悪役令嬢の私は邪魔者ですから。
悪役令嬢アマランサスに転生したのは大喜びだ。
深紅の髪に紫の瞳、おーほほほの高笑いが似合うような容姿、全てにおいて前世の芋い私とは真逆の最高の悪役令嬢で、私は転生前の記憶を思い出してアマランサスの意識と統合化された瞬間、ひゃっほーいと天に色々任せる堂から怒られそうな大ジャンプをくりだした。
しかし大ジャンプと同時にひらめいたのは星でもなければきのこでもない。
最愛の推しカプ、ゼファフロのことだった!
バターン!
扉を開いて、私は学園在籍時の専属侍女に叫ぶ。
「コーラル! 今日は何時何分何秒、天球が何度回った時かしら!?」
「申し上げます。11月1日時刻は13時44分23秒、天球歴34598年です」
「ひゃっはーサンキュー神の思し召しですわ! ゼファフロはすでに出会って蜜月を送っている、まさに黄金の秋ではないの!」
「何の呪文ですかそれ」
「準備なさい、私は瑠璃宮の図書館に逝くわ! おっとまちがえた、行くわ!」
「承知いたしました。図書館ではお静かに」
淡々と準備をして外套をかけてくれるコーラル。私は彼女を連れて瑠璃宮の図書館まで突進した。こそこそと書棚の間を歩き、私は念願の二人を目撃した。
書棚の整理をする、真面目な図書委員長のフローラ・ルミナリス侯爵令嬢。
黒髪に長いお下げ髪、目立つ色彩のない制服姿の彼女は、可憐な黒百合のよう。
ヴッ……と、口から声が出そうになるのを押しとどめる。
背中をコーラルがどうどう、とさすってくれる。ありがとうコーラル。
そして彼女の書棚から少し離れた位置の机で自習をする金髪碧眼の彼。
ゼファー・グラニット 。平民生まれで才能を認められ、グラニット男爵家に見込まれて養子にされた男子だ。遠目にもはっきりと分かる美形で、鍛えた体と雰囲気はいかにも陽キャ男子。だけど、その眼光は真剣そのものだ。
(はわ……地味でおとなしいけれど名門育ちの自他に厳しいフローラと、立身出世にギラついた青い果実なゼファー……)
私は拝みながら二人の様子を眺める。
時折ゼファーが本棚に向かい、彼女に何かを言う。彼女は無表情のまま、何かの本を渡す。そしてまた別れる。
そこに甘さはない――ように思える。
だがしかし!
この二人はこの乙女ゲーム『アストリア・ノクターン』のサブキャラでありながら、ゼファー主人公のスピンオフで確実に結婚していることが明らかになっている未来の公式夫婦なのだ!!!!!!!!!!!!!!!(大声)
公式、公式よ、公式。
公式なの。
公式で契りを結んでいるわけですよ、ねえ!
二人を尊く思いながら眺めていると、偶然ゼファーと目が合う。
先ほどまでの穏やかで真剣な眼差しをしていたゼファーが、私を見て目を眇めて笑った。
「よぉ、アマランサス公爵令嬢。開架書庫であんたを見るなんて珍しいな?」
はわ……尊い……!
素が出て拝みそうになるのをぐっとこらえ、私は胸を張ってふんぞり返る。
「ふっ……公爵令嬢の私に気兼ねなく話しかけてくる度胸、悪くなくってよ」
ばさっ……とかき上げる縦ロール。
そう、私は悪役令嬢アマランサス! 私はゼファーを見た。
「ゼファー・グラニット――下級貴族議会の子女たちの注目を浴びているあなたを、次期生徒会長候補として注視するのは当然のことですわ。くれぐれも、フローラ侯爵令嬢に迷惑をかけないようにあそばせ」
「フローラは関係ないだろ。ただのクラスメイトだ」
「ふふ、あなたがそうおっしゃるのなら、……そういうことにしてあげましょう」
私は颯爽と縦ロールを靡かせ、ハイヒールローファーで優雅に去って行く。
図書館から出て庭に出て、私は植え込みに倒れた。
「はあああああああ尊い……最高……野心家……」
「お嬢様、足だけが植え込みからまろびでていて事件性があります」
「おっといけないわ。植え込みにしっかり隠れるわ」
私は植え込みに丸まって、改めて尊さにごろごろした。
私は見逃さない。
フローラに言及した瞬間、彼の強気の表情が僅かに揺らいだのを。
今はまだ一年生の秋。
二人の関係が少しずつ進展している真っ最中だ。
ゼファーはあくまで利害関係、クラスメイトというだけの関係を保とうとしている。
理由は明白だ。旧家の侯爵令嬢、高値の花のフローラと自分は釣り合わないと思っているから。むしろ自分と親しい付き合いがあるとアマランサスに知れたら、フローラにとって不利益になると思っているから。ああ、なんていじらしい。
「はああ……尊い……」
廊下から声が聞こえる。弾む女子学生の声だ。
「さきほど図書館でごらんになりまして? ゼファーさんにも堂々と立ち振る舞う、あのアマランサス様の凜々しさ!」
「ええ! まさにレイワーズ女王陛下の治世に必要な、新しい『強い女性』ですわ!」
「ふふ、ゼファーさんと言い合っているときのアマランサス様、楽しそう……」
「あのゼファーさんもアマランサス様には頭が上がらないようね」
みんながキャッキャと去って行く。
私は倒れたまま、別の意味でごろごろと転がりたくなった。
