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幕間十七 武芸大会本番。

「……」


「あの、ヴェンデリン様?」


「今日のお弁当、楽しみだなぁ」


 遂に始まった武芸大会初日。

 今日は、予選の大半を消化する予定になっていた。


 何しろ出場者が多いし、槍術、弓術、格闘技の部門もあるので一日で終るはずがないからだ。

 メインの試合は、前に俺がヘルター公爵と決闘を行った王立コロシアムで行われる。


 本選なので、二日間をかけてゆっくりと行われるのだ。

 なので、ここで試合を出来る人は本選出場者のみであった。


 あとは、王都各地にある道場や演習場などを指定されて、そこで予選を行うのだ。


「弁当よりも、試合の方を気にしろよ」


「ほぼ負ける予定の試合に、気などかけん!」


「そこまで言い切るかね……」


 呆れるエルであったが。

 朝、俺とエルは剣術部門の予選に、イーナは槍術部門の予選に、ルイーゼは格闘技部門の予選にと屋敷を出発していく。


 部門によって参加人数に隔たりがあるものの、先に負けた人間がこのコロシアムに戻って来る予定だ。

 今日は、一番参加人数が少ない格闘技部門の本選一回戦がコロシアムで行われる予定だからだ。


 そして、約二時間後。


「少年、一回戦負けであるか?」


「はい……」


 一応男爵なので、俺は関係者がすぐに座れるように大会期間三日間分のボックスシートを購入していた。

 このボックスシートならば、特等席で十数名くらいなら余裕で観戦できるからだ。

 

 飲み物や食事なども出入りの業者から注文可能であったが、うちには食事とお茶のプロであるエリーゼが存在している。

 彼女は朝早くから起きて、大量のお弁当やお菓子などの準備をしていたようだ。


「聞いた。ワーレン様が相手だったって……」


「近衛騎士団の中隊長とか、ヴェルのトーナメント運って……」


 万を超える人間が出場する剣術部門において、一回戦でエルの剣術の師匠であるワーレンさんと当たってしまう。

 

 果たして、こんな不幸があっても良いのであろうか?

 俺のあまりの不幸ぶりに、パウル兄さんとヘルムート兄さんも絶句していたほどだ。


 魔力剣の使い手であるワーレンさんには、魔力を使えないという不利がある。

 それは俺も同等で、条件的には互角なのだが、元から持っている剣技に差があり過ぎた。


 やはり、伊達にその実力を買われて近衛騎士団に推薦されたわけではないようだ。


 試合開始数秒後、気が付いたら喉元に剣先を突き付けられて降参する羽目になっていたのだ。

 

 魔法さえ使えれば、まずは魔法障壁で防げる攻撃であったのだが……。

 これを、世間では負け惜しみとも言う。


『ええと、すまないとしか言いようが……』


『はははっ、俺には魔法がありますし』


『竜を倒せる凄さだからね』


 試合後の、ワーレンさんと会話が虚しかった。

 会場の観客も、話題の竜殺しの英雄の呆気ない一回戦負けに唖然としている。

 

 だが、俺の剣術なんて所詮はこんな物なのだ。


 実家で行っていた早朝の訓練は、アレはきっと基礎体力トレーニングだったのだと。

 

「そもそも、坊主の剣術に最初から期待している人なんていないから。エルは、どうなんだ?」


 あまりに酷いブランタークさんの発言ではあったが、事実なのでまるで否定できなかった。


「一回戦は、余裕で勝っていましたよ」


 同じボックスシート内に座るブランタークさんに、エルの現状を説明する。

 完全に、行楽気分なのであろう。

 彼は、エリーゼが準備したお弁当の中からオツマミに向くおかずを食べながら、俺が自作した酒をホロ酔い気分で飲み続けていたからだ。


「そうか」


「完全な酔っ払い……」


「今日は、坊主が災難に巻き込まれないだろうからな。このまま休養モードで行く」


「また何かあったら?」


「知らん。導師も傍に居るから大丈夫だろう?」


 おかしな公爵に決闘を申し込まれたり、胡散臭い不動産屋に浄化ばかりさせられたり、おかしなカバの保護を依頼されたりとか。

 本当、王都に居ると碌でもない事ばかりに巻き込まれるのだ。


 なお導師であったが、彼も同じボックスシート内でエリーゼが作ったお菓子を食べながらマテ茶をガブ飲みしている。

 導師にかかると、かなり良いお茶なのに井戸の水でもガブ飲みしているようだ。

 

