異生物発生現場 C県
短めです、すみません
「‥‥一門の者、って今どんくらいいるんだ?」
真秀の質問によみねはわずかに眉を寄せた。
「ん~‥ざっとで百人くらいかしら。でも寿命の長いものはその中でも六割いるかいないかね。子どもが二人以上はできないのよ、一門には。これは千年くらい前からずっと続いてる」
「せんねん‥‥」
人が背負うにはあまりにも長いその年月を聞くと、驚きよりも畏怖の念が勝る。そんなに長い間、秘密を保持して他の人間とは違う生を生き抜いてきた人々がいるのか、と。
そう思っている真秀の様子を感じ取ったのか、よみねは苦笑いした。
「まあ、ちょっと気色悪いわよね。あたしも自分の事じゃなかったら信じられない話だと思うわ。うちの一門の発生については色々あるみたいだけど、詳しいのは直系だけだから」
「何か‥お前大変だな‥」
しみじみとそう言えば、上からバン、と頭をはたかれた。
「異生物に寄生されてるやつが何言ってんのよ。あんたの方が深刻なんだからね?隊長に異変が起きたらすぐに言うのよ。いつ死んでもおかしくないんだから」そう言ってよみねは立ち去った。口は悪いが、あれは真秀のことを心配してくれているのだろう。
俺の周りは素直じゃないやつばっかだな。
少し離れたところで第六隊の隊員と話をしている読真を見ながら、真秀はそう思った。
学内にいる時、腕時計型の携帯が警戒音を鳴らした。この音がしたらすぐに基地へ向かわねばならない。それぞれタクシーを拾って指定された第四基地へ向かった。
そこには既に第六隊がスタンバイしていた。
シダは二人が着くなり言った。
「二分で完装しろ。現場だ。C県の海側まで飛ぶ」
「はい」
すぐさまロッカーにあるプロテクターを身につける。読真たちは闘筆や字柄などを使うので、音波銃や音叉刀などは携帯しない。
きっちり二分で準備を終えシダの元に戻り、隊員とともに建物の屋上に向かった。
「今日はヘリで移動する。舌を噛むなよ」
そう言って六人はヘリコプターに乗り込み、一路C県を目指して飛んだ。
40分ほどで目的地にヘリコプターが着陸した。発生現場からはまだ距離があるようだ。しかし、目視で異生物が見えるほどの距離である。
第六隊隊員のレンが思わず呟いた。
「でけえ‥」
開けた臨時のヘリポートからほど近い海岸の遥か先に、黒い雲のようなものが蠢いているのがわかる。この距離で身体が確認できるということは相当に大きい異生物であることが容易に想像できる。
シダもその巨大異生物を目視すると短く舌打ちをした。ヘリポートに待ち構えていた地元の警察署員に現場の状況を確認する。
「一般人の避難は完了してるか?」
「目視できる限りはいないと思われます、管理されている公園などではないので当時どのくらい住民がいたのか、実数が把握出来ていません」
手早く色々な装備品をヘリコプターから降ろしながらシダは眉を寄せ、苦い顔をした。そしてレン、キョウ、ソネの三人に指示をする。
「キョウ、お前はグルーネットを持って異生物の周りに散らばしておけ。ソネ、異生物を中心として半径50mの住民確認。レン、大型の音波銃を持って俺の後ろにつけ」
すぐにキョウとソネがその場から必要なものを持って動いた。レンは2m以上砲身がありそうな大型の音波銃をベルトで身体に固定して準備をしている。シダは大型のバックパックを背負って手には標準装備の音波銃を持った。
そして読真、真秀、よみねの三人に向かって言った。
「読真、真秀、お前たちはまず少し離れたところから異生物を観察しろ。どうやって封殺に持ち込むか決まったら通信で知らせるんだ。それに対しての方針が決まったら動いていい。すぐに闘字封字を書くなよ。よみね、お前はギリギリおれたちに声が届くくらいのところで待機。真秀に一番近い地点にいろ」
「はい」
「わかりました」
「了解」
三人も返事をして、異生物めがけて移動を始めた。遠巻きに地元の警察も包囲をしてくれているようだ。一般住民が逃げ遅れている可能性がゼロではないことが痛い。もし誰かが異生物の近くにいるとしたらリスクが増える。
シダとレンは二手に分かれ、異生物を挟み込むように移動を開始した。まだ近寄っていない段階でキョウから通信が入った。
『グルーネット配置完了、ソネとともに住民確認に入ります』
「了解」
読真たちはシダとレンより少し遅れて近づき始めた。あと100m地点でよみねを待機させ、読真と真秀で並んで近づいていく。
遠目に見える異生物は、少なくとも体高が5mほどもありそうな巨大なものだった。顔に当たる部分がなく、蔓が絡まった大きな木のような形をしている。その身体部分は黒と茶色と灰色が混じり合ってその色が絶え間なく動いていて、不気味さを表している。胴部分に絡んでいる蔓を四方八方に伸ばして何かしているようだ。
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