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研修期間


 【迷宮大乱立】による大騒乱。

 イスラリア大陸の七つの大罪迷宮から発生した同時多発的な人類滅亡の機。

 それに対抗すべくして生まれた大罪都市プラウディアを中心とした【大連盟】。イスラリア大陸の国家の全てがこれに集った。国力、思想、種族、文化、あらゆる隔たりの壁を越え、一つの組織への恭順が成されたのは偏に「さもなくば確実に滅ぶ」という身も蓋もない危機感から来るモノだったのだろう。


 極端に狭まった国土の調整。

 食糧問題の解決のための【生産都市(ファーム)】の建築。

 魔物の目を眩ますための国民の人口制限含めた新法の構築。

 精霊への信仰力の低い名無し達を活用するための公認ギルド、冒険者ギルドの設立。


 あらゆる迷宮への対策が【神殿】という精霊の力を管理する組織のもと、急ピッチにすすめられた、この速度なければイスラリア大陸は迷宮に飲まれ魔の大陸となっていただろうと歴史家は口を揃える。

 【神殿】は元より強い影響力を持っていたが、この騒動を経た結果、完全に世界を支配するための政府機関としての地位を確立した。その事に異議を唱えるものは“ほぼ”いなかった。迷宮の騒動の折、精霊を操る神官達が誰よりも最前線で戦い抜いていたからだ。


 そして神殿の内部においては、精霊とどれだけ繋がり、その力を引き出せるかによってその地位は変わる。


 第一位シンラ

 第二位セイラ

 第三位グラン

 第四位レーネ

 第五位ヌウ


 5つの官位をもつ神官達によって神殿は構築される。魔術大国ラストであってもそれは変わりない(もっとも、白の魔女の弟子達の多くは自らの権力を盤石とするため、神官の血を多く取り込んでいるため神殿にも食い込んでいるが)。

 都市国の行き先を定める定例会議も、この一つの官位を持った神官達によって行われる。


「では魔石の採掘量も問題ないということかね、アランサ殿」


 そしてこの日の定例会議でも、ラストの神殿の【神官長】、ココトリア・シンラ・ガルトーラの指導の下、大罪都市ラストの運営方針が取り決められていた。

 今日の議題の中心となっていたのは大罪迷宮ラストの魔石採掘量についてだ。そのために呼び出されたのは、冒険者ギルド、ラスト支部のギルド長アランサだった。


「毒花怪鳥の出現で開拓されていた中層へのルートが一部変更になり、速度は落ちましたが、採掘量自体は問題ありませんね」


 彼女はラストで最も高い地位に就いている男の問いに肩を竦め、答えた。【銀級】の冒険者の指輪を持ち、神殿における官位相当の地位を持つ彼女であるが、その態度はやや荒っぽい。その態度に顔を顰める神官もいたが、彼女は気にしなかった。


「その怪鳥とやらは倒してはしまえぬのかね?」

「なまじ、中層への道はいくつもあって、回避できちゃうんですよ。冒険者達の意欲が向かわないのが実情です。毒もかなり凶悪で、銀級に不要なリスクを背負わせるのは此方としても…」

「中層へと探索可能な銀級が都市にもたらす魔石の貢献度は認識している。銀級を失うのは本意ではない。なるほどあいわかった」


 どーも、と彼女は軽く手を振り着席する。やはり作法に欠ける態度であったが、彼女が、そして冒険者ギルドがこの都市に貢献する所は大きい。迷宮から採掘される魔石は、神官の精霊達の力だけでは届かない部分を補填するのに大いに役立ってくれている。魔術の国であるラストではそれがより顕著だ。

