鹿野山森林公園での闘い 終結
思いのほか穿刺放擲は異生物に効いたようで、異生物は赤い刀身を身体にめり込ませたまま池の向こう側まで吹っ飛んでいった。100mには満たないほどの距離だろうか。あちらには人はいない筈だから時間が稼げる。
真秀はそれを確認して、新たに血封字を書いた。スピード重視、と言われたので『縄縛導滅』を書こうと思ったが、先ほど『全』の封字をうまく使えたので今回ものせてみることにした。
「全縄縛導滅」
やはり美しい血封字が浮き上がる。今度は血矢にのせずにそのまま地面へのせた。地面が赤く光り出す。ここからは気合を入れて祈念する。
万が一に備えて浄化の陣はまだ張ったままにしているから、再び二種類の祈念だ。だが同時に二種類の祈念をするコツが少しずつ掴めてきたようで、何とか成立している気がする。ただ体力と気力はごっそりと削られているのがわかった。
先ほどから大きい陣を張り続けているし、何より浄化の封字陣をずっと張り続けているせいでかなり体力を削られている。この血封字の陣を昇結して封殺できなければ、体力的にはかなりまずい気がする。
とにかく早く昇結させねば、と真秀は祈念に集中した。
一方、読真は池の向こうに吹っ飛んだ異生物から目を離さなかった。新しい闘字が思いのほかうまくいったが、新しいだけにその効果がどれほどのものかわからない。極端な話、すぐにも異生物がこちらに戻ってくる可能性もある。
巨大数珠玉異生物は、その身体をバラバラにさせて転がっていた。いくつもの巨大な数珠玉と、それに群がる小さな異生物が蠢いているように見える。何しろ池の向こうの事で、眼鏡をかけていても読真にはそれくらいしか見えなかった。必死に目を凝らしてみていると、異生物たちは蠢きながら、全部がこちらに向かって池の水の上を移動してきている。しかも思ったよりも動きが早い。身体は繋がっていないのに、一つに意志を持ったようにすべての異生物が同じ動きを取っていた。
このままではすぐにこちらに来る、と思った読真はもう一度血闘字を書いた。
「削体玉緒!」
浮かび上がった文字に祈念して、字柄にのせる。鮮血の赤を纏った字柄血刀が形成された。刀身は長く鋭い。
ざざざざざ!という音を立てながら異生物はこちらをめがけて移動してくる。読真は祈念し続けている真秀をかばうように前に立って、字柄血刀を構えた。とにかく斬り払ってエネルギーを削るしかない、そして封字陣にのせようと考えた。
読真の目の前まで真っ直ぐ移動して来た異生物を斬り払おうとしたその時、異生物たちがぐわっと大きく浮き上がった。読真の頭の上を通り過ぎ真秀めがけて落ちていく。しまった、と思ってすぐに体勢を整え斬りかかろうとした、が。
巨大数珠玉異生物のひとつから、しゅっ!と黒い紐状のものが伸びて真秀に深々と突き刺さった。
「うあああ!」
真秀がその衝撃と激痛に顔を歪めて叫んだ。
真秀の腹の部分に、異生物の一部が突き刺さっている。真秀は呻きながらもそのひも状のものを掴んだ。掌がじゅっと音を立てて焼けただれたような痛みが襲ってきた。だがすぐに腹部分の痛みに上書きされる。
「字通!」
「き、斬れ、読真‥!」
真秀と繋がっている異生物を斬って、真秀に影響はないのか?読真はぐるぐると考えた。目の前で顔を蒼白にして苦しんでいる真秀がいる。早く、速く決断しなければ。
「斬れ!」
真秀の声に押され、読真は真秀の腹に紐上のものを刺し込んでいる異生物の後ろ部分を深く斬り裂いた。
「あああああ!」
真秀は、恐ろしい叫び声をあげて倒れた。
真秀の腹から、先ほどまでにはなかった大量の血が流れ出していた。
読真は思わず字柄血刀を引いて立ち竦んだ。異生物は全く斬られた影響を受けていないように見える。まさか自分が斬ったことが、真秀の身体に傷として届いてしまったのか‥?
真秀は倒れて動かない。地面に真秀の血が広がっていく。
「真秀!!」
読真は叫んだ。
どう、どうすればいい、どうすれば真秀を助けられる?
考えても何も出てこない。涙がぼろぼろと溢れてきた。
何もできない。
ぎり、と唇を噛んだ時。
<やれやれ、手のかかる>
真秀の傍の空間がふわりと揺らめき、衛門が現れた。
読真は半ば放心したようにその姿を見つめた。
「え、衛門‥」
<読真、異生物と繋がっている時に真秀を切れば真秀が傷つく。真秀の身体の中にはまだ異生物が混じっているから、そこと繋がっているのさ>
「‥どう、すれば‥」
<ふむ>
衛門は真秀の腹に刺さっている異生物の、紐状の部分をぐいと握った。ぐわっと衛門の身体が大きくなる。異生物が身体を震わせているのがわかった。
そのまま衛門はずぶりと紐を真秀の身体から引っこ抜いた。びくんと真秀の身体が動く。
「真秀!」
読真の呼びかけに、真秀はわずかに顔をあげて読真の方を見た。うっすらと笑っているように見える。なぜ笑っているんだと腹立たしい気持ちになりながらも読真は安心した気持ちの方が勝って涙が止まらない。
異生物は衛門を見て少し身体を引いているように見えた。それは他の異生物も同じで、似たような動きをしている。
<読真、ぼんやりするな>
衛門にそう言われて、はっと字柄を握り直した。薄くなっていた刀身に祈念をしてしっかりと形成する。
そのまま異生物の群れの中に突っ込んでいった。手当たり次第に斬りつけて行く。興奮しているからか体力の減少を感じない。瘴気がまき散らされているはずだが、その影響も感じなかった。とにかくエネルギーを削ることだけを考えて字柄血刀で斬りまくった。
ふと、呼ばれているような気がして真秀の方を向いた。未だに地面に倒れたままではあったが、指は印を結んでいる。真秀の口が動いていた
しょうけつ
それを見て、読真は字柄血刀を大きく振り回し、異生物を真秀の陣の方へ追い立てた。わずかに光る赤い陣の中に入ったのを確認して叫ぶ。
「闘封!」
それを見た真秀の口がまた動いた。
ふうさつ
ぶあん!
という音とともに、異生物は消え去った。
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