 お菓子の方も、次々と容赦なく口に入れていて、見ていて少し胸焼けがしそうであった。


「エルの坊主も、一回戦くらいはなぁ」


「エルヴィン少年は、努力していたのである! きっと、結果は付いて来るのである!」


 エルは、初戦から中堅レベルのベテラン冒険者と当たって苦戦するかと思ったのだが、数分で呆気なく相手の剣を弾き飛ばしていたのだ。


 俺はエルの日頃の訓練など見ていないので、まさかここまで強くなっているとはと驚いていた。


「まずは、順当に勝ちか」


 陛下からの要請という理由もあったが、ワーレンさんに言わせるとエルは剣術の才能があるそうだ。

 王都に来てから一年と少しで、もう俺なんて相手にもならない技量を手に入れたのも頷けるという物であった。


 先生がとても良いわけだし、その前に俺が大した事がないという点も大きかったのだが。


「坊主以外、誰も戻って来ないな」


「言わないでくださいよ」

 

 しかし、時間が午後の三時を越えると、最初にルイーゼが戻って来る。

 彼女は不本意そうな表情を崩しもしないで、俺の膝の上に座っていた。


 まるで、慰めて欲しい子猫のようだ。


「魔力使用無しは、魔闘流習得者には不利だと思うんだ……」


 ルイーゼは懸命に、今までに習った魔闘流の型だけで戦ったそうだ。

 体が小さく力も無いので、スピードで翻弄して相手の力を利用するような技を連発。


 おかげで予選四回戦までは突破していたが、五回戦で同流派のベテランに敗れてしまったと悔しそうに話していた。


「十三歳で、初出場で、四回戦突破は凄えな。坊主の四倍以上凄え」


 そこまで残れると、騎士爵や準男爵などで家臣を雇いたい人がリストに入れるレベルだそうだ。

 若くて才能のありそうな若者を青田買いし、時間をかけて自分の家風に見合った人材に育てる。

 

 この世界でも、新卒、未経験者採用に似たような事をする貴族が居るようだ。

 いくら強くても、年配でベテランだと、癖があって使い難い事も多いからなのだそうだが。

 

「言われると思った。しかし、傷だらけだなぁ」


 格闘技部門なので、どうしても相手の攻撃が掠ってしまう事が多かったからだ。

 ルイーゼの腕や顔には、薄く痣や傷などが残っていた。


「ヴェル、治してよ」


「会場にいる神官から、治して貰えば良かったのに」


 試合で怪我をする人は多いので、会場には教会が派遣している治癒魔法使いが複数待機している。

 俺はてっきり、その魔法使いに治して貰っているとばかり思っていたのだ。

 