「……違うの……違うのよ……私はゼファフロなの……」
そうこうしていると、廊下からまた声が聞こえる。ゼファーとフローラだ。
私はがばっと身を起こし、耳に両手を添えて植え込みの間から耳をそばだてる。
「助かったよ、過去問ありきの試験は俺にとっちゃ不利でしかない」
「クラスメイトなので当然のことです」
「はは、そうだな。じゃあ俺もクラスメイトとして利用させてもらうぜ」
「ええ」
尊い会話が鼓膜を震わせる。最高。
しかしそこに、また新たなる聞きたくない声が響く。
「ゼファー・グラニット! 貴様、フローラ・ルミナリス侯爵令嬢にまた絡んでいるのか!?」
ひょっこり覗くと、そこには黒髪をビシッと撫でつけた、凜々しい眉に赤い瞳が印象的な、いかにも高位貴族の令息がいた。声が大きい。シルヴァン・アストラリス公爵令息。私アマランサスの幼馴染みである彼は、元平民のゼファーに異常に厳しく絡む三年生で、現在の生徒会長だ。
父アストラリス公爵は軍部をまとめる総司令官で超大物、彼も将来有望とされている。
そんな大物の子息にも物怖じせず、ゼファーは肩をすくめて返す。
「別に絡んでいないですよ。ただ本の場所を聞いたりしていただけです」
シルヴァンは食いつきそうな距離まで、ゼファーに距離を詰める。
「貴族令嬢に迂闊に親しく話すな。悪い噂が立ったら彼女に迷惑だろう」
「おや、それでは貴族令嬢は図書委員すらままならなくなってしまいますが、レイワース女王陛下治世の現代において良いことでしょうか」
「その詭弁が周りに通用すると思うか」
「俺が周りをだましているかどうか、俺を誰よりもよく見ているあなたならご存じでは?」
「っ……!」
「敵が多いものでね、もしもの時は後ろ盾にでもなってください」
「その態度だから敵が多いのだろう」
「元平民は目をつけられやすいので、処世術です。……では」
シルヴァンを軽くいなして、ゼファーは去って行く。
その様子を、シルヴァンは悔しげに見送った後、溜息をついて図書室へと向かっていった。
一触即発。犬猿の仲。
「原作通りねえ」なんて眺めていた私の傍、茂みから声がする。
「はあ……ゼファーさんは凄いわ、シルヴァン様があんなに自我を出すなんて」
「特別な関係なのね、あのふたりは」
「あらやだ、ダメですわ! そんな! 男性同士ですのに!」
「そんなことを言っていてはレイワーズ女王陛下の時代には合わなくってよ? うふふ……ぎゃっ!?」
茂みでこそこそと噂し合っていた女子学生が、私に気付いて悲鳴をあげる。
「ああああ、アマランサス・ヴァンガード公爵令嬢! その、これは」
「私は何もきいていないわ。さあ、お行きなさい」
「し、失礼致します!」
彼女たちはぱたぱたと去って行く。
うっすらと聞こえる「ゼファー様、アマランサス様ともお似合いよね」の言葉を聞かなかったことにしたい。耳をほじくり出したい。つらい。
「……疲れた……帰りましょう、コーラル」
「承知いたしました」
私はよぼよぼと寮まで戻っていった。
――そう。私は悪役令嬢アマランサスに転生した。
アマランサスとして、推しカプゼファー×フローラを近くで眺めることができる。
それはいいのだ。だが、この世界でも運命は私に過酷だった。
「まさか……この世界でも、別カプのほうが優勢なんて……」
ゆゆしき事態だ。
◇◇◇
乙女ゲーム『アストリア・ノクターン~聖女の卵は夢を見る』。
田舎の男爵令嬢ヒロインが王都の貴族学園に通い、ロマンスを繰り広げる乙女ゲームだ。
私が転生したアマランサスは悪役令嬢。ヒロインが特定ルートに入ると試練を与えてくるキャラクターだ。しかしこの世界は厳密にはゲームそのままではないらしく、ヒロインと同姓同名の女子生徒はいても『ヒロイン』ではなさそうだ。
つまりは、ゲームのような悪役令嬢ムーブメントをする必要はなさそうだ。
推しカプ、ゼファフロは当ゲームのサブキャラで、公式カプだ。何度でも言う、公式だ。
――物語の流れとしては、二人の関係はこうだ。
平民上がりのゼファーは野心家。
彼は学園内で後ろ盾も情報も無く、当初は打算目的でフローラに近づいた。
フローラは旧家の出身だけど、度重なる領地の不作と父の病気により困窮を強いられている家の令嬢で、華やかな場所から縁遠い令嬢で。
ゼファーは学内の情報を得るために彼女に打算で近づいた。
貴族社会に疲れていたフローラはゼファーに興味を示し、彼に協力することに。
そんな二人は次第に愛を育んでいき、ゼファー主人公のスピンオフでは将来を誓い合う。
――まあ、原作では二人そろってはたった一章にしか出てこないし、ゼファーは人気キャラなものの、フローラは空気で地味すぎて、ネームドモブキャラ扱いだけど。
その結果、二次創作ファンコミュニティはゼファーの二次創作だけが溢れた。
相手はBLの相手として先ほどのシルヴァン・アストラリス。
そして男女の仲で描かれるのは、あろうことかあろうことか、この私、アマランサス!
