第四十一話 冒険者登録。
「さてと、遂に俺達も十五歳で成人扱いとなり、冒険者としての一歩を歩みだすわけだ」
ブライヒブルクにある冒険者予備校に入学したのに、なぜか夏休みにエーリッヒ兄さんの結婚式に出ようと王都に行ったら、そのまま戻れなくなってしまった。
実は屋敷が心配なので、定期的に瞬間移動の魔法でブライヒブルクには戻ってはいたのだが、予備校にはまるで顔を出しておらず、なのに既に卒業扱いというわけのわからない事になっていたのだ。
ある意味ラッキーではあったが、代わりに俺達はもっと厳しい訓練を、約二年半もの間受ける羽目になっていた。
エルは、近衛騎士団で中隊長をしているワーレンさんから剣や実戦の指導を。
イーナも同じく、近衛騎士団に所属している槍術の達人から同じく槍と実戦の指導を。
そして俺とルイーゼは、ある意味一番の貧乏クジかもしれなかった。
筆頭王宮魔導師なのに、週に一度の休暇以外ほぼ毎日アームストロング導師から実戦形式で厳しい修行を受けていたのだから。
『しかし、この人は碌に王宮に顔も出さないで良くクビにならないよな』などと俺とルイーゼは思いつつ、彼の得意魔法である身体能力強化、高速飛翔、魔道機動甲冑の魔法を駆使した、前世で見たバトル漫画の戦闘シーンのような訓練に取り組む事となる。
しかも、教えているアームストロング導師の方も、俺を利用して魔力量の向上などを狙っているのだから性質が悪い。
この見た目筋肉親父が、その普段の言動からは想像できないほど、実はかなり強かである証拠でもあった。
お互いにまだ魔力量の限界には到達していなかったが、これはこれからも修行を続ける事として、今は冒険者登録である。
冒険者になるには、まずは冒険者ギルドに登録を行わないといけない。
勝手に自称し、武器や防具を装備して狩りや探索に行ってはいけないのだ。
とはいえ、実はその辺の管理は少し甘い部分も多い。
自分の住んでいる村に近い森で農民が狩りを行い、その成果を街のバザーで売っても別に咎められたりはしない。
俺も、七歳頃からブライヒブルクで商業ギルドの許可証のみでそれを行っていた。
ブライヒブルクの冒険者予備校時代には、予備校側から狩りについては仮の許可証が出ていたのだが、別に無くても魔物の領域に入らなければ特に問題は無い。
多分、ポーズで行っているのと、厳密に取り締まる余裕が無いからなのであろう。
あとは、魔物の領域と人口増加のせいでこの大陸では畜産を行う余裕があまりない。
狩りで得られる獲物は貴重な蛋白源であり、それを売りに来る人をなるべく阻害したくない。
この辺が、真相のようだ。
「でも、本当に王都の冒険者ギルド本部で登録を行っても良いのですか?」
俺は、付き添いで来ていたブランタークさんに問い質していた。
一応はブライヒブルクの冒険者予備校を卒業した事になっているので、『ブライヒブルク支部で、登録を行った方が良いのでは?』などと思ってしまったのだ。
「別に、どこで登録をしても問題ないさ」
そう答えるブランタークさんであったが、彼は俺達の件でお館様であるブライヒレーダー辺境伯と王都の貴族達との間で板ばさみに遭ってかなり苦労していたようだ。
今はもう完全に諦めているので、まるでプレッシャーを感じていないようであったが。
「ブライヒブルクに戻った時に、向こうの支部に到着の報告を行う。それで、ブライヒブルク支部は坊主達がブライヒブルクを活動拠点にした事に気が付くさ」
「そういう物なのですか」
「そういう物なんだよ。さあ、登録だ」
案内役のブランタークさんと一緒にギルド本部へと入る俺達であったが、その中はまるで役所のようであった。
十か所ほどの受付に若い女性が座り、冒険者らしき人達に色々と説明をしたり、書類を受理したり、逆に何かの書類を渡したりと。
まるで、役所の受付のようであったのだ。
