包囲殲滅戦
「それでは隊長殿、ここでどうぞゆっくりなすってください。後で迎えが来ますので」
ラークは朦朧とした意識の中、自分が拘束され、乱雑に投げ捨てられたのを感じた。薄暗い、洞窟、迷宮ではない、自然の洞穴だろうか。
自分を此処に運んだ男、ジョンと言っただろうか。彼はさっさと背を向けて去ろうとする。追いかけようとするも、短剣に毒でも仕込まれていたのか、身体が全く動かない。
代わりに、口だけは動いた。ジョンが去ってしまう前に、声が出た。
「貴様何故だ。何故、あんな者達に手を貸す」
「そりゃ勿論、金払いが良いからですよ。天陽騎士様。俺達みたいな名無しが動く理由なんてそれ以外にありゃしません」
ジョンは軽薄に笑う。言葉には明確な此方への侮蔑と、自身への自虐が込められていた。ラークはぼやける視界の中、声を振り絞る。必死だった。彼は全容をまるで把握していなかったが、非常に危険な計画が既に始動していると言うことだけは分かっていた。
「お前と同じ、名無しが、沢山死ぬんだぞ」
ラークがそう言うと、男は顔をひしゃげて、笑った。タチの悪い冗談を聞いたときのような引きつった笑いだった。
「だから何だってんです?同胞の危機に立ち上がれってか?」
ばっかじゃねえの?
そう言って、男はラークの頭を蹴りつけた。ラークの身体には未だ毒が残っているのか、痛みが鈍かった。だが、頭が揺れ、意識が更に朦朧としだした。
「同じ立場なら助け合えとは、やはり天陽騎士様はお優しいねえ。馬鹿馬鹿しい。そんな思想は、富める者がするもんだ」
「っが……」
「俺達にそんなもんはねえ。誰かに分け与えるものなんて一つたりともあるものかよ!なあ!聞いてんのかおい!!」
がんがんがんと、繰り返しラークの頭をジョンは蹴りつける。うめき声もしなくなってから、ジョンはおっとと肩を竦めた。
「死んだか?死んでねえよな?あぶねえな全く」
血塗れになったラークが息をしているのを確認しジョンは溜息をついた。殺しては困るのだ。まだまだこの男には利用価値があるのだ。
「………ど、うせ」
「あ?」
ラークが、震える声で、朦朧とした意識のまま更に口を開く。もう意識もないと思っていたジョンは少し驚き、その間にラークはさらに言葉を続けた。
「どうせ、うらぎられる、ぞ」
「――――」
その言葉が、果たしてどのような意図で吐き出されたものなのかは不明だ。次の瞬間にはラークはがくりと意識を失ってしまった。残されたジョンは、最後のラークの言葉に、暫く沈黙し、そしてそのままゆっくりと、腰の剣に手をかけた。
「黙れ」
振り下ろす。剣は真っ直ぐ振り抜かれ、ラークの首、その僅か手前の地面を叩っ切った。剣を振り下ろしたジョンは、剣をゆっくりと持ち上げると、そのまま僅かに震えた手でそれを再び鞘に納めた。
「俺は違う。僕は父さんや母さんとは違う。俺は大丈夫だ」
口の中で小さく素早く繰り返す言葉の意味するところを知る者はこの場には居なかった。
「わあ、顔色わるいね。騎士様ったら大丈夫?騎士様もどき様」
するとそんな彼の下に、先ほどの惨たらしい暴力とは無縁に思えるような、高い、子供の声が聞こえてきた。ジョンはそれに驚くこともせず、疎ましそうな表情で振り返る。
「喧しいぞ。邪教徒」
「あらひどい。ちゃあんとヨーグって呼んでよ」
ケラケラと洞穴の奥から、少女のようにも見える存在が姿を現した。ヨーグと名乗った彼女は、その年10に届くか届くまいかと言ったところで、年齢を考えればどう考えてもこの場にそぐわない子供だった。
しかしその風体は異様の一言に尽きる。