人気者のゼファー。彼と公式カップリングでありながら、地味なフローラ。
それどころか二人の関係が明言されたコンテンツは、都内一部店舗で配布された特典スピンオフ漫画内だけ。
そうなるとファンはどう捉える?
そう!「二人が公式で将来を誓い合った、恋愛関係である」という描写に気づかない。
気づいてもあえてスルーする人が増えるのだ!
ゼファーをフローラの彼氏にさせるより、悪役令嬢や貴族令息とのロマンスのほうが、面白いから(吐血)! くそっ!
結果、公式カップリングにもかかわらず、同人イベントでの二次創作ゼファフロスペースはたいてい私のみだった。
真横を挟むのは、ゼファーの別カプの皆さんとなる。
左はボーイズラブ、右は男女カプ。堂々たる緩衝材だ。
ありがたい事に両側スペースの作家さんはいい人だったけど、両者のファンの感想が、否が応にも聞こえてくる。
左。
『ゼファシル尊い……ゼファとシルヴァン、公式カプというか、もうスピンオフでも二人の世界すぎて!』
『ゼファが本気になって感情をぶつけるシルヴァン、本当に燃える……男同士って感じ』
『シルヴァンの本気の顔を知ってるのは、ゼファだけでござるよ~』
右。
『ゼファーとアマ様、バチバチに強い男と強い女って感じで最高。それまでは男女の好敵手って感じだった二人が、背中を預け合って学園を守るシーン、本当にいいですよね!』
『オラオラのゼファーがアマ様の前ではへたれ攻めになるのが最高ですよねー』
……
……………………
思想の自由! 言論の自由!
うるせーーーーー! しらねーですわー!!(号泣)
それどころか私のSNSの匿名マシュメイロには暴言が届きまくる始末。
『ゼファーとフローラのカプ、ねつ造ですよね? ゼファーはフローラを利用していただけでは?』
『公式で結婚したとしても、スピンオフはあくまでスピンオフなので正史ではありません』
『そもそも貴族社会で結婚する事は、恋愛感情を担保するものではないのでは?』
『公式カプでもないのにゼファフロを公式で恋愛関係だと解釈するのはおかしいです』
ぶぶぶぶ文脈もよめねーのですか! あんたは!
てか利用しただけの女と結婚するような男だとゼファーの事をお思いで!?
『ゼファアマ作家にもシルゼファ作家にも媚び売って、ピコは必死ですね』
『どの妄想も平等に妄想で原作とは別なんです、ゼファフロもゼファアマもゼファシルも良いではないですか^^V』
イベントで常に緩衝材なので、自然と両横さんと仲良しになってるだけです(涙)
カプとリアル作家同士のお付き合いは別です(涙)
あと妄想じゃないです一応ゼファフロ結婚に関しては(涙)
『フローラみたいな地味でいいところなしのなよなよした弱い女キャラ嫌いなんですよね』
無理に見なくていいから黙って去って!!! お互いの平和のために!
