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毒花怪鳥戦②



『ぬおおおおお!?』


 莫大な重量が落下した衝撃にたいして、【ロックンロール号】は耐えきった。あらゆる方向からの攻撃を想定し、対策を取っていたおかげか、即破壊に至る事は無かった。

 だが、怪鳥は未だ戦車の上にいる。この状態でいつまで持つのか、安全の保証は全くなかった。


「ロック!!!」

『わかっとるわい!!』


 途端、戦車の車輪が回る。湿気た土を蹴りつけ、一気に急加速を開始する。


『MOKEE!?』


 元より戦車は上に乗るようには出来ていない。自慢の毒爪をひっかける場所も見当たらず、動き出した戦車に怪鳥は振り落とされる。


「なんだってあのバカ鳥はコッチ突っ込んできたんだ!!」

「危険を察知し、排除しに来たのでしょう」


 ウルの悲鳴に、シズクは冷静に答える。

 得体の知れないナニカが近づいてきたとき、取るべき選択は逃げるか、あるいは排除するかだ。階級最下層の魔物達は逃げ、そして怪鳥は排除を選択した。言ってしまえばそれだけの話ではある。


「試し打ちの時、途中で怪鳥がとって返したのは、コレか!!」


 初めてリーネの魔術を試験的に試そうとしたとき、術式完成まで引き寄せようとしていたウルたちの相手を途中で急にやめて、沼にとって返した時、最初は仲間の襲撃を感知したのだと思ったが、そうではなかった。リーネの術式そのものにおびき寄せられたのだ。

 今更気づいたところでどうにもならないが。


『どうすんじゃい!一度迷宮から出るか!!』

「向こうがターゲットに定めてる!振り切るのは無理だ!!」


 ダメージを与えて追い返す、という手段もないではないが、それはかなりのリスクを伴う。そもそも怪鳥が撤退を選択するほどのダメージを容易く与えられるなら苦労は無い。まして現状ウルの行動は大きく制限されている。難易度が高い。と、なると


「作戦続行だ!向こうがコッチを追いかけてくれるんなら都合が良い!術式完成まで――」

「完成まで?」

「逃げるっ!!!」


 迷宮内部での鬼ごっこが始まった。



              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 なにか えたいのしれないものが うまれようとしている


 毒花怪鳥はその全身が震えるような“直感”に突き動かされていた。

 賞金首として冒険者達から忌み嫌われ、恐れられていたその怪鳥は、恐怖に駆られ、“ソレ”を追いかけ回していた。

 “ソレ”は魑魅魍魎が跋扈する迷宮においても更に奇妙なモノだった。回転する“丸い足”。まるで卵のような金属の身体。その身体を覆う“生物の骨”。長らくこの迷宮の上層を我が物顔で闊歩していた怪鳥も、初めて見る物体。


 その謎の生物から、“おぞましいものがうまれる”。


 大罪迷宮ラストの特性。強化された生物としての本能がそう告げていた。 

 突き動かされるように、怪鳥は“ソレ”に対して即座に攻撃を仕掛けた。自分の自慢の爪を弾かれようと、そのまま相手が逃げ出そうとお構いなしに、怪鳥は全力で追いかける。


 一刻も早く滅ぼさねばならない。そうしなければ、滅ぶのは自分だ。


『MOKEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!』


 必死の鳴き声と共に、怪鳥は跳躍し、飛びかかった。




              ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




『飛びかかってくるぞお!!』

「回避ぃ!!」 

 

 直後、ウル達の側面から衝撃と地響きのような音が響く。

 怪鳥の今の攻撃は単純だ。跳躍、そして落下。その巨大な身体を驚くほどに高く跳びあがらせて、その身体の全てを使った加重攻撃。一度は耐えうるその攻撃も幾度となく繰り返されて耐える保証はない。

 ロックの操縦技術のみを頼るのはあまりに危険。つまり反撃だ。


「ロック!!」

『待てよ、まだじゃ!』


 ウルはシズクに合図をし、リーネの邪魔をしないよう、姿勢を動かさずに目の前の弩に手をかけた。既に引き絞られていた弦に“球”をセットする。狭いのぞき口から見える怪鳥の動きはあまりに激しく、そして素早い。とても目で追えるものではなかった。

 故に、ロックに合図を依頼する。


『今じゃ!!』

「っ!!」


 放つ。引き絞られた弦から放たれた球、【魔封球】は凄まじい速度で放たれ、勢いのまま、戦車を追う怪鳥に直撃し――


『MOKE!!!』


 しなかった。それは偶然か、あるいは気配を察知し回避したのか、怪鳥は球が着弾する寸前で再び跳躍した。魔封球は怪鳥の下方を過ぎ、地面に直撃する。封じられた魔術の炎が地面を空しく焼いた。

 ウルは息を飲む。が、それも想定していた。


「【【【水よ唄え、穿て】】】」


 狭い戦車の内部でシズクの唄が三重に反響する。戦車の外で氷の魔術が同時に三つ形成される。反響を利用した多重の魔術の氷柱がその刃を飛び上がった怪鳥に向き、そして間もなく放たれた。相手は空中、行動を制御する術は無い。


『MOKEEE!?』


 宙を跳んだ怪鳥の悲鳴のような声が戦車の壁越しにくぐもって聞こえた。


「当たったか!」


 ウルが問うと、ロックの、至極残念そうな声での返答が来た。


『外れじゃ。あの鳥、空中回避しおったぞ』

「……どうやって?」

『翼広げて羽ばたいて暴風起こして反動で』

「飾りじゃねえのかよあの翼!?」


 冷静に考えれば飾りの訳がなかった。地面を駆け回り、跳躍を繰り返す怪鳥が翼を有効に活用する図が思い浮かばなかった。どうやら予想より遙かに、あの怪鳥の機動性は高いらしい。


「……まあ、いい」


 ウルは大きく息を吐きだし、心を落ち着かせる。問題ない。これはあくまで牽制であり、時間稼ぎなのだ。この攻撃は牽制なのだから。近づきさえされなければ良い。


「シズク、この周囲のルートを足跡で調べろ。ロック、怪鳥は?」

『反撃に少し警戒はしとるが、闘志が萎えとるようにはみえん』


 よし、と指示をだし、再び戦車は逃げ、怪鳥は追走を再び始める。


 鬼ごっこが再開した。

 この時、ウルは現在の状況、戦況が自分の手の平に収まっているのを感じていた。急襲は予定外ではあったが、想定内ではあった。“この程度のトラブルは起こりうる”という覚悟は腹の中に据えていた。


 が、そこは相手も賞金首である。

 全てが想定内に収まるような容易な相手にあらずと思い知るのは間もなくの事だった。


『……KE』


 逃げ去るウル達の背後で、()()()()()()()()()()()――

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