 尤も、それでも冒険者という立場のものを嫌う神官もいるにはいるのだが、少なくとも“今は”静かだった。


「……さて、そろそろ時間か。本日の議会は――」

「議長、一つ」

「ラスタニア殿、何か」


 議長に声をかけたのは50代半ばの女性だった。

 名をコレイン・セイラ・ラスタニア。 

 この議会の出席者の中でも高位の“神官”であり、白の魔女からの技術を受け継いだ弟子の家系、ラスタニア家の現当主。魔術学園ラウターラの理事長でもある。魔術術式の短縮、圧縮化に優れた魔術師の家系であり、多くの有能な魔術師が彼女に師事している。この国で最も優れたる魔術師の一派だった。

 が、少々問題があることでも彼女は有名だった。

 

「昨今、我が国、ラストからの術士の流出や損失が目に余るように見受けられます。何らかの措置が必要かと提案します」


 その発言に対して意味を汲み取れずいくらかのざわめきが起こった。


「しかし、魔と迷宮の浸食が今に始まったことではないでしょう?被害が出るのは避けようのないことなのでは?」

「限度がある。ということです。特に、ラウターラの出身者が損なわれるのは我が国の大きな損失です」

「だが、ではどうすると?」


 それは、と、彼女はその厳めしい表情で


「魔術師保護のため、ラウターラ魔道学園含めた魔術師達に制限を加えるべきかと」




              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 冒険者ギルド、酒場にて。


『ほう、そのちんまいのが新人か』

「仮のな」

「よろしくお願いするわ」


 ウルはリーネをロックに紹介していた。

 ラウターラでの魔術の披露を経て、仮採用、ということで、ウルはひとまず彼女を連れ、迷宮の探索へと向かうこととなった。


「リーネよ。小人。魔術師」

『ロックじゃ、死人で剣士やっとる』

「死人?」


 はて?と首をかしげるリーネへとロックは近づき、顔を隠していた兜をかぽっと外してカタカタと歯を鳴らした。リーネは驚き目を見開く。悲鳴を上げなかったのは凄いと思った。


「……まさか、死霊術。この国でも学園でもあまり見たことない。学生には禁術扱いよ」

「人間の魂扱う魔術なんてそうそう許されないわな」

『ま、一応ワシは既に冒険者ギルドに登録は完了しとるでな。世間体が悪いので隠しとるが、問題はないので安心しとくれ』

「……でもそれなら、術士は?」

「今日はいない。まあ、近いうち顔を合わせる。今日は3人の探索だ」


 本日の本題、リーネを交えた大罪迷宮ラストの探索。授業を終えてから、ということで現在の時刻は昼過ぎであり、少々遅めの出発となる。移動時間も考えるとそれほど長居は出来ないだろう。


「冒険者になるのなら、学園も辞めるわ」

「気が早すぎる」


 無愛想な面構えのまま鼻息荒く気合いの入ってる彼女をウルは宥める。流石にまだどうなるかわからないのに、彼女の人生の退路を断つのはあまりにも急すぎる。

 まあ、ウルとしては彼女の力にはかなり惹かれているのは事実だった。“終局魔術”の発動、恐らくシズクでも単独では発動不可能な超威力を操る技術は大物狙いのウルにとって、とても有効な切り札になり得るだろう。


 が、とはいえ、まだ彼女の採用を本決めにするわけにはいかなかった。


「毒花怪鳥、賞金首の観察の続きだ。今回も討伐は目的とせず観察がメイン、ただし、本番に向けて経験を積むため、交戦も視野に入れる」

「頑張るわ」

「いや、リーネは頑張らなくて良い」


 ウルはリーネの意気込みを抑える。彼女には今回前に出過ぎてもらっては困るのだ。


「そっちは随分と冒険者になる気マンマンに見えるが、実際の冒険者がどんなモノか知らないんだろう。勧誘された経験がないと冒険者ギルドからも聞いている」

「“思ってたのと違う”って、後から私が喚き出すと懸念している?」

「言葉を選ばずに言うならば、そうだ。だから“仮”だ」


 悲しいかな、グリードの訓練所にいるとき、ウルが聞いたことのある泣き言ベスト3に入る言葉である。想像と現実は大きく違う。彼女の気合いの入り方は、正直に言えばウルには不安だった。

