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第27話 手の平の上で踊れ

今回はコウガ寄りの三人称になります。

ヤクザ編も残り二話となりました。

引き続きよろしくお願いしたします。

 ノエル一味が帝都に戻ってきたのは、猪鬼(オーク)の棍棒亭の一件から一週間後のことだ。


 その報せを受けたアルバートは、すぐに戦闘員を招集。二人をガンビーノ(ファミリー)が管理する住宅地へ追い込むよう指示する。


 人がたくさん住む住宅地ではあるが、住民の全ては一時的に家を離れている。そうするよう、ガンビーノ(ファミリー)の組員たちが通達して回ったからだ。これで何が起こっても簡単には外に漏れない。


 分厚い雲が月を覆い隠す夜、この住宅地に追い込まれたノエル一味は、ガンビーノ(ファミリー)の屈強な組員たちに囲まれることになった。もはや、蟻一匹逃げる隙間も無い。


 同じく招集されていたコウガは、その光景を眺めながら複雑な心境でいた。全ては今晩終わる。だが、結果がどうなるかは、火を見るよりも明らかだ。状況はあまりにも一方的。これから起こることは、完全にアンフェアな戦いである。


 絶対の勝利を確信しているアルバートは、凄惨な殺戮ショーを開けることに舌なめずりした。勝ち誇り、高らかな笑い声を上げる。


「ヒャハハハハハハッ、馬鹿な奴だッ! そのまま帝都を離れていればいいものの、わざわざ帰ってきやがって! まさか、今更謝って許してもらおうって魂胆じゃねぇだろうな? 駄目だ! おまえたちは、ここで死ぬんだよッ! ヒィッハハハァッ!」


 楽しくて仕方がないという様子のアルバートに、ノエルは肩を竦める。


「品の無い笑いだ。おまえ、本当に育ちが悪いんだな。どれだけ親の遺産で身なりを整えても、中身がそれじゃ底辺丸出しだぜ?」


「てめぇの減らず口も、この状況じゃ心地良い歌にしか聞こえねぇなぁ。――おまえら、まずは二人の手足を折って動けなくしろ。すぐに殺すんじゃないぞ。夜は長い。じっくり楽しませてもらう」


 アルバートは指を鳴らして、自分の軍団に開戦の合図を伝えた。ガンビーノ(ファミリー)の戦闘員たちが、一斉に襲い掛かる――


 そのはずだった――。


「……あ? おまえら、聞こえなかったのか? さっさと行けッ!!!」


 地団駄を踏み、改めて命令を出すアルバート。だが、組員たちは誰も動かない。コウガもまた動けない。


「ど、どうした!? 何故、誰も言うことを聞かねぇんだッ!? ライオス! これはどういうことだッ!? 説明しろッ!!!」


 アルバートは顔を真っ青にして取り乱し、若頭のライオスに詰め寄る。忠実な子分であるはずのライオスは、だが何も答えず溜め息を吐くだけだった。


「なっ、ど、どういうことだ……。いったい、何が起こっている?」


 理解の外にある異常事態に、アルバートは呆然とした。そこに、愉悦に満ちた、残酷な笑い声が響く。


「ハハハハハハ、良い道化っぷりだな、アルバート・ガンビーノ!」


「な、なに!? ……いや、まさか!? てめぇがこれを仕組んだのか!?」


 ノエルは答えず、ただ三日月のような笑みを浮かべている。


 そう、これは完全にアンフェアな戦いだ。この一方的な状況を仕組んだのは、話術士ノエル・シュトーレンである。圧倒的に有利な状況にいたのは、強力な軍勢を持つアルバートではなく、たった一人の仲間しかいないノエルの方だったのだ。


 いったい、何が作用して、こうなったのか?


