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病室で

少し短めです‥

読真が再び深い眠りに陥ったのを見て、改めて真幸は高杉に椅子を勧めた。高杉は勧められた椅子をひょいと掴み上げ、読真のベッドの足下に置いて座った。

そして真幸の方に向かって話し出す。

「読真は、真秀の事は知らないんですよね?」

「おそらくな」

真幸は短く答えた。高杉は真幸の顔を見てすっと目を細めた。

「‥まあ、知ってるかもですね」

真幸は今度は答えなかった。


これまでにも似たような報告があったようだ。だが、この百年で見ても四例しかなく、しかもその当人は早い段階で命を失っている。


異生物を取り込んだ人間。


あの、異生物と体の一部が繋がってなお生きているという状態は、それを示している。だがこれまでに報告のある四例では、繋がっていることが確認されて程なく全員が異生物に身体を食い破られて命を落としているのだ。

今、この時、ここで真秀が呼吸していること自体が信じられなかった。

そして、真秀が戦いの場に出ると必ず力の強い異生物を引き寄せてしまう事。たった二回の事例ではあるが、真幸は三回目を試す気はなかった。


妹のことがあってから読真は人が変わったようにおとなしくなり、勉強と体を鍛えること以外の事をしなくなった。闘封書士になる、もしなれなければ対異生物特務庁(イトク)のメンバーになる、その事しか考えていないようだった。十五歳の資質検査の際に闘字が書けることが判明してからは、闘書士になるべく日々訓練に励んでいた。

真幸と母であるひかりは、そんな読真を見守ることしかできなかった。何度も声をかけ妹のことはお前のせいではない、あれは事故だったのだと言葉を尽くしたが全く読真の耳には届かなかった。


そして、読真は闘書士になった。

闘書士になってからも鍛錬を怠らず僅か一年足らずで位階を一つ上げるほどにまで力をつけてきた。一方、人との関係性をうまく築くことができず、まともに『闘封』が組めなかった。そこで同い年の真秀と組ませたのだ。

それがこのような結果に繋がってしまうとは。


「もし知っていたとしたら、読真は真秀を見捨てないと思いますよ」

そういう高杉の言葉に、苦い顔で真幸は頷いた。

「だからこそ、どうにかしなければならない。‥字通くんの命にもかかわるからな。‥どういう対応にすべきかは、まだ書字士会の中でも決まっていないが‥」

「真秀に封殺やめろっていうのは無理がありますね」

高杉は言い切った。真秀の両親の死にざまを知っている身としては、真秀が封書士としての仕事から引くとは思えなかった。

だが、今回の件ですっかり真秀が「異生物を取り込んでしまった人間」だと上層部に知れてしまった。真秀は闘えなくなったら、その理由がおのれの中の異生物のせいなのだとしたら、何と思うだろうか。

心の中に抱える闇を、僅かにも見せずずっと明るく笑いながら過ごしてきた真秀を見てきた高杉としては、真秀の今後の事を考えるのは気が重かった。


真秀の腹の傷は、なかなか癒えなかった。異生物から傷つけられた際は早く治っていたのに、今回の傷がなかなか癒えないということは、「闘書士の闘字によって真秀の身体が傷つけられた」ことに他ならない。

つまり、真秀の身体は、異生物よりになってしまっているという証拠でもある。

この事実だけは、真幸が自分の権限で情報を止めている状態だった。

男二人が、下を向いて重い空気の中黙り込んでいるところに、ふわっと風が吹いた。


<真幸、久しぶりだね。高杉も>


そこにはいつもの麻の着流しを着て金髪を緩く後ろにくくった衛門が、床からわずかに浮いて立っていた。

高杉はガタンと椅子を蹴って立ち上がった。

「衛門、てめえ‥!」

<ああ、高杉はまだ私を殺したいんだねえ。‥だがお前は私と戦うすべを持っていないだろう?それでは殺し合えないよと何度も言っているのに>

衛門はギリギリと奥歯を噛みしめている高杉を見て含み笑いをした。真幸は驚きはしたが、冷静に受け答えをする。

「何か用か?わざわざこんなところにまで来るとは」

そういう真幸の言葉を受けて、衛門は少し浮いたまま床の上をすべるように移動し、カーテンをじゃっと引いて真秀の病床の足下に立った。

真秀はまだ酸素吸入のマスクをつけ、いくつかの計器に繋がれ点滴を打たれながら昏睡している。

そんな真秀を見下ろしながら、衛門は口角を少し引き上げた。

<真秀と私は契約を交わしたからね。様子を見に来たのさ>

確かに、鹿野山森林公園での闘いの際、危機に陥った時衛門が現れて真秀の身体から異生物を引っこ抜いていたのは映像に記録されている。あれは契約をしていたからだというのだろうか。

「真秀を守るためにお前はあそこに現れたという訳か」

真幸の言葉に、衛門はくるりと空で一回転し、空中に胡坐をかいて止まった。頬杖をついて何か思案している風にしている。

<ん~、どうだろうね。‥それよりもあの異生物に気になる点があったから、という方が正しいかものう>

真幸と高杉は、衛門のいう事が少し理解できずに不審げな表情を浮かべた。それを見て、衛門はくふふっと笑いながら言った。


<あの時の異生物は今までのものと違っていたところが二点ある。知りたいかえ?>


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