から様々な光が放たれ始め、武器や体にそれぞれの属性の色に応じた光がまとわりつく。


「敵は木属性!金属性主体で攻めていけええぇぇ!!」

「「「おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」」」

 そうして、前衛部隊の準備が完了し、私に向かって走り始めると同時に、後衛部隊から金属性を主体とした遠距離攻撃が放たれ、雨のように降り注ごうとしてきた。


「『スィルローゼ・ウド・フロト・ソンウォル・アハト』」

 対する私は、自分の前に巨大な茨の壁を出現させる。

 とは言え、金属性の攻撃相手に木属性の防御壁をただ張ってもそれほどの効果は得られないだろう。


「『スィルローゼ・ファイア・フロト・イグニ・アハト』」

「壁を燃やして!?」

「簡易の火属性防御壁だと!?」

 だから、火を点けて茨の壁を燃やし、その熱によって金属性主体の攻撃を防げるようにする。


「怯むな!相手が規格外の化け物である事は知っていたはずだ!!」

「プレイヤー相手だと思わないで!アレはレイドボスと同じよ!!」

 どうやら、何人かの複製体は私の事を知っているらしい。

 私に対する正しい認識を口にしながら、茨の壁を迂回するようにして、二手に分かれた前衛部隊が突っ込んでくる。


「そうね。最低でも四獣を相手にしているくらいの気持ちで挑みなさい」

「うごっ!?」

「キャッサバ!?」

 だから私はその内の片方に向かって突っ込むと、先頭で斧を振りかぶりながらこちらに近づいてきていた少女の腹に向けて剣を振るう。

 ただし、剣の刃ではなく剣の腹を当てる形で。


「囲んでた……たごっ!?」

 そして、キャッサバと言う名前の少女の複製体が吹き飛んで、地面を転がり、気絶して戦線を離脱する中で、次に指揮を取ろうとした人間の顔に向けて膝蹴り。

 鼻血のように水が噴き出し、昏倒したのを確認すると、他の人間に踏み殺されないように近くの地面に埋めておいた茨でその場から遠ざける。


「うおおおおおぉぉぉぉ!」

「やってやらああぁぁぁ!!」

「舐めるなアアァァ!!」

「来なさい。全員相手にしてあげるから」

 そこからは傍目に見れば舞い踊るような動きだっただろう。

 殺さないように手加減しつつ、近くに居る相手から殴り飛ばし、蹴り飛ばし、攻撃する反動を利用しつつ移動して、その先でも同じことをする。

 相手は数の利を生かすべく、何重にも補助魔法をかけた上で私を囲い込もうとしていたが、私はそれよりも早く包囲の輪に襲い掛かって輪を乱し、崩し、戦線離脱者の数を増やしていく。


「くそっ!ファロファ!それに後衛部隊!私ごとで構わないから……」

「くっ……ごめん!リナマリン!」

「あー……」

 と、ここで二手に分かれていた前衛部隊のもう片方で先頭に立っていた少女……リナマリンが、武器である金属で出来た棒を捨てて身軽になった上に捨て身になる事で私に組み付き、動きを鈍らせてくる。

 そして、彼女の思いを汲んでの事だろう。

 ファロファと呼ばれた金髪の少女を含めた後衛部隊も、私に向けて攻撃を放とうとした。


「それは悪手よ」

「っつ!?」

「「「!?」」」

 が、私は体から棘を生やす事で彼女を退けると、剣を頭上に放り投げて右手を空ける。

 そこから右手を横に動かしつつ……手首から茨の鞭を出現させて後衛部隊を薙ぎ払い、返す一撃に合わせて刃先を潰した茨の棘の短剣をばら撒くことによって、最初の一撃を逃れた者たちも戦闘不能に追い込んでいく。


「ごめんなさいねー」

「っ!?」

 で、最後に茨の鞭を引き戻すついでに私の周囲に居た前衛部隊たちもまとめて薙ぎ払って、戦闘不能に。

 それから落ちてきた剣をキャッチする。


「さて、これで第一陣は終了。で、貴方たちは第二陣でいいのかしら?」

「勿論だとも。ばっちり観察させてもらったぞ」

 その後、気絶させた第一陣の面々を私は茨を操って、安全圏に運搬していく。

 そして、運搬完了と同時に第二陣……きちんとした装備を身に着けた、恐らくは高レベルプレイヤーたちの複製体たちが私の前に姿を現した。

07/13誤字訂正

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