ロックンロール
「おう、ダンガン、腕を上げたじゃねえか。これでいいぞ」
「うっす」
ダンガンは自分の補修した防具の出来を褒められ、喜びを隠すように頷いた。
師匠から任された仕事は終わった。冒険者が迷宮から帰還し素材の持ち寄りや武具修繕に立ち寄る最も忙しい夕刻も過ぎ、日が沈み始めている。無論、迷宮繁栄時代の今の世、太陽神の光なしでも都市の内部は魔灯に照らされまぶしいが、今日の作業はもう終わりだろう。
だが、ダンガンはまだ忙しい。彼は黄金鎚の内部ではまだ下っ端で、多くの雑務を任されている。掃除、片付け、道具の整備、果ては衣類の洗濯まで。そうした作業を可能な限り手早く済ませ、更に明日に備えた準備と鍛冶師としての勉強に励むのだ。朝の作業は日が昇ると共に行う。当然はやい。
忙しく目が回るような日々だが、そこそこの充実を彼は感じていた。
最近も、自分の作った武具防具が売れた。それも新星の冒険者に。尤も、冒険者にしては随分と変わった連中だったが――
「ダンガン」
「んん……?ウルか。もう日が沈むぞ」
考えていた側から、新進気鋭の冒険者が現れた。が、ダンガンは首を傾げる。基本、冒険者が此処を訪ねるのは迷宮に出る前の朝か、迷宮から帰還する夕刻頃だ。
無論、冒険者なんてのは不規則で不安定な仕事ではある、が、傾向としてはそうだ。こんな日が沈みかけた時間帯に訪ねてくる事はあまりない。大抵の冒険者は、その日の儲けを散財すべく、繁華街に繰り出すものだ。
そして、更に彼はおかしなものを持ってきていた。というか、“引いて”いた。
「……そりゃなんだ」
「荷車だ」
「そりゃわかる。なんで何も載せてないんだそれ」
荷車とは、荷物を運ぶためのものである。
そんなこと誰だって言われなくても分かる。かなりの大型の荷車だ。小型の馬車と大差ない。だが、この男は荷車に何も載せていない。荷車だけを此処に持ってきていた。もしかして途中で荷物を落としてきてしまったのか?
しかし彼は真っ直ぐに荷車を引っ張り、目の前に置いた。そして此方を見つめる。
「依頼をしたい」
「なんだ」
ダンガンにはまだ雑務が残っているし、そうでなくとも既にクタクタと言って良いほど今日は十分働いた。だが、目の前の客から漂う仕事と、金の匂いを見過ごすことは【黄金鎚】の一員としては避けられなかった。
何より、興味があった。この話題性の塊のような男がどんな依頼をするのか。
「この荷車を改造してほしい」
その言葉に、ダンガンは額にしわをよせる。
「俺は鍛冶屋だ。木工職人じゃあねえ」
「鍛冶屋ってのは武具防具を作ってくれるところだろう?」
「えらく雑な理解だ。間違ってはいないが」
なら、合ってる。と、ウルは
「正確に言うとだ。この荷車を防具に改造して欲しい」
ダンガンの顔のしわが深まった。だがそれは不快さからくるものではなく、困惑と、思考を巡らせるためのものだった。防具、防具、身を守るモノ。冒険者達の命を預けるモノ。荷車を?
