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プロローグ その1

4月4日の午前4時44分、俺こと周防瑜吉は居酒屋の二階で儀式を執り行っていた。なぜ俺は儀式を行うことになってしまったのか。遡ること半月前…

「何―!漫画の登場人物を現実世界に召喚する魔術があるだと!」

「しっ、声がでかい。この魔術はリアルコンバートの通称で呼ばれている。まだネットでの書き込みでしか確認していないが、成功させたと言っているやつもいるそうだ」

この荒唐無稽なことを俺に言っている人物は孫崎策士、俺の同級生だ。彼は大学生にもなって中二病という不治の病を患っている。

「そんなライトノベルみたいなことあるわけないでしょ。第一成功する保証はないだろ」

俺は嘘と決めつけているが、否定すると突っかかってくるので敢えて話を進める。

「まあ確かにそれはその通りだな。近頃ニュースでよく取り上げられている引きこもりの突然失踪事件はこれに失敗したやつなのではないかという説が掲示板で主流になっているし」

「そいつら異世界に飛ばされていたりして笑」

「異世界転移はトラックに轢かれてするものでしょ普通」

「まあそれは置いといて、どうやってやるのだ?もしやるのなら、一度見てみたいのだが」

実演しろ、それが中二病の患者にとって一番の弱点であることは重々承知している。こういえば策士は何らかの言い訳で実行を渋る。今までと同じような誤魔化しが返っていると思っていた。しかし、策士の答えは俺の期待を裏切った。

「いいよ、来月に実行しようと思っていたし」

「何だ、今すぐできないのかよ」

「これはゾロ目じゃないと出来ない魔術なので」

「学校の怖い話かよ。オカルトをやっている奴はどこも変わらないのだな」

「オカルトじゃない、魔術だ!」

策士はそう怒鳴った。あれ、これって俺の前で魔術ショーが行われる展開じゃない?まあ、一度中二病の本気を見てみたかったのでそれはいいとして、問題はもう一つある。

「なあ、策士、誰を召喚するつもりなのだ?言っておくが、巨人や人食い鬼だったら俺はパスするぞ」

「なあに、そこは考えてある。張本昭子だ」

「誰だそれ」

「てつどうぐらし!のヒロインだよ。瑜吉、お前そんなんじゃ社会で通用する立派なアニメオタクになれないぞ」

「そもそも立派なアニメオタクになりたくないし、社会で通用云々はお前にだけは絶対言われたくない」

「まあ、4月4日にやるから、その時までに準備は済ませておくよ。お前も何か召喚したいキャラクターがいたら一緒にどうだ。必要なものは二人分用意しておくから」

「召喚の用具集めってカレーを二人分作る感覚かよ。マジで不思議だわ」

そういって俺は策士と別れた。

家に帰って俺は策士が言っていたてつどうぐらし!について調べる。ゾンビの突然の発生によって電車の中に閉じ込められた女の子たちが何とか生き延びようとする漫画だとか。

「ああ、これがさっき言っていた昭子ね……。オッパイが大きくてお嬢様タイプ、いかにも策士が好みそうだな」

調べてみたらアニメ化もされているらしい。俺はやることもなかったのでこれを動画サイトで一気見した。

「ぷはー。やっぱり一気にアニメを見るのは疲れるな」

俺は視聴後疲れをとるために湯船につかっていた。本来は3か月近くかけて見るものを4時間弱で見るということに改めて弊害を感じつつ、策士の言葉をもう一度思い返していた。

「お前も何か召喚したいキャラクターがいたらどうだ?」

召喚したいキャラクターね…俺は昔読んでいた漫画などのヒロインを次々思い浮かべる。しかしよくよく考えたらみんな暴力系ヒロインと重度のヤンデレだった。確かにガキの頃はブームだったけど、実際に召喚するとなるととんでもないリスクだぞこれ…。そう思いながら、俺は湯船に背中を傾けた。色々考えを巡らせたが、中々思いつかない。まあ、どうするのか…

 小一時間ほど俺は考えた。実際に出てきても弊害がなさそうなヒロインを…

「そういえば去年の今頃俺泥にはまったな」

俺泥、正式名称は俺の先生と妹は泥沼である、だったっけ。内容は主人公が担任と妹(もちろん血がつながっている)からアプローチを受けるという典型的なドロドロ恋愛ものである。途中で義姉と自身の家庭教師からのアプローチも始まり、泥沼はもう止まらない。俺はその家庭教師、甘木寧音にはまっていたということを思い出した。オッパイこそ小さいが途轍もないビッチで、経験人数は煩悩の数と一緒だとか。くそ、俺と同い年なのに…

「よし、寧音を召喚しよう。そして万が一成功したらその場で性交して童貞を捨ててやる!」

こうして俺は湯船から出て、策士に召喚の旨を伝えるために電話した。

「召喚したいキャラが見つかった。甘木寧音でよろしく頼む」

「寧音って俺泥の?」

「他に誰がいるんだよ。まさか出来ないとか?」

「まあ、大丈夫だけど。なんでまた?童貞を捨てるにしろ、もっとまともなヒロインは数多といるんじゃない?」

チッ、バレていたか。何だかんだで策士はそういうところに鋭いからな。まあそれはよしとしよう。

「俺は初めては上手い人とやりたいんだよ。文句あるか」

「分かった、分かった。なら約束の日にまた会おう」

「了解」

こうして俺は電話を切った。


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