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第五基地で 安西

安西さんは42歳のワーキングマザーです。ちょっとふくよかな感じ、小学生と中学生にのお子さんがいます。

早速その場で安西に電話をする。すぐに安西が出てくれたので、ざっくりとした話をした。すると詳しい話をしたい、ということになり、今から第五基地に向かうことになった。

二人ともに講義はもうなかったのでそのまま向かう。

第五基地の入り口で受付をしていると、「おい」と後ろから声をかけられた。聞き覚えのある声に振り返れば、闘書士・(セン)の高杉菖蒲の姿があった。封書士の丹沢の姿は見えない。

なぜここにいるのか、と不審に思っていると菖蒲は真秀の傍に近づいてきた。

「‥お前、異生物と混じっているというのは本当なのか?」

挨拶もなしの話に読真は少しイラっとしたが、真秀は気にする様子もなく頷いてみせた。

「あ、はい、そうです」

「‥‥何ともないのか?」

「まあ、今のところは‥」

九年以上同居してますとはさすがに言いづらかったようで、真秀は何となく言葉を濁した。高杉菖蒲は、そんな真秀を見て、ふうっとため息をついた。

「‥なかなか厄介なことになってんだね。封殺はやめるのか?」

「やめないで済むように、今色々やっているところです」

読真が思わず横から口をはさんだ。どうも書字士会の関係者は思いやりに欠けるような気がする。‥‥封書士に人気のない自分が言えた義理ではないが。

「ふうん」

菖蒲はちら、と読真を見て何か考える様子を見せた。が、すぐにそのまま立ち去って行った。

「‥何しにここに来てたんでしょうね‥」

呟く読真に、真秀が何の気なしに返した。

「知り合いでもいるんじゃねえの?」

「‥まあいい、行きましょう」

そのまま二人は建物の奥に進んでいった。

受付で指定された会議室のようなところに行き、ドアをノックする。中から安西の「どうぞ」という声がした。

失礼します、と言ってはいると正面のテーブルをはさんだところに安西が座っていた。

安西は40手前くらいの女性メンバーだ。物腰は柔らかいが昔は海外渉外担当で、中南米のカルテル相手にも一歩も引かなかった猛者だ、と高杉に聞いたことがある。安西のふっくらとした顔立ちと優しい言葉遣いからは想像がつかない。

椅子にかけるように二人へ手で示すと、部屋の隅にあったコーヒーメーカーから珈琲を入れてくれた。読真にはブラックで、真秀にはミルクをたっぷり入れて。こういう細かいことを忘れずに対応できるところが評価されているところなのかもしれない。

二人の前にカップをおくと、タブレットを片手に自分の椅子に座った。安西の前には猫の柄のついた大きめのマグカップが置かれている。

「さて、お話を伺いましょうか。‥あなた方『闘封』が対異生物特務庁(イトク)の専属として働けないか、ってことだったわね」

「はい」

読真は短く返事をした。安西は続けて質問してくる。

「なぜなの?字通くんの身体のことは聞いているけど、ウチでは特にその対策はできないわよ」

はっきりとそう告げる安西に、なぜかほっとしながら真秀は言った。

「いや、俺の身体がどうというより‥俺は強い異生物の引きが強いらしくて。それだといつも読真と二人だけの『闘封』では、手に負えなくなることも出てくるかと思いまして。可能であれば、異生物と対峙する時に対異生物特務庁(イトク)の皆さんの手をお借りできればと」

そう聞いた安西はちょっと顔を歪めて思案するような表情をした。難しいか、と思いながら見ていると、安西が口を開いた。

「あなたたちも知ってると思うけど、ウチのメンバーや装備では異生物にダメージを与えたり封殺したりすることはできないわ。あくまで異生物を「追い払う」くらいのことしかできないの。それは承知してるのよね?」

「はい」

二人は声を揃えた。そして読真が話し出した。

「俺たちもまだ未熟な『闘封』で、闘字も封字も使いこなすまでの体力がまだ足りません。これまでの対異生物戦でも、体力のなさで危機に陥ったことがありました。俺たちが安心して闘字、封字を書き祈念できるよう支援していただきたいのです」

真面目な顔で二人を交互に見つめていた安西は、「なるほど」と口にした。そして言葉を継いだ。

「要するに、うちのメンバーにあなたたちのための時間稼ぎをしろってことなのね?」

「‥え、ああ‥そう、いう感じに、なっちゃいますね‥」

安西に言葉としてはっきり言われると、かなり自分たちに都合のいいことを言っているのだ、という自覚が湧いてきた。これを思いついた時には自分でもいい考えだと思ったのに、結局自分の都合を優先して考えていたにすぎないのか、と真秀は自己嫌悪に陥る。

そんな真秀の様子を見ながら、読真は頭の中を整理しつつ冷静に話そうと思って安西を見た。安西は言葉の厳しさの割には柔らかい顔をして読真を見ている。

「あの、‥俺たちに都合のいいことをお願いしてる、のはわかります。ですが‥俺たちは封殺することを諦めたくないんです。『闘封』として動きたい。ですが‥字通の引きの強さに書字士会はこの先俺たちに封殺依頼をくれるかわからなくて、」

「うん、まあその辺の事情はこちらもわかってるつもりよ」

考え考え少しずつ言葉を絞り出していた読真を宥めるように安西は言った。そして二人に顔を向ける。

対異生物特務庁(イトク)としても、思うところはあるから。こちらに損のないようには動かせてもらうつもり。だからあまり気に病まなくていいわ。‥‥ふふ、まあちょっと意地の悪い言い方を私はしたけどね」

そう言って眼鏡の奥の小さな目をきらりと輝かせた。二人ともその目を見て思わず黙り込む。安西はまたふふっと含み笑いをした。

「多分だけど、書字士会にはまだ話を通していないんでしょ?」

「‥‥はい」

「だと思ったわ。‥では一度この件は預かります。でもいい返事ができると思う。具体的には、あなた達『闘封』と行動をともにするチームをいくつか作らせてもらう形になると思うわ。書字士会と連携を取って、異生物封殺案件に向かってもらうことになるでしょうね。流文字くん」

「はい」

呼ばれた読真がはっと顔を上げて安西の方を向いた。安西は少し悪戯っぽい表情を浮かべて言った。

「お父様ともう少し話をした方がいいんじゃない?‥観音寺よみねさんのことも含め」

よみねのことを知っている。

読真は、ぐっと奥歯を噛んだ。癒字士の事は機密ではなかったのか。どのくらい書字士会が対異生物特務庁(イトク)と情報共有をしているのか、読真たちとしても把握しておく必要があるだろう。

そのためには父、真幸とももう少し話をしなくてはならない。

「‥はい」

そう、安西に返事をしながら真幸と何をどう話すべきかを頭の中で考えていた。


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