 コウガは、今日あったことを順に思い出していく。





 ノエルが帝都から姿を消して一週間。大きくプライドを傷つけられたアルバートは、その行方を掴むために躍起となっている。


 組員の大半が動員されているが、見つかることはないだろう。若頭のライオスが、捜索班に見つけても報告しないよう陰で命じたからだ。


 猪鬼(オーク)の棍棒亭で何があったか、外に控えていたコウガは詳しく知らない。ただ、ライオスはノエルを捕らえることに反対のようだ。


 組員からの人望は、組長(ドン)のアルバートよりも、若頭のライオスの方が上。表向きはともかく、実際に優先される命令もライオスの方だ。つまり、ノエルは帝都を離れている限り、安全ということである。


 捜索班ではなく残留組となったコウガは、日々アルバートから与えられる仕事をこなしていた。今日もまた、一つの仕事を終えた帰りである。


「コウガ、おまえ本当に強いよな」


 同行していた組員が、感心したように言った。


「あの相手、かなり強かったはずなのに、一瞬で仕留めるんだから驚いたぜ」


 今日の相手は、ガンビーノ(ファミリー)が管理している建物に、勝手に立てこもっている男だった。いわゆる占有屋である。


 元地下闘技場選手という経歴を持つ男は、剣士系Bランク職能(ジョブ)剣闘士(グラディエーター)で、なかなかの猛者ではあったが、コウガの敵ではなかった。


「腹減ったな。若頭(アニキ)が飯を奢ってくれるそうだから行こうぜ」


 ガンビーノ(ファミリー)は、組長(ドン)のアルバートこそ狂人だが、意外にも組員には若頭のライオスを筆頭に気の良い奴が多い。


 正確には、アルバートが組長(ドン)になる前に入った者たちに限る。ここ最近に入った組員たちは問題児ばかりで、そいつらの起こした事件がガンビーノ(ファミリー)の風評を貶めることになっていた。


「おう、二人ともお疲れさん」


 指定された店に入ると、ライオスが軽く手を上げた。複数のテーブルで、既に組員たちが飲み食いしている。コウガたちも席に着き、食事を始めた。


「コウガ、今の仕事には慣れてきたか?」


 ライオスに尋ねられ、コウガは曖昧に頷く。


「……は、はぁ、まあ、ぼちぼちと」


「そうか。それは良かった。おまえは身分こそ奴隷だが、腕が立つ。このまま功績を積んでくれたら、俺の方から組長(ボス)に掛け合って隷属の誓約書を回収してやるよ。そうすりゃ、おまえは自由だ」


「ほ、ほんまですか!?」


 願っても無い話だ。これまで自由になることは何度も夢見てきたが、ずっと諦めてきた。それが叶うかもしれない。コウガは小躍りしたい気分になる。


「ああ、俺は嘘は吐かん。必ず、自由にすると約束しよう。それで、自由になった後だが、正式に盃を交わさないか?」


「それは……(ファミリー)の一員になれ、ちゅうことですか?」


「もちろん、強制じゃない。他にやりたいことがあるなら、その道を目指すべきだ。だが、もし組員になってくれるなら、俺が一生面倒を看よう」


 コウガは悩んだ。決して悪い話ではない。どのみち、自由になったところで、コウガにできることは刀を振るうことだけだ。将来のことを考えるなら、食いっぱぐれない保証が欲しい。


 それに、組長(ドン)であるアルバートのことは嫌いだが、若頭であるライオスのことは尊敬している。この男の下で働いてみたい、という思いがあった。


 そう考えた時、ふと頭の中にノエルの顔が思い浮かんだ。あの男は、今どうしているだろうか? 本当にこのまま帝都には帰ってこないのだろうか?


 考え始めると、そのことばかり気になってしまう。


「ノエルのことが気になるのか?」


 ライオスに胸中を見透かされたコウガは、思わず背筋を伸ばした。


「い、いえ、そういうわけじゃ……」


「ふっ、隠さなくてもいい。おまえの言ってた通りだったよ。まだ若いのに、良い眼をした男だった。おまえ、本当はあの男の下につきたいんだろ?」


「ワシは……」


 コウガが返答に困った時だった。突然、テーブルが激しく揺れる。


若頭(アニキ)ッ! 俺はもう我慢できませんよ! いったい、いつまであの狂った組長(ボス)に従わないといけないんですか!?」


 酔っぱらった組員だった。だが、様子が普通ではない。涙を流し、悔しそうに顔を歪めている。その手には、何故か竹とんぼが握られていた。


「これ、今日処理したガキが、ずっと大事そうに持っていたおもちゃです。まだ子どもなのに、あんなに酷い姿にされて……。あんなの、血の通った人間ができることじゃねぇ……。なのに、俺はそいつの子分で……もうどうしていいか……」


