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C県海岸の闘い 2

何とか更新できました‥

真秀は一瞬迷ったが、血封字を書くことにした。闘筆の軸先に親指を押し付け、つぷりと針に指を刺す。膨らんできた血のしずくを闘筆に吸わせ封字を書く。

塊置総躯(かいちそうく)

ふわっと浮き上がった血封字を血矢(けっし)へと形成し、弓につがえる。少し離れたところで蔓をうねうねと動かしている異生物にしっかりと狙いをつける。

ひゅっと放たれた血矢(けっし)は異生物のほぼ中心辺りに命中した。不快感を覚えたのか、<ヌアアアア>という耳障りな音を立てて身体をざわめかせている。

真秀はその場に立膝をついて座り込み、集中して祈念し始めた。動く異生物の身体に血矢を打ち込み、封字陣を布陣するのは初めてだ。異生物が動くたびに、祈念がバラバラになりそうな感覚がして精神が引っ張られる。


(集中、する‥!)

真秀は迷ったあげく、目をつぶって封字陣に祈念をし続けた。

真秀の血矢を受けて、少しは異生物の動きが鈍くなったように見える。読真はとりあえず一度斬りつけてみることにした。

削体玉緒(さくたいぎょくちょ)

字柄の上にある小さな刃に指を滑らせ、血を出すと闘筆に吸わせる。体力は以前よりもついているはずだ。血闘字も前よりは回数が使えるようになっているだろう。

祈念すれば字柄の上の赤い刀身が形成され、字柄血刀(じつかけっとう)となる。真秀、シダ、レンとの距離を見極めながら異生物に走り寄った。今度は跳躍しながら上から斬り下げるようにして攻撃をする。

読真の字柄血刀(じつかけっとう)がじゃく!と異生物の身体を削った。削られた異生物はしゅるっと蔓を上に振り上げ、そのまま鋭く下に向かって振り下ろした。


すると蔓先から何かがびゅっと読真めがけて降ってきた。すんでのところで横に飛びしさって躱したが、ほんの少し左腕にかかってしまった。

そこからまるで熱湯をぶっかけられたような熱さを痛みが襲ってきた。じゅうう!という音とともにつなぎ型のプロテクターが溶ける。左腕の肘から先はすっかり生地が溶け落ちてしまった。露わになった左腕は青黒い色をしているが、読真自身は暑さと痛みが強烈に襲ってきているのを感じ、思わず膝をついた。

「読真下がれ!」

シダが叫び、レンが読真の前に駆け寄ってきた。異生物から読真をかばうようにして腰のベルトからグルーネットの箱をむしり取り、異生物に向かって投げつける。箱からはクモの巣のような網が広がって異生物をからめとった。

レンはそれを確認してから音波銃(ソニックガン)を異生物に向けて撃った。グルーネットと音波銃(ソニックガン)のおかげで、今は異生物の動きは鈍い。

読真はもう一度字柄血刀(じつかけっとう)を握って構えようとした。血刀はまだ消えていないから、血闘字も消えていない筈だ。祈念して威力を出さねばならない。しかし左腕の熱さと痛みが集中力を阻害する。


そうしているうちにも少しずつ異生物から離れようとして動いていた。レンはずっと読真の前に立って異生物からかばってくれている。だがグルーネットと音波銃(ソニックガン)の効果もそこまで長続きはしないのだ。このままではレンの身に危険が及ぶ。

読真はレンに下がってもらおうと声をかけた。

「レン、さん、下がってくだ、さい」

「いいから一緒に下がるぞ、あの樹のところまで行く。大丈夫か」

レンは読真の方は振り返らず音波銃(ソニックガン)を連射し続けながらそう言った。異生物の動きが少しずつ回復してきている。またあの蔓が上に伸び上がり、先ほどと同じような体勢を取り始めた。またあの溶解液が来る!読真はそう思ってレンを押しのけ前に出ようとした。

だがレンは足を踏ん張りどかなかった。それどころか自分の身体で読真を押しやり、完全に自分の身体で読真をかばった。振り下ろされた蔓先から溶解液が飛び出し、レンの身体に降りかかった。

レンはとっさに音波銃(ソニックガン)を前に出し、それで自分の顔周りをかばった。

バララッと一面に溶解液が降り注ぐ。レンの身体ほぼ全面にそれはかかり、じゅうっと肉の焦げるような匂いが辺りに充満した。

「うぐ‥!」

かろうじて腕と音波銃(ソニックガン)でかばわれていた顔周りはかかっていないようだが、つなぎタイプのプロテクターにはあちこち穴が開き、そこからは焼け爛れたレンの肌が青黒く顔を出している。

レンは呻き声をあげながら地に転がった。意識も朦朧としているようだ。


「レン!」

シダが駆け寄ってくる。読真も必死にレンの身体を起こそうとするが左腕に力が入らない。その上、字柄血刀(じつかけっとう)を顕現させているから右手から字柄は離せない。

シダがこちらに駆け寄りざま自分のグルーネットを異生物に向かって投げつけた。異生物がからめとられて動きがやや鈍くなる。

その隙にシダがレンに駆け寄り、ぐいと右肩をレンの身体の下に押し込んで抱えあげた。そのまま移動する。

読真もその後を追って異生物から距離を取った。が、その読真の足に異生物の蔓が一本絡みついた。

「うあっ!」

不意を突かれ読真の身体は地面に転がる。走っていたシダの足が止まりこちらを向いた。読真は叫んだ。

「行ってください!」

そう言って字柄血刀(じつかけっとう)を振り下ろし、蔓を斬る。一本の蔓は簡単に斬れてしゅわっと消えたが、また新たな蔓が読真の足に絡みついてきた。

そして絡んだところからじゅうじゅうと溶解液を出して読真の足を焼け爛れさせてくる。全身を駆け回る強烈な痛みに耐えながら、読真はとにかく字柄血刀(じつかけっとう)を振るい、蔓を斬り裂こうとするが蔓は斬られても斬られてもすぐに次がやってくる。

やや意識が朦朧とし始めた頃に、真秀の声が響いた。


「封字昇結!」

何とか首を回して異生物の本体をみれば、真秀の放った血矢(けっし)から広がった封字陣が完成している。真秀がいる方にも何とか顔を向けると、必死の形相をした真秀の顔が見えた。目が合ったのを確認して唱える。

「「闘封」」

ふわ、と封字陣がその光を増した。そして真秀が叫んだ。

「封殺!!」

封字陣が激しい光を放ち、ふおおおん!という音が響き渡る。異生物はその身体をよじりながら少しずつ消滅していく。

そこに、草むらからリードがついたままの犬がひょこりと顔を出した。

異生物の蔓が犬に向かって伸びる。全員がはっとそれを見たが、犬はあっという間に異生物の蔓にのみこまれ、ふおん!と封字陣とともに消えた。

ように、見えた。


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