115:フルムス攻略作戦第三-5
「ふ、封印って……スィ、スィルローゼは心優しい神でしょうが!心優しい神を名乗る分際でこんないたいけな少女を封印して幽閉するなんて真似を許すって言うの!?ふざけんじゃ……あぎぃ!?」
「はいはい、戯言はいいから私の質問に答えなさい。次、答えにもなっていない答えを話したら、その時点で封印するから」
私の言葉と視線から、こちらが本気である事を理解したのだろう。
ファシナティオは痛みによって脂汗をかきつつも、必死な様子で頭を回転させている。
「エオナ……」
「ああ、折角だからルナたちもこの質問の答えを考えてみて頂戴。スィルローゼ様がどんな神様なのかをとてもよく表している話だから」
既に近くで起きていた戦闘は全て終わっている。
遠くのほうで聞こえていた爆音の類ももうない。
つまり、ファシナティオの処理を終えれば、フルムスでの戦闘は基本的には終わると言う事だ。
「わ、分かったわ!」
「はい、どうぞ」
と、ここでファシナティオが声を上げる。
「勇者と協力して封じられている何かを倒す!これでせいか……い?」
そうしてファシナティオが答えを言い始めると同時に、私はファシナティオの右腕を肩から切り飛ばした。
とても残念な物を見つめるような目をしつつ。
「いぎゃああああああああああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!?う、腕!?妾の腕がアアァァぁぁ!?」
「はぁ、本当に残念ね。ファシナ……なんだったかしら。あまりにも残念過ぎて名前を思い出すのも億劫になってきたわ……」
私は直ぐに傷口を茨で埋め尽くすことでファシナティオの出血を止め、死なないようにする。
茨の棘が肉に突き刺さり、泣き喚いているが、死ぬよりはマシだろうと言う事で無視。
どうせ、もうすぐ死ぬ方がマシな状況に送るのだし。
「ふざけるなあああぁぁぁぁぁ!!妾の答えの何処がおかし……ムグッ!?」
「何処がって、何処も駄目よ」
後、叫びすぎて舌を噛み千切られても困るので、茨の猿轡を噛ませた上で、声を上げられないように拘束する。
「具体的には?」
さて、このまま封印してもいいのだが……どうやら、ルナたちも私の質問の答えが気になるらしい。
シュピーたちは答えを知っているからかどうでもよさそうにしているが、他のプレイヤーたちはだいたい同じ感じだ。
これは、ファシナティオを絶望させるためにも解説をしておいた方がいいか。
「まず、巫女が封印しているものの危険性を正しく理解していない時点で、この自称勇者たちは論外なの。封印を解いて、対処に失敗したら世界が滅ぶのよ。事前情報も正しく入手できないような連中に処理を任せる事なんて出来やしないわ」
「つまり?」
「真っ当な対処方法としてはもうちょっとちゃんと情報を集めて、準備を整えてから来い。と言うのをオブラートに包んで伝えて、帰ってもらう。これね」
「まあ……理屈としては納得出来るな」
基本的な対処は帰ってもらう。
失敗が許されない話なのだから、確実に上手くいく保証がある作戦と万が一の再封印の手筈ぐらいは整えてから来てもらわないとお話にもならないだろう。
それに、これで帰ってくれるのなら、自称勇者が本物の勇者になってまた来てくれる可能性もあるだろうし、そちらに賭けた方がいい。
つまり、ファシナティオの回答は論外と言う訳だ。
「で、真っ当な方法でなければ?」
「私が巫女ならば、先にその自称勇者の評判や実力を調べるわね。それで、実力がないなら、根本的に自分が居る場所に辿りつかせないように、ちょっとした仕込みをするわね」
「評判が悪いなら?」
「消えてもらうわね」
私の手から茨の棘を基にした短剣が零れ落ち、ファシナティオの目の前に突き刺さる。
すると不思議なことに周囲一帯に短剣が地面に突き刺さる音が響き渡った。
「……」
「だって、封印が解けて、対処に失敗したら、世界が滅びるのよ。それなのに対処に失敗するのが目に見えている連中が封印を解こうとしているなら、そいつらは……敵じゃない。事故か、病気か、食中毒か、モンスターか、天変地異か、あるいは神罰か。いずれにしても敵なら消えてもらった方が良いじゃない。所詮は“自称”勇者なんだし」
別に不思議な話ではないだろう。
世界全てと個人……それも消えても大して問題がない人物の生命では天秤がどちらに傾くかなど決まっている。
なお、私個人の考えでない証拠にシュピーたちが首を静かに縦に振ってくれている。
どうしてかメイグイは何故か首を横に振っているが……まあ、メイグイが否定しているのは、きっとこの場でそう言う話をするんじゃないとか、そう言う感じの事柄だろう。
「つまり、スィルローゼ様は決してお優しいだけの御方ではない、と言う事ね。まあ、当然と言えば当然でしょう。そうでなければ、世界なんて守れない。そして、そんな御方だからこそ、私も仕え続ける事を選べたのよね。自分の手をどれほど血に染めたとしても」
「ーーーーー!?」
私はファシナティオの左足を腿の部分から切り落とす。
だがその際には、私は表情を一切変えない。
怒りも悲しみも喜びもなく、淡々と切り落とす。
だって、スィルローゼ様に加虐を喜ぶような趣味はないし、私もそれは同様だから。
単にこの後まで考えると、これが一番適切だと言うだけの話である。
「げ、外道!」
「人の皮を被った悪魔め!」
「お前それでも神官か!」
「鬼!悪魔!エオナ!!」
「無抵抗の相手を甚振って恥ずかしくないのか!」
「うん、素晴らしい称賛ね。そう言う称賛が言えるのだって、スィルローゼ様が我が身を顧みずに、様々な脅威に対して封印を施してくれているからだと言うのを忘れないようにね」
「「「!?」」」
私に対して非難の声を上げた、根っからのヤルダバオト神官と思しきプレイヤーたちが唖然としているが、これもまた事実だ。
非難と言うのは、非難を言う側に相応の余裕がなければ言えないのだから。
「ふふふ、スィルローゼ様にとっては、この世に住む人々が自分の意思に従い、平穏に活動する事が出来ている光景こそが自分たちに向けられた称賛。だってスィルローゼ様とスィルローゼ神官たちが脅威を封じているからこそ見る事が出来る光景なんだから。それを否定することは神様にだってさせる気はないわ」
そう、神様にもこれは否定させない。
だって、これが事実なのだから。
「さて、ファシナティオ。此処まで言えば、世界に対する脅威にまでなった貴方に私がどう対処するかなんて分かっているわよね?放置しておいたら、また何かをやらかすことが分かっている貴方を」
「ーーーーー!!」
私は足元のファシナティオに目を向ける。
するとファシナティオは未だに状況が理解できていない……いや、あるいは理解しているからこそ、私に向けて悪態を吐くような様子を見せている。
うん、やはりファシナティオはきっちり封印しておいた方が良さそうだ。
反省の色が未だに一切見えないのだから。
後、どうしてかは分からないが、私が信仰した覚えのない神様たちからも、今回に限っては力を貸すと言わんばかりに力が流れ込んできているし、ヤルダバオトすらも完全に見捨てているぐらいだから、ファシナティオを封印する事は、神様たちの方ではもう満場一致の決定事項らしい。
「ルナ、少し離れていなさい。どうやら、今回は普通の封印にはならないようだから」
「……。分かった」
だから私はルナを私から離れさせた。
「では、始めましょうか。ファシナティオ」
「ーーーーー!!」
そして、私とファシナティオを中心として、巨大な茨の領域が球状に展開された。