『イベントで顔見ましたけど超フローラっぽかったですよね。自己投影ですか?』
フローラと一緒のことなんて生物学上女性であること以外に何もないが?(困惑)
そんなわけで、前世の私はとにかくカップリングで辛い気持ちを味わった。
結果的にストレスがたまりすぎて、同人活動すら辛くなって筆を折ったんだった。
◇◇◇
「なつかしいですわ……」
私は私室のベッドに寝そべり、天井を見つめて呟く。
なぜか鏡張りの天井なので、アマランサス・ヴァンガード公爵令嬢の美しい寝姿が映っている。自分の姿なのにうっとりしてしまう。確かにアマランサス様、超ヴィジュが強い。
「この世界でも、結局ゼファーとフローラをお似合いだと、祝福する人はいませんのね。それどころかゼファーはシルヴァンとお似合いだとか、私とお似合いだなんて……わた、私が、お似合いなんて……うがーっ!」
私は頭を抱えてじたばたする。体が別カプを拒絶している。
麗しいアマランサスの姿でひとしきり身もだえしたあと、私は覚悟を決めた。
「ゼファーとフローラの恋路は、誰がなんと言おうと私が守りますわ。だって運命ですもの」
私は誓った。
アマランサス・ヴァンガード公爵令嬢として、フローラとゼファーの二人だけの愛の箱庭を守る番人に徹すると。
◇◇◇
翌日、早速私はいかにもゼファー×シルヴァン者が鼻血を出しそうな現場を目撃する。
フローラと学園裏で語り合っていたゼファーを、シルヴァンが見とがめて声をかけているようだった。
どうやら、ゼファーが無理矢理フローラを学園裏に呼び出していると誤解したらしい。
「貴様! 女子学生と裏でこそこそと何をやっている! 令嬢が嫁に行けなくなったらどうするんだ!」
「だから、ただクラスメイトと話すだけで、難癖つけるような男と結婚するのはどうかと思いますよ、先輩」
「平民の感覚で貴族令嬢と接するでない!」
「……へえ?」
ずいっと、ゼファーがシルヴァンに顔を近づける。
「じゃあシルヴァン先輩、俺にお勉強の分からないところ、教えてくださいよ。そしたらフローラには絡みませんので」
「れっ、令嬢の名を呼び捨てになど」
「ね? そんな俺と彼女を一緒に居させるのはどうかと思うなら、お願いしますよ」
ゼファーが近寄って、わざとらしく媚び媚びのウインクをする。
見るからにシルヴァンが鳥肌を立てている。
「フローラ、ありがとな。寮まで送ってやれなくて悪い」
「いえ、私は……」
「寮まで送らずとも良い! 私がとことんまで貴様に指導してやる!」
シルヴァンがゼファーの首根っこを掴む。
ゼファーが肩をすくめ、連れて行かれる。
フローラは黙って一礼して、その場を去って行こうとする。
ああ、おとなしい。可愛い。愛おしい。私の黒百合。
周りを見ると、私のように物陰から様子を見守っていた女子生徒達のすがたが見える。
ゼファシルの匂いを感知して現れたのだ。こ、この異世界腐女子がっ……!
私はぬっと茂みからでて、ゼファーとシルヴァンの前に立つ。
「お待ちになって。シルヴァン様、私とお約束があったのを忘れたの?」
「は? 君と約束? 私は何も――」
私はぐっと、これ見よがしにシルヴァンの制服越しでも逞しい二の腕に腕を絡める。
そして強引にゼファーを引き剥がし、ぽかんとするゼファーとフローラにウインクする。
「お二人が健全なご関係なのはよく存じ上げているわ。さ、後は気にせずに」
私は何か文句を言うシルヴァンをぐいぐいと引っ張り、強引にその場から離れた。
周りに集まった異世界腐女子たちはすでに散っていた。
そのまま生徒会室までシルヴァンを連れて行き、押し込む。
後ろ手にかちゃりと音を立てて鍵を閉めると、シルヴァンは怒った顔で睨んでくる。
「どういう了見だ、ヴァンガード公爵令嬢。人前で強引に腕を絡めるのも、あの態度も、君らしくもない」
「そうね。生徒会室とはいえ男と女が今密室にいるわ。開放的な場所で勉学にいそしむ二人より、よほどふしだらだわ私たち」
「っ……そういうことか」
私がみなまで言うまでもなく、シルヴァンは少しはっとした様子になった。
死角のない場所で、勉強をしていたクラスメイトの男女。
それに突然難癖をつけて割り込んでいくのは、シルヴァン本人にゼファーに対する曲がった色眼鏡があるということ。
「ヴァンガード公爵令嬢、感謝する。あえて諫めてくれたのだな」
「(そういうわけでもないけど)そう思ってくれるなら何よりだわ。それにそろそろヴァンガード公爵令嬢はよして。今は二人きりなのだから、昔みたいにアマランサスと」
「……ああ」
私は彼に話を切り出した。
「あなた、ゼファー・グラニットを認めているでしょう? 将来性もあり、貴族社会にいないギラついた眼差しに、あなたは期待を感じている」
彼は少しムッとした様子で、眉間に皺を寄せる。