薄暗い洞窟にそぐわぬ鮮やかな緑の髪に、真っ白い肌。眼鏡をかけている。大きな白衣を羽織っているが、何故かその下は何も身につけてはいない。きめ細かな白い肌を惜しげも無く露出している。よく見ればその肌に、大きく深く、呪術の術式が刻まれていると気づいただろう。
だが、何よりも異質なのは目だ。髪と同じ鮮やかな緑色のその目は、別に魔眼の類いであるわけではないのだろう。ただの普通の目。ただし、そこに生気がなかった。
昏い。何も映さない。光を返さない。もし彼女が身じろぎしなければ、きっと人形か、あるいは死体と間違えていただろう。生き物として大事なものが明らかに欠損していた。
ジョンは彼女に視線すら向けない。目を向けること自体、汚らわしいとでも言うようだった。ただただ表情に嫌悪を露わにしていた。
彼女はそんなジョンの無礼とも言える態度を気にすらしなかった。ペタペタと素足でゴツゴツとした洞穴の地面を進むと、気を失って倒れたラークをのぞき込む。
「ああ、全く、ひどいことをするのねえ。このままでは死んでしまうじゃない。乱暴しないでほしいわあ」
「ああ、そいつは悪かったよ。乱暴して済まなかったなお前の人体実験の材料に」
言葉に込められた明確な侮蔑は、しかしヨーグと名乗る彼女には何一つ響いている様子は無かった。ちがうよお、と首を横に振る。
「あたしがしてるのは実験じゃなくて“救済”。貴方が連れてきた流浪の民たちも、この人も、ちゃあんと救ってあげるの」
救う、その言葉に対してジョンが抱いた感情は、やはり嫌悪であり、そしてそれ以上の恐怖だった。自分の想像力の範疇から外れたモノを前にした未知の恐怖だ。
だが、彼女はその反応を気にすることもない。音も無くジョンに近づき、そして笑みを浮かべる。
「貴方も、望むなら救ってあげるわよ」
「材料もって消えろ」
殺意に近い拒絶にヨーグは肩を竦め、そして何事か詠唱を唱えると、ラークの身体を不可視の魔術によって運んでいく。洞穴の湿った、闇の中へと沈んでいった。
「バケモノめ」
そう言ってジョンも反対の方へと歩き出した。その足も急くように早く、ただただその場から逃げ出したいというように去っていった。
「――――やっぱり救ってあげた方がよいのかしら?」
その背中を、闇の中から、無機質な、虫のような緑の瞳がジッと見つめていることに、彼が気づくことは無かった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
竜呑都市ウーガを囲う天陽騎士団の包囲陣は徐々に狭まっていた。
ゆっくりと、草の根をかき分けるようにして徐々に徐々に包囲を狭めていく。都市から出るモノを一つたりとも逃さないというように。
「殺せ、殺せ、一人たりとも残すな。彼らは呪われている。竜の因子を根絶やせ」
歌うように朗らかに、軽やかに、エイスーラ・シンラ・カーラーレイは虐殺を命じる。天陽騎士達はそれにしたがった。此処に居る天陽騎士は全員が彼の部下で、一切異論を挟むことの無い従順なる兵士達だった。
包囲の内にいる生きとし生ける全てを、丁寧に、機械的に殺していった。ヒトも魔物も問わず、ゆっくりと、ゆっくりと、その円陣を狭めていった。
ゆっくりと、ゆっくりと、全てを追い立てていく。
呪いの中心地へ。まとめて最後に捨てるために、塵を端から掃いていくように。
間もなく、包囲の隙間は無くなる。そうなれば、仮都市の住民達の逃げ場所は完全に無くなるだろう。だから、もしも彼らがこの包囲から逃れようとするとしたら――
「――【石槍】!」
包囲が完全に閉じるよりも前、今しかなかった。
