<< 前へ次へ >>  更新
26/206

第二十三話 押し掛けメンバー。

「助けてくれてありがとう」


「サンキューね。ヴェル君」


「あのぉ……。一応、俺も助けたんですけど」


「悪いわね。本当は、エルヴィン君も凄いんだけど……」


「魔法って、マジで反則だよなぁ……」


 放課後の午後、同級生であるエルと一緒にアルバイトの狩りに出かけた俺であったが、かなりの成果にホクホク顔で街へと戻ろうとしたその時、偶然にも狼の群れに襲われていた同級生のイーナとルイーゼを助けていた。


 エルの弓と俺の魔法で狼の群れは全滅していたが、やはり僅か十二歳のガキが二人で狼の群れを全滅させれば驚かれるのが当然だ。


 狼は毛皮が売れるのでそれを回収した後、俺達は四人で夕食がてら話をする事になっていた。


「でも、狼の毛皮は良いのか?」


「そっちの話なの? いいわよ、助けて貰ったお礼としてね」


「お礼とは言わないかもね。半分以上は、エル君とヴェル君が倒したわけだし」


 実は俺達が駆けつけた時、現場には既に絶命した八頭の狼の姿があった。

 二人は、それでも自力で八頭の狼を倒していたのだ。

 

 だが、そこで体力の限界が来て、これ以上は倒せないで防戦一方の状態であったらしい。

 俺は、彼女達が先に倒していた狼の毛皮八頭分の権利は向こうにあると思っていたのだが、二人は助けて貰ったお礼として俺たちにくれるという。


 ふと横を見ると、エルが物凄く嬉しそうな顔をしていた。

 実入りが増えて嬉しいのであろう。


 それに、彼女達としては俺達に借りを作りたくないらしい。

 ならばここは、素直に貰っておいた方が良いと俺は思っていた。


 その代わりに、どうせ狩りの競争でエルに負けたので彼に夕食を驕らなければいけないのを思い出し、ついでに二人の分の夕食も驕る事にしたのだ。


 俺達は、先に狩った獲物を予備校側から指定された冒険者ギルドが経営する買取所へと置いてから、予備校近くにあるレストランへと移動する。

 

 以前は、ブライヒブルク近隣に住む農民のふりをして、商人ギルドカードを使ってバザーで獲物を売っていた俺であったが、今は指定された買取所に持っていくだけなので楽であった。

 

 前の癖で、『解体をしなければ』などと思っていた俺であったが、買取所にはプロの獲物解体人がいるので、逆に素人が下手に解体などしないようにと予備校から釘を刺されている。

 

 下手な奴がやると価値が下がるからという事らしいが、これでもバザーで獲物を売っていた頃には、商業ギルドの職員やお客さんから解体が上手いと褒められていたのに、全く酷い言い様ではある。


 ただ、その解体は魔法によって行われていたのだが。

 

 それと、買取所の受け付けで俺は、知り合いの商業ギルドの職員と顔を合わせてしまった。

 受付で呼ばれた名前を聞かれてしまったので少し拙いかなとは思ったのだが、向こうは気にもしていないようだ。

 後でエルが言っていたのだが、『農民の子供のフリをして副業に励む貴族の子供なんて、地方だとさして珍しくも無いからな。俺もそうだったし』という事らしい。

 

 さすがに、犯罪目的での偽名がバレると大変な事になるのだが、貴族の子供のアルバイト目的の偽名は身元が確かなので逆に安心されるそうだ。

 更に言うと、ベテランのギルド職員が見れば、農民の子か貴族の子かなんて大体わかってしまうらしい。

 その辺は、さすがはプロと言うべきであろう。

 確かに、あの商業ギルドの職員は俺に声さえかけて来なかった。


「七番の札をお持ちの方」


「はい」

 

 結局、猪一頭は毛皮込みで銀貨三枚、ウサギは合計八羽で毛皮込みで銀貨四枚、ホロホロ鳥が三羽で銀貨三枚。


 そして狼であったが、肉は食べられないが毛皮は意外と需要が多いらしく二十頭分の毛皮で銀貨六枚になった。


 今日の合計は、銀貨十六枚で一人頭八枚。

 日本円にすると八万円くらいであろうか?


 アルバイトとは思えない金額であったが、これはわざわざ遠方の狩り場まで足を運んだおかげであろう。

 街の近くで狩りをしている連中は、いつも半分くらいボウズなのが普通だからだ。


 それに、遠方で人がいない場所で狩りをするので危険も増える。

 今日の、二人のお嬢様方のような結果になるのだ。


「噂は本当だったのね」


「噂?」


「ええ、バウマイスター家の八男は、かなり強力な魔法が使えるって」


 予備校近くの、学生御用達のレストランに到着した俺達は、奥のテーブル席に座り、四人分の今日のお勧めディナーを注文する。

 一人前銅板一枚と少し高めではあったが、肉が沢山入った濃厚なシチューに、川魚のフライに、新鮮なサラダに。

 パンは白くて柔らかい物が二つ付いていたし、飲み物はお茶かコーヒーに、デザートにアッイプルパイと。

 

