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冒険者(もどき)にはなれたけど



 14日目


 迷宮グリードは数ヶ月に一度の活性期に入る。


 迷宮が地中より現れ幾年が経過し、様々な迷宮がこの世界に出現した。中でも最大規模を誇る大罪迷宮グリードは魔物自体を生み出す迷宮。攻略を困難にさせ、同時に無限の富を生み出し続けた魔鉱だ。


 中でも活性期と呼ばれる時期は、特にこの迷宮の”生産”が顕著になる


 普段以上に多くの魔物を生みだし、更に深階層の魔物や、より強力な個体、いわゆる”亜種”と呼ばれる魔物も低階層に出没するようになる。通常の魔物も普段より活発で凶暴化する。

 迷宮大気の魔力が濃くなる影響か、一体当たりの魔石量も増加するのだが、それ以上に魔物が危険になるこの時期の迷宮収益は平均から比べ、下がる。


 そしてこの迷宮を生業とする冒険者たちの活動もこの活性期に合わせ変化する。


 この期間中を休暇としてため込んだ資金で遊ぶ者、普段と比べて探索範囲を浅い階層に潜る者、あるいは都市外の迷宮やギルドから承る都市民からの依頼を受ける者など様々だ。

 指輪持ちの冒険者は、富豪たちから直接依頼を受けることや都市からの依頼を受けることもままある。剣と魔法、魔物と迷宮の時代である今のこの世界、迷宮以外で冒険者の知恵や腕っぷしが必要とされる仕事はごまんとある。


 だから必ずしも、この時期の危険な迷宮に足を踏み入れる必要はない、のだが


 それでもなお、実力に見合わない迷宮に踏み込む者は少なからず、いる。


 そのリスクを承知で同業者の減った迷宮で魔石を荒稼ぎする者。違法行為でギルドからの信頼を損なった者や、金銭的借金を抱えている者。あるいは何らかの事情で元より表の仕事には手を出せないアウトロー達。

 特に指輪を持たない名無しの中にはリスクを承知で迷宮に潜る者が多い。彼らは都市滞在費を稼がねばこの都市には居られない。その為に危険な迷宮に潜り、そして魔物を狩る。

 結果として、この時期の大罪迷宮グリードの死亡率は高くなる。


「はっ!はっ!なんで!なんでだ!!」


 この冒険者が活性期の迷宮に足を踏み入れた理由も極めて単純だ。金が無かったからだ。そして借金があったからだ。都市民という、名無しよりは恵まれた地位にいた彼だったが、その趣味の賭事が災いした。何時もは最低限の(本当に最低限ではあるが)引き際というものをわきまえてはいたのだが、今回は少しばかり力を入れすぎ、借金を(いつもより多めに)背負ってしまった。

 それでも、いつもであれば必死に迷宮に潜り魔石を漁れば返済の目処も立つのだが、運悪く迷宮が活性化してしまったのだ。他に返すあても仕事も無かった男は、リスクを承知して(あるいは全く理解していなかったが故に)迷宮にもぐりこんだのだ。


 少しくらいなら死にはしないさ。


 いやむしろ、いつもの小鬼や大鼠どもより多く魔石を稼ぐチャンスかも。


 ここで儲けて、今度こそ勝ってやる!


 侮り、楽観視し、挙句目の前の迷宮からすら目をそらして別の事に意識がそぞろになってしまった男の顛末はこの迷宮に沈んだ多くの冒険者達と同じであった。


 最初は順調だった。だが、探索し慣れたはずの通路は気が付けば魔物であふれかえり、普段のルートを外れるうちに帰還ルートが分からなくなった。彷徨ううちに傷が増え、ろくに用意できなかったポーションはすぐに底をついた。そして普段よりふた回りも巨大な大蜥蜴の群れが現れた時点で、彼は完全に行き詰まった。


 死ぬ!死ぬ!死ぬ!死ぬ!


 大蜥蜴の速度は並だ。人が全力で走れば振り切れることは無くとも追いつかれることもない。が、否応なく警戒を維持させられる迷宮の中を彷徨い続けていた男の体力は既に限界だった。

 仮にも迷宮探索者。常人以上の体力をもっている筈なのに、息が切れる。腰には剣が備わっているが、振り返り、戦う力も精神力も既に彼にはなかった。


 助けて助けて助けて助けて!!


