カフェで
新キャラ登場です。
大学は既に後期授業が始まっているというのに、読真も真秀もきっちり三週間入院する羽目になった。現在闘封書士の数が少ない上に異生物の発生が増えているため、闘封書士であるということは一応大学も考慮してくれるが、すべてを補ってくれるわけではない。
入院中の最後の一週間は、前期のダメだったレポートなどのチェックやかされた課題などの消化で慌ただしく過ぎていった。
退院後、しばらくしてから学内のカフェで二人は会っていた。
「字通、身体の具合はどうですか?腹の傷は?」
「腹はもう大丈夫だ。傷はまだあるけど痛みはほとんどないよ。‥読真、なんで苗字呼びに戻しちゃったんだよ~」
そう言いながらテーブルに突っ伏し、上目遣いにこちらを見てくる真秀を読真は無視した。真秀のこういう物言いは無視するに限るのだ。
真秀は取り合ってくれない読真に「冷たいな~‥」とぶつぶつ文句を文句を言っている。読真はそれも聞こえないことにして、話を続けた。
「とりあえずしばらくは封殺の仕事はさせてもらえなさそうですね」
「‥封書士をやめろ、ってのもまだ俺のところには話が来てないな、そう言えば」
少し硬い口調で話す真秀を、読真は何とも言えない気持ちで見つめた。
真幸の言いぶりから考えれば、真幸自身は真秀に封書士をやめさせたいとは思っていなさそうだった。だがどうしても強い異生物を引き当ててしまう真秀を、このまま封殺に向かわせることはしたくないようだった。
現実的なところで言えば、他の『闘封』と一緒に派遣するか読真よりももっと位階が上の闘書士を組ませるかしかないだろう。だが位階が上で『闘封』を組んでいない闘書士は、今関東にはほぼいない筈だ。他の『闘封』と組ませると言っても、毎回強力な異生物に当たるとわかっていてそれを受ける組があるとも思えない。
読真が考えつくようなことはすでに真幸も考えているだろう。未だに連絡がないのは、まだどうするかを決めかねているということである。
「やめろ、とまでは書字士会は思っていないでしょう。それならもっと早く連絡が来るはずです。真秀を封書士として使いたい気持ちの方が勝ってるんじゃないかと思ってます」
真秀はペットボトルのお茶をごくっと飲んだ。蓋を締めながら低い声で答える。
「でも、今のところ現場に出す気はないんだよな」
「‥‥それはまあ、そうでしょうね‥」
「給料泥棒だな~俺」
真秀は明るくそう言って笑った。その笑顔にどこか翳のようなものがあるのを読真はわかっていた。
入院中からも色々と考えていたがうまい手を思いつかない。『闘封』で対処できないことをどうすればいいのか‥
ふっと真秀が顔を上げた。
「‥対異生物特務庁で使ってもらえねえかな」
「‥え?」
読真はそれを聞いて思わず声を上げた。対異生物特務庁のメンバーは、書士ではない人がほとんどだ。どちらかと言えば異生物発生に関する事象の整理や後始末などが多い。その時に色々ともめ事のようになることが多いので、結構腕っぷしが強い人々がメンバーとなっている。異生物と直接戦えるわけではないが、封字紙を使った封殺や異生物を追い込んで居場所を移動させるなどの対策はしている。
確かに対異生物特務庁でなら、ある程度人数も確保できるし、異生物自体を移動させたり一般市民に被害が出ないようにアシストもしてくれるだろう。
だが、闘封書士が対異生物特務庁に専属でつく、などというのは聞いた事がない。現在対異生物特務庁にいる書士は全員が一線から退いた引退者ばかりだ。現役の闘封書士が所属していたことはないのだ。
「現役の『闘封』を、対異生物特務庁が受け入れるでしょうか‥?それから、書字士会が許可するでしょうか?」
「ん~難しそう?読真はできないと思う?」
読真は少し考えた。確かに前例のないことではあるが、既に今の真秀の状態こそが前例のない状態なのだ。
