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第一話 待ち人きたる

第一話の更新となります。

宜しくお願い致します。

 時間はもうすぐ11時になろうとしている新幹線改札口はいまだスーツ姿のサラリーマンが多く見受けられる。

 あとはスーツの色が濃く、遊びっ気の一切ない服装の就活らしい装いの人の姿もあたりにちらほら。


 それもそのはずで、今日は火曜日。

 祝日でも何でもない平日だからだ。


 そしてこんな平日の真昼間にのんきに待ち合わせができるのは、今が絶賛春休み真っ只中だからだ。

 ただこの一瞬だけは、今日が学校であればよかったのにとも思う。



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ーーー


『あんた、明後日私のお客さんのデートに付き合いなさい』

 そんな突拍子もないことを言われた時には何とも言えない絶望感を受けたが、気づけば彼女という彼女もできずに華の高校一年間を枯らしてしまったのでワンチャンがついに巡ってきた。


 そう考えたらだんだんと気持ちが軽くなりもした。


 姉の紹介という大きなデメリットを考えれなければ。

 だからこそ、浮き足立ったりせずに聞くことができたのだ。


「なんで?」

「うーんとね、なんかその日だけ彼氏役が欲しいんだってさ」


――やっぱり裏があった。


「なんで俺なんだよ?」

「代打でちょうどいいのあんたくらいだし」

「...ちょうどいいって」

「本気にならない、あと私の話が通じる。 知り合いの彼女いない男とか本気になっちゃうでしょ?」

「その子、今彼氏欲しくないんだって」


 なんとも身勝手なオーダーだが、一つ大きな勘違いをしている。


「俺が本気になったら?」

「コロす」


――純情で多感な男子高校生をこの姉は弄びすぎではなかろうか。


「あ、あとその子西高の子だって」

「は!? 西高って水崎(みずさき)西?」

「そー、あんたと同じとこ」

「.........はぁ、まじかよ」


『今付き合う気がない』

 そういって一週間後には見事に付き合っているなんて言う例も数多にある。

 それこそ、中学のころから付き合いのある女子曰く、

『大体の付き合う気がないは、いい男が周りにいないだから』

 ということもあって、少し思わないところがないわけでもないが、流石に姉のお客さん兼高校が同じだとなんとも。

 

 

「何年?」

「.........さあ?」


 これで同じクラスだった日には気まずさがとんでもない。

 それこそ、同じクラスじゃなくたって相手がまさかの同じ高校ってなった時には気まずだろう。


「あ、でもあんたのことは、知りあいのおしゃれ高校生ってことにしてあるから!」


 流石にちょっと悪いと思ったのか、少し自信ありげにそう言ってくるがそれはおしゃれをしていけということですかね。



 そのせいもあってか、その日のうちに髪の毛は姉の勤め先で姉の手によってメッシュの金を入れられたりパーマをかけられたりと大変なことにあった。


 ただ、

『お姉ちゃんの練習に付き合ってあげたの? なかよしねぇ』


 ということで、息子が突然髪型が劇的に変化しても事なきを得た。


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――――

ーーー


「指輪はいらないと思うんだよな」


 右手の薬指で輝きを放つそれにぼやいて見せるが反応はない。

 俺が男だからか、それとも気にしすぎなのか、小指が締め付ける感覚にふとした拍子に背もたれ代わりにしている手すりをつかんだ時の金属音にと、待ち合わせ中の俺は無駄に気になってしまう。

 なんでも右手の小指は物事がうまく行くとか行かないとかの、意味があるらしく


『私、やっさしい』


 とは本人談だったが、俺は思う。

 本当に優しければこんな可愛い弟に代行彼氏なんて行かせないだろうと。


 ただ悲しいことにこの代行彼氏をするのは初めてではない。

 姉の友人がしつこい男に絡まれてるとか、買い物行く時の男の避けとかで何回か経験はあるからだ。


 ただ少なくともその時は予定が明確だったが、今回はこの後どんな予定なのかも知らないので一応、グループlinne『弟君レンタル部』の皆さんに案を出してもらってあるからどちらのパターンでも動くことはできる。


 ただできることなら公園とかの屋外は勘弁してもらいたい。


『明日は小春日和だから、あったかいって!』

『あったかいから大丈夫!』

『小春日和だから!』


 頑なに暖かさをアピールしてきた姉により春先コーデ薄手版を選んだわけなのだが、天気予報のお姉さんのいうことは昨日と一点して快晴から曇りのち晴れへ


 そうなって仕舞えば、『厳然!めちゃモテコーデ!』も寒空の下ではただの薄着と化してしまう。


 デニムのスキニーパンツに半袖の白T、柔らかめの通気性の良いテーラードジャケット。


 姉曰く、アウターじゃなくてチラリと見えるインナーにこだわった方がいいということで、諭吉と一葉がタッグを組んだ白Tになったわけだが、こんなことなら長袖にしとけばよかった。


 ただ、やはり暑くなって汗をかいてるというのはいかがなものかと思ってしまうせいで半袖になってしまったのは仕方ないのだが。


 幸い、駅ナカのため風がない分ましなのだが、それも続かないだろう。

 目の前、改札口の横に置かれた大きな掛け時計の短針がずれなく11を指している。


 


――いっそのこと副会長とか来ないかな。


 わが校のミスコンを現在2連覇中の一個上の二年生の先輩。

 前任の副会長も美人であったが、当代の副会長もかわいい系の美人で自由参加の生徒会主催のイベントは、副会長見たさに出席率が高い節もある。


ーーいや、三年の先輩方もあるのか?


 この春休みで高校生は最後になってしまうが、もしかするとあるのかもしれない。


 姉は同じ高校としか知らないから可能性はゼロではない。

 

 相手に付き合う気がないとは言っても淡い期待を胸にスマホを開く。


『11時らへんでつくって』

『あっちには簡単に服装おしえてあるから』


 数分前に改めて送られてきていた、姉からの連絡に軽く返してトークを見返す。


――できれば相手の服装も知りたかった。


 ただそう思ってしまってもないものねだりだろう。

 ひとまずそれはあきらめて今度はグループトークのところで今日の緊急時プランを読み返す。

 

 いつの間にか、こちらにも野次馬と化した姉の友人からめちゃくちゃなメッセージが飛んでいるがそれにはちゃんと無視をする。


 なんでいきなり場所が夜景の綺麗なホテルになってるのか意味わからんし。

 困ったら姉への連絡は任せろとかあるけど、そっちから連絡がいっても地獄だと思う。



 どうやら昨日俺が眠った後に盛り上がったようなトークを面白半分で見ているとき、


「あ......もしかして」


 雑踏の中でもその声は聞こえた。

 女性特有の、表現は難しいが男とは明確に違う声質。

 なんとなく意識をそっちに向けたとき、


「もしかして、リアさんの紹介の.....」

「はい」


 姉、桐谷璃愛(きりやりあ)の名前がでたので、反応するように視線をスマホから上げたとき、


「どうも」

「あ、はい」


 ギャルというかヤンキーがいた。


読んでいただきありがとうございます。

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