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闘いの後

主人公の二人は

流文字りゅうもんじ 読真とうま

字通あざとり 真秀まほろ

です。今さらですが‥

異生物が消滅するとともに、読真(とうま)の身体の中で暴れまわっていた瘴気が消えていくのがわかった。瘴気による痛みと不快感が消え、重い倦怠感のみが残る。その身体を引きずるようにして真秀の方に移動しようとして、そちらを見た。

真秀(まほろ)は倒れたままだった。先ほどまで上がっていた頭もがくりと地面に落ちている。地面に広がっていた血液はそのままで、傷が癒えたのかどうかもわからない。

重い身体を引きずり真秀の隣にまでやってきて、その頭に手をかけ揺する。

「真秀、真秀大丈夫、ですか?‥意識、は‥」

真秀の顔を覗き込めば真っ青なまま、瞼は固く閉じられている。息が詰まりそうになりながらも真秀の身体の下に腕を差し込み、何とか起こしてみる。とりあえず今のところは出血はないようだが、腹には傷口がまだ存在しているようで動かせばぐちゅ、という鈍い音がした。

救急車を呼ばないと、と震える手で吾妻袋を探る。すると隣にすうっと移動してきた衛門が言った。

<読真、言っておく。真秀と異生物が繋がっている時、異生物を斬れば真秀が傷つく。その時真秀の身体は異生物に近くなっているからな>

「‥‥‥」

読真は黙って真秀の腹の傷に手を当てた。広く、深い。だが出血がないのは真秀の特異体質からだろうか。

衛門は構わず言葉を続ける。

<その時は何とかして真秀の身体から異生物を取り出すしかない。私はそのまま引っこぬいたが、お前にできるかな?>

「‥‥やってみせる」

読真は低い声で答えた。そして左手で救急の番号を押した。

「‥鹿野山、森林公園、ふ、封書士が、怪我をしています‥」

『わかりました、患者の氏名とあなたの氏名は?あなたも書士ですか?他に怪我人は?』

「池、の、そば、に‥」

そこまで言って読真はそこに倒れ込んだ。

衛門はそんな二人を見つめてため息をついた。

<厄介な人たちだ。‥‥それにあの異生物の様子‥面倒なことになってきたのう‥>

そう呟くとふっとその場から掻き消えた。



目を開ければまた白い天井が見える。

前にもこんなことがあったな、と読真はぼんやり考えた。前は、いつだったか‥ああ、夏前に、初めて真秀と錬地鍛錬をした時か‥

そこまで考えて、はっと今の状況に至るまでの事が頭の中に浮かんだ。真秀はどうなったか?

身体は重く言うことをきかない。目だけをうろつかせれば、父親が座っているのが見えた。そして父親は誰かと話しているようだ。

「お‥親父‥」

「気がついたか」

父親‥書字士会部長流文字真幸(りゅうもんじまさき)が返事をした。いつも通りの表情で変わりのない顔だ。

「ま、真秀、は‥?」

「隣で寝ている。とりあえず今は心配ないようだ。腹の傷もな」

真幸が指さした方にはカーテンに仕切られた場所があり、その向こうに真秀が寝ているらしかった。

「よ、かった‥」

読真は安堵して目をつぶった。瞼が重い。目を開けているのが辛かった。そんな息子の様子を見て、躊躇った後真幸は声をかけた。

「読真、お前‥書士の仕事を少し休むか‥?」

思いがけない言葉をかけられ、読真は重い瞼をこじ開けて父親を見た。真幸は、あまり見たことのないような苦悶を浮かべた顔をしていた。

「な、んで‥」

「おかしいんだよ」

すぐに真幸が返事をする。おかしい、とは何がだろうか。そう思っても口もうまく回らず話せない。口を動かそうとする読真を制して、真幸は続けた。

「まだ二回ではあるが‥お前と字通が遭遇する異生物の強さがおかしいんだ。鹿野山森林公園でもう一組、『闘封』がいたのを覚えているか?」

そう聞かれ、読真はわずかに顔を動かして頷いて見せた。公園に入った最初にしか見かけていないが確かにいたことは覚えている。

真幸は小さく息を吐いてから言った。

「もう一組の『闘封』が対処した異生物は、お前たちが対処したものとは比較にならないくらいの小物だった。数は多かったそうだが比較的スムーズに封殺できたようだ」

読真は真幸の言いたいことがよくわからなかった。どういうことなのか?

真幸は何か物言いたげな読真の様子に気づいたのか、少しだけ考えてから言葉を継いだ。

「‥錬地での戦い、それから今回の公園での戦い、両方とも映像が残されてる。錬地のものはかなり色々と分析したが、お前たちのレベルで太刀打ちできるような異生物じゃなかった。‥今回のものも、ざっと点検しただけだが、‥‥あれは災害級と言ってもいいくらいのやつだ。よく封殺したな」

読真は、やはり異常に感じたあの強さは本物だったのだと思った。しかも異生物たちは連携を取っているように見えたし、しっかりと意思を持って読真たちと戦っているように見えた。

あれを封殺できたのは、自分というより真秀の力に負ったところが強い。真秀が正確に強い封字陣を昇結してくれたおかげである。

「真、秀が、陣を‥」

「ああ、見たよ。‥異生物と繋がっているところもな」


読真は思わず重い瞼を開いて父親を見た。父親は変わらずただじっと読真をじっと見つめている。

「何、を‥」

「お前何か知っているのか?」

読真は口を噤んで目をつぶった。真幸にはそれが肯定の印に見えたが、この頑固な息子がこれ以上口を割るとは思えなかった。もう一度ふうと小さくため息をついてから話を続けた。

「‥いずれにせよこの短期間で二回も入院騒ぎを起こすほどの『闘封』なんて聞いた事がない。お前たちは強い異生物を引きすぎる。‥傷が癒えた後のお前たちの動きは、しばらく書字士会の方で考えるから少し待て」

そこまで真幸が話した時、がらっと病室の引き戸を開ける音がした。真幸が立ち上がって挨拶をしているようだ。薄く目を開けてみれば、そこには対異生物特務庁(イトク)の高杉の姿があった。


高杉はちらりと病床の読真に目をやってから、真幸と話し始めた。

「流文字部長、やはりアフリカの‥‥同じケースかと思われます。色々な‥‥符合しますから」

「‥そうか‥引き続き報告を。‥‥‥があれば共有もお願いします」

「わかりました。真秀は‥?」

「もう少し意識が戻るまで‥‥だ。前回と同じで字通は‥」

「ああ、確かに‥」


二人の話は途切れ途切れにしか耳に入ってこなかった。


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