毒花怪鳥観察日記
大罪迷宮ラスト、沼地エリアに陣取った巨大なる鳥の魔物。【毒花怪鳥】。
元は毒爪鳥と呼ばれる小型の鳥の魔物だったらしい。毒爪鳥は爪先に毒性の体液があることを除けば、見た目は野生の鳥と大差ないのだが、【毒花怪鳥】は今や小型とはとても言えないサイズとなっていた。
『MOKEEEEEEEEEE!!』
彼方此方に伸びる大樹すらもその肥大化した肉体を覆い隠すことは出来なかった。見た目、3,4メートルはある。飛翔を可能としていたはずの翼は本来の機能を捨て、肉体を守る盾のように身体を覆っていた。長い首の先にある嘴も、その巨体を支える両足から伸びる爪も禍々しく、大きく鋭い。唯一の面影と言えば、その派手な羽毛の色くらいのものだ。
怪鳥、という名がしっくりとくるその賞金首は、迷宮内の沼地の周囲をノッシノッシと我が物顔で歩いている。
「……デカいな」
『餓者髑髏ほどじゃあるまい』
「そりゃアレと比べりゃなんだってそうなる」
砦の城壁よりも巨大な餓者髑髏と比べれば、確かに小さいが、それでもヒト一人くらいならあの大きな嘴で一呑みしてしまいそうだ。
恐ろしい。正直闘いたくない。が、ウル達の今回の目的はこの生物である。
賞金、金貨30枚。倒せば冒険者ギルドからの覚えも大きいだろう。やるしかない。
「……兎に角まずは相手の生態を把握しない事には始まらん」
ウルは携帯食量を齧り、水をわずかに口に含んだ。
今回の探索であの怪鳥を打ち倒すつもりは全くない。やるべきは観察、情報収集だ。相手の事を全く知らずに行き当たりばったりの戦いに挑むなど、御免だった。
「完璧に対策を練り安全確実に倒す」
『それができるなら賞金なんぞかかっとらんと思うんじゃがのう』
「うっさい」
かくして骨と少年の怪鳥自由研究がスタートした。
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ディズに「この手の調査は記録した方が良い」と言われたので記録を取る。
昔、じいさんに文字を教えてもらっていてよかった。
記録地:大罪都市ラスト
筆記者:ウル
対象:毒花怪鳥
賞金首:金貨30枚、
解析魔術情報:階級九/十三・毒・獣
生息地:大罪都市ラスト、中層手前、上層終点付近
観察1日目
毒花怪鳥を発見した。デカい、色がキモい、鳴き声が変。
見た目のインパクトがすさまじかったが、しかし突然変異の元になる毒爪鳥と外見的な特徴、特に羽毛の色や、嘴の配色なんかは一致している。アイツが縄張りにしている沼地には同種の毒爪鳥も確認できた。
酒場で言われていたように、この沼地がアイツの縄張りらしい。
今日はちょっかいをかけずに観察に努める。
行動範囲は沼地周囲、ロックと交代で丸一日観察し続けたがその場から動く様子は全くなかった。睡眠中も沼地の岸辺で身体を休めていた。
寝るとこは同じ場所、草木が新たに生える間もなく潰れてる場所に座り込んでた。
少なくとも積極的に人間を襲うために迷宮を動き回るような事はしない。じっとここを動かない……なんというか、普通の生物のように見える。長生きして受肉したからだろうか?
睡眠どころか食事もとる。沼地の魚、虫を食べてるのを見た。他の毒爪鳥はその周辺で同じように行動している。仲間意識がある?
仲間意識がある
→つまり毒花怪鳥を攻撃したら一緒に襲ってくるのか?
→数十羽といる毒爪鳥とあのデカブツを同時に相手にする?
→勘弁してくれ!!!!