事が起きたのはウーガの東、森林生い茂り、いくらか騎士達の包囲もバラけていたエリアだ。槍の形をとった土塊が突如として騎士達へと降り注ぐ。情け容赦なく叩き込まれた石槍は騎士達に直撃し、大量の粉塵が舞い上がった。
「今だ、包囲網を破るぞ!!」
そして混乱と土煙に紛れて、魔術を放った者達が動き出す。包囲の内側の者達が、包囲網を打ち破らんと、最後の抵抗を開始したのだ。
「エイスーラ様」
《そら来たぞ。哀れな鼠の最後の抵抗を叩き潰せ》
その動きを通信魔術によって確認したエイスーラは不敵に笑う。
彼にとって、追い詰められた鼠を叩き殺す戦いが始まった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
天陽騎士達に放たれた大量の【土槍】、その威力から推測される術士の技術は間違いなく一流だった。騎士達は知っている。竜呑都市ウーガには銀の冒険者ギルド【白の蟒蛇】がいると。
同じく白の蟒蛇だったジョンから、冒険者達の能力の詳細は聞いている。優れたる術者達、そして近接に優れたリーダー格のジャインとラビィン。その能力を事細かに確認していた。今回の襲撃が彼らによるものであるのは疑いないだろう。
そしてその上で結論は出た。何ら問題にはならないと。
「被害報告」
現場を指揮する隊隊長が機械的に確認する。無論、返答はわかりきっていた。
「全員無傷です」
「殲滅再開」
一人として、傷を負ったものはいなかった。
なんの変わりも無く動き出した騎士達を前に、土煙の向こう側の襲撃者達の動きがゆらいだのがわかった。動揺が走っている。土槍の発動と着弾は確かだった。にもかかわらず一切騎士達の動きに乱れが無いのだから、戸惑うのも当然だろう。
しかも騎士達は攻撃を回避したのではない。真正面から土槍に直撃し、無傷だったのだ。
「どうなってる!防御魔術か!?」
襲撃者の誰かが叫んでいる。だがそうではない。
騎士達は襲撃者達へと再び接近してくる。攻撃を仕掛けた側であるはずの襲撃者は戸惑い、後ずさる。そうせざるを得なかった。だが当然襲撃者側はそのまま怖気づいているばかりではいられないようだった。
その内、一人が不意に飛び出し、果敢にも天陽騎士に向かい手斧を振り下ろした。
だが、
「――――!!!」
襲撃者であるジャインは、自分の攻撃の結果に目を見開いた。
岩石を叩き割るような凄まじい一振りは、間違いなく目の前の騎士に叩き込まれた。兜と鎧の間の脆い部分を、それごと叩き割って首を引き千切る一撃だった。
手応えはあった。間違いなく。騎士の身体は大きく後方に弾き飛ばされた。その身体に大きなダメージが入るだけの威力、その筈だった。しかし騎士の身体は傷一つつかなかった。
「大地の精霊の加護か!」
「然り、我らの身体は偉大なるシンラと大地の精霊様に護られている。貴様らでは傷一つ付けること叶わぬ」
ジャインは更に追撃で、丸太のような足で蹴りを叩き込む。更に騎士の身体が後方へと飛ぶ。岩をも砕く威力。しかし、やはり、全くの無傷だ。
「そびえる山脈を前に地団駄して動かせないかと足掻くのは滑稽だ」
淡々とした冷笑を前に、ジャインは反応せずにバックステップで距離を取る。挑発に乗ることは無かった。そして此方の“加護”にいち早く勘づき距離を置く判断力。事前に聞いている通り、そんじょそこらのチンピラまがいとは違う、歴戦の冒険者ではあるらしい。
だが、そういう男であるとは知っている。聞いている。なにより、“その男のことを誰よりも知る者”が、此方の味方なのだから、恐れる事は何も無かった。
「――――っ!?」
