プロローグ ー姉に幻想を抱くな
初めまして、紫煙と申します。
何卒宜しくお願い致します。
突然だが、俺桐谷雅也が多くの男性諸君に告げたいのは一つ。
――姉に幻想を抱くな
この一言だ。
少なくとも十六年間、姉のいる暮らしを経験してきた俺はそういいたい。
姉弟仲で言えば悪いわけではないが、それと姉が素晴らしいものかは別物だ。
親から見れば可愛がりという名のパシリだ。
ただただ一人で買い物に行くのが嫌だというだけで、電車代を自腹で持ち都会に駆り出され。
SNS映えを求めに相方とし連れまわされ、友達に出すお菓子がダサいとかの理由でケーキ屋まで走らされ、荷物が置けないといわれクローゼットに服をしまわれる。
そもそも姉の友達が来るはずなのに、会わない俺がダサい弟を見られたくないというだけで早起きさせられヘアアレンジから全身コーデまでされ、ただ部屋でダラダラするだけなのに堅苦しい服装にさせられたことも数知れない。
夏場、暑いときに少しだけ上を着ないでいたときにはゴミを見るような目で見られ、仕返しに下着で歩いているときに注意したときにはキモイの一言。
まぁ俺はまだいいほうで、普段手厳しい指導を受けている父親が姉が薄着の時に注意したところ、母親も一緒になって二対一で糾弾されていたのは今でも忘れられない。
それほどまでに、リアルというものは残酷なのだ。
時折、こういったことを友人に愚痴れば、やれうらやましい、俺と変われ、俺ならうまくやるなどと返ってくるがそんなに楽なものではない。
語らないだけで、弟の苦労とは計り知れないものなのだ。
現にまた一つ、
「おい、起きてるよね?」
「......はい」
ベットで仰向けになり昼寝に更けていた俺の腹に置かれた足。
優しく添えられているとかではなく、それで左右に揺さぶられる。
「あんたにお願いがあんだけど」
「........」
「おい」
ぐっと腹に力を込められたが、それでも俺は答えたくない。
世間一般では『おねがい』はもしできれば、よろしければ、そういった意味合いがあるはずだがこの姉に限っては違う。
もはやお願いは決定事項なのだ。
現実を見ないようにするために閉じていた瞼を開ければ、目に映るのはばっちりメイクのされた顔に缶チューハイ片手の今朝見送ったはずの姉の姿。
「今日は半日だったんだな」
「そー、そんな働いて疲れてきたお姉ちゃんをベットに寝ころんで待つとは偉くなったわね」
「...いえ。 あ、飯あっためようか」
ここでこの理不尽に反発してはいけない。
大方仕事先の美容室でウザい客でもいたんだろうから。
できる限りここは穏やかに接するが吉だ。
「いい、今あっためてる」
「あ、はい」
「で、お願いだけど」
うまくいけば有耶無耶にできる。
そう思ったが、やはりうまくはいかないようだ。
買い物の付き合いか、パシリか。
この俺の幸せな休日がどうなってしまうのか。
「あんた、明後日私のお客さんのデートに付き合いなさい」
「は」
「あんたは女の子とデートができる。 私はお客さんを笑顔にできる。 winwinじゃん」
私あったまいい!!
そういって俺に座って、缶チューハイを呷ったが。
もう一度言おう。
――姉に幻想を抱くな
読んでいただきありがとうございます。
もしよろしければ、評価やブックマークの程宜しくお願い致します。