「……ただの狂犬にならないよう見張っているだけだ」
「そう。彼が魑魅魍魎うごめく貴族社会に絡め取られ、潰れてしまわないようにね?」
「君こそ、ずいぶんと彼を買っているようだな? 惚れているのk「冗談じゃありませんわ!!!!!」
私は食い気味に叫ぶ。
驚いた顔をするシルヴァンに、私はこほんと咳払いする。
「失礼。……確かに噂では私とゼファーを懇意の仲だと噂する人たちがいるわ。冗談ではありませんけれども」
「君に隙があるんじゃないのか?」
「あら、じゃあ貴方も隙があるのね」
「む?」
「とぼけないで。女子貴族の一部はゼファーに尻を辱められて悦ぶあなたの妄想で持ちきりよ?」
五秒。シルヴァンが黙り込み、そして顔を真っ青にして叫んだ。
「何故そうなる!?」
他人なら怯えるであろうシルヴァンの怒号も、幼馴染みの私には子犬の悲鳴だ。
私は肩をすくめる。
「教えてあげる。とあるタイプの方々はね『わざわざ文句をつけに行く身分の高い美形男』と、『絡まれてるけどいい感じにいなす平民の美形男』を見ると、二人がそういう関係であってほしいと書籍を出す習性があるのよ」
「どんな習性だ!?」
「さあ? でも綺麗なものと綺麗なものがいがみ合ってると、子犬がじゃれあってるように見えるのでは無くて? その筋のひとには」
「そ、そういうものなのか……」
「もちろん私とゼファーの関係も、そういう妄想では付き合ってる扱いされているのよ」
「なるほど合点がいった。先ほどの失言を謝罪させてもらう」
「いいってことよ」
彼は咳払いし、話を続ける。
「ではフローラと言ったか、あの女子とゼファーが付き合っていると思うのも早k「そこは公式だからオッケーよ!!!」
「公式!?!?! ど、どの世界で!?」
「この世界で!」
「お、おお……」
シルヴァンが私の勢いに気圧されている。
真面目で堅物一辺倒の男だが、だからこそ勢いと強い演説には「きっと意味があるのだろう」と受け止めてくれるのだ。真面目すぎる男感謝。最高よ、シルヴァン。
「ねえシルヴァン。私たち、手を組みませんこと?」
「どういうことだ」
「私も貴方も、ゼファーとの噂は勘弁したいところよ」
「当然だ」
「けれど周りは勝手に私と貴方をゼファーと絡めたがる」
「最悪だ」
「だから私たちは、二人で一緒にいる姿を周りに見せつけまくればいいのよ?」
「……み、見せつけまくる?」
「ええ。私たちがいい関係だと思い込ませるの」
私は名案だと思った。
シルヴァンは現生徒会長で公爵令息。私は来期以降の生徒会長候補に目された公爵令嬢。
身分も立場も釣り合う上に、なんてったって幼馴染み。
そんな男女が一緒にいたら、みんな私たちをいい感じの仲だと思い込むのだ!
ゼファアマも、ゼファシルも、これで自然消滅する。
晴れてゼファー・グラニットに関するカップリングがゼファフロだけになるのだ!
そんな感じのことを熱心に説明する私に、シルヴァンはちゃんと耳を傾けてくれる。
シルヴァンは堅物で態度も強くて、顔も怖いし声も大きいけれど、意外と優しいのだ。
私が話し終えるのを待ち、彼は小さく手を上げる。
「……あの、質問いいか」
「ええ、どうぞ」
「これでは君が困らないか。私と噂になってしまえば、今後の婚姻に支障が」
「あなたが婚約者でも、問題ないのではなくて?」
「えっ」
「両親もたまに話題に出していたし、拒否はされないと思うわよ」
身分としてはまったく問題ないはずだ。だが彼は視線をさまよわせ、困った風に口元を覆う。
「それは……そうだが……」
おっといけない。私は自分が逸りすぎていたのに気付いた。
「ごめんなさいね。貴方には当然選ぶ権利があるわ。私がいると新しい婚約ができないわよね」
「い、いや、君に不足があるという意味では」
「別の方法にしましょうか、うーん、実は魂の兄妹だったという設定を繰り出すか……」
彼は少し複雑な顔をしていたが、急に真面目な調子で尋ねてきた。
「君はゼファーを好きなのか?」
「冗談じゃないと言っているでしょう、くどいですわね」
「……ではなぜ彼に肩入れする?」
「違うわ。彼ではなく、彼と彼女。ゼファーとフローラ、二人に平等に肩入れしてますの」
ちちち、と私は指を横に振る。
「私はただ純粋に、あの二人がひとつひとつ、大切に絆を育んでいる様子を見守りたいんですの。ゼファーはとっても尊敬できる男子ですし、フローラも学ぶところばかりの、とても立派な女子です。そんな二人がお互いの良さを知り、認め合い、関係を持つのは、なんて尊い事でしょう」
「そうか。君は……いい子なんだな」
「いい子? 私がですか?」
「ああ。学友のことをそこまでしっかりよく見て、何の利害もなく心から二人の関係を応援する、そんな君は……眩しい。私はどうやら利害関係ばかり考え、人を疑うことばかりをしていたようだ。背筋がのびるよ。ありがとう、気付かせてくれて」