ジャインが後ろにとんだ先、鋭い矢の一射が飛んできた。ジャインは咄嗟に身体をひねり、更に後ろへと飛ぶ。だが、そのまま続け様に、二射三射と高速で飛んでくる。しかも、それらが全て、恐ろしく的確に、ジャインの急所を狙い続ける。
巨体に似合わず、俊敏に動くジャインを捉え続けるのは尋常ではない。そしてその技量の高さ故に、ジャインは相手が誰であるのかすぐに察したらしかった。
「【必中の魔眼】……ジョンか!」
「よおー、大変そうじゃあないか、ジャイン。手伝ってやろうか?死ぬのをよ」
騎士達の包囲陣のその奥、大弓を構え笑うジョンの姿があった。声音は友人をからかうようで、しかしそれとは対照的にその右目はギラギラと妖しく輝き、獲物を捉え続けていた。そして短い動作で番え、構え、そして放たれる矢は恐ろしい精度でジャインを捉え続けていた。
視界に捉えたモノへの精度を向上させる【必中の魔眼】、そしてそれを活用した恐るべき速射攻撃こそが彼の得手だった。当然、距離を置けば彼の独擅場となる。
だが、接近するには絶対無敵とも思えるような騎士達の壁がある。敵は近寄ることもままならない。実にシンプルかつ、凶悪な布陣だった。
「ようジョン、騎士様に守られて戦うなんて随分と良いご身分になったみてえだな」
「なんならお前もやってみたらどうだ。守ってくれる騎士様がいるならな」
軽口の合間も攻撃の手は止まらない。速く、鋭く、そして的確だ。ジャインは大きく距離を取り、木々の陰に隠れた。
「随分臆病だなあ?オイ」
「そっちの手口を知ってて無謀な真似はしねえよ。毒使い」
手の内を知る。それは向こうにとっても同じであるらしい。ジャインの言葉に、ジョンは舌打ちした。彼の得手は向こうに指摘された通り、毒である。薬学に精通し、多様な毒を自在に操り、獲物の動きを止め、殺す。
強靭な魔物であれ容赦なくその動きを封じる毒、魔力によって鍛えられた冒険者であっても結果は同じになる。
「良いのか?こんな所でダラダラしてて、時間がねえんじゃないのか?」
「あーうるせえ」
「もうじき、ウーガがバケモノになっちまうぜ?」
「まじで五月蠅い、そういうとこがガキの頃からうぜえんだよおめー」
ジョンは焦ることはしない。無理に追い詰めることもしない。【竜呑都市ウーガ】の最後の変化、エイスーラの使い魔としての魔術術式が完了すれば、前代未聞の巨大使い魔が爆誕する。
そうすれば、自分たち以外の全てをなぎ払うだろう。あらゆる敵を完膚なきまでに粉砕する。時間は完全に此方の味方だった。
「コッチに来れねえならダメ押しだ」
ジョンは懐から魔法瓶を取り出し放る。ガラス瓶が破砕し、途端、薄紅色のガスが溢れた。爆発的に広がるその煙は森林を一気に侵食していく。
「毒ガス、本気かてめ――!?」
ジャインは驚愕の声を上げた。
元より毒物は極めて扱いが困難だ。保存も難しく、持ち運びも危険。敵はおろか味方にも害をなす。安直に決して使ってはならない諸刃の剣。まして毒ガスなど、かつて一行だったときも殆ど使った事がなかった禁じ手だ。
だが、禁じ手であったのは味方を巻き込む危険性があった場合に限った。
「大地に毒など効かぬ。含むだけだ」
「はあ?!」
毒の霧の中を騎士達が突っ込んでゆく。それを見たジャインは目を見開き、その後すぐさま鼻口を隠すと、後ろに駆けだした。距離を取る、ではない。逃げるためだ。仲間達もそうした。
「反則過ぎる…!」
あらゆる攻撃を受け付けず、毒すら受け付けない。正真正銘無敵の加護者を前に、襲撃者達は逃げる選択肢以外残されてはいなかった。それをあらゆる障害を無視する騎士達が追いかける。一方的な展開だった。
慌て逃げ出す元同僚を前に、ジョンは愉快そうに笑った。