「次の方、どうぞ」
全ての受付が埋まっていたので暫く並んで待っていると、遂に俺達の出番が回ってくる。
「新規の冒険者とパーティー登録です」
「畏まりました」
受付の若い金髪のお姉さんは、俺が持参した書類に視線を送り、その記述内容に驚いているようであった。
以前に竜を二匹も倒したので、俺はかなり有名な存在になってしまったからだ。
「個人の冒険者登録用紙は受け取りました。すぐに記載事項の確認を行います。あと、新しいパーティー構成員は五名ですね」
「はい」
本当は、俺、エル、イーナ、ルイーゼの四名でパーティーを組む予定だったのに、色々と回避できない理由でパーティーメンバーは五人に増えていた。
「あの……。エリーゼ様もですか?」
さすがにギルドの受付も、巷で『ホーエンハイム家の聖女』と称されるエリーゼの冒険者登録には驚きを隠せないようであった。
聖職者が冒険者登録を行う事自体は特に珍しい事でもないので、それが問題というわけではないのだが。
「はい。私もヴェンデリン様の婚約者として、共に冒険者になる事を決めました」
この娘は良い子なので、その発言にはまるで表裏が無い。
本当に俺の婚約者として、一緒に居たいだけのようだ。
この二年半ほど、俺とエリーゼは最低でも週に一回はデートなどをしている。
他は全てアームストロング導師との修行であったので、俺はイーナとルイーゼ以外では、エリーゼとしか女性と碌に話をしていなかったのだ。
王都には綺麗な女性も多いので、少し残念であったのは事実であったが、俺が下手に一人で出歩くと色々と面倒が多くなる。
娘をどうにか紹介しようとする貴族に、メイドから妾へのコースを狙っている商人や平民。
他にも、己の利益のために人を自分の派閥に参加させようとする貴族や、押し掛け家臣なども多く。
結果、俺の休日の安寧は、ホーエンハイム枢機卿に、エーリッヒ兄さんやその上に居る財務系法衣貴族達に頼る事となっていた。
まあ、ある意味アームストロング導師の思惑通りなのであろう。
己の鍛錬も兼ねる訓練で時間を潰し、俺に他の女が近寄れないようにしていたのだから。
そして残された休息日には、確実に俺とエリーゼは顔を合わせている。
一緒に住んでいるので、普通の日も朝や夜には顔を合わせて食事などの世話も受け、今では完全にエリーゼに依存している部分もあった。
他の空いている時間も、イーナやルイーゼと一緒に居るわけで。
まだそういう事をしているわけではないが、俺に浮気など不可能と言っても過言ではなかった。
他の貴族達も、財務系法衣貴族達や導師の妨害に歯軋りしていると、以前にエーリッヒ兄さんが言っていたほどだ。
『竜殺しの英雄殿を、今夜は園遊会に招待したく……』
『その日はの夜は、バウマイスター男爵殿は忙しいのである! 婚約者の実家であるホーエンハイム子爵家の晩餐に招待されている故に!』
その辺のスケジュール調整なども、あの筋肉導師は怠っていなかったようだ。
見た目とは違い、そういう部分があの筋肉導師が喰えない所であった。
「ええと、パーティー名は『ドラゴンバスターズ』ですか」
受付のお姉さんは、俺を一瞥してから冷静な声でパーティー名の確認を行っていた。
冒険者とは、田舎者や貧乏人が一攫千金や立身出世を目論んでなる要素の強い仕事だ。
なので、このようにパーティー名などで吹かす輩も多く、その度に受付の人や周囲の同業者達に冷笑される事も多かった。
だが、俺は既に竜を二匹も殺しているので、受付のお姉さんは特におかしいとは思わなかったようだ。
この辺の冷静さが、役人に良く似ていると俺は思っていた。
「メンバーですが、リーダーはヴェンデリンさんですね」
この二年半ほどで百七十五センチほどまで伸びた身長に、中肉中背で顔はまあ良い部類に入るであろうという程度の俺であったが、実家があの田舎者のバウマイスター家なので、これでも上出来な方であろう。