 組員は鼻をすすり、涙ながらにライオスに訴える。


若頭(アニキ)、なんとかしてくださいよ!?」


「落ち着け。あとで話は聞く。他の客の迷惑になるから、ひとまず――」


「落ち着いてなんていられませんよッ!? 俺がガンビーノ(ファミリー)に入ったのは、先代のような男の下で働きたかったからだ! あんな狂人の下につくとわかっていたら、この世界には入らなかったッ!!!」


「落ち着けって言っているのが、わからねぇのかッ!!!」


 ライオスの店を震わせる一喝に、誰もが閉口する。


「……たしかに、最近の組長(ボス)には目に余るところがある。だが、だからといって、子である俺たちが親に立てついちゃいけねぇ。暴力団(ヤクザ)に入った以上、その掟は絶対だ。手前勝手に変えていいものじゃねぇ」


「で、でも……」


「わかっている。組長(ボス)には、俺から改めて諫言をする。今日のところは、それで収めちゃくれねぇか? 頼む、この通りだ」


「わ、わかりました! だから、頭を上げてください!」


 格上の若頭に頭を下げられてしまっては、もう子分が四の五の言うことはできない。この場はこれで収まった。だが、それは表面上のものでしかない。新参のコウガにも、他の組員たちが白け切っているのがわかった。


「おやおや、揉め事か? 仲間割れは良くないぞ」


 その声の持ち主を認めた途端、全員に緊張が走る。


「ノエル・シュトーレン!? 何故、おまえが!?」


 一週間前に帝都を出たはずのノエルが、悠然とコウガたちの前に立っていた。それどころか、恐れることなくライオスの向かいの席に座る。


 一瞬、組員の持っている竹とんぼに目が行ったが、すぐに正面を向いた。テーブルを挟んで交わされる、ノエルとライオスの視線。ライオスは動揺しながらも、若頭の威厳を保ちながら口を開く。