 大蜥蜴は際立った攻撃手段を持たない魔物だ。あえて指摘するなら岩石をも砕く強力なアゴだが、それ以外は特にない。棘や毒を持った種族もいるが大蜥蜴には存在しない。問題なのは、名前の通り、彼らがひときわに巨大であるという事。

 しっぽまで含めれば2,3メートルはある巨体と、その体から生まれる力でもって人間をなぎ倒し、肉を抉り喰らう。そういう魔物だ。


『SYURUUUUUUAAAAAAA!!』


 獲物を前に興奮した、奇怪な鳴き声が更に恐怖を煽る。否応無く突きつけられんとする逃れようの無い危機が足を空回りさせ、もつれさせる。


「がっ!?」


 そしてとうとう、自分の足にもつれ、彼は転んでしまった。この状況下で足を止めるということは、それは即ち死を意味する。振り返ると彼の目の前にあったのは、牙のように鋭く尖った、大蜥蜴の大きな口だった。


「ひぃぃいいいいいいい!?」


 頭がかみ砕かれる。腹底から、断末魔となるであろう悲鳴が上げる。遠のきかけた意識の端から声が聞こえたのはその直前だった。


「邪魔」


 目の前に現れたのは小さな影だった。

 その影は、まるで男と大蜥蜴を分断するがごとく割って入ると、そのまま、手に持った巨大な"大槍"を鋭く真っ直ぐに突き出す。今まさに獲物に飛び掛らんと口蓋を開けていた大蜥蜴は、真っ直ぐに突き出されたその大槍につき貫かれた。


『!!!!!??????』


 逃げ惑った男の代わりに死ぬ事となった大蜥蜴は、断末魔をあげる事すらかなわず、大槍に串刺されたまま身悶えると、そのままがくりと力尽きた。


「ヒ、ヒ、ヒィイイイイイイイイイイ!!?」


 魔物の死に、男は正気を取り戻す。いや、正気であったかどうかは不明だ。ただ生物としての本能がそうさせたのか、彼は黒い影にも魔物たちにも目をくれず一目散に、顔から体液を撒き散らしながら全力で逃げ出したのだった。


「お逃げになられましたねえ」

「ああ、一目散だったな。」


 その男の背中を、ウルとシズク、二人のパーティは関心するように見送った。





              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 もともと助けるつもりもなく、単に複数の魔物の動きがあったので狩りに来ただけだった。そのため、見返りを期待したわけでは無かったが、さすがになんの一言もなく逃げ出されると虚しさがあった。


「これだから冒険者はダメだ」

「あら、私たちも冒険者なのでは?」

「もどきだからセーフ」


 ウルはシズクに軽口をたたきながらも、目の前の大蜥蜴たちからは目を離さなかった。

 階級十二級、大蜥蜴たちは仲間が殺された事実に、先ほどの勢いを潜め、警戒するように僅かに距離を開けていた。だが、魔物特有の、人間に対する並々ならぬ敵意と、仲間を殺されたことで更に深まった殺意だけはありありと感じられた。


 数は4、先ほど一匹殺して残り3匹


「ウル様。背後から魔物の気配はありません。いつでもいけます」

「後、魔術何回使える?」

「2回です」

「なら、攻撃支援を一回お願いする。大蜥蜴は氷だったな」


 ウルはそういって、小柄な体躯には不相応に見える大槍を握りしめ、歩幅を広げ、大きく息を吸い、腹下に力を込め、吐き出した。同時にシズクは”魔導士の杖”を両手で握りしめ、構え、そして詠唱を開始する。


「行くぞ」

「【氷よ唄え、穿て】」


 ウルは構え、そしてまっすぐに突撃した。同時に、仲間を殺され、その血で酔い狂っていた大蜥蜴も唸り声をあげながら、ウルへと突撃した。


「【氷刺】」


 同時に、シズクがウルの動きに合わせ、魔術を重ねる。ウルの突撃よりも早く、冷気は渦巻き、まとまり、そして矢の形をなす。魔物が迫る。牙をむく。悪意に淀み鈍く輝いた瞳がこちらをにらむ。


