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第六話 魔法の存在。

「魔法かい?」


「はい、魔法です」


 本を読み始めたところで昼食の時間となってしまい、俺は断腸の思いで屋敷の食堂へと向かっていた。

 昼食のメニューは、朝と同じく黒パンと塩だけで味付けをした野菜と細切れ肉のスープであったが、この世界では飯が食えるだけ幸せと考え、食事を口に運んでいく。


 ひと通り食事を食べ終った俺は、隣の席に座るエーリッヒ兄さんに魔法について尋ねていた。


 ちなみに、両親や上二人の兄達は新しく広げる開墾地の相談で忙しいらしく、俺の事など気にも留めていないようだ。


「魔法は、父上の書斎に大体の本が置いているよ。魔法の修練に使う水晶玉もあるし」


 この世界では、特に魔法技術が世間から秘匿されているという事もないらしい。

 実際にそれらの詳しい書籍類が、魔法とは縁遠そうな父の書斎に置かれているからだ。


「水晶玉もそうだけど、他の魔法関連の書籍も他の分野の書籍に比べると格安で流通しているのさ」


 その理由は簡単で、魔法の才能がある人間が極端に少ないからだそうだ。

 しかも、魔法の才能には遺伝性が無い。

 いきなり農民の子に天才的な魔力を持つ子供が生まれる可能性も高く、とにかく庶民にでも魔法関連の書籍が手に入り易い環境を整え、自分に魔法の才能があるのを知らずに人生を終えるのを無くそうとしているのだそうだ。


 ちなみに、その助成は王国が行っている。

 優秀な魔法使いとは、それだけ国家に利をもたらす存在だからである。 


「どんな人間にも微弱な魔力が存在する。でも、その程度の魔力では魔法は使えないんだよ。魔法が使える人間は、千人に一人と言われている」


 しかも、その中の十人に五人は、火種が出せる、一日にコップ一杯程度の水を出せるなど。

 その程度の事しか出来ないらしい。


「魔物を焼けるファイヤーボールを出せる魔法使いなら、王族や貴族が挙って高給で雇うだろうね。そんな人は、滅多にいないけど」


 そこまで行くと数千人に一人くらいなので、なかなか見付からないのであろう。

 この国に住まう人間の数は、約五千万人との本からの知識なので、それなりの魔法が使える人間は、大凡一万から二万人くらいしかいない計算になるのだから。

 

「あとは……」


 魔法使いには、いくつかの傾向があるらしい。

 火の玉、氷の矢、岩の棘、カマイタチなどの攻撃魔法の使い手に。

 攻撃力、防御力、敏捷性、対魔法防御などを嵩上げして肉弾戦で戦う者や。

 

 遠く離れた人間に通信を送ったり、会話をしたり、高速で目的地まで移動したりと戦闘系以外で活躍をする者。


 そして最後に、鉱石から高純度の金属を精製し、魔力を貯め込む魔晶石を使用した、便利な魔道具の作成を得意とする者など。

 

 後者に行けば行くほどその人数は少なく、極論すれば稼げる存在になれるらしい。


「魔法ですか。夢が広がりますね」


「まあ、そうだね……」


 俺の発言に、兄エーリッヒは微妙な笑みを浮かべていた。

 まさに夢見る子供その物だと思われたのだろうが、さすがに中身は二十五歳なのでそこまで夢を見ているわけではない。


 ただこういう態度を取っていれば、大人達も俺を微笑ましく見てくれるであろうという一種の計算から来ていたのだから。


「僕も、ヴェルくらいの頃には毎日魔法の練習をしていたのを思い出すよ」


 昔を思い出すように、エーリッヒ兄さんは話をする。

 それと、ヴェルとは俺の略称というかあだ名のような物であるらしい。


 ヴェンデリンを、どう縮めるとヴェルになるのかは不明であったが。


「早速、魔法の練習をしてみます」


「頑張れよ」


 素早く食事を終えた俺は急ぎ書斎へと向かうが、それに言葉をかけてきたのはエーリッヒ兄さんだけであった。

 他の家族は剣の訓練や新しい開墾地の話に夢中で、俺に関心など持っていなかったのだ。


 役立たずの子供を最低限食わせてくれているし、過酷な労働を課すわけでもないので酷い家族ではないのだが、今はただ早く独り立ちしたいと願うのみであった。 

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