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111:フルムス攻略作戦第三-1

「決闘開始」

 私はファシナティオだった者の姿を認識すると同時に、私の中に封印されているモンスター……ワンオバトーの強制的な一対一に持ち込むと言う能力を行使。

 私の行動はファシナティオにしか通じず、ファシナティオの行動も私にしか基本的には通じないようにする。


「ぉ、ぴょfぅうqsdせrつb!!」

「ちっ、今の一瞬だけでも千人近く食われたわね」

 だが、能力が行使され、その効果が発揮されるまでには一瞬ではあるが、ラグがあった。

 そのラグの間だけはファシナティオだった者の叫び声がフルムスの街中に響き渡ってしまっていた。

 そして、ファシナティオだった者の叫び声に含まれているのは……強烈な魅了効果。


「シュピーたちは……大丈夫そうね」

 詳細に述べるのであれば、声を聞くか、姿を見たものを魅了して、魅了された者に自分と同化するように命令をする。

 魅了された者はその命令を果たすべく、ヤルダバオト信仰に目覚めさせられた上で自殺。

 元々、心身が弱っていた者ならば、それこそ自発的に心臓を止めるくらいの強制力があるだろう。

 そうして死んだ者はファシナティオだった者の中でリポップし……取り込まれる。

 肉体も精神も、魂と信仰すらも全て食われ、ファシナティオだった者に利用される事になる。


「khくぉs?」

 内部がどうなっているかはあまり想像したくはないが……ファシナティオと言う人間が核になっている事、ミナモツキと言う神器が関わっている事、ついでに先程口の中に見えたものを考えると……肉欲に塗れたある種の異世界、自らの快楽を満たす事だけを考えて互いに喰らい合う地獄。

 そうなっていると見るのが適切だろう。


「ういsdbkgfて……」

「見つかったわね」

 と、ここで自分の能力が行使されているのに犠牲者が増えない事に違和感を覚えたのだろう。

 ファシナティオだった者の髪の毛を構築している切り刻まれた人間のパーツの中から眼球が動き、全て私へと向けられる。

 私に向けられる視線の種別は憤怒と嫉妬、そして殺意。


「lくhちぇs!!」

「おっと」

 ファシナティオだった者が、意味不明な叫び声を口と髪の毛から上げつつ、私に向けて勢いよく手を振り下ろす。

 私はそれを、跨った茨の狼……アタシプロウ・ドンの能力と意識を宿らせたものを走らせることで回避する。


「突っ込みなさい」

「バウッ!」

 そして、アタシプロウ・ドンの能力によって瞬時に最高速度を達しつつ、ファシナティオだった者へと突撃。

 左腕に大量の茨を纏わせ、スオベア・ドンの能力を付与した上で……


「ふんっ!」

 殴りつける。


「kfてぇf……?」

「ちっ、やっぱり駄目ね」

 が、やはり鏡張りの皮膚には単純な攻撃は通じないどころか、反射されてしまうらしい。

 殴りつけた私の腕はボロボロになるほどに破壊されているのに、ファシナティオだった者は攻撃されたことにすら気付いていないようだった。


「……。名前が変わってきたわね」

 と、私が認識するファシナティオだった者の名前に変化が生じ始める。

 新たに表示された名前は、『銀鏡宮・皆惑わしの魔人王ファシナティオ』。

 どうやら、名前が安定してくる程度には、ファシナティオは内部の制御を進めているらしい。


「さて、相手は都市一つを叫び声だけで滅ぼせるクラスの化け物。あまり悠長にやってはいられないでしょうね。相手の制御が正確になっていくのも脅威だけど……」

 となると、やはり戦いを長引かせれば、それだけ不利になると見た方がいいだろう。

 と言うのもだ。


「kkgbsてkh!」

「避けなさい!」

「バウッ」

 ファシナティオが手を振り下ろす。

 私はそれを避ける。

 すると、当然のようにファシナティオの手は私が立っていた場所の建物に直撃し……破壊する。

 では、もしもこの時に破壊された建物の中に人が居たら?

 ファシナティオ自身の攻撃で私以外の生物……意志を以って動くものが傷つくことは無い。

 だが、建物が破壊されたことによる二次被害まではワンオバトーの能力の管轄外と見た方がいいだろう。

 そうでなくともあの巨体で暴れ回られたら……フルムスが大量の犠牲者を出しつつ更地になるのに大した時間はかからないだろう。


「とは言え、焦って勝てる相手でもないし、地道に行くしかないわね」

 しかし、今のファシナティオはその辺りを気にして勝てる相手ではない。

 だから私は、その辺をルナたちに丸投げすることにする。

 それぐらいなら言わずともやってくれるだろう。


「駆けなさい」

「バウッ!」

 槍を持った私を背にアタシプロウ・ドンがファシナティオに向かって跳躍する。

 私の動きにファシナティオは対応できておらず、本体は勿論のこと、髪の毛を構成している無数の眼球に鼻、耳、舌に腕と言った人間のパーツ群も私の事を感知出来てなかった。


「ふんっ!」

 そんな髪の毛に向けて私は槍を突き出し、数本の髪の毛を根元から断ち切る。

 やはり、反射能力は鏡張りになっている皮膚部分にしか無かったらしい。

 だが、髪を断ち切った瞬間。


「おうんdrげsmhxwるghんfせjkgsだtkvんs!!」

「っつ!?」

 ファシナティオは衝撃波すら伴う声量で悲鳴のような声を上げ、私は乗っている狼ごと吹き飛ばされる。


「うんffへrsjlh……」

「ふうん、目とか耳があるだけあって、神経でも通ってたのかしらね」

 そして向けられるのは憎悪に満ちた無数の視線。

 それからファシナティオは自分の胸の辺りの衣を掴むと……


「dghtkxdれうおjhvd!!」

 不気味に脈打つ衣から血を噴出させ、噴き出した血を鋭く尖ったガラスの破片のようなものに変えつつ、私に向かって投げつけてきた。

07/07誤字訂正

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