ギルドでそこら辺、情報収集する必要がある。あるいはこっちで実験するか。
夜になると大罪迷宮ラストは真っ暗になった。大罪迷宮グリードのように迷宮通路そのものが光源のようになっているわけではない。星光だけでは全く周りが見えない。そして毒爪鳥たちの眼球が星光に輝くのがメッチャ怖い。眼球が全部こちらを見つめている気がして怖い。聖水がいつ切れるかビクビクしている。
だが向こうは気づいてる様子はない。と、ロックが言った。
信用できるかはわからないが、もし本当なら、こっちには結界があるとはいえ、感知能力はそんなに高くないのかもしれない。
丸一日迷宮にいるので疲れた。ロックに見張りを任せて就寝。あまりがっつり眠れなかった。でも寝れるだけマシ、ロックいてよかった。
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2日目
かゆい
虫に刺された。しかもメッチャ腫れてる。かゆい通り越して痛い。病を運ぶ虫対策に虫除けも用意していたはずだが、それが通じない虫に噛まれたらしい。
虫刺されの軟膏は迷宮に入る前に買っておいたが、それでもキツイ。まさかこんなことで回復薬を消費する羽目になるとは思わなかった。
暑さだけでなく此処にも対策がいる。虫に刺されて賞金首討伐失敗とかシャレにならん。
しかしこの暑苦しさと虫刺されの状態でも最低限眠れたのは多分ディズの【瞑想】の技術のおかげだろう。最近目覚めがよりスッキリしてきた。
とりあえず観察再開、今日の昼まで粘った後帰還予定。
夜間、ロックに見張ってもらったが、連中は夜間は寝床でじっとしているらしい。なら夜襲も、と思ったが、性質が悪いことに怪鳥の周囲を毒爪鳥が数十匹、囲うようにしてるらしい。目撃した冒険者曰く、まるで防壁だったとか。
近づいたら周りの鳥に気づかれる。遠距離の矢とかじゃ羽で防がれる。
お前さんの大砲でワンチャンか?→ロック
可能性はある。か?でも、観察するとあの怪鳥、背中にたたまれた翼に古くなった剣や槍が突き立ってるのが見える。多分、他の冒険者たちの武器だ。あの翼に突き立てて、肉に届かず弾かれた痕跡だ。貫けるか?わからん
夜間、竜牙槍による遠距離奇襲
→でも、誰かもうやってる気がする。酒場で聞いてみる。
その後、しばらく観察して面白いものを見た。
夜明けからしばらく後、沼地の巡回しているとき、急に沼地の外周ルートから外れて怪鳥が飛び出した。此方に気づかれたのかと警戒したが、【大刃甲虫】がいたからだ。
そして戦いが始まった。【毒華怪鳥】が【大刃甲虫】を食おうとしているのだ。
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魔物は共通して人間を襲うが、魔物同士では同種でない限り、通常の野生生物と同様に食物連鎖の関係が存在している。魔物として誕生してから、時間が経過するとその傾向が強くなる by 魔物大事典
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現在、冒険者は誰もあの怪鳥には近づかないそうなので、あの怪鳥が闘う姿を見られるのは貴重だった。
甲虫は高い木の上に潜んでいたらしい。そこに向かって怪鳥は跳ぶ……というよりもジャンプして蹴りを入れた。木を大きくしならせ、虫を叩き落とした。そして地面に落下しひっくり返った甲虫に向かって、怪鳥は再びジャンプして、半ば踏みつぶすようにして一撃で仕留めた。
更にもう一匹落下していた。その個体は上手く着地出来たのか、急いで逃げようとしていた。が、怪鳥の足は長く、射程が広い。逃げ出すのは間に合わなかった。
甲虫の背中はまるで鎧のように硬い。が、鋭いつま先は甲虫の背中を容易に裂いてしまった。
しかし、一撃で殺すことは出来なかった。甲虫は背中を傷つけられて、それでも逃げだそうと羽を広げ、飛び立とうとした。が、その十秒後、突然甲虫は地面に落下した。そしてジタバタと蠢きながら、最後には動かなくなった。
毒だ。やはり毒をもっている。
周囲にいる毒爪鳥と同様だ。攻撃を受けてから毒が回るまで、約十秒ほど。恐ろしく早い。解毒剤をもっていっても間に合うか怪しい。
この日はここまで調査して、一度帰還する事にした。
あんなのを倒さないといけないのは憂鬱だ。シズクがアレを一撃で倒せるような凄い魔術覚えてくれてたら助かるのに。
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