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第八話

ここから主人公視点に戻ります。再び物語も進んでいきますので、楽しんでいただければ幸いです。

 特殊なロープで造られた円形の簡易闘技場の上には、二人の人間が立っている。一人は剣を構えた精悍な顔つきの少年。もう一人は、土魔法で造られた石の防波堤に身を隠した弓使いの少女がおり、石の防波堤越しに虎視眈々と少年剣士を狙っていた。

 剣士の少年は既にボロボロで、一方防波堤に身を隠す少女は魔力消費による疲労は見えるが、傷一つなくまだまだ余裕そうであった。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 少年剣士が気合の籠った叫び声と共に剣を構え石の防波堤へと走る!

 そして、少女も少年剣士を防波堤に近づけまいと連続して弓を放つ。

 風魔法で造られた矢の群れが少年剣士を襲う!

 しかし、少年剣士は降り注ぐ矢の雨をものともせずに駆け抜け、石の防波堤に渾身の力で切りかかる!

 ――――――――ッバキン!!

 少年剣士の渾身の一太刀は少女に届くことなく、石の防波堤に阻まれた少年の愛剣は奮闘虚しく、真っ二つに砕けた。


「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

「―――― そこまで!! 勝者リタ!!」


 少年剣士の無念の叫びの中、勝負の決着を告げる声が辺りに響いた。そして、一拍後、わぁ! という歓声と共に、少女に祝福の声がかけられる。しかし、少女はそんな周囲の声に答えることなく、悔しそうに地面を叩く少年剣士に手を指し伸べた。


「――――とても、いい勝負でした」






「何なんでしょうか、あれは?」

「高等部入って初めての戦いだからな。テンションが上がってるんだろ」

「私には理解しがたい感情でございます」

「安心しろ。俺もだ」

「それは宜しゅうございました。ドイル様と同じ気持ちを抱けたこと、このバラド至極光栄でございます」

「…………よかったな」

「はい!」


 とてもいい笑顔で返事をしたバラドから目を逸らし、決着がついたばかりの二人を見る。差し伸べられた少女の手を握り立ち上がった少年の頬が僅かに赤く染まっているのを見つけてしまい、俺はげんなりした。


 今日は新入生の実力テストとレクリエーションを兼ねた模擬戦が行われている。校庭には目の前にある簡易闘技場が五つ造られており、新入生同士の一対一の真剣勝負が行われている。

 この模擬戦は一人一戦ずつ行われ、対戦相手は学園側が中等部での成績を元に決める。


 ルールはシンプルなもので時間制限は最長一時間。相手がギブアップするか戦闘不能に持ち込めば勝ちである。武器や魔法の使用は自由で、治療薬系と戦闘用の魔道具の使用だけが禁止されている。

 当然、この模擬戦は成績に関係し、学園側はこのデーターを元に合宿や遠征時の班分けを決めたりする。


「もうすぐ、ドイル様の番でございますね。お相手がジン様ということもあり、先ほどから私の心はざわめきが収まりません」

「………………」

「あぁ。アラン様やセレナ様を差し置いて、ドイル様のご雄姿を拝見できるなんて、バラドには身に余る光栄で――――」


 時々こうやってスイッチの入るバラドのマニュアルがあるなら、是非欲しい。うっとりした表情でどこか遠くを見ながら俺を称賛するバラドの連れ戻し方が、今一番俺が知りたい情報である。何故、こんなになるまで放置してしまったんだ、俺よ。


 未だ俺への称賛を続けるバラドを横目に収めつつ、俺は特別に用意されている観覧席を見る。そこには、にこやかな笑顔で生徒達を見る槍部隊の団長とその息子のジン・フォン・シュピーツとジンの主人である王太子殿下、そしてこの国の大元帥たるゼノ・フォン・アギニスが無表情で生徒達の試合を観覧していた。殿下の試合は一番初めに目の前の闘技場で行われ、開始二十分ほどで殿下が勝利していた。その後も試合は順調に消化され、この闘技場も今行われている試合と、俺とジンとの試合を残すばかりである。

 トリを飾るに相応しい試合が奇跡的に最後に行われることに、ぶっちゃけ作為しか感じない。しかもご丁寧にここの闘技場は大元帥が観覧なさる為、他の闘技場より二試合多く行われるそうだ。

 お蔭様で他の闘技場は試合を終えており、俺とジンの試合を見る為に多くの人が集まっている。


 祖父がここに居る理由だが、王太子殿下が~とかいうかなり適当な理由だった。試合観戦は自ずと自身が戦うことになる闘技場となるので、この闘技場にはご丁寧に、殿下にジン、バラド、俺、他にも剣や弓、魔法といった各分野でトップレベルの者達がこの闘技場で戦っている。

 態々こんな場を作らずとも俺に槍の勇者の資格は無く、次期勇者はジンに決まっているというのにご苦労な事である。祖父も槍部隊の団長も、此処に集まっている者達も俺がジンと槍で戦い、どちらかが上なのか見極めようという魂胆なのだろう。

 しかし、もう俺に槍を使う気は無い。あんな何のスキルの得られない武器なんかよりも、便利なスキルがいっぱいある刀を使う気満々である。


 相手はすっかり槍同士で戦う気なのに卑怯だって? 

 はっ! 

 スキルも魔法も使わずに【槍の申し子】とか、【アラン様の再来】とか言われている奴と戦うなんてマゾいこと俺はごめんだね!


 もう少しで決着がつきそうな試合越しに観覧席を見れば、ワクワクした表情で槍の素振りをするジンと何処か心配そうに俺をチラチラ見る殿下。そんな二人を見守り、時々ジンに何かしらの指導をしている団長に、先ほどから眉一つ動かさずに俺をガン見している祖父。………………観覧席まで用意させたんだから少しは試合見てやれよ、お前ら。


「ジン様はやる気満々でいらっしゃいますね。此処は、ドイル様も美しい槍舞でも披露してみてはいかかでしょうか!?」


 何時の間にか返ってきたバラドがやや興奮気味に提案してきたが、適当に流す。

 ジンも殿下も祖父もバラドも他の奴からも朝からずっとこの調子でゲンナリである。


 そもそも俺は槍なんか使わんぞ!

 使わないったら、使わないからな!!


ここまで読んでいただき有難うございます。

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