「話をする価値はあるかもしれません。先に書字士会に働きかけてみましょう。そこからどのような返事が来たとしても、対異生物特務庁にも話をしてみて、双方から考えてもらえるようにしたらいいと思います。対異生物特務庁としても子飼いの『闘封』を持てるのは悪い話ではないと思いますし」
そう答えた読真に、ようやく真秀は心からの笑顔を見せた。
「そっか、何とか道を開こうと思えばできなくもない、かな?‥‥よかった」
そう言って両肘をつき、顔を覆うようにしてふうと息を吐いている。封書士として働けなくなるかもしれない、という事実が、どれだけ真秀の心に重くのしかかっていたかをその様子からうかがい知ることができ、読真は心の中でため息をついた。
自分ができることは、本当に限られている。とりあえず『闘封』として真秀の傍に立っていることが最低条件だ、と読真は考えた。闘書士も封書士も単独では異生物を封殺できない。『闘封』として揃っていればいつかは何らかの形で活動はできるだろう。
二人の間に沈黙が降りてしばらく経ったとき、読真のスマートフォンが鳴った。見てみれば父真幸からの着信だった。大学にいる時に連絡が来るのは珍しい。何事だろうかと通話をタップした。
『読真か?』
「はい、どうかしましたか?」
『今大学だな?どこにいる?』
「‥‥?学内のカフェですが」
『カフェってなんていうところだ』
「さくらカフェです‥カフェ一か所しかありませんけど‥何ですか?お父さんこちらに来るんですか?」
真幸は、ちょっと言葉を切ってから答えた。
『私ではない。ある人物をお前たちに紹介したいと思ってな。今そちらに向かっているから』
「は‥?誰ですか?どういう関係の人なんです?」
訳がわからず質問をする読真に、真幸は迷った様子ながら結局詳しくは語らなかった。
『‥本人から聞いた方がいいだろう。お前たちとうまくいくかどうかはまだわからんが‥うまくいけば『闘封』として活動できるかもしれん。頑張れよ』
読真の頭の中には疑問符が浮かぶばかりだ。
「どういうことですか?うまくいく?一緒に動く人が来るってことですか?」
『‥まあ、あとはお前たちで何とかしてみてくれ』
そう言って真幸は通話を終えてしまった。
スマートフォンを片手に茫然としている読真を、真秀が訝しげに見つめていた。
「‥部長?何だって?」
「えー‥よくわかりませんが、今こちらに向かっている人がいるようです。あの言い方だと、俺たちと一緒に行動する、かも?って感じだったんですが‥よくわからないですね‥」
当惑する読真の様子に、真秀も首を傾げた。
「部長がはっきり言わないって、なんか珍しいな。どんな人が来るって?」
「いや、それも何も言ってもらえなくて‥」
二人で首をかしげながら考え込んでいると、
「あー!いた!」
という甲高い声が響いてきた。どう聞いても子どもの声だ。
大学内で聞くにはそぐわないその声にぎょっとした二人が、声の方を見ると小学生くらいの女の子がこちらを指さして立っていた。
10歳前後だろうか。長い髪を二つに編んでおさげにし、つなぎのような服を着ている。顔は子どもらしく丸く、大きな目が目立っている。
だがその表情はどこか大人びていて、ちぐはぐさを感じさせた。
学内に立つ子どもに呆気にとられていると、子どもはずんずんとこちらに近寄ってきた。
「流文字読真と字通真秀で間違いない?」
「‥はい」
「そうだけど‥」
面喰っている二人のテーブルの傍まで来て、椅子を引いてぴょんと乗った。
「初めまして。あたし観音寺よみね。癒字士よ。よろしくね」
お読みいただきありがとうございます。
少しでも、面白い、続きを読みたいと思っていただけたら、下の広告より↓↓にあります☆評価、いいね、ブックマークや感想などいただけると大変励みになります!
よろしくお願いします。