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108:フルムス攻略作戦第二-7

「エオニャン!?」

 私の心の奥底からどす黒い何かが湧き上がってくる。

 目に見えないどす黒い何かは私の外に出て、私の体にまとわりついてくる。

 それはまるで煮えたぎる程に加熱されて溶けた鉄の様だった。


「エオナ!?」

 対応を間違えた。

 これは相手の信仰を磨り潰すための魔法ではない。

 相手の心の奥底に眠る悪心を増幅し、ヤルダバオト神官として目覚めさせるための魔法だ。


「カッカッカッ!気分はどうだ!」

 メンシオスが耳障りな笑い声を上げながら、私を守ろうと動くルナたちを薙ぎ払う。

 ルナたちが私に回復魔法をかけようとするが、私のHPが減っているわけでも、状態異常にかかっているわけでもないため、効果は発揮されない。


「苦しかろう!辛かろう!その苦痛から逃れたいのであれば、己の内なる声に耳を傾けるがいい!ヤルダバオトに身を委ねるのだ!さすれば……」

「エオナ!耳を貸すな!!」

 頭の中に声が響いてくる。

 今の状況を脱するにはどうすればいいかと言う考えが湧いてくる。

 私はその考えを……


「ああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 実行する。


「ら……っつ!?」

 メンシオスに対して。

 左腕を茨で覆い、私の胴と同じくらいの太さがある熊の腕と爪に変えて、メンシオスに叩きつける。


「死ねっ!メンシオス!!」

「ぬおっ!?」

 続けて右手に持った槍も数倍の太さにした上で振るい、メンシオスの体を吹き飛ばす。


「とりあえず死ね!もう死んでいるだろうけど死ね!」

「ちょ、エオナ。貴様、ちょっと凶暴になっただけでまるで何も変わってないぞ!?どうなっている!?」

 更には脚を茨で覆って跳び蹴りをかまし、短剣のように鋭くした茨の棘を投げつけて怯ませ、左腕を熊の腕から剣……ローゼンスチェートに持ち替えて、地面まで斬撃が届くような剣閃を放ち、メンシオスの胸に切り傷を作る。


「ああっ?十分変わってるわよ。普段なら自重して使わないような策が幾つも頭に浮かんでくるし、殺意増し増しな感じになっているし、周囲と言動への注意も疎かになっているわ」

「それは……」

 当然反撃も受けているが……どれも一瞬で再生。

 致命傷どころかかすり傷にもなっていない。


「でも、残念でした。私は元々自分の事を善だの正義だの思ってはいないの。私はスィルローゼ様の代行者。スィルローゼ様に仕える者として、スィルローゼ様の望みを叶える事こそが私の全て。ヤルダバオトの屑が分体に会ったからと言って私の事を勝手に代行者に任命しようが、アンタの魔法で悪心を膨らまされようが、それだけは絶対に揺るがない。ヤルダバオトなんて骨の髄まで一方的に利用してやるだけよ」

 そして、宣言してやる。

 私は何処まで行ってもスィルローゼ様一筋である、と。


「くっ、狂信者とは知っていたが、まさかここまでとは……吾輩としたことが読み違えたか」

「狂信者は何処まで行っても狂信者だったか」

「エオニャンが色んな意味でヤベえのニャ……」

「スィルローゼが善性の塊のような神で良かったと心の底から思うわ。俺……うおっ!?」

「うっさいわよ!外野!」

 とりあえず私に呆れて手を止めている連中の目の前に私は棘を飛ばして、行動を促す。

 メンシオスはまだ死んでいないし、この後だってまだあるのだから。


「で、メンシオス。どうしてアンタはこんな真似をしたのかしらね?」

 私は槍をメンシオスに叩きつけながら、問いかける。


「なんの……ことである……かな……!?」

「行動がチグハグなのよ。アンタ。黒い霧の魔法は不死を得てしまっている自分を完全に殺すため。ヤルダバオト神官たちを使ってやっていた実験もそれが理由。そして、私たち相手に使ったのも私たちの排除と実験を進めることが目的」

 メンシオスが剣を振るい、陰の刃を生み出し、腐食を促すガスを吐き出す。

 それを私は槍を振るって迎撃し、陰の刃を避け、腐食を促すガスは気合いを入れて放った魔力によって浄化して無害化する。


「なら……ば……今もそうであろう!?」

「違うわ。私をヤルダバオト神官として目覚めさせる意味なんて貴方にはない。ただ自分が不利になるだけ。黒い霧はもともと私に通じていなかったし……貴方の魔法のおかげで私はこう言う事が出来るようになっている」

「ごぼっ!?」

 私の体から魔法ではなく能力によって大量の茨が生じ、生じた茨は独りでにまとまっていって、大型の四足獣を象る。

 その獣は狼に似ており、それに跨った私は……一瞬で最高速に達して、メンシオスの胸を槍で強く叩くことに成功。

 そのまま吹き飛ばし、地面に転がす。


「シュピーの件にしてもそう。貴方にはシュピーたちを助ける理由なんてない。なのに貴方はシュピーたちを助けた。この戦いが終わった後にシュピーがどうなるかなんて分かっているのに」

「ぐっ、ごほっ……ぬおっ!?」

 そこへルナたちの魔法が殺到する。

 それも属性を火に統一した攻撃であり、それを見た私はメンシオスの体を茨で拘束して、破壊力の底上げを行う。


「はぁはぁはぁ……吾輩に話をする気があると言うのに……殺意がありすぎるのではないかね。吾輩でなければ……消し炭になっているぞ……」

「無駄口を叩いているからよ。とっとと吐いて、とっとと死になさい。ほら、貴方の余計な行動の理由について喋りなさい」

 だがそれでもメンシオスは倒れない。

 黒色の外套はボロボロになり、傷だらけかつ所々から煙が上がっている体ではあるが、まだその顔には余裕がうかがえる。

 やはりレイドボスなだけあって、HPは桁違いのようだ。


「それとも、黙して語らず、真意を隠したまま逝くのがお望みかしら?」

「カッカッカッ、それも悪くはない」

「そっ」

 だから私は再び瞬時に最高速に達した上で槍をメンシオスの体に叩きつけようとする。


「だが、まだまだ足りんなぁ……知識の相続者、気まぐれに助けられた者、吾輩を終わらせる手段、他にも色々と確立したが、吾輩がこの世に残したいものはまだある」

「っつ!?」

 しかし、その槍がメンシオスの体に突き刺さることは無かった。

 私の槍が辿り着く前にメンシオスの体は消え去っていた。


「圧倒的な強者であったと言う記憶と記録よ」

 そして消え去っていたのはメンシオスの体の一部だけであり、その両腕は黄金色に輝きつつ、黒い霧を纏った状態で構えられていた。


「カッカッカッ、さあ、凌いで見せよ。エオナ。これが……吾輩の奥の手よ」


 『日食の相』


 そう名付ける他ないメンシオスの拳が私に向かって突き出された。

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