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鹿野山森林公園での闘い 4

巨大数珠玉異生物は、身体中に突き出させた太い針を、一斉に二人に向けて発射した。先ほどの針とは比較にならない太さである。真秀の封字陣が間一髪間に合ったが、身体には数十本の針が刺さった激痛が襲ってきた。

「ぐああああ!」

二人は文字通り地面を転げまわって叫び声をあげた。出血はないが恐ろしい痛みで頭がうまく回らない。それでも真秀はかすむ頭で封字陣を祈念し続けた。そのおかげで瘴気自体の影響は少ないが、刺創を受けた衝撃はなかなか引かない。読真は字柄と闘筆を落とさないように握りしめながら、頭を地面にこすりつけ激痛に耐えている。だがそんな中でも異生物は動きを止めずに攻撃してきた。

大きな数珠玉の異生物が、自分にぶら下がっている異生物を放り投げるようにして読真たちに叩きつけた。真秀の封字陣の中に入れば少し勢いは失うが、それでも二人の身体にビシャリと当たる。当たった部分は爛れるように熱く痛んだ。

読真はポケットに入れてあったハンカチでぐるぐると右手と字柄を巻きつけた。これ以上血を落として異生物に栄養にされるわけにはいかないと思ったのだ。左手でも闘字は書ける。

削体玉緒(さくたいぎょくちょ)!」

身闘字として書いたもので刀身を作る。その方が早いからだ。すぐに現れ出た字柄身刀(じつかしんとう)を大きく振るって異生物たちを払い落とす。

小さな異生物は読真の字柄身刀(じつかしんとう)に斬り落とされ、さらに真秀が展開している浄化の封字陣に落ちたことで急激に力をなくして小さくなっていく。

それを見た巨大数珠玉異生物は、その大きなからだをしならせながら読真たちに近寄ってきた。その間にもぶんぶんと小さな異生物をこちらに投げつけてくる。

読真は真秀をかばうようにしながら字柄身刀(じつかしんとう)を振りかざし、投げつけられる異生物を斬り払っていく。字柄を握った手に巻き付けられたハンカチはもう血が滲んで元の色がわからない。瘴気は真秀の陣の中にいてもなかなか体内から完全には浄化されていないようだ。それは目の前にいる巨大な異生物の影響かもしれなかった。

真秀は自分の目の前で拳を真っ赤に染めながら字柄身刀(じつかしんとう)を振りかざしている読真を見つめた。読真もギリギリのところで闘っている。このままではらちが明かない。あの大きな異生物にまず一撃を加える必要がある。

そう考えているうちに巨大数珠玉異生物がそのからだを真秀の封字陣の中に寄せてきた。わずかにしゅうしゅうとその身体、エネルギーを削っている音がして靄が出るが、異生物は全く意に介していないようだ。

つまりこの浄化の封字陣は、巨大異生物のエネルギーを大して削っていない。

封字しか書けない自分が、どうやって読真を手助けするか。痛みでだんだんかすんでくる頭で真秀は考える。とりあえず血封字を書こう。

全塊置総躯(ぜんかいちそうく)

塊置総躯(かいちそうく)に対象を大きく取れるようにと『全』の一字を足す。闘字封字はイメージの力だ。その字にどれだけのイメージをのせられるかで威力が変わってくる。そういう意味では想像力や精神力を闘封書士は要求される。

大きく対象が広がるのをイメージしつつ血封字を書く。意外に美しい文字が浮き出て、ふわりと広がった。弓字幹(ゆじがら)を掴んで、血矢(けっし)を形成する。真っ赤な太い血矢ができたのを確認して、巨大異生物に向けて放った。

ひょうっと鋭く飛んだ血矢は巨大数珠玉異生物に深々と突き刺さった。異生物がオオオオという呻き声のような音を出してその巨体を揺らめかせた。そしてそのままその身を震わせながらも動きを止めていく。

そこに読真がもう一度字柄血刀(じつかけっとう)を振りかざして斬りかかった。真秀が血封字を書いたのを見て同じタイミングで血闘字を書いたようだ。

読真の字柄血刀が、呻き声を上げる異生物の数珠玉部分を三つ分ほど、深々と斬り裂く。そこからぶわ!と黒い靄が大量に噴き出してきた。おそらく瘴気とみて、張り続けている浄化陣の祈念にもまた集中する。


それでも瘴気は二人の身体から体力を削った。胎内で暴れまわる瘴気が痛みと不快感をぐるぐると巡らせてくる。真秀の浄化陣が張られているからぎりぎり動けているが、この陣が利かなくなってしまえば動けなくなるかもしれない。

巨大数珠玉異生物から洩れ出てくる瘴気は、そのからだが大きいだけに量も多かった。浄化陣への負担が大きくなる。このままでは真秀は封殺のための陣が張れないだろう。

読真はそう考え、一か八か新しい闘字を使ってみることにした。対象の異生物が大きすぎるから、ここはやはり血闘字を使うしかないが。‥まだあと何回かは血闘字を使っても大丈夫だろう。そう踏んで真秀に言った。

字通(あざとり)、穿刺放擲を使ってみます!あのデカブツをどうにか遠ざけられれば、封殺のための陣が張れませんか?」

「‥わかった、もし遠くに移動ができたら、すぐに封殺の陣を張る。だがどうする、スピード重視か?陣の広さ重視か?」

真秀の問いに、寸の間読真は思案して答えた。

「スピードで!‥その後は何とか俺が異生物の動きを止めます!」

「わかった!」

真秀の返事を聞いて、すぐにまた読真は闘筆に血を含ませ血闘字を書いた。

穿刺放擲(せんしほうてき)!」

浮き上がった血闘字に向け、ありったけの力を込めて祈念する。字柄の上にかなり大きな赤い刀身が現れ出た。今まで使っていた刀身より太さが倍ほどもある。

祈念次第で何とかなるもんだな、と思いながら読真は字柄血刀(じつかけっとう)を握り直す。巨大数珠玉異生物は、真秀の封字によってその動きを阻まれながらも、じりじりと動き出そうとしていた。

その異生物に向けて、思いきり字柄血刀を振り抜いた。字柄血刀から異生物に向かってその刀身が放たれる。

ブシュ!という音とともに赤い刀身は異生物に吸い込まれ、それと同時にその巨体が吹っ飛んだ。


鹿野山森林公園、ちょっと長くなってます。ダレないように書いていきたいのですが、なかなか難しいですね~


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