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107:フルムス攻略作戦第二-6

「カッカッカッ!ファシナティオの奴がかけた魔法も貫けるようになったか!」

「『スィルローゼ・プラト・ラウド・スィル=ベノム=ソンカペト・アハト』、『サクルメンテ・ウォタ・サクル・エクステ・フュンフ』、『サクルメンテ・カオス・ミ=バフ・エクステ・フュンフ』」

 戦闘が再開されると同時にメンシオスは私の足元から黒い刃を出現させ、貫こうとしてくる。

 対する私は茨の領域を展開し、強化し、さらにバフを延長する。

 すると私が展開した茨の領域が切り裂かれ、茨を通じて私の芯に黒い霧が入り込もうとしてくるが……もはや揺るぎもしない。


「だが貴様にはこの程度では無意味か。知ってはいたが、ふざけた信仰の強さよ」

 痛みもないし、切られた茨も直ぐに再生してくっつく。


「『スィルローゼ・ウド・ワン・ソンランス・ツェーン』!」

「おっと」

 メンシオスの足元から茨の槍が出現する。

 が、メンシオスは難なく攻撃を避けると、私に向かってきて剣を振るってくる。

 だから私はそれを槍で受け止めて、防ぐ。


「「「『ルナリド・ムン・ワン・ボルト・ツェーン』!」」」

「むっ……」

 そして、そのタイミングで何処からともなく飛んできた無数の蘇芳色の矢がメンシオスに直撃する。


「待たせたなエオナ!」

「今来たのニャ!エオニャン!」

「ルナ!ノワルニャン!」

「増援か。吾輩の想像よりも早いな」

 矢を放ったのは『満月の巡礼者』のメンバーたち。

 ルナ、ノワルニャン、それに私の知らない何人かのプレイヤーだった。


「まあいい。ならばまとめて……」

 そんな彼らに向けてメンシオスはまとめて攻撃を放とうとする。


「『ブレドパワ・ミアズマ・ロウ=ネクス=アタク・ブロク・アハト』」

「むっ!?」

「ナイスよビッケン!」

「「「せやああぁぁぁっ!!」」」

 だがそれよりも早く何処からか現れたビッケンの魔法によってメンシオスの攻撃が阻害され、その隙を突く形で私の槍がメンシオスの体を傷つける。

 そして、私の攻撃に乗じる形で、他の近接メンバーたちもメンシオスに攻撃を仕掛け、僅かではあるが手傷を負わせる。

 それも、ビッケンの魔法によって、参戦者が増えることによる戦線の乱れからの隙を生じさせない形で。


「小癪な!」

「消費MPが重すぎるから次は期待するなよ……っと」

「後、攻撃は基本全回避しなさい!下手をするとそこら辺の霧に触れただけでも即死するわよ!」

「聞いたな!メインタンクはエオナに任せろ!!」

 当然すぐにメンシオスは反撃を試みる。

 しかし、事前にノワルニャンから話を聞いていたのだろう、ビッケンも他のメンバーもきちんと攻撃を避け、私が剣を受け止め、鍔迫り合いのような状況に持ち込む。


「ぬぐおっ……」

「うぐっ……」

 私は周囲の状況を確認する。

 この場に集まった『満月の巡礼者』のメンバーは20名ほど。

 黒い霧の影響は私が居る為なのか、回復魔法の効果が阻害される程度で済んでいて、今は私に当たらないように注意しつつ攻撃魔法を打ち込んでくれている。

 壁が壊れたおかげで外からはゲッコーレイの歌声のようなものが聞こえ始めていて、信仰値を固定値で一時的上昇させると言う珍しいバフが発生し始めている。

 外の戦闘そのものは……フルムスの外からの超遠距離魔法による爆炎が散発的に上がっている。


「くっ、流石に数が多いな!」

「そりゃあ、そうでしょうよ!」

 鍔迫り合いが終わり、『満月の相』に入ったメンシオスが縦横無尽に剣を振るい始める。

 私はそれを真正面から受け止める。

 ただし、手に持った槍だけではなく、茨の馬に仕込まれていた短剣も茨で回収して、四本の短剣と槍を組み合わせて扱い、攻撃を凌いでいく。


「多いが……問題は無いな」

「「「っつ!?」」」

 だが、これでどうにか出来るほどメンシオスと言うのは甘い相手ではない。

 『Full Faith ONLine』の時代から、そして今はそれ以上に。


「『ブレドパワ・ミアズマ・ロウ=ネクス=アタク・ブロク・アハト』……っつ!?」

「ビッケン!?」

 ビッケンがメンシオスの魔法の発動を阻害しようとする。

 しかし、確かに魔法が発動したにも関わらず、メンシオスの右手上には黒い霧を纏った立方体が出現。

 出現した立方体はビッケンに向かって真っすぐに飛んでいき、大きく吹き飛ばす。

 それが指し示すところはつまり。


「カッカッカッ、すまんがこれは攻撃魔法ではない。ただの壁生成魔法……それに、適当な距離に居る人間をサーチする探知魔法と、探知した相手にぶつかりに行く移動用魔法を組み合わせただけだ」

「んな、ムチャク……うぐおっ!?」

 メンシオスが今している攻撃は攻撃魔法ではない。


「『スィルローゼ・プラト・ワン・バイン・ツェーン』」

「おっと」

「せいっ!」

「カッカッカッ!当たらんなぁ!」

 私はメンシオスの攻撃を止めるべく魔法による拘束を試みる。

 が、メンシオスはそれを難なく避け、続けて放った武器による攻撃も難なく躱す。


「ぐおっ!?」

「くそっ!?このなんて壁だ!?」

「気分が……うぐえっ……」

「可能な限り避けろ!霧のせいで触れただけでもおかしくなるぞ!」

 そうしている間にも立方体はルナたちの周囲で暴れまわる。

 元々のステータスの高さと私が放っている空気の影響で死者こそ出ていないが、それでも黒い霧の影響でダメージ以上に精神を掻き乱されている。


「カッカッカアッ!ところで気が付いているか!?先程から探知にかかった人間を襲うはずの立方体が、一人だけ明らかに無視しているのを!」

 そんな中で私と剣戟を交わすメンシオスはとても楽しそうに口を開く。


「代行者が人間扱いされないのなんて今更でしょうが!」

「そうだな!だが吾輩は知っているぞ!エオナ、貴様が代行者となった経緯は、他の正当な代行者とは大きく異なる!貴様はスィルローゼから授かった魔法を使ったが故に代行者になったのではなく、己の信仰と才覚のみで死を乗り越え、世界の理に反旗を翻し、その常軌を逸した力故に代行者と認められた!その後も考えるのであれば、貴様について吾輩はこういう他ない!」

 それはルナたちには話していなかった情報。

 恐らく知っているのはスィルローゼ様たちを除けば、私、ヤルダバオト、封印されたマラシアカ、それくらいしか知らないであろう情報だった。

 だが、その情報を話された事自体は問題ない。

 問題なのは……


「貴様は茨と封印の神スィルローゼの代行者こと荊と洗礼の反逆者エオナである同時に、悪と叛乱の神ヤルダバオトの代行者……皆封じの魔荊王ロザレスでもあるとなぁ!」

「「「!?」」」

「このっ……好き勝手なことを……」

 その後の推論と……


「ならば、その証拠を見せてやろう!『ヤルダバオト・トランス・ワン・トゥルス=エクスポジャ・ツェーン』!」

「っつ!?」

「エオナ!?」

「エオニャン!?」

 行動。


「あ、ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 メンシオスの手から放たれた光を浴びた私の絶叫が響き渡った。

07/02誤字訂正

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