ちなみにこの世界では、平均的な背の高さでもある。
装備品は、師匠が残してくれた高価なローブや杖などを装備してるが、ローブは師匠が俺よりも十センチほど背が高かったので防具屋で調整して貰う羽目になっていた。
その時に、防具屋の主人が売って欲しいと妙にしつこかったのを記憶している。
何でも、フェニックスの羽やら、水属性の竜の子供の初毛にと、色々と貴重な素材で編まれているらしく、魔物からの魔力を使用した攻撃をかなり軽減してくれるそうだ。
『ローブを詰めた時に出た、端切れでも良いですから』と言われたので、承諾したらローブの調整代金は無料で金板を五枚渡されている。
切れ端でも、防具の裏側に張れば対魔防御力が全然違うのだそうだ。
『また端切れでも宜しいので、素材がございましたら』
『あったらね……』
俺は、師匠の凄さを再確認する事となる。
「次は、エルヴィンさん」
「はい」
エルは、良い師匠を得て剣の達人になっていた。
どの程度かは、俺の剣の腕前などたかが知れているので把握出来なかったが、剣を教えて貰ったワーレンさんから、『推薦するから、通常の騎士団だが入らないか?』と言われるくらいまでにはなっているらしい。
制度上、いきなり近衛騎士団には入れないので、まずは普通の騎士団で経験を積み、そこから推薦を受けて近衛騎士団に入る。
その出世コースを勧めてくれたのだ。
『すいません、俺はバウマイスター男爵家の従士長なので』
『淡い期待にかけて声をかけただけだから。でも、惜しいな』
エルは、ワーレンさんからの誘いを断ったようだ。
この二年半で身長は百八十センチほどにまで伸び、細身ながらも筋肉質で軽減化の魔法がかかったプレートメイルに両手持ちのバスターソードを持っている。
あとは、背中に同じく軽減化の魔法がかかったラウンドシールドを背負い、通常のロングソードも予備として腰に差していた。
エルは、情況に応じて両手剣と片手剣を使い分けるようだ。
俺には、一生できそうにもない器用な芸当であった。
「次は、イーナさん」
イーナもこの二年半で、燃えるような赤い髪が目立つ、豹のようなしなやかなスタイルをした美人へと成長していた。
背は俺よりも五センチほど低いが、それを感じさせないオーラを感じさせるほどだ。
武器は、メインに槍を使い、予備で腰に二本のショートソードを装備している。
槍を失った時には、二刀流で戦うらしい。
剣の指導も、空いている時間に受けていたようだ。
あと、防具は軽減化のかかったハーフプレートが主な物となっていた。
「ルイーゼさん」
「はーーーい!」
俺と共にアームストロング導師の犠牲者でもあるルイーゼであったが、彼女は背は150センチくらいまでは伸びたが、相変わらず体型はお子様のままだった。
本人は、『意外と胸はある』と豪語しているが、誰が見てもそうは思えない。
無ではないが、微と言った感じだ。
だが、それを口にしてはいけない。
彼女ほどの強さを持つ武芸家など、そうは存在しないからだ。
正直なところ、彼女に気配を消されて奇襲を受けたら、俺もアームストロング導師も魔法など関係なしで戦闘不能にされてしまうであろう。
彼女は、魔法防御のために良い素材が使ってある道着に、両手には手甲を填め、いかにも武芸者であるという格好をしている。
途中、彼女の見た目をからかおうとした冒険者がいたのだが、ルイーゼのひと睨みで彼は後ろに後ずさっていた。
もし彼女に殴られでもしたら、骨折くらいは当然なので彼は運が良かったとも言えた。
「最後に、エリーゼ様ですね」
お姉さんは、俺の申請書を見てエリーゼがパーティーに加わるのに不自然さを感じないようになったらしい。
エリーゼの手続きも、迅速に進めていた。
エリーゼもこの二年で身長が160センチほどにまで伸び、聖女と呼ばれるに相応しい美人さんへと成長していた。
