鹿野山森林公園での闘い 3
戦闘シーンは難しいですね‥
浄化の陣も維持し続けながら、広域の封字陣を祈念するのは骨が折れた。しかも血封字として張っているため、体力と気力がずるずると引き出されていくのがわかる。また、体内に侵入している瘴気も完全に消えているわけではないため、体力の消耗度合いは尋常ではない。
あれだけトレーニングを重ねたのに息が上がる。額には冷や汗がじわじわと滲んできた。
そしてそれは読真も同じ状況だった。真秀の浄化陣内にいるから多少はマシになっているが、瘴気は読真の身体の中で暴れまわり、祈念するのに必要な集中力を阻害してくる。必中央身動制は、異生物の動きを封じ込めるにはぴったりの闘字ではあるが、これだけ異生物の数が多いとからめとった異生物に対する祈念と今形成している字柄血刀の刀身の維持両方の祈念がかなり負担になっていた。意識を二方向に向けての祈念は、これまた体力も気力も消耗する。
瘴気に悩まされながらの祈念は、相当に辛かった。体内で瘴気が暴れていることが影響しているのか、字柄血刀を握りしめている爪の間からじわじわと出血してきている。それに気づけば次に鼻から血が出ていることにも気づいた。闘筆を持った左手でぐいと拭うが止まらない。
まだ動きを止められていない異生物に斬りかかりながらも、血が垂れないように注意を払わねばならない。人間の血肉に触れた異生物は、劇的に力を回復する場合がある。この大きさの異生物であれば本来心配しなくてもいいはずだが、どうもこの異生物の動きは今まで見たどの異生物にも当てはまらない。
油断はできなかった。
真秀は、二つの封字陣を維持し祈念を続けながら自分の変調に気づいた。
じわじわと身体の中に違和感が広がっている。
その違和感は、次第に鈍い痛みとなって真秀の身体全体に広がってきた。祈念のための集中力が削がれそうになり、身体の痛みを意識しないようにしながら必死に祈念し続ける。その向こうでは読真が血闘字をのせた字柄血刀を振るい異生物を斬り払いながら絡めとっているのが見えている。その読真の顔にも余裕がないのは見て取れた。自分と同じように、体内に変調をきたしているのだろうか。
浄化の陣は好調に維持できていると思う。だが、広域の総域留置横拡陣が、なかなか上手く張れない。祈念がのっていかない。ただただ体力と気力が削がれていく。
しかし読真があれだけ闘って異生物のエネルギーを削ってくれている以上、何とかして自分がこの封字陣を昇結しなければ勝ち筋はない。異生物の発生はこの辺り一帯だけとは限らないのだ。
もう一組『闘封』がいたはずだが、今は彼らの姿は全く見えない。この広大な公園敷地内のどこかで異生物と対峙しているのかもしれない。
とにかく、読真と真秀、この『闘封』で何とかするしかなかった。ギリギリと歯を食いしばり、意識を痛みに向けぬよう気の流れに集中し祈念する。無意識のうちに唇を噛んでいたらしく、鉄の味が咥内にしみてきた。
ぽた、とその血が地面に落ちた。
その時、ぐん!と封字陣が力を持ったのを感じた。血を落としたからなのか、判断はつかないが、この様子なら昇結できる!
真秀は最終段階の祈念をした。ぶわっと封字陣が浮き上がるのを感じた。読真が戦っている方に向けて叫ぶ。
「昇結!」
その声を聞いて読真が振り返った。顔を見れば鼻から血を流している。ぎょっとしたが読真もおそらく瘴気にやられていたのだろう。お互い目を合わせて祈念を合流させた。
「「闘封!」」
声が揃う。ぐうん!と陣の広がりが力を持ったのがわかった。異生物たちがざわざわと騒いでいる。
持てる力をぶち込んで叫んだ。
「封殺!」
ふぉん!という音とともに異生物が消え去っていく。
それを見てがくりと力が抜ける。
だが痛みはまだ消えていない。異生物が消えたのに、それから発生していた瘴気が消えないというのはおかしい。
肩で息をしている読真を見れば、字柄を握っている拳からたらたらと血が滴っているのが見えた。‥あれも瘴気の影響なのか。
どういうことだ、何が起きている?
辺りを見回していると背中が粟立つような感覚がふいに襲ってきた。
「読真!」
読真も同じタイミングで身体全体を悪寒が走ったのを感じていた。何より出血が全く収まらない。
「何が起きてる‥?」
そう読真が呟いた瞬間、恐ろしい突風が地面から上に向かって吹き上げられ、ずおおおお!という轟音が鳴り響いた。二人がはっと音のした方を見れば、
大きな玉のようなどぶ色の異生物が何重にも連なったものが立ちはだかっていた。
巨大な数珠がどこまでも連なっているような、長さの判明しない大きな異生物だ。そしてよくよく大きな玉を見れば、先ほど封殺したはずの小さなモルモットくらいの異生物がぶらぶらと垂れ下がっているものが何体もあった。
巨大数珠玉の異生物はぐわっとその身体を立ち上がらせた。端が連なっていないと巨大な蛇のようにも見える。その終わりの端は全く見えず、地面の上ので何重にも重なっていた。
立ち上がった部分だけで5mはある。
二人は、巨大な異生物を見上げて息を呑んだ。異生物は、ふおおおっという音とともにその丸い玉のようなものを震わせ始めた。そしてその玉からにゅっにゅっと鋭い針が飛び出してきた。丸い玉だったものは大きな針山のような形に変形しつつある。
真秀は叫んだ。
「読真、俺の傍に寄れ!砕躯浄空域!!」
針山になった異生物を見た真秀はすぐさま浄化の封字を書き、自分の周りに封字陣を張った。
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