だが、理解不能。と、いうわけではなかった。思い当たる事がある。
「……【戦車】を作りたいのか?」
荷台に兵器を載せ、機動力を馬に任せて走る兵器の概念はこの世界に無いわけではない。かつて、世界が迷宮に溢れる前はメジャーな武装の一種だったと聞いたこともある。魔物が溢れた今の世界では、馬たちで戦車を引かせようとしても、魔物を畏れて馬たちが走行してくれなくなり、衰退していった。
今もあるにはある。が、多くはない。機械の発明で有名な【大罪都市エンヴィー】では魔導機械を馬の代わりにした兵器が誕生したとの事だが、流石にそれはダンガンも専門外だ。
いや、それを言うと戦車そのものもそこまで専門ではない……ないのだが、ダンガンは酷く興味がそそられた。
「そうなるな」
「迷宮に馬なんて連れていけないぞ。ただの馬なんて魔物に速攻で食われちまう」
「機動力ならアテがある」
「マジか……で、それで毒花怪鳥を討つってか?」
「そうだ」
ウルは真顔で言い放った。
「……ちょっと待て」
ダンガンはウルが持ってきた荷車を観察する。どうやらウルが持ってきた荷車はそこらで購入した中古の安物ではない。刻印があった。木工ギルド【神樹の木陰】で購入した高級品だ。悪路の衝撃を抑え、壊れにくく、荷重にも耐える。都市内で使用するものではなく、都市間の移動、人類生存圏外で利用するためのものだ。
「竜牙槍の柄に使った赤猿樹で出来た荷車だそうだ。下位の魔物の爪では傷も付かないと太鼓判を押してもらった」
「だが毒花怪鳥の爪は貫くだろ」
「だから改造だ。出来るのか」
ウルも、本来は荷車を買った【神樹の木陰】で改造も頼みたかったが、「賞金首の攻撃にも耐えうる改造はウチでは専門ではなく保証できない」と拒否され、ここに来たのだ。無論、黄金鎚も荷車の改造なんてのは専門ではない。ダンガンだって知識豊富というわけでもない。ない……が、
「……おい、いつまでに作れば良い」
「最長10日間」
「予算は」
「金貨5枚」
「後5枚だせ」
ウルは渋い顔になった。だがムリだとは言わなかった。金は、あるらしい。無論、金貨10枚は大金だ。彼が狙っている。毒花怪鳥の金貨は確か結構な額がついていたはずだが、それでも上手く倒せなければ大損も良いところだろう。
しかもその大金を使って生み出すのは、何処の誰もやっていないような廃れた兵器ときたものだ。普通は絶対に頷かない。普通は。
だが、ウルは大きく息を吐き出して、苦々しい顔で頷いた。
「……わかった。出す。だが、見合うものを作れよ」
ダンガンはその言葉にニヤリと笑った。
「金貨10枚、俺にとっちゃ大仕事だ。そして金を出されたということは、それだけの信頼と、腕を買われたって事になる」
黄金鎚の理念は金だ。金を儲けることを喜びとする。なぜなら金を出してもらうということは、それだけ腕を買われたということなのだから。金は、この世で最も信頼に足る計りだ。そしてウルは今、ダンガンに金貨10枚の金を出すと言った。
ならば、それに全力で応えねば、黄金鎚の名が廃る。
「任せろ。最強の荷車をつくってやる」
かくして荷車の改造計画が開始された。
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毒花怪鳥討伐十九日目
荷車改造計画一日目
今日から荷車の改造計画に入る。時間はあまりないので可能な限り迅速に動く。
大前提として、荷車を引く馬、機動力はロックである。
シズクの死霊術を応用し、ロックの死霊騎士の姿を改造し、馬にするらしい。島喰亀の時に見た死霊馬と同じものだ。ロックの人権を(骨だが)相当無視している気がする発想だと思ったのだが、本人は、
ロック:カカカ、ええぞええぞ!!面白そうじゃ!!
というわけでロックは馬になった。もうちょっとカッコ良いほうがいいとかうるさかった。
荷車はシンプル。馬が引くように出来ている荷車、四輪型で、中型サイズ。大の大人でも3人は乗り込めるだろう。こうなってくるともっと大型の馬車でも最初から買った方がいい気もするが、あまりにサイズが大きすぎると今度は迷宮の狭い路地を通れなくなる。これがギリギリのサイズだった。
一先ずは俺達が乗り込む荷物置き場に防壁を作る。移動速度は相応に出さねばならないため、重量は抑え、風圧を抑えるため斜めに打つ。軽く、固く、強い素材を、と追求していくと価格が青天井なのである程度で妥協する。
緑重金と呼ばれる金属で出来た防壁が出来た。試しに走ってみる。
結果、速度を出すと重心が崩れ、馬車のバランスが崩壊する。
・防壁の高さを低くし重心を下げる。風の影響を可能な限り減らす
・正面を除いた不必要な箇所を軽量化。
・車輪の補強
改造、その間に迷宮に突っ込み魔石を稼ぐ。忙しい。
~本日の迷宮探索成果:銀貨10枚~
帰ると馬車の状態が改善されていた。防壁が低く、ちょうど屈めば身体が隠れるぐらいのサイズだった。
ダンガン:走行は問題ない。それ以外の問題が出た。
試しに俺、シズク、リーネで乗ってみる。
あっつい。
一応窓らしきものは設置してあるが、狭い密室に3人の人間が入るとあっつい。
都市の内部でこれだ。迷宮だと蒸し風呂になって死ぬ。
リーネ:暑いわ←俺もそう思う
シズク:汗だくですねえ←服を脱ぐな
・通気性の確保
or
・装備見直し
俺は問題無い。わけじゃないが以前の改修で多少は迷宮の熱には耐性がある。シズクとリーネは下手すると熱中症になりかねん。ダンガンから【氷上白札】の設置を提案された。結界ほどの効果は無いが、設置した周囲に効果を及ぼす魔法陣の簡易版、つけると確かに中は涼しい。