「そこは素直に、可愛い婚約者を治したいと言って欲しいけど」


「はいはい、治療でございますね。お嬢様」


「道着の中にも傷があるんだけど、見てみたい?」


「場所を弁えたまえ」


「でも、本音では?」


「見たいがな!」


 俺は、水系統の治癒魔法で一気にルイーゼの傷を全て治していた。


「ヴェルの治癒魔法って、エリーゼのと同じくらい効くね」


「ヴェンデリン様は、魔力が強いですから」


 効率の問題もあるが、それは魔力を十使うよりも五十使った方が効き目は強いはず。

 ルイーゼの傷はかすり傷程度なので、特に苦労も無く全ての傷を綺麗に治していた。


「魔力の節約は、進歩はしているか。要修行継続だけどな」


「それは、自覚していますから」


「ねえ、イーナちゃんも戻って来たよ」


 戻って来た時間的に考えて、かなり良い所までは行ったはずのイーナなのに、なぜか彼女は腑に落ちない表情を浮かべたままであった。


「イーナ?」


「予選六回戦、これで勝てば本選という所で負け」


 トーナメント運もあったが、イーナもここ一年ほどで相当に腕を上げたようだ。


「不本意かもしれないけど、初出場にしては良い成績じゃない?」


「それは、そうなんだけど……」


「じゃあ、何が不満なんだ?」


「不満と言うか、納得がいかないと言うか……」


 イーナの六回戦の相手は、何とあの一時期屋敷前で雇って欲しいアピールを続けていた『槍術大車輪』の人であったらしい。

 しかも、彼はとても強かったそうだ。


「私の槍術の先生にも負けていないと思う。むしろ、もっと強いかも……」


「あの人、そんなに強かったんだ……」


 あの常識ある人を引かせるパフォーマンスのせいで、彼は諸侯軍編成の際にも選ばれていないし、その後も暫くは屋敷の前で雇って欲しいアピールを続けていたが、敢えて無視もしていたからだ。


「あんなパフォーマンスをしないで、普通に応募すれば良いのに……」


 たまに居るタイプである。

 結構スペックは高いのに、何かを間違えていて目的を達成できない人なのであろう。


「それで、試合後に話をしたんだけど……」


 あの槍術大車輪の人は、その名をローデリヒさんと言うそうだ。

 しかも、意外な人物と縁戚であるらしい。


「ルックナー財務卿の?」


「弟が、商人の娘に産ませた子らしいわ」


 甥という事になるのだが、母親が正式な側室でもなく、貴族の血を引いているが貴族籍にも入っていないそうだ。

 

「話してみると、意外と多才な人で……」


 まず、母親の実家である商家で育てられているので、読み書き計算に、一通り商人の業務を全て行えるらしい。

 帳簿付けに、決算処理に、各種税金の計算まで出来るそうだ。

 商法や、商売に関連する法律などにも詳しいそうだ。


「ある意味、ルックナー財務卿の甥だよね。でも、なぜに槍術を?」


「子供の頃は体が弱ったから、その鍛錬のためにだと」


「はあ?」

 

 あとは、なぜに仕官を目指しているのか。

 これは、自分の母親の兄が既に商会の当主に就任していて、その伯父に当たる人物は甥ではなくて、自分の子供に商会を継がせたい。

 なので、邪魔者扱いされてしまったらしい。


 なまじ、ローデリヒさんの出来が良かったのも良くなかったそうだ。

 自分の息子の部下にして、下克上でもされたら困ると思ったのであろう。


 あと、ルックナー財務卿からの支援は難しい。

 何でも、爵位継承や財産相続のゴタゴタで、ルックナー財務卿と弟の仲の悪さは宮廷でも有名らしい。

 