あと、特筆すべきはやはり胸であろうか。
十三歳時点で推定Fカップだったのに、今ではどう少なく見積もってもGカップには成長しているようだ。
装備は、祖父ホーエンハイム枢機卿がプレゼントした魔法防御力に長けた修道着なので、体型はわかり難くなるのが普通である。
なのに彼女は、その自己主張の強い胸のせいでその大きさが丸わかりであった。
武器は、メイスやナイフなどを装備している。
こう見えてエリーゼは意外と力はあるし、武器の扱いなども教会で聖堂騎士団から習っているので、そこいらの素人冒険者よりはよほど強かったりするのだ。
少なくとも、自分の身は自分で守るくらいは出来るはずだ。
でなければ、パーティー入りを許可するはずもないのだが。
それと、先に出た聖堂騎士団とは、簡単に言えば教会を守るために設置されている警備隊である。
王国所属ではないので、正式には騎士団ではなくて警備隊と呼ぶのが正しいのだが、そこは権威のある国教指定されている教会を守っているのだからという理由で、騎士団と呼ぶのが黙認されている。
貴族の子弟達の、有力な就職先であるという理由もあったのだが。
「パーティーメンバーは五名ですね。登録は、これで完了しました」
お姉さんにより、書類上の手続きは呆気ないほど簡単に成功していた。
ここはギルド本部なので、毎日デビューする冒険者や新規に結成されるパーティーも少なくない。
いちいち時間をかけていられないのであろう。
「細かい規定などは、こちらの小冊子をご覧ください」
最後に、人数分の小冊子を渡されて登録は終わっていた。
「何とも、アッサリとした登録ね」
登録終了後、俺達はギルド本部近くの喫茶店で小冊子を読みながらお茶を飲んでいた。
イーナは、せっかく冒険者になったのだからもっと色々とあっても良いようなと言った表情だ。
「受付で、長々と説明されるよりは良いよ」
「それは、そうなんだけど……」
この冊子に書かれているルールなどは、もう事前に教育を受けていたので理解していた。
大半が、人として生きて行く際に守るべき常識的な物でしかない。
他の冒険者の妨害をするなとか、殺して財貨を奪うなとか、仕事途中で寄った町や村などで迷惑をかけたり、犯罪を犯すなとか。
冒険者なので、どうしても海千山千の人材が集まる傾向にあり、念のために記載されている事項が多い。
あと冒険者とは、この戦争無き時代の一種の若者の不満吸収装置なので、どうしても無茶をする者が集まる傾向にあったのだ。
「次は、ランク制度」
ランク制度とは言っても、前世で読んだネット小説のように、別にSからFまでとかそういうランクが存在するわけではない。
ただ渡された個人とパーティーの冒険者カードに、達成した依頼数、失敗した依頼数、合計報酬が書かれるのみであった。
「ある意味、怖い制度だな」
冒険者の仕事の大半は、人がいない場所での狩りや採集。
あとは、強い冒険者やパーティーが比較的報酬が良い魔物の住む領域に入り、そこでより高価な魔物の素材を狩ったり、貴重な採集物を手に入れるかだ。
たまにギルドで、在庫が危うい素材などの急募を行う事もあったが、基本的には自分の力量に合った場所で狩りや採集を行い、その成果をギルドに買い取って貰う。
カードには他にも、倒した動物や魔物の種類や数。
それで得た報酬の総額が記載されるだけであった。
「冒険者は、狩りをしてナンボなんだね」
ルイーゼの言う通りで、前世でゲームなどで見た雑多な依頼などという物は存在しない。
犬の探索や、屋根の修理や、赤ん坊の世話など。
そんな仕事は、冒険者でなくても他にいくらでもしてくれる人がいるからだ。
むしろその手の仕事にもギルドがあるので、そういう仕事をしたければそっちに登録に行けば良いのだから。
犬の散歩は、小規模ながらペット関連のギルドが。