 値段分の、価値がある内容になっていた。


「高いメニューを奢って貰って悪いな」


「賭けは、エルの勝ちだからな」


「私達まで悪いわね」


「今日は、実入りが良かったからな」


 お腹も減っていたのでまずは目の前の暖かい食事を片付ける事にし、デザートまで平らげた後に食後の紅茶やコーヒーを楽しみながら話をする事にする。


「しかし、災難だったな」


「いやぁ……。大き目の猪を狩るのに手間をかけ過ぎてね」


 エルの慰めに、見た目が幼い水色の髪の美少女ルイーゼがなぜあれほど大量の狼に囲まれる羽目になったのかを説明する。

 俺達と同じく、街から離れた場所で狩りを開始して運良く大きな猪を見付けたものの、その処理に手間取り、その間に血の臭いで狼の群れを呼び寄せてしまったらしい。


 しかも、先に倒していた八頭が一つ目の群れで、あとの十二頭は二つ目の群れであったようだ。


 いくら特待生でも、彼女達はまだ十二~三歳でしかない。

 狼の群れとのダブルヘッダーは、今の時点では荷が勝ち過ぎていたようだ。


「それに、実は狩りは初めてだったんだ」


 イーナの話によると、二人は普段は道場で訓練ばかりしていて狩りという物を経験した事が無いらしい。

 そのせいで、スタミナの配分を間違えてしまったようだ。

 

「狩りをした事がないのか?」


「別に意外でもないぞ、ヴェル」


「そうなのか?」


「ああ。街に住んでいる貴族なんて、陪臣でもそんなものさ」


 俺やエルのように、実家が田舎だと貴族でも狩りを行う。

 農作業が優先なので狩人が少ないのと、冒険者などまず来ないからで、他にも武芸の鍛錬の一部と見なされていたり、趣味の一環として見なされていたりと。


 逆に言うと、街の貴族や兵士は狩人や冒険者の仕事なのでそれを奪うような事はしないし、武芸の鍛錬は正式なメニューがあるし、狩りの他にいくらでも趣味や娯楽は存在しているとも言えた。


「狼は単独だと、ある程度訓練を受けた人間ならそう苦戦はしないけどね」


 狼の怖さは群れで襲って来る事で、数頭を倒したり傷を負わせても、いつの間にか自分も怪我をしていて、次第に体力を失って最後にはというパターンで命を落す事が多いのだ。


「それに、お前さん達はペアの組み方が間違っている」


 槍のイーナに、魔闘流のルイーゼにと。

 どっちも前衛タイプなので、せめてどっちが一人は弓を準備しておくべきであるとエルは助言する。


「その点、うちは俺は剣も弓も使えるし、ヴェルも弓も魔法も使えるわけで。バランスが良いわけだ」


「バランスは関係ないと思うけど」


「何でだ? ヒレンブラント」


「イーナで良いわよ。いい、確かにあなたの剣の腕は優れているし、弓も上手なのはわかる。でも、ヴェンデリンの魔法が凄過ぎて全然関係ないのよ。ヴェンデリンなら、その辺の子供と組んでも結果は同じじゃないのかな?」


「そうだね。イーナちゃんの言いたい事はわかる。ヴェル君の魔法って、既に超一流の冒険者レベルだし」


 イーナの発言に、ルイーゼも賛同していた。


「でなければ、同時に十頭もの狼を魔法の矢で殺せないわよ。魔力の量もだけど、魔法の精度が既にベテランレベルなのよ」


 確かにイーナの言う通りに、俺は結構魔法の精度にも自信がある。

 伊達に六年以上もの間、家族にハブられながら魔法の特訓を続けたわけではないのだ。

 

 そう、俺はボッチを糧に魔法の鍛錬に全てを賭けていたのだ。

 決して、他にする事が無かったからではない。


 それに俺には、短い期間ながら世話になった師匠という偉大な存在もいた。

 彼の教えにより、俺は効率の良い魔法の鍛錬を行えたのだから。


「ズルいとは言わないけど、エルヴィンは圧倒的にパートナーに恵まれているわね」


「しゃあないだろう。その辺は、運だからな」


 普通こんな言い方をすると不遜に聞こえる事も多いのだが、エルには不思議な魅力があってあまり敵を作らない羨ましい性格をしていた。


 それに、エルの言う事も事実だ。


 偶然とはいえ、たまたま入学式直後に出会って友人になったのだから。


 更に言えば、エルは今の時点でも優れた剣の使い手である。

 弓も腕前も、既に一人前と言っても過言ではないレベルだ。


 俺は、彼を足手纏いなどとは一度も思った事がなかった。


「エルヴィンの言う通りね」


「そうだね。これも運。袖振り合うも多生の縁だよ」


「私とルイーゼが前衛、エルヴィンは情況に応じて前衛の剣と後衛の弓を兼用。そして、ヴェンデリンが弓と魔法で後衛と。バランスの良いパーティーね」


「何か、勝手にパーティーが結成されているけど……」


 女の子という生き物は、可愛さとか弱さとの裏合わせで強かさも兼ね備えている。

 前世で多少は経験した事実なのだが、俺は少し甘く見ていたようだ。


 翌日、俺とエルが予備校の教室に入ると、すぐに担任のギルド職員から声をかけられる。


「バウマイスター、アルニム。ヒレンブラントとオーフェルヴェークから、パーティー申請書はちゃんと受け取ったからな」


「はあ?」


 確かに、入学式時の説明でパーティーの結成についての説明は受けていた。

 冒険者が生き残れるコツは、己の実力もあるが良い仲間を見付ける事であると。

 なので、せっかく予備校に通うのだから、この時期に勉学や訓練を共にした者同士で良いパーティーを作っておくべきであると。


 そしてそのために、パーティー申請用紙という物が存在していた。

 これで申請をしておけば、後に行われるパーティー実習で申請されたメンバーが優先されるし、予備校側としても、アルバイトの狩りなどでもそのメンバーで動いていると知れれば、安心できるという事らしい。


「バランスが良いパーティーじゃないか。これは期待できるな」


「あいつら……」


「(これって、ラノベとかで言うところのフラグが立ったなのか?)」


 まあ、悪いやつらでも無さそうだし、ずっとソロや野郎のエルとだけで行動というのも味気ないので、とりあえずは様子見だなと思う俺であった。

<< 前へ次へ >>目次  更新