 故に、“試用期間”が必要だと、ウルは感じた。


「俺たちは現在大罪迷宮ラストの賞金首を狙っている。今回リーネは可能な限り客観的に、俺たちの戦いを見学してもらう。そしてよく見ていてくれ。俺たちの――」


 区切り、そして今回リーネを連れてくる最大の目的を口に出す。


「――俺たちの醜態を」



              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 リーネは冒険者というものに幻想を抱いているつもりはなかった。


 魔石の採掘者としてどれだけこの世界に必要であろうとも、所詮はならず者、暴力を生業としているヒト達。彼ら彼女らに決してリーネは幻想を抱いていなかった。

 冒険者は決して、素晴らしい仕事だとは思ってはいない。ただ彼女は“自分の目的のために”冒険者になりたいのであって、冒険者そのものに憧れを持っているわけではない。


 と、リーネは、冒険者を客観的に見ることが出来ていると思っていた。


「ヤバイヤバイヤバイヤバイしぬしぬしぬしぬしぬ」


 どうやら、それでもまだ冒険者に幻想を抱いていたらしい。と、彼女は気づいた。

 現在彼女たちは大罪迷宮ラストの上層、中層との境目にいる。ウル達が狙う賞金首、毒花怪鳥の調査に来たのだ。そう、調査に来たはずなのだが、


「ウルさん」

「なんだいリーネさん」

「鳥、速いわ」

「せめて飛べよ……なんで足速いんだあいつ……!」


 リーネはウルの脇に抱えられ、逃げ回っていた。毒花怪鳥から。


『MOKEKKEKEKEKEEEEE!!!』


 けたたましい鳴き声が深い森林に木霊する。間抜けな鳴き声のようにも聞こえるが、その鳴き声と共に数メートル以上の怪鳥が恐ろしい勢いで迫ってきているとなると全くもって話は別だ。木々を乗り越え、時に蹴り倒しながら聞こえてくる奇声は死の警鈴だ。


 ウル達は今回毒花怪鳥と正面から闘うつもりは無く、あくまでも調査のつもりだった。


 上層、“巨杭樹”から抜ける3つのルートの内の中央ルート、【毒茸の泉】と呼ばれる上層に存在する泉にして、毒花怪鳥の住処、その近くにまで行こうとしただけなのだ。泉の手前で簡易拠点を創ろうとしていたその矢先に、何故か鉢合わせてしまった。

 結果、今に至る。


「でも調査って言うなら、少しは闘わないと不味いんじゃないの?」

「作戦変更だ」

「後、前衛張るはずだったロックさんが私たち庇って潰れて砕けたけれど」

「作戦変更だ」

「柔軟ね」


 実際、大幅な作戦変更をせざるを得なかった。出会い頭、互いに存在に驚き、半ばパニック気味に繰り出された毒花怪鳥の一撃を回避するため、硬直していたウル達をロックが突き飛ばしたのだ。

 結果、ロックは見事に砕け散った。ウル達の代わりに受けたダメージであることを考えるとぞっとした。


「ロックさん大丈夫なの?」

「時間が経てば復活する。確かこの先はずっと木々が乱立してる筈だ。あの巨体では追いにくいはずだ。そのまま振り切る――」


 ウルは前を見た。

 何故か眼前にはだだっ広い平原が広がっていた。


「……わあ、綺麗」


 木々は一切生い茂ってはおらず、結界の内にあるはずだが、太陽の輝きがさんさんと降り注いでいた。寝転がり、ピクニックでもしたくなるような絶好のロケーションだった。


『MOKEEEEEE!!!』


 こんな時でなければ。


「隠れる場所、ないわ」

「予定変更」

「予定が息していないわ」

「俺の息の根も止まりそうだよ」


 【大罪迷宮ラスト】は生きた迷宮である。

 以前あったはずのものがなくなり、以前なかったものが出現するなど、決して珍しくはない。加えてラストの迷宮特有の鬱蒼とした森が方向感覚を狂わせていた。右を見ても左を見ても似たような植物に囲まれ、方向感覚を失う。太陽を見上げ方角を確認しようにも白く輝く結界が邪魔をする。【指輪】による出口へのナビゲートがなければ確実に迷っていたし、あって尚、道に迷う。ちょうど、今のようにだ。


