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今後

「そ、そうか‥」

当事者である真秀はよみねの言葉を聞いて、力なくそう返した。だが、読真は怒りを滲ませ立ったままだ。そして、怒りをこらえているような低い声でよみねを問い詰めた。

「‥‥その、ものの言い方は性分ですか?それともわざと怒らせようとしているんですか?随分、失礼で、センシティブなことを、ずけずけと言うんですね」

よみねは怒りを隠そうともせずに問い詰めてくる読真に対し、空になったカフェオレの紙カップをもてあそんでいる。全く意に介してない、といった様子に読真はカッとなった。

「真秀に、あんな嫌なことを言って、それで『闘封』としての俺たちについてくるって‥?どういう了見ですか?そんな人と命の危険があるところになんて行きたくありません」


「じゃ、行かなきゃいいんじゃない?」

よみねは紙カップをぐしゃりと握り潰すとあっさりそう言った。読真は毒気を抜かれて唖然としている。よみねは構わず言葉を続けた。

「あたしは字通真秀(あざとりまほろ)の観察ができればいいだけだもん。わざわざ封殺の現場に行かなくたってあたしの目的は達成される。‥封殺の現場に行きたいのって、あんたたちの方なんじゃない?いいわよ、あたしは別に行かなくて」


何もかもがよみねの言う通りで、読真は思わず唇を噛んだ。苛々する。この得体のしれない子どももどきと今後行動をともにしなければならないのだろうか。

「うわ‥読真が言い負かされてるって、レア‥」

場面にそぐわない呑気なことをぽろりと口走った真秀に、読真は苛々が最高潮になってぎろりと睨めつけた。真秀は「やべ」と小さく呟いて読真の視線を避けた。

「字通、あんたはどうなの?あたしと行動するのは気に食わない?」

そうよみねに言われた真秀は、読真の方をちらっと見てから少し考えて答えた。

「読真は、俺のために怒ってくれたんだよ。俺はあんまり気にならなかったけど、『ほんとなら死んでる』は、結構言われたら嫌な人多いと思うぜ、よみねちゃん」

よみねの顔がひくりと引き攣った。それに気づかず、真秀は言葉を続けた。

「まあ、言い方とかは性格もあると思うしすぐに直せないかもしんないけど、少しずつ人に嫌な思いさせないよう直していかないと、あとで困るのはよみねちゃんだからさ。な?」

そう言って真秀はぽん、とよみねの頭を撫でた。

そう真秀が言った途端、よみねはその腕を掴み引き寄せ、自分の肘を真秀の肩口につけるとそのまま押し込んでぐるりと回転させ、だん!と床に引き倒し胸の上の膝をのせた。

「ぐえ」

あっという間に地面を拝まされた真秀は、胸を強く膝で押さえられ変な声を上げる。一瞬の出来事に読真も立ち上がった姿勢のまま口を開けてみているほかなかった。

よみねは、ふん、と小さく鼻を鳴らすと真秀の身体の拘束を解いて立ち上がった。

「‥‥言ったでしょ。あたしは24歳なの。年上なの。敬意をもって接しなさいよ。‥それから字通、つぎあたしのことを『よみねちゃん』なんて呼んだら、タマを蹴り潰すからね」

「‥ハイ‥」

真秀は地面に転がったまま、思わず股間を押さえて弱々しくそう返事をした。それを見てからよみねは二人に言った。

「‥まあ、こんな珍しい人間に会って、色々事情もあって、でしょうから。少し時間をあげるわよ。今後どうするか考えなさい。明日にでもまた連絡するから。流文字、携帯貸して」

読真のスマートフォンと自分のそれを手に取って何やら操作をすると、ぽんと読真に投げて返す。

「あたしの連絡先入れといたから。すぐに返事しなかったら殴るからね」

そう言い捨てると、よみねはすたすたと去って行ってしまった。


「‥座ったらどうですか、字通」

「‥さっきは真秀って呼んでたのにぃ・・」

「うるさい」

よっこらせ、と真秀は身体を起こして椅子に座り直した。どちらともなくふう、とため息をつく。

「情報量が多すぎるよ‥」

「‥まあ、そうですね」

頭を抱え込む真秀を、少し心配そうに読真は見た。表には出さないが、よみねの言ったことで傷ついているのではないかと思ったのだ。自分が真秀といる時に真秀の体調などに異変を感じたことがなかったのでわからなかったが、異生物と混じった人がすぐ死んでいるというなら。

真秀の身にいつ何があってもおかしくないということだ。

そう考えれば、やはりできるだけあの癒字士(ゆじし)であるよみねに傍にいてもらった方がいいのかもしれない。

物言いや態度は目に余るし好きにはなれそうにないが、真秀の身体のことを思えばそうも言っていられないだろう。

読真はそう考え、口火を切った。

「‥やはり、あの癒字士と行動を共にした方がいいのだろうと思います。慣れるまで、時間はかかると思いますけど‥」

真秀は頭の後ろで涼を組んだ。

「読真、あの人の事気に入らないけど俺のためには仕方ないって思ってるだろ?」

藤間はたった今考えていたことをそのままずばりと言われて思わず黙り込んだ。その様子を見て、真秀は少し笑った。

「読真基本優しいもんなあ。‥サンキュな」

「‥俺たちが『闘封』として動くためには必要だと思っただけです」

「うん。‥でも、一応できることは試しておきたいからさ。対異生物特務庁(イトク)に連絡だけしてみてもいいか?‥先に書字士会って言ってたけど、よみねちゃ‥よみねが書字士会から言われてきてるなら対異生物特務庁(イトク)に先に行ってみた方がいい気がするんだ」

「‥そうですね‥」

書士と対異生物特務庁(イトク)の窓口となっているのは、安西、河東という二人のメンバーである。一応読真は二人ともに面識がある。

「安西さんに連絡を取ってみましょうか。特に何かなければ安西さんはうちの大学近くの樹地にいるはずなので」

真秀は真顔になって読真を見た。

「頼むよ」


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