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封書士 字通真秀

バディ、揃いました。


H大学のキャンパス内で、読真は今まで来たことのないR棟に来ていた。読真は書道学科なのであまりここには来たことがない。ここは歴史学科関連の棟で、あまり知り合いもいない。

資料を見て連絡を取り、ここで待ち合わせをしているのだが、読真は顔立ちの良さやスタイルの良さでどうしても目立ってしまい、遠巻きに眺めながらひそひそと話す女子学生に囲まれていた。当人は全く気にしておらず、相手の姿を探していたのだが。

R棟の入り口前の木が三本ばかり植えられている小さなスペースで、きょろきょろと周りを見回していると、ぽん、と後ろから肩を叩かれ、はっとした。

すぐさま振り向けば、そこには柔らかい顔で微笑む男の顔があった。


「ごめん!待たせたか?俺が字通真秀(あざとりまほろ)です!」

読真は驚きのあまりすぐには返事ができなかった。後ろから見知らぬものにここまで近づかれたのはこの一年なかったことだったからだ。だがそんなことを悟らせたくない。何事もなかったかのように、自らも自己紹介を始めようとした。

「初めまして、俺は流文字‥」

「読真くんだよな!聞いてる。君のお父さんに仲良くしてやってって言われてるんだ!よろしく!」

‥‥くそ親父何を吹き込んでやがる。

「少し、移動して話しませんか」

「いいよ!どっかでお茶でもする?R棟にカフェがあるんだ」

「‥じゃあ、そこで」

案内するよ、と軽やかに歩き出す男をしみじみ眺めた。

背は読真より幾分低いようだが、身体はよく鍛えてあるように見える。歩き方にも隙がなく、体幹がしっかりしている。少し明るめの栗色の髪に栗色の瞳はアーモンド形で大きい。そのせいで幾分か童顔に見える。眉は太く、唇は厚い。全体的に犬のようなイメージの男だった。

この男が『封字』を書けるイメージが湧かない。

案内されたカフェは広い空間で、そこそこ学生もいたことから気兼ねせずに話せる雰囲気だった。飲み物を購入して席に着く。まず始めが肝心だと思って読真は切り出した。

「父が何を言ったかは知りませんが、俺とあなたは仕事の付き合いになります。そこはわかっていてください」

「‥え?流文字部長には大学でも仲良くしてやってくれって言われたけど‥」

真秀は大きな目を見開きながら小首をかしげた。やめろ、いかつい男のそういう仕草は気色悪い。そう思いながら読真は言葉を続けた。

「それは無視してもらって構いません。‥研修は済んでるんですか?」

「うん、先週『闘封』の現場を二回見せてもらったよ。すごいなあ!俺びっくりしちゃった。異生物ってまだそれ入れても四回しか見たことないんだ」

研修以外でも異生物に遭遇したことがあるのか。‥ん?

「研修以外での二回、はどのような状況で‥?」

「うん、一回目は十歳の時、自宅近くで。二回目は去年、学校の近くでだった」

笑顔を崩さず淡々と答えてくる真秀の姿と、手元の資料の内容が合致しない。

真秀が言う「一回目」の時には、対処したのは『闘封』だった真秀の両親であり、その時の怪我が元で二人とも亡くなっている。

「二回目」の去年は、まだ封書士でもなかった真秀が、偶然居合わせた異生物対処現場で『封字』陣の構築に関わり封殺した、とあった。

だが真秀は何の感情も載せてこない。ただ、にこにこと笑っているだけだ。

「‥辛い事をお尋ねしたかもしれません。‥すみません」

謝る読真に、慌てて手を振り「いやいや全然だから!」とフォローまでしてくる。

なかなか読めない人物だ。

「‥俺は今、闘書士「鋭」なので、一応位階はあなたより上です。緊急の場合などは俺の指示に従ってもらうことになりますけど、いいですか?」

真秀は笑顔のまま、うんうんと頷いている。

「もちろん!俺まだ自分では現場に行ったことないし、色々教えてもらえると助かる」

‥声がでかいな。

「声、デカいですね」

あっ、という顔をして真秀は慌てて両手で口を塞いだ。そのまま

「ごめんよくいわれるんだ・・」

と話す。さっきまでの身を乗り出すような勢いが薄れ、叱られた大型犬みたいにしょげている。

変なやつだな。

「‥気になったら言います。‥俺にも何か気になることがあったら言ってください。あなたが封書士「環」になるまでは組の解消ができないそうなので」

読真がそう伝えると、さっきまでしょげていたのが噓のように顔を輝かせてこちらを向いた。

「え、じゃあタメ口で話そうぜ!同い年だよな?」

「いえ、これは俺の普通なので」

きっぱりと断った読真に、驚いた顔のまま真秀は止まっている。それに構わず読真は話を進めて行く。

「現場に出る前に、色々打ち合わせや動きなども見ておきたいのですが。今日か明日、いつなら空いてますか?」

固まったままだった真秀が、そう言われてようやく口を開いた。

「‥読真くんさ、友達いないんじゃね‥?」

「心配していただかなくても大丈夫です。いつなら空いてますか?」

「とりあえずおれの事は真秀って呼んでくれな。おれも読真って呼んでいい?」

こいつ‥俺の話に全然返事しねえな‥

「先に、今日と明日いつなら空いてますか!?」

「どっちも空いてるぜ読真!」

ニコッと笑ってみせる真秀を見て、俺はこいつとは合う気がしない、と絶望的な気持ちになる読真だった。


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