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対異生物特務庁(イトク)の装備

真幸と話をしてから三日後、よみねから連絡が来た。対異生物特務庁(イトク)第五基地で待っているから会いに来い、というものだった。

読真は仕方なく真秀にもその旨を連絡した。真秀はうう〜と唸っていたが、「まあ結局どこかで会わなきゃいけないんだろうからな」と第五基地へ向かうことに同意した。

連絡が来てから最初の土曜に、第五基地に向かった。受付で訪問の旨を告げると、書類の記入なしで進んでいいと言われる。指示された場所に向かえばその途中の廊下でよみねが待ち構えていた。腕組みをして小さな胸を張り、両足を開いて立っている。

「待ってたわ」

そのまま横にある小さな部屋に入っていったので、二人ともその後ろに続いた。

10人くらいが入れそうな会議室だった。机の上にはいくつかの装備品が並べてあった。対異生物特務庁(イトク)メンバーが身につけているのは見たことがあっても、装備品そのものを見るのは二人とも初めてだった。

よみねは一番奥の椅子にどっかり座ると、やや不機嫌そうな声を出した。

「なんで断りもなく対異生物特務庁(イトク)に突撃するかな?‥驚いたわよ」

「‥断らなきゃいけませんでした?」

読真が挑戦的に口火を切った。よみねはじろりと読真を横目で睨んだ。今日はよみねの前に、洒落た珈琲ボトルが置かれている。パシられなくてすむな、と真秀はこっそり思った。

「別に構わないけど。予想と違う動きされたから驚いただけ。‥どうしても封殺の現場に出たいのね、あんたたち」

「はい」

読真は素直に返事をした。横で真秀も深く頷く。それを見て、よみねはテーブルの上の装備を指さした。

「これ、対異生物特務庁(イトク)の標準装備。説明って聞いた事ある?」

「ないです」

「俺もないです」

口々に答える二人に、よみねは立ち上がって装備を手に取って説明を始めた。

「封殺もできない、異生物の生命エネルギーを削ることもできない対異生物特務庁(イトク)のメンバーが、どうやって異生物と対峙しているか、知ってる?」

「‥それも、知りません」

「俺も‥」

言われてみれば圧倒的不利な立場の対異生物特務庁(イトク)のメンバーがどのようにして異生物と向き合っているのか、全く知らないのだ。それは二人に、何やら少し居心地の悪いものを感じさせた。

よみねはふう、と肩で息をすると再び話し始める。

「異生物は発生するときにある波動を出すのは知ってるわね?異生物発生予報にも使われてるやつ。‥あのあたりから研究されて、異生物が嫌がる周波数があることがわかったの。その周波数の事はヘイトウェーブって呼ばれてる。で、これ」

とよみねが取り上げたのは、ライフルのような形の銃器だった。自動小銃に見える。重そうなそれを持ち上げてひょいと振ってみせた。

音波銃(ソニックガン)の自動小銃タイプ。これが標準装備よ。弾の代わりに異生物が嫌がる周波数を発生し続けることができるの。それから‥」

と今度は先が二股に分かれている棒を取り上げた。先は細いUのような形になっていて、握りの部分だけ少し太くなっている。

「これは音叉刀(おんさとう)。これで異生物の身体を叩くとヘイトウェーブが出せるようになってる。音波銃(ソニックガン)の動力が切れたらこれで対応する」

そして両手にのるくらいの四角い箱を取り上げた。

「面倒だから本体は出さないけど、これは対異生物固定網(グルーネット)。異生物を少しの間だけその場に留めておけるものよ。これにもヘイトウェーブが出るようになってる」


そしてよみねは自分が来ているつなぎを指さした。

「それからこれは対異生物用防護服(プロテクター)。少しくらいなら異生物に掴まれても大丈夫な素材でできてる。‥書士に配備されていないのは、異様に重いからよ。私のサイズでも5㎏はあるわ。大人用なら10㎏近くになるわね」


机の上に置かれている装備を見て二人は驚いた。このような装備があることすら全く知らなかったのだ。闘書士、封書士と対異生物特務庁(イトク)が、全く違う組織なのだと実感させられる。

しかもこの装備はどれも重そうである。すべてを標準装備とするならおよそ30㎏ほどにもなるのではないか。読真は高杉源太郎のたくましい身体つきを思い出した。あれぐらいでなければ、この装備をつけて動くことはできないのかもしれない。

そしてよみねである。この小さい身体で、普段からもいくつか重い装備をつけているのだろう。どんな鍛錬を重ねてきているのかそれだけでもわかるような気がした。

よみねは装備品をがしゃんと机に投げやるとまた椅子に座った。

「‥まあ、あたしは持つとしても音叉刀くらいね。身軽にしておかないと癒字の対象に近づけなかったりするから。でも持とうと思えば音波銃(ソニックガン)もグルーネットも持てるわよ。筋肉量は多いの」

そう言って二人の顔をじっと見る。二人はまだ立ったままだ。

「あんたたちにこれを見せたのはね。対異生物特務庁(イトク)のメンバーがどれだけ身体を張って戦ってるかを実感してほしかったからよ」

よみねの言葉は鋭かった。

対異生物特務庁(イトク)のメンバーは異生物とは戦えない。でも、発生したと一報を受ければ現場に行って異生物からの被害を最小限に留めるべく、このクソ重い装備をつけて出向くの。異生物の動きを制御するために」

二人は黙ってよみねの言葉を聞いていた。

「勿論命がけよね。だって異生物を攻撃する手段はないんだから。プロテクターだって万能じゃない。でも書士の数は限られてて書士だけじゃ対処できないからメンバーは現場に行く」

よみねの言葉は続いた。

「‥‥あんたたちはね。そうやって戦ってるメンバーに『自分たちのために時間稼ぎをしろ』って言ったのよ。わかる?その意味」


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