 地形そのものまでは大きくは変化しない。ウルは広間の場所は記憶している、中央まで行けばこの広場は途端に強い傾斜になる。滑り落ち、距離をとれるはずだ。が、しかし、


「来る……!」

「ちょっ!?」


 既に追いつかれている。怪鳥が突撃し、その毒の爪で踏み潰そうとしてくる。ウルはリーネを突き飛ばし、盾を構え姿勢を低くした。最悪、毒を食らうことを覚悟した。【防毒のアミュレット】が効くかどうか――


『ワシを無視しとるんじゃないぞ鳥頭ァ!!』


 だがそこに、回復したロックが飛び出した。彼は握った大剣を振りかぶり、そして半ば力任せのように怪鳥の首へとたたき込む。が、刃は首を刈り取る事は叶わない。恐ろしく強靱な筋肉が首を守り、刃を通さない。


『なめとんじゃないぞ!!』


 弾かれた刃を、ロックは再び振る。鋭く速い一撃、それを、先ほどと全く同じ場所に寸分違わず叩き込む。


『MOKE!?』


 怪鳥は悲鳴のような鳴き声を上げた。強靱な首が揺れる。全く同じ箇所にあたえられた衝撃は怪鳥の頭を揺らし、首から僅かに血を吹き出させた。それはウル達一行が初めて怪鳥にダメージを与えた瞬間だった。


 好機である。ウルは守りを解き、竜牙槍を構え、魔道核を起動させた。


「ロック、そのままな」

『おいちょま』


 返事を聞く間もなく、ウルは竜牙槍をぶっぱなした。美しい平原の中心で轟音と、肉が焦げるような匂いが漂った。


『KUKEEEEEEEEEE!!??』


 相変わらず奇妙な泣き声と共に、毒花怪鳥は吹っ飛んだ。

 事前情報、酒場の話では竜牙槍の攻撃も耐えるほどにあの羽根は頑丈と聞いていたが、聞いた話よりはダメージを与えられたように見える。ウルの竜牙槍は酒場の冒険者達の竜牙槍と比べ“成長している”のかもしれない。良い情報だった。


「もう一発………!?」


 続け様にウルは竜牙槍の放熱を開始し、構え、二発目を放とうと構える。が、しかし、それを放つよりも早く、目の前の状況は動いた。


『MO   KEEEEEEE!!!』


 毒花怪鳥が大きく羽ばたくと、そのまま地面を蹴りつけ、ウルに背を向けて跳躍したのだ。一瞬、新たなる攻撃手段を繰り出すのかと思ったが、そうではない。そのまま怪鳥は森の中に飛び込み、走り続ける。

