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117:フルムス攻略作戦第四-1

「これで問題は片付いたか」

「そうね。一番厄介な問題は片付いたと言っていいわ」

 ファシナティオの封印が終わった後、真っ先に話しかけてきたのはルナだった。

 どうやら、ツェーンの神託で一度ルナリド様に対面しているだけあって、七大神どころか殆ど全ての神様が力の極々一部を降臨させると言う異常事態からの復帰も早かったらしい。


「一番厄介……そうだな、まだメンシオスの研究の件に、残党の処理が」

「そっちじゃないわ」

「ん?ああ、ミナモツキか。確かにそちらの封印も必要だな」

 さて、ファシナティオの封印の手助けをしてくれた神様たちだが……私以外の目では既に見えないほどに気配を薄めているが、まだそこに居る。

 そして、私がこれからしようとしている事を察していらっしゃるのだろう。

 それぞれに反応を見せている。


「ええ、必要よ」

「エオナ?」

 スィルローゼ様は私のする事に賛同してくれているのだろう、力強く頷いてくれている。

 ルナリド様は少々呆れた様子で、首を左右に振っている。

 サクルメンテ様は我関せずと言った様子で、静かにその場に佇んでいる。

 ミラビリス様は私に向けてよろしくお願いしますと言う感じで頭を下げている。

 他の神様たちは……殆どは私とも関わりがないので当然だが、サクルメンテ様と同じ。

 一部の神様は非効率的あるいは非合理的だと言わんばかりな感じ。

 しかし、何柱かの神様からは私の行動に感心しているような感じもしている。

 けれど、どの神様も私が信者ではなく、一時的かつ一方的に力を貸したに過ぎない事を分かっているからだろう、止める気はないようだった。


「お前、何をする気だ……」

「ルナ、離れておいた方がいいわ。これから、此処は再び戦場になるから」

 ファシナティオを封印するために展開されていた私の茨の領域が解体され、地中に潜り、フルムス中へと広がっていく。


「……。正気か?」

「正気よ。これをせずに封印を進めるのは、私個人の感情として許せないもの」

「分かった。好きにしろ。ただ、万が一の場合には介入させてもらうから、そのつもりでいろ」

「分かったわ」

 そうしてフルムス中に茨を広げると、広げた茨とミナモツキの様子を確かめ……チェックも終了。

 神様たちの気配がなくなり、ルナも離れ、私の周囲に誰も居なくなったことを確認した上で、私は口を開く。


「フルムスに現在存在している全ての複製体に告げます」

 私の声がフルムス中に響き渡る。

 物理的には私が広げた茨の棘を振るわせて音を出す事によって。

 そして、物理的に音が届かない場所に居る当事者……ミナモツキの能力によって複製された生命体に対しても、ミナモツキを介する事で言葉を伝える。


「私の名前は茨と封印の神スィルローゼ様が代行者、エオナ。ヤルダバオト神官であった者たちには、荊と洗礼の反逆者エオナの方が覚えがよいかもしれません」

 私は、まず私の名前とファシナティオが封印されたことを告げ、ミナモツキが私の手元にある事も伝えた。

 そして、これ以上の抵抗を他の神官たちに対して行っても、万に一つも勝ち目がないことを伝えた。


「私は今から一時間後。日暮れと共にミナモツキを封印します」

 本題は此処から。

 私は地平線の向こうに沈むべく動き出している太陽を見る。


「そして、ミナモツキを封印する際に、ミナモツキが生み出した貴方たち複製体も私の中に封印されることになります。これは封印とミナモツキの仕様上、決して避けられない事象です」

 フルムス中に動揺が走るのが分かった。

 だがこれは事実だ。

 ミラビリス様の守護者である路地様直々の情報であるし、ミナモツキを手にした時点で私もそれが避けようのない事態である事を把握していた。


「私は複製して生み出されたものであっても命は命として捉え、貴方たちを本物の人間と同様に扱いたいと考えています。故に封印された後も貴方たちには可能な限りの安寧を提供しようとは思っています」

 だからこそ告げなければフェアではないだろう。


「しかし、貴方たちが私の封印を受け入れるかどうかは、貴方たち自身の意志に従って、貴方たち自身が判断を下すべき事柄でしょう。だから一時間の猶予を与えます」

 たった一時間、されど一時間。


「食事を楽しむのもいいでしょう。酒を酌み交わしてもいいでしょう。単純に話をするだけでもいいし、愛を交わすのだって選択肢の一つです。跡を濁すような真似は許しませんが、そうでなければ、最後の一時間を好きにしなさい」

 しかし、何も言われずにただ突然の封印が行われるよりは良いに違いない。

 だから私は、この行為が自己満足を主とした感情によるものであり、非合理的な行動であると理解した上でなお告げる。


「そして、もしも封印に抗おうと言うのであれば……己の意思で、誠意をもって私に挑み、ミナモツキを奪う事を試みなさい。私はそれを阻止するべく、全力を以って応じましょう」

 封印されたくないのであれば、全力で抗え、と。


「では始めましょう。貴方たちがこの世界に何かを残す為の一時間を」

 そうして、フルムスで私が行う最後の戦いが始まった。

07/13誤字訂正

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