リーネ:ちなみにこれもレイラインの魔術よ←何故か複雑そうな顔。
迷宮だとどれくらい効果があるかはわからないので試してみるしかない。
その日はコレにて終了。
帰りにアカネに会いに行くついでにディズにこの発案を話したら大笑いされた。
今に見てろクソッタレ。
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毒花怪鳥討伐二十日目
荷車改造計画二日目
~本日の成果:銀貨5枚~
今日は迷宮での使用状況を想定し、かなり乱暴に運転をしてみる。
流石、と言うべきか、元々購入した荷車も都市の外、人類生存圏外域で使用する事を前提に作られたものだ。当然魔物から襲われ、逃げることを想定しているため、めちゃくちゃな速度で走っても、飛んで跳ねての乱暴な運転でも見事に衝撃を吸収する。思った以上に良い買い物だった。
代わりに乗っている俺達がもみくちゃになって頭ぶつけて死にかけた。
ロック:ッカー!観たかワシの華麗なるコーナリング!←うるせえ
リーネ:痛いわ←俺もそう思う
シズク:あらウル様、のしかかってしまってごめんなさい←はなれろ
固定具がいる。そもそも俺が四方八方に動いていたら話にならない。
想定では、荷車の上から適宜、外へと攻撃する必要があるため、出来れば、即座に動けるような状況が望ましい。天板から顔を出して周囲の迎撃が出来るような状態でなければならない。
椅子を設置し、車高を車輪軸に対してやや下ろす。固定具で身体を支え、動く際はすぐ取りはずせるようにフック式にした。少なくともコレで、魔物と戦う前に天板に頭を打って死ぬなんていうマヌケを晒す事はなさそうだ。
この際、どうしても荷車の構造そのもののバランスをある程度いじる必要が出てきたため、結局【神樹の木陰】の職人に助けを求めることになった(というかダンガンが半ば強引に引っ張り出してきた)
職人のヤーシはダンガンが途中まで手がけた改造荷車の状態を見て卒倒しそうな顔になり、その後いかに自分の作った作品が無駄なくバランスを考えて作っているのかを説明し、その後、一切この改造をやめるつもりはない旨を説明すると、諦めた顔になって手伝ってくれるようになった。
ヤーシ:目の届かない所でめちゃくちゃされるくらいなら俺が引導を渡した方がマシ。
謝っといた。
ヤーシの報酬はダンガンへの報酬から分けるとダンガンが言ってくれて安心した。
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毒花怪鳥討伐二十三日目
荷車改造計画五日目
リーネ:なんにでもなれるならロックが馬車そのものになればよくない?
荷車の激しい揺れに固定具でもっても身体をぶつけ、青たんが彼方此方にできたリーネの案を聞いたとき、彼女は天才かもしれないと思った。荷車、馬車なのだから馬が牽かなければならないのだという固定観念があったが、動力と、貨物車部分をわざわざ分ける必要は無かった。
基盤となる骨組みや車輪、補強の防壁は必須だ。だが、ロックが馬となる必要は無い。
ロック自体が馬車となり、車輪をまわすのだ。そうすれば馬になってひいてもらうよりも衝撃はすくなくなる、必要な部品も補強すべき箇所も減る。
ロック:ワシ自身が馬車に……カカカ、すんごいのワシ!←本当に良いのかお前
シズクは死霊術の見直しを行う。ただ、ロックが馬車、正確にいうと荷車の車輪の動力を担う場合、馬よりも更に人体と離れすぎてしまうため、上手いことやれるかは難しいとのこと。
なので、今日は迷宮には向かわず、死霊術の調整をシズクとロックに行ってもらう。
リーネと自分だけでは迷宮に行くのは難しいので、彼女とは強化魔術の練習を行う。
【白王陣:白王降臨】
・通常の白王陣と違い、人体に描き込んで完成される魔法陣。
・必要時間4時間
・維持時間3分発動後の効果時間30秒
・使用後は人体の魔力が全て尽きるので、戦士職でも一時的に行動不能に陥る
概要を改めて書き出すとものすごい効率の悪すぎる魔術だが、これを完成させるのが今回の作戦の要だ。身動きがとれないリーネと自分の足を代わりに用意し、移動して、そして魔術完成後速やかに怪鳥をたおすために。
問題なのは、魔法陣作成の間、どれくらいまでコッチが動けるのか。
リーネ:意識を【集中】で傾けているから、術完成以外なにもできないわ。私。
彼女は問題外。ではその間、俺は動けるのか?と聞いたら
リーネ:私が描き込んでいる部分はあまり動かないようにして。
描き込む場所は背中。ほぼへばりつくようにして背中に魔法陣を描き込むことになるらしい。で、言われてもイマイチピンと来ないので試してみる。
結果:暑さ対策で薄着の小人の少女に閉所で背中にくっつかれるという異様にインモラルな状況であることを除けばまあ、術完成までに大きなトラブルは発生しなかった。
ただし、課題が一つ。シズクだけで攻撃の手が足りなくなる場合、俺も攻撃に参加するため出入り口の天板から顔を出す必要があるのだが、そうすると立ち上がるため、小人のリーネの背丈が足りなくなり、俺の背中に届かなくなる。当然その間彼女は魔術を作成出来ない。
・滞りなく魔術を完成させるために、出来れば座った状態で攻撃に参加出来る方が望ましい
投擲の射線を作るために窓を防壁正面に開けるか?