屋根の修理は、大工のギルドがあるし。
赤ん坊の世話は、メイドを派遣するギルドの一部門にベビーシッター部門が存在していた。
なので、冒険者が手を出せば彼らに喧嘩を売る事になってしまうわけだ。
「あとは、封印遺跡の探索か」
唯一の例外としては、古代魔法文明時代に作られた建造物やダンジョンの探索であろうか。
その大半がなぜか魔物が住む領域に存在し、その中には厄介な罠や強力な魔物が徘徊しているので、普段は王国側の判断で侵入禁止となっている。
たまに未発見の物も見付かるが、それに浮かれて碌な準備もしないままで侵入し、そのまま帰って来ないというケースも良くあるそうだ。
「封印遺跡は、王国側から探索の依頼がギルドに入り、ギルド側が相応しい冒険者かパーティーに依頼を行うか……」
「つまり、遺跡探索を依頼されるくらいの実績は、ただ強い魔物を多く狩って稼ぐしかないと?」
「エルの坊主の言う通りだな。ただ、お前らは少し情況が違う」
俺達に付き合ってコーヒーを飲んでいたブランタークさんは、そう言いながら一枚の紙を差し出す。
そこには、王国強制依頼の文字がデカデカと書かれていた。
「王国強制依頼? まさか……」
「そのまさかさ。王国側が、遺跡探索をするパーティーを指名してしまうのさ」
「そういうのは、普通ベテランに任せません?」
「普通なら、そうなんだけどな……」
今、冒険者登録とパーティー結成をしたばかりの素人に、いきなり王国側が探索パーティーを指名するほどに危険な封印遺跡の探索を任せる。
普通に考えたら、こんなバカな決定は無いはずだ。
「俺達も、普通はボチボチと近場の狩りとかからですよね?」
「エルの坊主の意見も正しいんだがな……」
自分で命令したわけではないので、ブランタークさんは俺とエルの質問にタジタジになって答えていた。
「坊主は、竜を二匹も倒しているから」
とは言っても、それで冒険者になったばかりの俺達を、いきなり封印遺跡に放り込む理由にはならない。
いくら俺の魔法が竜を殺せるとは言っても、そんな大威力の魔法を無条件で遺跡で使える保障もないし、この二年半ほどで個々では鍛錬に励んでいたが、連携を含む集団戦にはこれから慣れていかなければいけないのだから。
「ブランタークさん、新規の冒険者には付き添いが付くそうですね」
イーナが、念を押して尋ねるが。
これは、冒険者が比較的初期に死傷する事が多いので創設された制度だ。
三回ほど、新規のパーティーは近場の魔物住む領域に狩りに出かけ、その際にベテランのパーティーか冒険者が指南役として付いて来るのだ。
そして新人時代を乗り切った冒険者は、今度はギルドの指名で自分が新人の指南役になって狩りに付いて行く。
こうやって、なるべく冒険者が初期に死んでしまう事を防いでいるらしい。
ただ、それでも初心者の死傷率は高いし、他にも慣れて来た頃が一番危ないのはどの業界でも同じであった。
「当然、指南役は付いて来るんだよね?」
「ああ、ベテランの冒険者がな」
「えっ? それって、もしかして?」
「そのまさかだ。お互い、あまり新鮮味も無いけどな」
ルイーゼの懸念通りに、俺達の指南役はブランタークさんにいつの間にか決まっていた。
多分、既に冒険者稼業は引退しているブランタークさんも寝耳に水なはずなので、俺達は何も突っ込まずに静かに出発の準備を進めるのであった。
「駄目そうなら、逃げ帰りましょう」
「坊主の、その判断は正しい」
「えっ! そんなんで良いの?」
「アホっ! 死んだ冒険者なんて、一セントも稼げないじゃねえか! 駄目なら即時撤退は、基本だぞ!」
『逃げ帰るのは有りなのか?』と聞いたエルを、ブランタークさんが怒鳴り付ける。
いきなり最初から、そんなハードな依頼を強制する王国とギルドなので、死にそうになるまで義理堅く付き合う理由もないのだし。