第1話 偉大なる祖父と、最弱が最強を目指す理由
タイトル回収を焦らず丁寧に書いていこうと思います。
主人公が頼れる仲間を集めて最強クランのマスターになる過程を楽しんでもらえれば幸いです。
「舐められちゃいかん」
それは、
獲物は遺跡に眠る宝物だったり、あるいは遺跡そのものだったり、未知の生物や、はたまた犯罪者だったりする。
だが、
この世界と
また、
空を飛ぶ船――飛空艇まで実現された現在、人々は魔工文明の恩恵によって栄華を極めていた。そして、この時代の立役者、腕っぷし一つで金も名誉も手に入れられる
「ノエル、男はな、舐められちゃいかんのじゃ」
爺ちゃんは昔、ウェルナント帝国の帝都エトライで、名うての
「ノエル、誰にも舐められない強い男になるんじゃぞ」
現役時代の名残を感じさせる岩のような手が、俺の頭を優しく撫でる。
爺ちゃんの
はじめは誰もがCランクの
たとえば、最もポピュラーな戦闘系
Cランク:剣士、Bランク:
だが、極稀に、規格外のEXランクに至る者がいる。爺ちゃんがそうだ。
爺ちゃんの場合――
Cランク:戦士、Bランク:
上位職になっても
その強さをランク毎に表すなら、Cランクが凡人、Bランクが超人、Aランクが人外、EXランクに至ると、もはや神に近しい領域だ。
若い頃の爺ちゃんは、本当に強かった。強くて荒くれ者で、傲慢だった。
でも、そんな爺ちゃんが惚れて必死に口説き落とした婆ちゃんは、とても綺麗で優しい人だった。そして、身体が弱かった。
婆ちゃんのことが大好きだった爺ちゃんは、婆ちゃんのために
人によっては理想的な引退生活だろう。スローライフってやつだ。
実際、
爺ちゃんは心から婆ちゃんを愛し、婆ちゃんも爺ちゃんのことを愛していた。二人は比翼の鳥のように、仲睦まじく支え合って生きていた。
でも、婆ちゃんは、母ちゃんを産んだ時に死んでしまった。
ただでさえ母親が子どもを産むのは命懸けの仕事なのに、婆ちゃんの弱い身体では出産に耐えることができなかったのだ。
爺ちゃんは最愛の人を亡くした悲しみに暮れた。だが決して自棄になることはなく、婆ちゃんの忘れ形見である母ちゃんを、男手一つで育てることを決意した。
その努力の甲斐もあり、母ちゃんは立派な女性に成長した。美人と評判だった婆ちゃんに瓜二つで、髪と瞳の色だけが違った。婆ちゃんは金色の髪と緑の瞳だったけど、母ちゃんは爺ちゃん譲りの黒い髪とハシバミ色の瞳だ。
生産系の
それから俺が生まれ、家族四人で仲良く暮らしていた。
でも、俺に母ちゃんと父ちゃんの記憶はない。
俺の一番古い記憶は、年老いてなお筋骨隆々である爺ちゃんが、大声で泣いている姿だ。そして、泣きじゃくる爺ちゃんに抱きしめられた温かさだった。
「ノエル、なんて哀れな子なんじゃ……。じゃが、おまえには儂がついておる。おまえを一人ぼっちにはさせん。儂は……儂だけは、何があっても死なん!
母ちゃんと父ちゃんは、俺の物心がつく前に馬車の事故で死んだ。
口さがない奴らは、
もちろん、爺ちゃんは、そんな奴らを許さなかった。相手が誰であろうと、その鉄拳で殺さない程度に打ちのめした。
そして、決まって、あの口癖を言うのだ。
「男は舐められちゃいかん。家族の名誉は絶対に守らなきゃならんのじゃ」
それは、俺が近所の悪ガキに呪われた子だと虐められた夜、爺ちゃんがそいつたちの家に乗り込み散々暴れてきた後の話だったことを覚えている。
爺ちゃんはよく、
そんな話を聞かされて育った俺が、
「ノエル、おまえの姿は死んだ母さんにそっくりじゃ。じゃが、儂にはわかる。おまえには、母さんに無かった、儂と同じ
爺ちゃんの言葉通り、十歳を迎え
だがしかし、その
話術士――パーティの支援に特化した
発する言葉に
本当なら、戦士が良かった。爺ちゃんと同じ
対して話術士を含む
まったく、泣けてくる話だ。
落ち込む俺の頭を、爺ちゃんは豪快に笑って撫でた。
「ガハハハっ! 泣くなノエル! 話術士だろうとなんだろうと、儂がおまえを最高の
そうして始まった修行は、容赦のない過酷なものだった。いつも優しく、幽霊を怖がる俺のために夜のトイレにもついてきてくれた爺ちゃんは、そこにはいなかった。
「立て、ノエル!