 ウルは一瞬恐怖を覚えるが、それを噛みちぎる様にして、叫ぶ


「貫け!!」


 シズクの魔術が氷の矢を成すと同時に、ウルは強く地面を踏み込んだ。

 速度はさらに増し、その勢いのまま、ウルは鋭い矛先でもって、大蜥蜴を顔面から穿ち貫いた。それはシズクの氷の矢が隣の大蜥蜴を貫くのと同時だった。


『A……』

「3!」


 そして返すようにして、その横の4匹目に槍を叩き込む、つもりだった。が、


『GIGIGI!!!!』


 それよりも早く、大蜥蜴はウルにとびかかる。 

 大蜥蜴はウルの右腕にかみつき、その強靭な顎で彼の籠手ごとかみ砕こうとする。ウルの籠手がギリギリと音を立て砕けていく。


「……んのっ!!」

『GIIII!?』


 籠手が砕け散り、腕をへし折られるその前に、ウルは左腕の小型盾を振りかぶり、横薙ぎに叩きつけた。メキリと響いた嫌な音は盾の軋む音か、はたまた大蜥蜴の頭蓋が砕けた音か。それを確認する間もなく、


「くたばれ」


 ウルは大蜥蜴の顔面に大槍を叩き込み、大蜥蜴の口から上下に引き裂いた。


「お疲れ様でございます」

「……よし」


 ウルとシズクは、魔物の絶命を確認した時点で、息を吐き出した。特に前線で戦っていたウルは大きく肩をなでおろす。魔物の退治はいつになっても疲れる。この短い期間に随分と魔物を狩り続けたが、それでも命のやり取りは体力を奪う。

 グレン曰く、その緊張感がなくなった奴から死ぬという事なので、こうして疲れること自体は悪いことではないのだが。


 大蜥蜴に噛み砕かれそうになった籠手を外す。かみつかれてから即座に大蜥蜴を叩き落としたにも関わらず、ウルの腕は真っ赤に腫れているのだから寒気がする。


「ごめんなさいですね。魔術で2体、倒せていればよかったのですが」

「そんな謙遜されても困る。助けられたのは俺だ」


 ウルは落ち込むシズクに首を振る、彼女はのんびりに見えて、いつも自らに厳しかった。


「回復の魔術を使いますか?」

「いや、温存しよう。次の魔物が来る。回復薬で十分だ」


 ウルは携帯袋から回復薬(ポーション)を取り出し口に入れる。痛みが僅かに引く。薄めた安物ではこの程度だが、飲まないよりはましだ。


「そっちのケガは?」

「なんともありません。ウル様のおかげですね」


 シズクは小さく微笑み頷いて見せる。既にこのやりとりも慣れたものだ。動作を確認し終えたウルは、周りを見渡す。訓練所に入ってから今日まで迷宮には潜りつづけ、魔物の出現する気配がわかり始めてきた。今のところ魔物が出現する様子はない。が、


「……迷宮の活性化、激しいな」

「あまり、居心地はよくはありません」


 ここ数日から始まった、魔物の活性化。定期的に発生するというそれは、いまだ最上層で戦うウル達にもはっきりとその脅威が伝わっていた。何しろ魔物の数が明らかに多くなっている。そして出現する魔物の種類も変化している。

 この階層に出現する魔物は小鬼や血狼程度だったはずだが、先のような大蜥蜴、吸血蝙蝠など、もっと下層でしか出ないような魔物が出現するようになった。何より――


「出来れば、もう少し魔物を狩りたいんだが……」


 直後、ズン、と腹底から響くような地響きが迷宮を揺らした。これは、先ほどの変動を予告する揺れとは違う。もっと物理的な衝撃だ。そしてそれがゆっくりと、ウルが先ほど通ってきた通路の方から響いていた。

 振り返った彼の目に映ったのは、迷宮の通路一杯に広がる"煌めき"だった。迷宮の通路全体が持つ淡い光りを反射するようにして、通路一杯に煌めく何かは、そのままゆっくりとウル達へと近づいていく。