なんだかえらく感動されている。
それでも彼が私の気持ちを理解してくれたのは嬉しい。
私も「ありがとう」と笑って返した。
「決めた。正式に君とは婚約したい。そのほうが私も安心して君と二人きりになれるからな」
「まあ、ありがとうございます! でもいいんですの?」
「二言はないさ。今後ともよろしく、アマランサス」
「はいですの!」
そうして私たちは婚約者関係となり、フローラとゼファーの関係を見守る応援隊になったのだった。
◇◇◇
善は急げと、私たちは両親同意のもと婚約をして、秋の文化祭で発表した。
浮いた噂のない堅物生徒会長と一年にしておーほほほがよく似合う悪役令嬢のビッグカップル誕生は、文化祭で学園中に驚きと祝福をもたらした。
驚きとはいっても、それはシルヴァンのような堅物男が突然婚約者を選んだことと、望めばどんな男も選べるような私、アマランサスが早々に身を固めたことに対するもの。
家柄も名声も、どれもよく釣り合った二人だと周りは皆受け入れてくれた。
私は祝福する友人や知人、顔も知らない人たちに囲まれながら、文化祭のダンスパーティで、ゼファーが慣れない正装でフローラと一緒にいるのをしっかり目撃した。
私は楽団に命じて、フローラに似合いのワルツを流して貰う。
古典のダンスナンバーすぎて、貴族令嬢令息たちはあまり慣れておらずもたつくものの、ゼファーと手を取り合ったフローラは、見事にさりげなくゼファーをサポートして美しいダンスを披露していた。私はシルヴァンと離れた位置で踊りながら、その様子に微笑む。
「楽しそうだな」
「ええ。今日は始まりよ。あの二人が幸せになるためのね」
「それだけじゃないさ。私たちの始まりの日でもあるだろう?」
シルヴァンの言葉にあっと思う。
「ごめんなさい」
「いいさ。私は人のために必死になれる、君を良いと思ったのだからな」
「ありがとう。協力してくれた貴方のためにも、貴方の婚約者として恥ずかしくない働きをするわ」
「楽しみにしてるよ」
そうして、私たちの婚約者生活&ゼファーとフローラを応援する日々が始まった。
◇◇◇
貴族学園は多忙だ。
全員参加のパーティの次は、各同好会に分かれたパーティ、イベント。そんな社交の間にも、次々と学生の本分であるレポート提出と試験は続く。慣れないゼファーをフローラは助け、その様子をうかがいながら、二人だけの力では至らない部分を私たちが陰ながらサポートする。
ゼファーが貴族界隈に顔を売るために必要な射撃同好会への参加のきっかけも、ゼファーを陰ながら蹴落とそうとする嫉妬に駆られた過激派同好会を壊滅に追い込むことも、フローラの屋敷の借財整理のために必要な弁護士の縁作りも、この世界の二次創作……もとい、ゴシップを牛耳る新聞部部長を籠絡したのも、だいたい私とシルヴァンだ。
シルヴァンと私は、二人で頻繁に生徒会室で二人になって、色々作戦を練った。
誰と誰がゼファーの味方になってくれそうか、勢力図を分析したり、フローラの実家を陥れた悪徳商人達の裏で誰が手を引いているのか探ったり、文化祭の出し物でお化け屋敷を作って二人の仲を急接近させようとしたり。二人のデートが成功するように、学園近くのデートスポットに先回って行って、さりげなくおすすめデートスポットマップを作って目につくところに落としてみたり。
その間に私とシルヴァンにも色んなことが起きた。
フローラに嫉妬するモブ女子達の陰謀を回避するため、教室に置かれたいじめの道具を壊そうと侵入したところ、モブ女子達が教室にやってきて、急いで隠れた結果シルヴァンと二人でロッカーに隠れる事になったり。二人でデートスポット調査に行く間に、だんだんフローラやゼファーの為だけでなく、シルヴァンと一緒に過ごすことが楽しくなったり。
自分勝手な都合で振り回す私を見つめ、好きなように合わせてくれるシルヴァンが、私を見るときはとても優しい目をしている事に気付いたり。
その目は、普段厳格な生徒会長として日々学園内に檄を飛ばしているときとは別人のようだったり。
自然とフローラとゼファーの話題が上がらずとも、二人で過ごす日が増えていった。
◇◇◇
そして10ヶ月。
貴族学園は秋が卒業のシーズンだ。
生徒会選挙を通じて私は一年生にして、新副会長に命じられた。
実質的な次期生徒会長ということになる。
「おかしいわね……フローラとゼファーの為に動いてただけだったのに」
「当然の結果だ。君は自然と学園中から評価を得るようになっていた」
「評価?」
元生徒会長となったシルヴァンが、両手に花束を抱えたまま私に言う。
「ここ10ヶ月、君は学園内の様々な人たちの声を聞き、改善要望を提出し、反対意見も出ないような見事な改革を学園にもたらしてきた」
「別にみんなのためじゃないわ、二人のためよ」