 道理で、紹介状一つ持っていないわけだ。


「商人の世界も大変だなぁ……。でも、体を鍛えるための槍術で本選出場?」


 真面目に槍術に人生を賭けている人から見ると、少し不愉快な人物に見えるのかもしれない。

 例え、本人に悪気は無くともだ。


「ヴェル、私なんて彼に負けたんだけど」


「ええと、予想外の才人であったから仕方が無いという事で……」


「でも、変な人なのよねぇ……」


 確かに、まだ遠目でしか見た事が無かったが、なぜに槍で大車輪をするのか良くわからない人ではあった。

 見た目は身長百八十センチほどで、中肉中背ながらも良く鍛えられているように見える。


 この世界でも珍しい、緑色の髪の好青年にしか見えないのだから。

 『槍術大車輪』の掛け声からして、相当に元気な人でもあるようだし。


「ええと、使えそうな人だからキープしておこうか?」


「ヴェルがそう言うと思って、連絡先は聞いておいた」


 どうせ成人したら冒険者になるので、王都の屋敷を任せる人を探していたからだ。

 金勘定が出来て腕っ節も良いのだから、候補に入れておくのも良いであろう。


「ついでに、槍術でも教えて貰ったら?」


「あの人って、強いんだけど……」


 試合中でも大車輪で、普通の人が真似をするとかえって隙が出来てしまうのだそうだ。

 どこの流派かと聞かれてもイーナにもわからず、多分ほぼオリジナルのはずであろうと。


「常人には真似できずか……。まあ、良い所まで行けたんだから」


「それも、そうよね」


「次があるかは知らないけど」


 少なくとも、俺には次は無い。

 というか、必要が無かった。


「ところで、ヴェルはどうだったの?」


「ふっ、良くぞ聞いてくれた!」


 対戦相手は、近衛騎士団で中隊長に任じられている魔法剣の名人ワーレン卿。

 彼は、魔力無しでもその剣技に一点の曇りも無く、試合開始直後から鋭い剣を振るってくる。


 そのあまりに素早さに、それでも六歳の頃から毎日……。

 たまに休みはしたけど、実家で剣の基礎修練に取り組んでいた俺は……。


「負けたのね?」


「呆気ないほど簡単に負けた」


 冷静な表情で聞くイーナに、俺も冷静な表情で答える。


「一回戦で?」


「決まっているじゃないか」


「そこで、自慢気に即答しなくても!」


 考えてみるに、次男のヘルマンが少し強いくらいでうちの実家に剣に長けた人間などいないのだ。

 バウマイスター家に代々伝わる自己修練方法とは言いつつも、朝に一時間くらい本当に基礎的な事をするだけ。


 あの程度では、厳しい剣術の世界基準で言うと。

 中国の老人が朝にする太極拳や、日本のラジオ体操レベルであったのであろう。


 何事にも、習得には努力が必要なのだと。

 魔法ならば毎日日が暮れるまで、いくらでも時間をかけて練習していたのだが。

 

「俺を、剣術部門に出すこと自体が間違っている」


「確かに、そうかも。でも、魔法部門なんて聞いた事が無いけど」


「それには、理由があるのである!」


 イーナの疑問に、すぐにアームストロング導師が答えていた。

 その手には、自分専用の大きなティーカップと、エリーゼ特製のスコーンが握られていたのだが。


「魔法使いは少ない故に、そう大勢で王都に集まれないのである!」


 人数が少ないのに任せる仕事は沢山あるので、大会で優劣など競っている時間と魔力が惜しいのだそうだ。

 

「あとは、死人が出る可能性もある故に」


 剣などでも死人が出る事もあるが、魔法に比べれば圧倒的に少ない。

 更に、会場内で魔法を撃ち合うので、強力な魔法障壁を張れる人員を準備しないといけないなど。


 大会を開催するには、ハードルが高いそうなのだ。


「納得しましたけど、エルはどうなったんでしょうね?」


「まだ残っているはずだけど……」


 イーナが答えている間も、試合会場では格闘技部門の本選一回戦が始まっていた。

 初日に全くコロシアムで試合をしないのも観客から苦情が出るので、行われているのだそうだ。

 

 元々の身体能力の差なのか?