 よくよくみれば、その煌めきの正体は巨大な1体の魔物だった。


「……出た」


 土人形(ゴーレム)、と呼ばれる魔物がいる。

人形とはつまるところ人の手で生み出された魔物の一種だ。一定の命令を封じた魔導核をその身に封じた、人の意思で動く人形と定義されている。

 しかしこの大罪迷宮は、本来人の手で作り出さねばならない魔物すらも生み出す。しかも、ウル達の目の前に現れたそれは、通常の土人形とは一味違った。多量の鉱物によって作り出された強靭な土人形、宝石人形(クリスタルゴーレム)


 本来宝石人形(クリスタルゴーレム)はこんな場所に出現するような魔物ではない。


 この活性期に入ってから、中層から上層へとなぜか上ってきたのだ。魔物の生態が変わる活性期ゆえか、別の理由があるのか。兎も角、上層で戦う未熟な冒険者たちにとっては倒すことは難しい、もはや歩く災害のような存在だ。


 動きが鈍いのが唯一の救いであり、故にウル達の選択は一つだ。


「逃げよう帰ろう」

「そういたしましょう」


 ウル達は、先に逃げ出した男に習うようにして、宝石人形から背を向け全力で逃げ出したのだった。



              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 大罪都市グリード西部地区、とある酒場


 ”欲深き者の隠れ家”と、名のついたこの酒場は行軍通りから少し離れた場所に存在する酒場の一つだ。迷宮からは少し場所は離れているものの、出される食事や酒の質は良く、店の雰囲気も明るい。

 店主が元々は冒険者を生業としていた事もあって、冒険者達への理解も深く、自身の経験から相談を受けてくれることも多い。

 結果、迷宮グリードからは距離あれど、この店は冒険者達で賑わいを見せていた。飯を食らい、酒を飲み、冒険者同士、迷宮の情報を交換し、友好を深める。


 そして今日もまた、来客を告げるベルが鳴った。


「おう、いらっしゃい」


 冒険者は風変わりな容貌の物も多い。土人(ドワーフ)森人(エルフ)竜人(リザード)といった、亜人も珍しくない。が、今回はそれとは別の珍しい客だった。


 まず一人目、小柄の只人の少年。灰色髪に同じ色の瞳。その年齢も風貌も、珍しいがいないわけではない。ただ、少年の背負った武器だけは少し変わっていた。彼の背丈を優に超える槍だ。彼自身が小柄なだけに背中に突き出たその武器だけは目立っていた。


 そしてもう一人は少女で、目を引くのは明らかにこちらだ。


 男と同じく只人。白銀の緩やかな髪の、背丈は低いが体つきはとても良い、綺麗な女だった。魔術師の装い、安物の、染めもなく模様も縫われぬ実に地味なローブを羽織るだけの姿だが、それでも尚彼女のその風貌は人目を引いた。

 比較的治安が保たれているとはいえ粗暴な冒険者ばかりのこの酒場に置いてはとんでもなく場違いだった。何時もバカみたいに酒を飲んでバカみたいな笑い声を上げる酒飲み達が、絶句しながら彼女を凝視していた。


 そんなアンバランスな2人組は、他の客たちから視線を集めながらカウンターに腰を下ろした。迷宮に潜った冒険者特有の疲労感を体からにじませながら、店主に顔を向け、まず少女が口を開いた。


「お腹が大変すいているのでご飯を頂きたく思います」

「此処は酒場だぞお嬢ちゃん」

「うまい飯もやってると、聞いた。ここらの店は回ったがここが一番いいと」


 少年が次に口を開く。事実ではある。食事目当てで来る下戸もいるのが店主のひそかな自慢だ。


「金あるのか?」


 無言で銅貨を数枚机に置く。ならば文句はない。大人だろうが子供だろうが老人だろうが、森人だろうが鉱人だろうが小人だろうが獣人だろうが、等しく扱うのがモットーだ。


「何がいい」

「腹が膨れるの」

「お腹いっぱいにたべたいでありますねえ」

「食えないものは」

「ない」

「おなじく、です」


 感心な事だ。と、店主は笑い。手早く食事の準備を始める。近くの衛星都市から運ばれる新鮮な肉に野菜。値段はそれなりだが、店主はケチることはしない。

 間もなく裏で用意は済む。注文の通り、飢えに飢えた若い彼らの胃が膨れるように、腸詰の山盛りに甘ネギとミルクをたっぷり煮込んだスープ、ついでに麦パンを積んでやると、二人は一斉に、むさぼるようにして食べ始めた。