とダンガンに言われたが、相応の速度で移動する荷車の風圧をもろに真正面から受け続けるのは正直怖いし、白王陣完成の妨げにもなる。しかも魔物が飛び込んできたら死ねる。
横窓から攻撃。やれないことはない。だが、座りながらだと少し難しいかもしれない。もっとも、魔法玉とか、着弾するだけで効果がでるものを搭載していればいいだろうか。
念のため、ダンガンに相談してみる。
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毒花怪鳥討伐二十五日目
荷車改造計画七日目
~本日の迷宮探索成果:銀貨13枚~
ダンガン:いいものみつけた。
そう言ってダンガンが持ってきたのは、所謂大型弓砲だった。都市防衛のために使用されていたものを一つ買い取ってきたらしい。そんなもんどうする気だ。と、聞いたら
ダンガン:つける。
ダンガンはいい笑顔だった。絶対コイツ楽しくなってやがる。
ダンガン:元々、戦車の兵器にはこういうのもあったらしいが、馬のいない自走荷車ならもっと簡単にとりつけられるだろ。
なるほど正しい。でもそれなら大砲とかじゃだめなのか?
ダンガン:尋常じゃなく揺れる内部に火薬玉とか突っ込んで死なないか
死ぬ。やめとこう。
そんなわけで大型弓砲を設置した。魔物の肉体を貫通する規模のものはかなり大型になるため半ば先端部が防壁の外に飛び出す。防壁を改造し、固定具兼防壁として完成した。大型弓砲の機構は金属のバネを使用したハンドルによる巻き取り式のものであり、迷宮で強化された力でなら、問題なく使用できる。
ただ、そうなると矢玉の方が問題か。
一応、矢の類いだけでなく、石なども発射出来るらしいが、投擲なら兎も角、荷車の中にいた状態ではとても石を拾うなんてできない。餓者髑髏の時のような氷の槍を同乗するシズクに作ってもらうのも手だが、魔術は温存したい。金で矢玉が買えるならそっちのほうが良い。
試す。
前だけしか撃てないと範囲が狭い。
軸を可動式にして回せるようにして、防壁の穴を広げて、射角を拡張した。攻撃範囲が広がった。見た目が更に異常になった。ロックが喜んだ。
それとこの日、迷宮探索から帰ると、ギルド長に呼び止められた。
リーネの件、ラウターラの学生の扱いについて、都市で方針が決まったらしい。結論から言うと、一定の戦闘能力を冒険者ギルドに示し、認められた場合に限って、都市から正式な形で都市権限を保持したまま、都市外に出ることが許される、と、そういった形になるのだとか。
Q.つまり? A.怪鳥を倒せればいい。
大変にシンプルな話になった。ややこしいことがないように、アランサが滅茶苦茶交渉を頑張ってくれたらしい。
ありがたいことこの上ない。今度、菓子折でも持っていこう。
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毒花怪鳥討伐二十七日目
荷車改造計画九日目
~本日の迷宮探索成果:なし~
今日は迷宮で試運転、魔物の危険性があるがやはり試走しないと分からんことが多い。
結果:荷車が、沈む。
荷車の重量の増加と、湿度の多い大罪迷宮内の環境の相性が最悪だ。地面に思い切り車輪が沈み、思うように進まない。車体全体の安定のため重力魔術はかけているが、出力が足りていない。
最悪だ。とてもまずい。とてもとてもまずい。この土壇場で計画の頓挫は致命的だ。なんとしても対策を考えなければならない。
胃が痛い。なんでこのことにさっさと気づかなかったのか。
車輪を増やし、重量を分散させる。だが、荷車のサイズ的には追加で一輪ずつが限界か。それに多少数を増やしても、悪路に車輪が取られれば変わらない。下手すると沼地に突入する可能性だってある。
なんでも、エンヴィーに存在する機械の戦車は悪路に対応するため無数の車輪を“帯”でつなげ、回している、らしい。
イメージがわかない。理屈は分かるが細かい機構がわからん。