「二人への贔屓ではなく、学園全体の利益となる改革を行い、二人の力になっただろう」
シルヴァンが続ける。
「花壇の清掃管理の改善や学園図書館の整備、ゴシップ記事の厳罰化、同時に身分を問わない学生同士平等に会話できるカフェの設置。成績の透明化に――見事だよ」
「それは私の実家パワーと、生徒会長であるあなたの力あってのことよ。私の力じゃないわ」
「君に謙遜は似合わない。ただの『威を借る狐』ではないことは、これが証明しているよ」
彼は私の襟につけられた副会長バッジをつんと突く。
その砕けた態度に、私は胸がどきっと高鳴った。
すると、シルヴァンが意外そうな顔をする。
「……君」
「な、なに?」
「君もそんな顔をするんだな。……いや、してくれるようになったのか」
「どういうこと? 顔に何かついてるかしら」
手鏡を開くと、そこには顔が真っ赤な私がいた。
私はフローラの、顔を赤くして何も言えなくなる姿が好きだった。
恋をする女の子の顔が、とっても愛しいと思っていた。
私が今、同じような顔をしている。
気付いた途端急に恥ずかしくなってきた。笑いながら、シルヴァンが顔を覗き込もうとする。私は背を向ける。また気付いてしまった。シルヴァンの顔は、愛しい女の子を見る男の人の顔をしている。私がゼファーを素敵だと思う、あのフローラを見つめる優しい瞳と同じ。
「あ、暑くなってしまったわ、風に当たってくる」
「ああ、行ってらっしゃい」
シルヴァンに見送られ、私は選挙結果発表会の賑やかな場を後にする。
そして静かな庭園まで離れたところで、ふと、視界の端に見慣れた二人を捉えた。
ゼファーとフローラだ。
バッと隠れて二人の様子を窺う。二人は私に気付いていないらしい。
向かい合った二人は、ずっとうつむいたまま動かなかった。
緊張がこちらにも伝わってくる。
私はとっさに侍女コーラルに目配せする。彼女は頷き、隠れている他の護衛達に指示を出す。数秒で、庭園はゼファフロだけの閉鎖空間となる。
(勇気を出すのよ……出すのよ、ゼファー!)
控えめで古風な令嬢であるフローラからは、当然彼に何のアプローチもできない。
そんないじらしさが大好きなのだ、私は!
そしてゼファーは耳の端を真っ赤にしながら、彼女に小さな花束を差し出す。
私はとっさに目を閉じ、耳を塞いだ。彼の愛の告白は、私が耳にしてはならないもの。
見守っている時点でいらぬ配慮かもしれないけれど、二人だけの大切な時間は、二人だけのものにしたい。
数秒後。そーっと様子を窺うと、二人はにこやかに微笑み合っていた。
ここでハグ&キスにならないところが、二人らしくていじらしい。
見た目よりずっと純情なゼファーと、控えめなフローラは手を繋ぐ事すらない場所から始まるのだ。私は庭園を後にする。感動でえぐえぐと泣きながら。
シルヴァンが私を待っていた。
「シルヴァン……」
「やったのか、ゼファーは」
「ええ。良い告白だったわ、きっと」
「きっと? 君は見ていたんじゃ無いのか?」
「二人だけの秘密にしておきたいから。直前まで見守ったところで、目を閉じて耳を塞いだわ」
「君らしいな」
シルヴァンは苦笑いすると、気を取り直したように背筋を伸ばす。
まっすぐ、シルヴァンの赤い瞳が私を射貫いた。
一瞬、空間が静かになった気がする。
「アマランサス・ヴァンガード公爵令嬢。私は来月卒業する」
「ええ。……そうね。さみしくなるわ」
「卒業の前に伝えたい。正式に、君の婚約者になりたい」
「えっ」
「もちろん書類の上でも、私は君の婚約者だ。これからは改めて、その。未来夫婦になる二人として、一つ一つ信頼を重ねていきたい。受け入れてくれるか」
私はその固い口調に、思わず笑ってしまいそうになる。
この真面目で堅物な人は、当然こんな再宣言みたいなことしなくても、当然私を妻に娶るでしょうに。彼はきっちり線引きをしたいのだ。利害の一致での婚約と、未来に繋がる婚約とを。
「今後ともよろしくね、シルヴァン」
「ああ」
私たちは握手を交わす。意外と大きな手が、ふわっと私の手を包み込む。
それだけで彼が私を大切にしてくれているのだと、理屈では無く感覚で、すっと染み入るように理解した。
――その時。
パチパチパチ……
「えっ何の音!? 拍手!?」
「どこからだ!?」
シルヴァンは私を守るように引き寄せる。ううっと、喉を絞めるような嗚咽まで聞こえてきた。草むらの中から四つん這いになって、女子生徒が現れる。
「最高です……最高です……」
「あーっ! あなたは、ひ、ヒロイン!」
動揺のあまりうっかり口を滑らせて、私は反射的に口を塞ぐ。
しかし彼女は草むらから姿を現して、髪に付いた枝葉を払いながら立ち上がった。
「ふふ、悪役令嬢。薄々気付いてはいましたが、私をヒロインと呼ぶと言うことは、知っているのですね……あれを」
