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幕間六 ロリ少女はたくましかった。

「ヴェル」


「何だ? ルイーゼ」


 エーリッヒ兄さんの結婚式に参加するため、王都へと向かう魔導飛行船に乗り込んだ俺、エル、イーナ、ルイーゼの四人であったが。

 

 師匠の遺産などで金を持っている俺とは違い、残り三人は魔道飛行船の運賃金貨一枚を俺から借金している身だ。


 人によっては、『そんなに簡単に金を貸して甘い』とか言いそうではあるが、この世界において金を借りるという行為は、そう甘い物ではない。


 借りた金を返せないで貸主が起した訴訟に負けると、最悪鉱山送りになっても文句は言えない。

 そのくらいお金は大切な物であり、返せないのなら、強制労働でも何でもして返せという法になっているのだ。


 だが、今回の場合は証文も利息もない。


 なので、俺が三人が金を返さないとブライヒレーダー辺境伯に言っても、勝訴は難しいであろう。

 

 証拠が無いからだ。


 だが、事情を話した時点で内二人は窮地に陥る。


 自分の陪臣の子供達が、将来筆頭お抱え魔法使いにしようと考えている俺から金を借りて返さなかった。

 しかも、証文無し、利息無しの完全な信用貸しでだ。


 当然、ルイーゼとイーナの実家はブライヒレーダー辺境伯から睨まれ、不興を買う事となる。

 そんな事など百も承知な二人が、借金を踏み倒す事などまずあり得ないのだ。


 それに、エルも含めて四人で狩りをしていれば金貨一枚などすぐに返せる額だ。

 

 金貨一枚惜しんで、馬車で往復一ヶ月を無駄にするのは勿体無い。

 そう考えられる三人なので、俺は無条件で金を貸したとも言えた。


「はい、借りていたお金」


 魔道飛行船に乗り込み、最初の夕食を終えて部屋でまったりとしていると、そこにルイーゼが現れて俺に借りていた金貨三枚を渡す。


 正直、恐ろしいまでの返済速度だ。


「早いな」


「いいアルバイトがあったんだ」


「それって、俺も出来る?」


「出来ない。ボクが、魔闘流を使えるからこそのアルバイトかな?」


「どんな手なんだか……」


「教えても良いけど、秘密は守ってよ」


 ルイーゼは、魔導飛行船に乗り込んでから僅か半日で借りていた運賃を返済した方法を話し始める。


「この船は、お金持ち様専用でしょう?」


 運賃は最低でも金貨一枚なので、一般庶民には手が届かず、客層は貴族やその付き人に、大商人などが多かった。


 ルイーゼは、多くの人が集まるラウンジであるゲームを始めたそうだ。


『ボクと腕相撲をして勝ったら、金貨一枚進呈します。参加費は銀貨十枚です』


 突然、可愛い女の子が勇ましい事を言うのだ。

 当然、多くの注目を集めていた。


「貴族様は、そんな勝負受けないだろうに」


「貴族の、お付きの人を狙ったもの」 


 見た目十歳くらいのルイーゼに、腕相撲で勝ったら金貨一枚。

 貴族の護衛に雇われている護衛達には、腕に自信がある人も多い。

 彼らはこぞって、ルイーゼに腕相撲に挑み始める。


「それは、可哀想に」


 素のルイーゼの力は、同年代の少女とさして変わらない。

 ところが彼女は、師範をしている父親や兄達をも凌ぐ魔闘流の達人なのだ。


 身長二メートルを超える筋肉ダルマがルイーゼに数秒で負かされ、それで火が付いた挑戦者がこぞって参加費を進呈してくれたそうだ。

 

 後半になると、『せめて誰か一度でも勝ってくれ』という空気になったらしい。

 そのくらい、ルイーゼの連勝街道は続いていた。


「儲かったようだな」


「うん、これで王都で買い物が出来る」


 王都滞在中の費用はかからなかったが、早くお金を返したいので、買い物やお土産をどうしたものかと。

 今回の稼ぎは、そんな悩みを全て解決してくれたそうだ。


「問題にもならないだろうしな」


 勝負は全て正々堂々と勝っているし、まさかルイーゼに腕相撲で負けましたと大の男が言うのも恥ずかしい。

 そんなわけで、ルイーゼは特に何の問題も無く金貨五枚ほどの利益を挙げたそうだ。


「念のために、最後に一回負けたからね」


 一人だけ、貴族の護衛として雇われている、かなり出来る元冒険者がいたそうだ。

 そこで、彼と接戦を演じて最後にわざと負けたらしい。


「えぐい事をするな」


 当然、挑戦者とギャラリーの視線と注目は、初めてルイーゼに勝って金貨を得たその男性に向かうわけで。

 その間に、『毎度あり』という感じで上手く抜け出して来たようだ。


「それで、ちゃっかりエルとイーナの分まで返済しているし」


「はははっ。エルは返済終了まで、買い物の時には荷物運びで扱き使う予定」


 イーナは幼馴染なので、特に催促もしないようだ。

 あの二人の関係を考えるに、ちゃんと返済はするのであろうが。


「恐ろしい女だな」


「そう、ボクは魔性の女」


 そう言いながら、艶っぽく見えるようにポーズを取るルイーゼであったが、残念ながらその効果は無かったようだ。


「残念、まだ時間が足りない」


「そういう事を言うな!」


 今の時点では、魔性の女にはどう見ても見えないであろう。

 侮れない性格をしているのは、事実だったのだが。


「ボクは、ヴェルと同じ年齢で冒険者予備校の生徒でもある。半貴族な陪臣の子とはいえ、借りはなるべく作りたくない。と思ってはいるんだけどね……」


 図々しく縋るが、一応貴族の末端なのでプライドもある。

 その辺のバランスは、非常に難しい所だ。

 

「そこで、少しでも利息を払おうかとね」


「いらん」


「そこは、素直に貰っておきなよ」


 そう言うと、ルイーゼは素早く俺の横に移動してそっと頬にキスをしていた。

 さすがは、魔闘流の使い手。

 俺は何も出来ずに、ただキスをされてしまったのだ。


「恥ずかしいから、口は無しだよ」


 そう言い残し、まだ恥ずかしいのか顔が赤いままのルイーゼは、素早く部屋を出て行ってしまう。


「お子様な癖に、本当に魔性の女になるのか?」


 あんな子供に惑わされるなんてと思いつつ、実は内心ドキドキしていた俺であった。

 

 ただ、そのドキドキも、もう半日後には別のドキドキに変わってしまうのだが。

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