傷だらけになり倒れ伏しているところを蹴っ飛ばされたのは、二度や三度の話じゃない。朝から晩まで厳しい修行を課され、最初の内は毎日ゲロまみれだったし、血の小便を流したことだって何度もある。
だが、どれだけ苦しくても、俺は爺ちゃんのことを信頼していたし、厳しい修行の中にも深い愛情を感じていた。
爺ちゃんが言った通りだ。
だから、俺を死なせたくない爺ちゃんは、必死に話術士でも戦える術を教えてくれたし、俺も習得しようと必死だった。
そして、修行が始まり四年。爺ちゃんの教えの甲斐もあり、俺は
このままいけば、例え戦闘系
だが、国から正式に
あの事件が起こったのは、そんな時のことだ――。
「いいかノエル! 絶対にここから出るんじゃないぞ!」
いつも大男の余裕を漂わせていた爺ちゃんが、見たことのない鬼気迫る表情で、俺を使用人たちと一緒に地下シェルターへ押し込もうとする。
その晩、突如として俺たちの住む街が、
しかも、爺ちゃんが測定器で調べたところ、発生した
つまり、俺たちの街は最大級の危険地域と化したのだ。その核となっている
見慣れた街の姿はとうに無く、ただ燃え盛る地獄が広がっている。空には毒々しく輝く赤い満月。
禍々しい空間で、
「安心しろ、おまえのことは爺ちゃんが命にかけて守ってやる」
既に武装済みの爺ちゃんは力強い笑みを浮かべ、俺の制止する声を無視し、たった独りで外から地下シェルターの扉を閉めた。
周囲一帯の
それなら、体力のあるうちに核となる
やがて、今度は
いったい、どれほどの
それを束ねる
次第に
爺ちゃんと
何時間にも渡り続いた戦いの音は、ある瞬間からぴたりと聞こえなくなった。
俺は爺ちゃんが勝利したことを確信し、地下シェルターを飛び出した。
外は既に日が昇っていた。あたり一面が焼け野原となり、人間や
俺��爺ちゃんを探し、廃墟と化した街を駆け回った。
そして、見つけた。
下半身と右腕を失い、血だらけの姿となって倒れている爺ちゃんを――。
駆け寄り抱きかかえた俺に、爺ちゃんは弱々しくも太い笑みを見せる。
「……年には勝てんのう。
俺はただひたすら泣きじゃくった。身体中の水が無くなるかと思うほど泣いた。そんな俺の頭を、爺ちゃんは残った手で優しく撫でてくれる。
「ノエルは泣き虫だのう。爺ちゃんと同じじゃ」
爺ちゃんは俺から視線を逸らし、何かを悩む顔を見せた。
「……これが、
俺は鼻をすすり、涙を拭う。そして、爺ちゃんのように笑って強く頷いた。
本当は死ぬほど怖かった。笑う余裕なんてない。ずっと爺ちゃんに縋りつき、死なないでくれ独りにしないでくれ、と大声で泣き叫んでいたい。
でも、今の爺ちゃんに俺の弱いところは見せたくなかった。
あなたが強いように、あなたの孫も強い。そう安心させたかった。
何も……何一つ恩返しをすることができなかった俺だから……。
「……そうか。ならば、絶対に負けない
爺ちゃんは俺の顔を見て、もう一度頭を撫でる。
「ノエル、爺ちゃんと約束できるか?」
「……約束する、爺ちゃん。俺は、最強の
「ははは、それで……こそ、儂の孫じゃ……。ノエル……約束を……守れず、すまなか……った。……ずっと……愛して……おる、ぞ……」
そうして、俺の最高の
あれから二年、偉大なる祖父の意思を受け継いだ俺は――話術士ノエル・シュトーレンは今、