ダンガンと相談し、ついでにギルド長含めた他の職人達も口出しし始め、方針が決まった。
車輪は六輪。重量がかさむがやむを得ない。そして車輪そのものを付け替える。【生産都市】で使用されている魔道具で使われる特殊なコウゴム製の車輪。非常に分厚く、弾力があり、耐衝撃に優れ、悪路に強い。重量が分散する。横幅が広くなったがまだ許容範囲か。
更に購入を保留にしていた外套【緑の風翼】を車体下部に敷くことで全体の重量を軽減する。やや不安定になったが全体的に軽くなった。
結果、迷宮の湿地でも沈まず、走行可能となった。
最悪の事態は避けられた。
良かった。
マジで怖い。
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毒花怪鳥討伐二十九日目
荷車改造計画十一日目
「出来た」
「出来たな……」
「出来たがこれは…………」
ウル達の目の前には、ここ数日間全力で取り組み続けた荷車の改造、その完成品が鎮座している。それを眺め、ウルは一言漏らした。
「…………これは、なんだろう」
発案者にして、一応生みの親ということになるウルは極めて困惑に満ちた声をあげた。ウル達が完成させたそれは、当初の荷車からはかけ離れた謎の物体となっていた。
【戦車】のはずだが、馬がいない。
馬は戦車と一つになった。何を言ってるんだコイツとウルは自分でそう思った。
『のうワシ、カッコ良くない?カッコ良くないかコレ!!!』
「荷車が喋るな」
車輪は巨大で分厚く黒い。都市外に出る馬車でもこれほどの車輪を設置している馬車はそうそうないだろう。防壁は可能な限り風圧を避けるため低く斜に構えられ丸みを帯びている。更に前方には大型弓砲がものものしく飛びでている。
乗り込み口は後部にある。車高を下げ拡張性をあげたので割と中が広い。此処でリーネは“作業”を行い、外部の状況を見てウルが攻撃するようになっている。
彼方此方を放浪してきたウルだが、今までみたことのない物体が目の前に鎮座していた。
「我が子が……」
となりでヤーシが顔を伏せ泣いている。感動しているのか嘆いているのか。多分後者だ。
「時間があればもう少し改造できたんだがな」
「これ以上金かける気か。儲けあるんだろうなダンガン」
「…………ああ!!」
この上なく雑な濁し方をされた。途中からノリノリになって、明らかに過剰な装備の詰め込みや防壁の改造を行なっていたから怪しかったが、やはり足が出ていたらしい。尤も、支払ってそれで納得した以上、ウルには口出しは出来ない。内心で感謝だけはしておいた。
「ひとまず、準備は完了した……多分」
資金もほぼほぼ限界まで使った。試行錯誤も時間の限りやり尽くした。これ以上やれることはない。後は実行するだけだ。
「それで、これで上手くいくの?」
「わからん」
「ええ」
リーネの視線をウルは無視した。
『おう、ウル、ところでこれ名前なんつーんじゃ』
「……いるか?名前」
『いるじゃろ』
「いるだろ」
ロックとダンガンが口をそろえた。無駄に息が合っている。正直名前なんてウルは全く興味が無かったし、極めてどうでも良いのだが、今回の功労者二人がいる、というのにそれを無視するのは憚られる。
「……シズク、なんかないか?」
「ウル様にお任せします」
シズクはニッコリと微笑んだ。常に一歩後ろに下がりこちらをたてる態度がこのときばかりはズルく見えた。目の前でワクワクとコッチを見つめるロックとダンガンの視線にさらされながらウルは考え始めた。
が、すぐさまバカバカしいと思い直した。ただでさえ頭を抱え悩む案件が多いのにこんなことにいちいちうなりながら悩んでどうするというのだ。適当ででいいわこんなもん。
「じゃ、【ロックンロール号】で」
命名理由、ロックが回るから。
評価 ブックマーク いいねがいただければ大変大きなモチベーションとなります!!
今後の継続力にも直結いたしますのでどうかよろしくお願いします!