「おまえ、なんでここにいる? 帝都を出たんじゃなかったのか?」


「約束通り出たさ。一週間だけな。バカンスでリフレッシュしてきたよ」


「バカンスだぁ? ……自分が何をやっているのか、わかってんだろうな?」


 気色ばむライオスに、だがノエルは余裕の笑みを浮かべた。


「あんたの方こそ落ち着けよ。何もここで事を構えようってわけじゃないんだ。俺はただ、バカンスの土産を渡しに来ただけだよ」


 ノエルが懐から取り出したのは一枚の古びた羊皮紙。それを丁寧に広げ、ライオスに見えるようにテーブルに置く。


「この羊皮紙が土産? いったい、どういう…………なぁっ!?」


 その紙面を読んだライオスは、驚愕で眼を見開いた。


「なんだ? 何が書かれているんだ?」


 ライオスの反応に好奇心をくすぐられた組員たちが、我先にとテーブルに集まる。コウガも例外ではない。そんな組員たちに、ライオスは慌て出す。


「ば、ばかやろう! 勝手に見るんじゃねぇっ! あっちへ行くんだ!」


 だが、全てはもう手遅れだった。


「う、うそだろ……」


「マジかよ……」


「……俺たちは、ずっと騙されていたのか?」


「ふざけんなよ、なんだよこれ……」


 組員たちは異口同音に驚愕と失望、そして怒りを口にする。正式な組員でないコウガにも、彼らの気もちは痛いほどに理解できた。


 この紙は――ここに書かれている情報は、爆弾だ。それも、とびっきりの。ノエルは爆弾を抱えて、この場にやってきたのである。


「お気に召して頂けたようだな」


「てめぇ、こんなことして、覚悟はできてんだろうなぁ?」


「ズレているぞ、若頭。俺に凄む前に、やることがあるだろ」


 ノエルがライオスに顎で示した先には、物申したげな組員たちの顔がある。


若頭(アニキ)は、このことを知ってたんですか?」


 言ったのは、涙を流して歪んだ現状を訴えた組員だった。


「……いや、俺も今知ったばかりだ」


「そうですか、俺は若頭(アニキ)の言葉を信じます。でも、この事実は放っておけませんよ。これは、あまりにも酷い」


「待て! 簡単に場に呑まれるな! よく考えろ!」


「考えるまでもないでしょうっ!? 組長(ボス)は先代の私生児だったんじゃないんですか!? なのに、なんでこの出生届には、他の父親の名前が書かれているんです!?」


 ノエルが持ち込んだ爆弾の正体は、アルバートの出生届だった。行政が戸籍管理のために、全ての帝国国民に義務付けている出生届。厳重に管理されているはずの、その原本を、いかなる手段を用いたのか手に入れてきたのである。


 本来、私生児だった場合、父親の欄は空欄で提出するのがルールだ。だが、アルバートの出生届には、確かに父親の名前が書かれている。しかも、先代ではなく、全く別の男の名前が。つまり、アルバートは、正式に婚姻関係にあった夫婦から産まれた子ども、ということになる。


 偽造された文書には見えない。いや、仮に偽造されたものだとしても、これは事実だろう。組員たちも、それをわかっている。コウガは先代のことを話でしか聞いていないが、やはりアルバートとは似ても似つかない傑物だからだ。


 誰もが心に抱いていた疑惑。それを開放した紙は、爆弾というよりも起爆剤と言うべきなのかもしれない。


「先代は、義賊と言われるほど義理と人情に生きた男だった」


 ノエルは淡々と話し始める。


「だが、女癖が悪かった。各地で愛人をつくり、その全員と男女の関係を持った。アルバートの母親も、その一人だ。後に別の男と結婚し、アルバートを産んだが、旦那の事業が失敗したことから家庭環境は乱れていく。しかも、旦那はまだ幼いアルバートに暴力を振るった。一計を案じた母親は、かつての恋人である先代を頼った」


「まさか……」


「その、まさかだよ。母親は先代に、こう言ったんだ。この子は、あなたの子どもです、と。だから助けて欲しい、と頼み込んだ」


「せ、せんだいは、それを信じたのか?」


「いや、信じなかっただろうな。何故なら、先代は種無しだからだ」


 ノエルが新たに明かした真実に、周囲の空気が凍り付く。


「そう、先代には子どもができないんだよ。だが、義理と人情に生きる先代は、母親の頼みを聞くことにした。ひょっとした��、単に後継者が欲しかっただけかもしれないが、そこまでは俺にもわからない。とにかく、幼いアルバートは先代の信頼できる知人に託された。そして、母親は荷物を取りに自宅に戻った時、旦那に無理心中を図られ死んだ」


「な、なんで、そんなに詳しいんだ? おまえは先代を知らないだろ?」


 組員の一人が当然の疑問をぶつける。


「帝都には優秀な情報屋がいてね。そいつに頼んだのさ。もちろん、俺も情報の真偽を確かめるために、現地を訪れて当時を知る者たちに話を聞いた。だから、全て事実だ」


「じゃあ、組長(ボス)と先代に血縁関係が無いのは、確定じゃないか……」


「だから、どうした?」


 黙って話を聞いてたライオスが、有無を言わせない口調で言った。


「血縁関係が無くとも、互いが認めれば親子だ。先代は、今際に組長(ボス)を後継者と認めた。なら、それ以上必要なものなんてねぇ」


 たしかに、その通りだ。だが、人にとって血縁という絆が重要な価値を持つのも事実。これまでアルバートが組長(ドン)として認められてきたのも、組員たちが先代の血の繋がった息子だと信じてきたからだ。