「「『アストリア・ノクターン』!!!」」
私たちは声を揃える。
シルヴァンが横でぽかんとした顔をしている。
「……アマランサス、彼女は知り合いなのか?」
「え、ええと! あのちょっと、彼女と少しお話して来てよろしいでしょうか!」
「構わない。後でまた会おう」
シルヴァンは素直に頷き、会場の方へと戻っていった。
私は顔が涙と鼻水でどろどろになり、更に土までついて酷い有様のヒロインを見る。
「だ、大丈夫?」
「はい……あああ、尊くて……」
ずびーと鼻をかむ彼女に、私は尋ねる。
「あなたも転生者だったの? てっきり野心も何もないただの一般人だと思っていたわ」
「ヒロインとしての野心はゼロでしたからね。私は壁になって、推しキャラたちの人生を楽しみたいタイプのオタクなので」
「ああ、自己投影系ではないタイプの……」
「ずっと名乗り出るつもりはなかったのですが、あまりに尊い現場を二つも連続で目撃してしまったので、つい号泣が止まらなくなって」
「ゼファフロの告白シーン、貴方も傍にいたのね」
「そのことです」
彼女はがばっと起き上がる。
「私、アマランサス公爵令嬢が転生者だとまだ確証が持てなかったんですが、今日、ゼファフロ告白シーンを目の前にしたときのあなたを見て確信しました。貴方の前世は……『もちもちご機嫌くん太郎レディー』さんですよね?」
「そ、それは私のペンネーム……!!」
「ああ、やっぱり、もちもちご機嫌くん太郎レディーさんですね! 私ファンでしたが、その……読み専の上に雑食だったので、話しかけたことほとんどなくて……」
とつぜん異世界が二次創作イベント会場のような状態になる。
私は彼女の仕草や情報から、少ない読み手さん達の顔やらアイコンやらを思い浮かべる。
「……もしかして、あなた、私のサークルにずっと来てくれていた『魚まぐろ』さん?」
「……っ! 覚えていてくださったんですね!」
私の言葉に、ヒロインがパッと笑顔になる。
「もちろんよ、大切な読者様ですもの…!」
「ああ、もちもちご機嫌くん太郎レディーさん……私、大ファンでした。大好きでした」
突然の邂逅だった。
私は鮮やかに、前世の記憶を思い出す。
そうだ。前世の同人活動も辛い記憶だけじゃない。
どんなカップリングも大好きな雑食さんだとしても、私の作品を毎回楽しく読んで、感想をくれていた人はいたのだ。
私たちはひし、と手を握り合った。自然と、私は前世のもちもちご機嫌くん太郎レディーの頃の口調に戻っていた。
「ありがとうございます、本当に……こんな遠いところまで遠征に来てくださって……!……!」
「はわわわ、私もそんな、転生先であろうことか、もちもちご機嫌くん太郎レディーさんの新刊世界のようなものを目撃できるなんて、五感で体感できるなんて、最高です! それにシルアマも最高です! 新境地開きました!」
「えーっ! そうですか!? 嬉しいですー!」
「これからもゼファフロにシルアマ、楽しませてくださいー!」
「もちろんです! 人生かけて最高のシナリオ、やっちゃいますから!」
そうして私たちは、しばらく仲良く話し合っていた。
「何を話しているのかわからないけど、彼女が楽しそうだから嬉しいな」みたいな顔で、ずっとシルヴァンが見守ってくれていたのに気付いたのは、しばらく経ってからの話だ。
◇◇◇
――数年後。
私とシルヴァンはゼファフロの結婚式に参列した。
そこには前世の職歴を活かしてウエディングプランナーとして大活躍を始めたヒロインがいて、きびきびと凜々しくきらきらと働く彼女は、とっても楽しそうだった。
彼女はやはり、徹底的に推しカプの壁でいたいタイプらしい。
壁でいたいタイプにとって、異世界ウエディングプランナーは最高の天職だろう。
式場には同窓生も貴族達もたくさん集まり、賑やかで祝福に溢れた結婚式になった。
ここの列席者全員がゼファフロ民かと思うと、拍手をしながら嬉し涙が止まらなかった。
前世のゼファフロ本刷り部数では到底足りないくらいの人々が、式場に溢れている。
「さあ、ここでお祝いの言葉を、第123代生徒会長と第125代生徒会長夫妻からいただきましょう!」
ヒロインの朗々としたアナウンスで、私たちにぱっと注目が集まる。
シルヴァンが席から立ち上がり、私に手を差し伸べた。
「行こうか、アマランサス」
「ええ」
私たちの姿を、ゼファーとフローラが晴れがましいウエディングスタイルで見つめている。推しカプの結婚式でお祝いの言葉を述べられるなんて、なんて幸せなのだろう。
――それも、推しカプのおかげで繋がった、世界で一番大好きな旦那様と一緒になんて。
もしよろしければブックマークや下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎で評価していただけるとすごく嬉しいです。