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第七話 魔法使いを志す。

「さて、魔法の練習を始めるか」


 再び書斎に戻った俺は、まずは本棚から初級魔法入門という本を引っ張り出し、無造作に放置されている埃を被った水晶玉と共に目の前に置く。


 この水晶玉の扱いを見るに、本当にこの家には魔法が使える人間は存在しないようであった。


 間違いなく、うちの領内にもそんな人はいないのであろう。

 何しろ、数千人に一人なわけだし。


「ええと……。まずは、覆うように水晶玉に両手をかざします」


 本に書かれた通りにすると、水晶玉は薄く虹色の光を放つようになる。


「虹色の光が出ますが、それは誰もがそうなるので驚かないでください。次に、その虹色の光を手の平から吸収し、体内で循環させるようなイメージを頭に思い浮かべてください」


 また本に書かれた通りにすると、水晶玉から虹色の光が消え、次第に体が熱くなってくるような感覚を覚える。


「水晶玉から虹色の光が消え、体が熱く感じた人は魔法の才能があると断言します。とはいえ、その才能には大きな差があるので過剰な期待はしないように。あと、この魔力を体内で循環させる訓練は、毎日数をゆっくり100数える間実行すると好ましいでしょう」


 本に書かれた内容によると、魔力とは人間の体内にある魔力路という血管のような器官を循環し、魔力袋と呼ばれる臓器に蓄えられているらしい。


 ただ、この二つの器官は当然人間を解剖しても発見はされない。

 学説によると、血管と肝臓の、違う次元の同位置に存在するというのが仮説で、それはまだ立証はされていないが、ほぼ事実であると本には書かれていた。


「魔力の循環を行い、魔力路を広げて活性化させると魔法の威力が上がり、意識して魔力袋に大量の魔力を送り込むと、同じく魔力袋が広がって魔力量の増大に繋がるか」


 魔力袋とか、子供の頃に見た○ルトラマンの怪獣が持っている臓器のようだと感じてしまうが、魔法の訓練で大きくしても腹が膨らむという事はないようだ。


 あと、魔力量を増やすのに魔法を大量に使うのは、この手の物語ではデフォであろうか。

 他にも魔法の精度と威力、それに魔力の全体量が上がるそうだ。


「ただ、どんな人間にも限界値があります。三日連続で魔力の増大を実感できない場合は、ほぼ間違いなく魔力量の成長限界です。使える魔法の種類を増やしたり、威力や精度の向上に努めた方が懸命でしょう」


 なるほど、ここまで研究は進んでいるし、その成果を惜しむ事なく世間に公表しているようだ。

 習得の方法は研究され尽くしているのに、それを使える人間は極めて少ない。

 だがとても便利で、需要は増える事はあっても減る事はない。


「つまり、魔法が使えれば自立への道は早くなる」


 続けて今度は、初級魔法の習得に入る事とする。


 とはいえ初級なので、マッチやライター程度の火種を指先に出し、持って来たバケツにコップ一杯分程度の水を注ぎ、手の平の上に小さな竜巻を起しては消し、外から持って来た土を鋭い棘に変えて的にした端切れの板にぶつける。


 本に書かれている、この程度の威力の魔法の繰り返しであった。

 なお、初級の魔法は頭でイメージをした物がすぐに出来るようになっていた。

 本によると、特に小難しい術式の詠唱や魔方陣を書く必要は無いらしい。

 人によっては、自分で考えた短い掛け声や文言などを呟いたり、叫んでみたり、それに杖を振るう動作を含めたアクションなどを加えてみたりと。


 それで魔法の精度や威力が上がれば、それはその人に向いている発動方法であるし、俺のように無詠唱で頭の中でその魔法が発動した時のイメージ画像を思い浮かべて成功してしまう人もいる。


 『簡単に言えば、才能のある人はすぐに出来るようになるし、駄目な人はいくら努力しても無駄』などと、本にはかなり酷い説明文が書かれていた。

 

「一週間続けて特に難しいと思わなければ、次は中級編です」


 そう書かれているので、予習代わりに中級編の本をパラパラと捲ってみる。

 中身は、火の矢、氷の矢、距離の離れた地面から岩の棘を出して遠距離の敵を串刺しにする、小さなカマイタチで敵を斬るなどの魔法や、簡単な身体機能強化などの魔法が書かれていた。


「どうせ、家の中でハブられているからな。毎日魔法の練習に励むか」


 それから一週間、俺は本に書かれた通りに魔法の修練を行うが、なぜか家族からは『魔法が使えたのか?』と一切聞かれていなかった。


 多分、宝くじに当たったのかと真面目に聞くような行為だと思われたからであろう。

 味噌っかすなので、全く期待もされていないのであろうし。

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