 それが偽りだったと知った今、組員たちの心は大きく揺れている。


「そうは言うが、このまま今までのように忠誠を誓うのは難しいだろ?」


「おまえが決めることじゃない。話はそれだけか?」


 ライオスは立ち上がり拳を鳴らした。ノエルを殺すつもりだ。コウガは一瞬、腰の刀に手を掛けそうになった。


「その通り。俺が決めることじゃない。あんたら組員が決めることだ。俺は、その手助けをできる用意がある」


「……手助けだと?」


 上手い。こんな順番で情報を出されては、ノエルを殺す気のライオスも話を聞かざるを得ない。コウガは、自分たちが言葉巧みに踊らされているのを実感した。


「俺の提案はこうだ――」


 その話を聞いたライオスは、殺意を引っ込め面白そうに笑う。


「たしかに、良い案だ。だが、俺が乗ると思うのか?」


「乗るさ。何故なら――」


 ノエルは立ち上り、ライオスに囁きかける。瞬間、ライオスの顔が大きく歪んだ。それは、ライオスが堕ちた瞬間だった。





 もはや、ガンビーノ(ファミリー)の組員は、アルバートの命令を聞くことはない。ライオスに心酔する者たちは義によって、アルバート派の子分たちはライオスへの恐怖によって、命令を無視する手筈になっている。


 ずっと押し黙っていたライオスが、ゆっくりと口を開いた。


組長(ボス)に二つ聞きたいことがあります」


「……な、なんだ?」


「まず、あなたは先代の実子ではありませんね?」


「は、はぁ!? 何を言って――」


「もう一つ。『先代が病死するよう毒を盛った』のは、あなたですね?」


「ば、ばばば、ばかな!? いったい、おまえは何を言っているんだ!?」


 アルバートは何一つまともに答えなかったが、その狼狽えぶりから、全て本当のことだというのは、傍から見ていたコウガにもよく理解できた。


「そうですか……。やはり、そうだったのか……」


 ライオスは深々と溜め息を吐き、険しい表情となる。


「アルバート、俺たちはもうあんたには従えない」


「なに!? どういうことだ!?」


「あんたには義理も人情も無い。そんな奴を担ぎ続けることは無理だ」


「ふざけるなッ!! 俺を跡目に指名したのは先代だぞ!!!」


「殺した張本人がそれを言うのか? つくづく、救えない男だな……。だが、あんたの言うことも一理ある。だから、漢を魅せるチャンスをやろう」


 ライオスはノエル一味を指差した。


「あいつらと決闘しろ。それに勝てば、あんたを正式なガンビーノ(ファミリー)組長(ドン)と認める」


「け、決闘、だと!?」


「もちろん、戦闘系職能(ジョブ)ではないあんたに戦えとは言わない。代理決闘者を立てることを許す。この中から好きに選べ。そいつは、あんたの代わりに死力を尽くして戦う」


 これが、ノエルが提案した『手助け』だった。一対一の決闘相手となることで、アルバートに漢を魅せる機会を与えてやる、と言ったのだ。


 ノエルにとっては、邪魔な軍勢を排除し、アルバートだけを狙う計画に過ぎない。だが、ガンビーノ(ファミリー)の者たちにとっては、たしかにアルバートの器を計る良い機会となる。先代の死の真相も教えられたライオスに、断らない理由は無かった。


 何もかも全てが、ノエルの手の平の上だ。


「そんなもん、誰がやるかッ!! 俺はアルバート・ガンビーノだッ!!! てめぇらの言うことなんざ聞く必要ねぇッ!!!」


 往生際の悪いアルバートは必死に吠えるが、その眼には諦めの色も滲んでいた。どれだけ喚いてもどうにもならない。そんなことは子どもにもわかることだ。


「いい加減、腹を括りなさいな。同じ直参として、超恥ずかしいんだけど」


 胡散臭い喋り方の、呆れたような声。その声がした方を見ると、派手な紫の服を着た男が、数人の屈強な男を従えて立っていた。


「ば、馬鹿な……。フィノッキオ・バルジーニ、だと……?」

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