「喉詰まらすなよ」


 貪り食う二人は無言であった。ここまで凄い勢いで食いつかれるのは悪い気はしなかった。最後にミルクをたっぷりといれた茶を淹れてやると一息で飲み干して大きく息をついた。


「美味しかった」

「おいしゅうございました」


 少年は満足げに、そして少女はとろけるような笑顔で感謝を告げる。

 店主は笑った。山盛りの料理が全部綺麗にカラになるのは見ていて気分が良いものだ。それはほかの客たちも同様であったらしく、気が付けばワイワイと酔っ払いたちがカウンターに集まっていた。


「良い食いっぷりだなあ。迷宮はよっぽど疲れたのか!?」

「肉も食うか!そんで酒も飲むか?!」

「おいこらガキに絡むな酔っ払いども」


 店主が散らそうとするが、銀髪の少女は根がまじめなのか、その酔っ払いたちにも律儀に答えていた。


「本日は大蜥蜴を数匹撃退してまいりました」

「おう!やんじゃねえか!」

「アイツ等最近ドンドン湧いてくるしなあ。しかも大体2匹セットだ」

「知ってるか。大抵はオスメスでコンビ組んでるらしいぞ。アレ」

「大蜥蜴ですら女がいんのに俺らと来たら……」


 無駄話に花が咲く。アホらしいと思うが、まあ、雰囲気は悪くないのでよしとする。粗野で粗暴な冒険者、それでも外道で無いのが彼らの良い所だ。


「っつーかお前ら、顔そんな見ねえけど、冒険者になったばかりか?どれくらいよ?」

「2週間だ」

「ド新人じゃねーか!!よくこんなヘンピな店知ってたな」

「おうなんつったてめえオラ」


 店主がキレそうになった。が、それを無視して少年は質問に対して口を開いた。


「冒険者ギルドのグレンに教えてもらったんだ」


 次の瞬間、その場にいる者の多くの顔が一様にひきつった。

 当然である。彼らの多くはこのグリード出身の冒険者である。この世界における最大規模の迷宮の存在するこの街は、それ故に冒険者たちの食い扶持を無尽蔵に思えるほどに生み出してくれる。結果、流れるより此処に定住し迷宮に潜りつづける冒険者は少なくはない。

 詰まるところ、この場にいる多くの冒険者が”あの男”の世話になっている。


「辛い思いをしてきたんだな……!!」

「今もしているが」

「今日は飲もう!兄さんのおごりだ!!」

「うっとうしい絡みをやめろアホども!


 店主は今度こそ酔っ払いどもを散らす。ありがとう、と店主に頭を下げる少年は、確かにまだまだあどけなさの残る子供だ。この年で冒険者になること自体は別に珍しくもない。冒険者を志す者は、むしろ多いほどだ。


 だが、グレンの訓練所に2週間居座る、となると一気に珍しくなる。


「なんだ坊主に嬢ちゃん、訳アリか?」

「いろいろと、急ぎ強くなる必要がある。お代わり出来るのだろうか」

「私も、もう少しいただきたいでありますね」

「おうおう、食え食え。グレンにいびられても死なんようにな!」


 要望通り、カラになった皿を回収しさらに盛り付けてやる。最初の勢いから衰えることなくガツガツと二人は食べ尽くす。どんな事情かは知らないが、肉を喰らう元気があるなら、今日明日に死ぬことはないだろう。


「御馳走さまでした」

「御馳走さまでございます」

「お粗末さまだ。今日はこれでグレンのところに戻るのか?」


 懐かしきあの無精面を店主は思い出す。まあ、加減はしないだろうし、教え方は破滅的だが、しかしハンパな真似だけはしないであろうあの男なら、この子供らもなんとかしてくれるだろう、と、店主は思った。


「いや、ちょっと借金取りに売られて解体されそうになってる妹の顔を見に行く」


 やっぱ少し心配した方がいいかもしれない、と店主は思った。




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