「は、とんでもねえな。四大精霊の加護って奴は」
毒を扱うジョンは、自身の扱う毒物の危険性は理解している。扱うときは厳重な注意を払うのは当然だった。だが今はその気苦労とは無縁だ。安易に毒物を扱っても、なんらリスクを背負うこと無くメリットだけを享受する。
「今までの自分の苦労が馬鹿馬鹿しくなるぜ」
そうぼやいていると、追走せず残っていた騎士隊長が此方に来た。ジョンは膝を突いて頭を下げる。決して、下手に機嫌を損ねないように。
「毒はいつまで持続する」
「長時間滞留します。この一帯の森林地帯は窪地。奴らはもう近づけないでしょう」
こいつらは苦手だ。機械的に自分の主の言葉を遂行する兵士達。従者達の、無防備な一般人達の虐殺を命じられたとき、自分や自分の部下達すら少しの躊躇いがあったというのに、こいつらにはそれすらなかった。
何を考えているのか、あるいは何も考えて居ないのか。味方の内は都合が良いが――
「よくぞ働いた。王も満足しておられる――――だが」
剣が引き抜かれ、ジョンの首もとに当てられる。ジョンは微動だにしなかったが、薄らと冷や汗を額にかいた。
「違えるな。ウーガから生まれるのはバケモノではない。【聖獣】だ」
「心に留めておきます」
急ぎ答えると、満足したのか剣を離し、追撃していった部下達の後に続いた。ジョンは冷や汗を拭う。やはり恐ろしい。全くもって、あんな連中と敵対するハメになったジャイン達が哀れに思えた。
「だが、死ね。俺の安全のために死んでくれ」
心の奥底から吐き出された呪いを、かつての仲間達にジョンは吐き出すのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ジャインとジョン、【白の蟒蛇】同士の戦闘があったウーガの東の森林地帯。
同時刻、その正反対の西側のなだらかな坂が続く平原地帯。そこ突っ切るように外套を羽織った集団が駆けていた。ウーガの方角から逃げ出すように。
だが、途中でピタリと足を止める。眼前に、自分たちの道を塞ぐように、天陽騎士達が姿を現したからだ。
「――――」
無言で天陽騎士達が動く。一糸乱れず、そして油断なく、逃亡者達の命を一人残らず奪うために。戦闘を行く者を取り囲み、そして剣を振りかぶった。
だが、
「【魔断】」
次の瞬間、黒い剣閃が奔った。
ボロの外套、のように見えていたそれが淡く輝く。途端、騎士達の身体を覆っていた精霊の加護が、ふっと、薄れ、霧散した。
「【雷鳴】」
空気の爆ぜる音、見るだけで焼けるような激しい閃光が放たれ、騎士達の身体を貫く。騎士達は何も抵抗することが出来ず地面に倒れ伏した。
「………さて」
たった一人で全てをなぎ倒した少女、勇者は自らが打ち倒した騎士達を前に、しかし油断なく剣を構え続けたままだった。
「土塊か」
倒れた騎士達は、暫くするとその形が崩れた。ボロボロと崩壊する。美しかった騎士鎧も、全てが元から無かったかのように消滅したのだ。精巧なる人形でも再現できないだろう現象だった。
そして騎士達は消えていく中、一人だけが残された。
鎧も兜も着ていない。最高位を示す模様の刻まれた神官のローブを身に纏った赤髪。
都市の外でありながら無防備とすら思える姿。にもかかわらず、自信と傲慢さに溢れた顔は、大罪都市グラドルに住まう者なら誰しもが知っていた。
「東は陽動か。涙ぐましく、小賢しいな。【勇者】よ」
「たった一人で出てくるとは思わなかったよ。エイスーラ」
勇者は、災厄の中心人物を前に、困ったように笑みを浮かべた。
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