 つまるところ、“逃げ出したのだ”。


「……撃、退できたのか……ロックは」


 ウルは振り返る。先ほどの竜牙槍の一撃をモロに直撃したロックの身体は、バラバラになって吹っ飛んでいた。ロックの頭蓋骨が足下に転がって、焼き焦げている。


「……貴い犠牲だった」

『やかましいわ』


 頭蓋骨だけになったロックが喋った。ウルは驚かず、そのままバラバラになった胴体の下に投げる。と、彼の身体は徐々に再生していく。


「頼りになるよ。不死身の剣士」

『バラバラは気分悪いわい。もっと気遣えお年寄りを』

「もう死んだからよいだろ、コッチは死んだら死ぬんだぞ」

『ワシの手柄じゃからな、あの怪鳥撃退できたのは』

「あーそれでいいよ。ざまあみろだクソ鳥め、全く見事な逃げっぷりで――」


 あっはっは、とウルとロックは笑った、笑って笑って、


「『……逃げた?』」


 二人ははた、と、笑いを止めた。


「……いやまて、逃げたぞあの鳥」

『逃げたのう……?』


 ウル達の目的は毒花怪鳥を倒すことである。

 断じて襲撃を迎撃し、追い返す事が勝利条件ではない。


『……ちなみに、ワシらさっきダメージ与えたが、ほっといたらどうなるんじゃ?』

「回復するだろそりゃ。迷宮だし魔力は潤沢だ。傷の回復だって早い」

『……』

「……」


 ウルは毒花怪鳥の逃げた方向に視線を向けた。既に怪鳥はこの平原から森林の奥深くに逃げ込んでいる。痕跡をたどれば逃げたルートくらいは追跡できるだろうが、そもそもあのとんでもない移動速度に追いつけるかと言えば、無理である。つまり


「……え?マズくない?」


 とても、とても厄介であることに、二人は気づいた。


「え?いやまて、違う、そもそも何でアイツ逃げてんだ!魔物だろ!?」

『魔物だと逃げないのか?』

「基本的に魔物はヒトを見れば問答無用で襲ってくる。自分の命が尽き果てるまでだ。どんな魔物でも原則としてそれは変わらないのに、尻尾を巻いて逃げ出すなんて…」


 ない、とは断言できない。必ずしもそうではない。

 魔物が発生してからしばらくは、ヒトを機械的に襲う敵対者でしかない。が、時間が経つと、徐々にその生態が生き物に近くなっていく。魔力の塊でしかなかった肉体に血肉骨がつく。生殖を行い繁殖もする。生物らしくなるのだ。

 無論、それでも獰猛で危険で、ヒトにとっての敵対者であることには代わりはしないのだが、これは【受肉】と呼ばれる現象である。特に迷宮、都市の外、地上に出現している魔物達の多くはこの特徴を得ている。


「……そうだ、【大刃甲虫】の死体は消えなかった。受肉していた」


 他の魔物達もそうだ。毒花怪鳥に集中していた為それほど積極的に魔物を狩ることはしなかったが、どれもこれも死体が残っていた。毒花怪鳥の周辺地域であったから、冒険者が近づかず、生き残った魔物が多かったのかとも思っていたが……


「この大罪迷宮ラストが、そういう迷宮っていうことか……?」


 より生物に近しい魔物を、生態を生み出す、迷宮。


『じゃが、酒場ではこんな話聞かなかったぞ?』

「大罪都市の冒険者は都市間を移動する奴は少ない。生活が安定して都市滞在費が稼げるなら尚のことだ。つまり他の迷宮を知らない」


 故に、情報が欠けていた。酒場の冒険者達がウルにわざわざ情報提供を伏せる事はあるまい。彼らにとっては此処の魔物が受肉しているのは当然のこと。言うまでもないことだったのだ。


 そして、あの毒花怪鳥の賞金が高い理由が一つ分かった。


 とても厄介だからだ。戦闘力よりも何よりも、“討伐”という一点において。


「………………どうしよう」


 ウルは頭を抱える。

 厄介だった。いや、厄介なのは覚悟していたのだ。賞金首だ。容易いわけがないと。が、しかし、この厄介さは覚悟していたものとは方向性が違う。装備品の制限を強いる環境、非常に危険な毒、竜牙槍の一撃をも耐える防御力、そして逃走、今までとは別種の対策が必要になる。

 これは思考を切り替えていかなければならない。ウルは深く皺を寄せた。


『ところでウルや』

「なんだいおじいさん、俺今忙しいから後にしてくれ」

『リーネは大丈夫なんかのう?』

「…………」


 ウルははた、と顔をあげる。そのまま振り返り、彼女を突き飛ばした場所まで戻る。と、見ればそこは平原の中でも若干泥濘んでいた。そこにリーネはいた、ウルが突き飛ばした勢いで泥濘みに頭から突っ込んだのか、泥まみれで。


「……」

「……」

「…………ごめん」

「……思ってたのと、違うわ」


 だろうな。とウルは思った。

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