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噂話と黒い王様


 噂を聞いたか?


 噂?


 期待の新星の噂さ


 銀級のゴウレンの話?


 ちげーよ!そいつ確か死んだだろうが!人形殺しの話だ!!


 ああ、不死殺しの?


 怪鳥殺しじゃなかった?


 つい最近、粘魔王殺しになったらしいぞ


 は?粘魔王なんて、銅級に殺せる代物じゃあねえだろ?


 殺ったらしいぞ。お陰で今ギルド上層部は大慌てだ。


 なんでお前上層部の事情に詳しいんだよ


 コイツ、ギルド正規職員に彼女いるんだって


 は?羨ましいなオイ。極秘情報筒抜けなの?


 んなことしたら仲良くギルド追放だっつの。おかげで情報の回りははええけどよ


 んで、その粘魔殺しがどうなるって


 粘魔殺しなら俺にも出来るわ!近々銀級に昇格するんじゃねえかってさ


 ……アイツ冒険者になったのいつだよ


 聞いた話じゃ1年も経ってねえ。だから大騒ぎなんだよ


 っかー!天才は羨ましいねえ!!


 しかも、だ。神官様をたらしこんでとんでもねえ使い魔を手に入れたってよ


 なんじゃそりゃ、よくわかんねえな。強いのか?


 強いっつーか、デカイ?なんでも都市並みにデカイらしい。


 いやいやんな馬鹿な……冗談だろ?冗談じゃねえの?


 んで、巨星級をその使い魔でなぎ倒して更に功績荒稼ぎしてる、とか。


 …………なんかもうそこまでくると現実味がねえな。


 嫉妬する気にもならんと言うかマジでなんでそんな事になってんだソイツ


 私、その粘魔王殺し見たことあるけど


 お、マジか。どんなやつだった。


 ふっつーの子供だったよ。大勝ちしたときはお酒奢ってくれるから良い奴だったけどね


 そんな普通のガキがなんだってそんな出世すんだよ。


 でもね。一緒にいた女はヤバかったね。銀髪の女の子なんだけど


 あ、俺もソレは知ってる。滅茶苦茶とんでもねえ美人の女がいるって。

 

 え、何?そのガキ、そんな美人もはべらせてんの?ますますゆるせねえ


 その女の子、あらゆる男を手玉にとる魔性の女だったんだって。しかも超天才魔術師


 はっはーん。そのガキは実はその女に操られてるってオチか


 でもなんでじゃあその女が前に出ないんだよ。


 そりゃ、目立つのがゴメンだからだろ?


 嫉妬や風当たりは男に任せて、美味しいところだけは女が戴くってか。悪いねえ


 俺は、名声を貰ってちやほやしてもらった方がいいけどなあ


 おめーみてえなバカは真っ先に操られそうだな。


 んだとてめえコラ!


 いってえなやんのかコラ!!


 あんたらどっちともバカだよ




              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 冒険者のたまり場、酒場では今日も今日とてケンカが始まる。

 酔っ払いのバカどもの大喧嘩。とはいえ、その二人とも、曲がりなりにも迷宮を幾度となく潜ってきた冒険者達である。力も強く、酒で抑制を失った力に巻き込まれれば怪我では済まず、止められる者は少ない。

 というか、そもそもわざわざ止める者がいない。趣味は悪いが、酔っ払いの醜態は冒険者達の一種の娯楽で、早くも賭けが始まるほどだ。店側も、冒険者達を相手に商売を続けている以上、そういったものには慣れっこだ。賭けで出た儲けの一部は破損した店の修繕費に回す流れになっているから、幾らか店が壊されても怒ることもしない。いつもこうなるから内装に高いモノも置いてはいない。

 軋む椅子と安酒に文句を垂れる奴はこの店にはやってこない。


 そんなわけで、いつも通りのケンカと馬鹿騒ぎは歯止めが無かった。どっちかが参るか、酒が回って両者グロッキーになるかのどちらかというのがいつもの流れだった――――が、今日に限っては少し、その流れが異なった。


「お楽しみの所失礼。ちょっと聞きたいことがあるんだが……」


 店外からの新たな客を告げる鐘の音と共に、体躯の大きな獣人、深い艶のある声音の男が、二人の前にやってきた。酒と怪我で頭に血が上った男二人は闖入者を胡乱な顔つきで、睨み、そのまま飛びかかろうとする。が、


「邪魔するぜ」


 と言うや、片手で一人ずつ、上から、まるで暴れる子供を押さえるように容易く、二人を地面に押し倒してしまった。子供扱いという他ないやられ方に、男達もすっかり酔いが覚めて、呆然と、真っ黒な髪と耳の獣人に目をやる。

 雄々しい顔つきだが、若くは見えない。しかし老いを感じさせない力強さがあった。そして気づいた。


「…………あんた、【キング】か?」

「へえ、お前みたいに若いのが、俺の名前を知ってるのか。久々なんだがな、外に出たのは」


 その瞬間、どよめきと歓声が酒場に湧き上がった。


「ブラック!!ブラック!!()()()()()!」

()()から這い出てきたのか!!オイオイマジかよ大ニュースだ!!」


 王と、そう呼ばれた男は少し呆れたようにしながらも手を上げる。ケンカの邪魔をされ叩き伏せられた二人の酔っぱらいもすっかりのめされたことを忘れたらしい。彼はその二人の両肩を掴むと、子供のように楽しげな声音で、こう言った。


「なあ、俺にもその【粘魔王殺し】ってガキの話、聞かせちゃくれねえか」


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