 前世の格闘技の試合とは比べ物にならない、迫力の試合展開であったが、特に知り合いも居ないので流して見ていただけであった。


「何か、年配の人が多いね」


「技を競うからだよ」


 ルイーゼの説明によると、あくまでも技量重視の大会なので比較的ベテランが残り易いそうだ。

 特に、武芸師範などが多い格闘技部門では、その傾向が顕著なのだそうだ。


「でも、現実の強さは違うと?」


「大半の本選出場者に負ける気はしないけどね。ボク」


 中級から上級くらいの魔力があって、それを魔闘流に使用できるのだから当然とも言えた。


「じゃあ、何でこの大会ってあるんだ?」


「『総合戦闘力ではイマイチだけど、毎日真面目に鍛錬して技術は優れているから!』と証明するためだと思う」


「ルイーゼ嬢の言う通りである! 我らが全力で戦闘を行えば、まず勝てる人間などおらぬ故に」


 他にも、技量が優れているという事は、その人を雇うなり仕事を頼めば、他の人に指導はしてくれるという事になる。

 在野の浪人の売り込みと、技量を後進へと伝える指南役としてのアピール。

 この二つが、出場者達の主な目的なようだ。


「それを聞いたら、何かつまらなくなった」


 普通、こういう武芸大会というのは盛り上がるはずなのに、事情を聞くと途端に詰らなくなってしまうから不思議だ。

 

 俺は、エリーゼが作って来た弁当の方が気になり始める。

 中でも、味噌漬けにした猪肉を焼いたおかずが御飯と合って美味しそうであった。

 

 ちなみに、調理方法を教えたのは俺である。


「それは、坊主が一回戦で負けたからだろう?」


「そんな事はないですよ」


「俺は、十分に楽しんでいるんだけど」

 

 ブランタークさんの場合は、美味しいツマミとお酒があれば何でも楽しいはずなので、全く当てにはならなかったのだ。 


「あとは、関係者はエルだけか」


「あのさ、話の途中で悪いけど……」


「居たのか、エル」


 いつの間にか、エルは戻って来ていたようだ。

 しかも、少し申し訳なさそうな表情もしていた。


「負けたのか?」


「六回戦で、ワーレン先生に当たった」


「お前もかよ!」


 さすがに、まだ経験の差で剣の師匠であるワーレンさんには勝てなかったようだ。

 俺に至っては、どうすれば勝てるのか?

 というレベルなのだが。

 

「何か、終わった感が一杯だなぁ」


 前世で、自分の高校の野球部が、甲子園の予選で敗退した直後に感じるような感覚。

 とでも言えば良いのであろうか?


「六回戦まで行ったんなら、問題はなくないか? しかし、何でみんなこんなに楽しそうなのかね?」


 前世で読んだファンタジー小説や漫画では、武芸大会ともなると大変に盛り上がる物であった。

 だが、この世界の魔法が使えない武芸大会はどこかつまらない。

 

 なのに、観客達は固唾を飲んで結果を見守っている。

 俺は、少し不思議に感じていた。


「この武芸大会では、王国が胴元になって盛大に賭けを行うからな。収益は、慈善活動の資金にするらしいけど」


「聞かなきゃ良かった……」


 残り二日で、武芸大会は予定通りに全ての試合を終了させていた。

 何とも盛り上がらないという俺の感情とは別に、ルイーゼは一人小躍りしていたようであったが。


「やったぁーーー! 格闘技部門の賭けで当たりだ! 倍率二十三倍!」


「賭けてたのかよ……」


 その後二日間の試合も、特に何のトラブルもなく終了し。

 俺達のした事と言えば、試合会場のボックスシートで来られる関係者だけで座り、エリーゼ特製の弁当やお茶に、俺が準備した酒を楽しむ宴会の席となっていた。


 試合は、ただの風景と化していたのだ。


「でも、試合に出ている連中が変にチラチラとこちらを見るな」


「そりゃあ、坊主に雇って欲しいんだよ」


「そんなに脳筋ばかりいらないですよ」


 俺が欲しいのは、王都の屋敷を維持し、使用人達を統率する人材なのだ。

 いくら剣の技術が優れていようと、それは雇用のミスマッチというやつであろう。


「あの『槍術大車輪』は?」


 ブランタークさんも、以前に屋敷の前で槍を振り回していた『槍術大車輪』さんを見ていたようだ。

 王都屋敷の管理人にする話をすると、意外そうな顔を見せていた。


「あの人、帳簿とかも付けられますから」


「人は見かけによらねぇ……」


 この三日間の武芸大会で俺が得た事は、王都屋敷の管理人と、人は見かけによらないという言葉の実地経験のみであった。

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