鹿野山森林公園での闘い 1
この予報の精度が上がってから、市民はようやく自然を楽しめるようになったと言っても過言ではない。旅行や学校の研修などでも自然豊かな場所が選べるようになって行動範囲が広くなった。
また、『闘封』たちが対処するのにも活用され、発生から時間を置かず対処できるようにもなった。この十年ほど、予報のお陰でずいぶん異生物による人的被害は減ったと言われている。
その予報が発令され、この公園はほぼ避難がすんでいるはずだ。ちらほらと見える人影は公園の警備や管理に当たるスタッフのみである。
書士たちは一般の人々に比べれば、異生物の気配を感じやすい。感覚を研ぎ澄ましながら、池の周りを探索する。なかなか見つからないが確かに気配はあるのでいることには間違いがない。
「読真、探知できない!お前はどうだ!?」
「無理です、まだわからない!うっすらとした空気は漂っているが絞り込めません!」
走りながら、そう会話する。すると急に真秀が立ち止まった。
「読真、あの封字を使った陣を張ってみる、うまくいけば感知できるかもしれない!」
そう言って真秀は闘筆を噛んで、すっと封字を書き始める。
「砕躯浄空域」
本来、多少異生物の生命エネルギーを削ぎつつそこから出た瘴気を浄化するための封字陣だが、これを張ることで微細な瘴気の流れも感知できるようになっていた。またこれは予測でしかないが、真秀の中に入っている異生物の影響があるのか、この封字陣に関してはかなり広い範囲で張れることがわかっている。
真秀が封字を書くと、字はふわりとほどけながら大きく広がっていく。薄く伸びながらその陣も広がり伸びていく。その中で真秀はじっと感覚を研ぎ澄ませた。
びり、とやや痺れるような刺激を感じた。
「読真‥いる、ん‥100mくらい右前方だ。反応は弱いけど」
「わかりました、急ぎましょう」
すぐにそこを目指し移動すると、池を背景にした植え込みの中で何かがざわざわと蠢いているのが見えた。
異生物だ。
大きさはモルモットほどで大した異生物とは思えなかった。だが数がすごい。あまりの数の多さでまるで大きな一つの異生物のように見える。
思わず一歩引いて陣を張ろうとする真秀に、読真は冷静に声をかける。
「字通、大丈夫です、数はいても連携を取れるような知性のある異生物はいませんから」
そう言いながら読真も闘筆を噛んで闘字を書いていく。
「動制」
闘字はふわりと光ってから、読真の手の振りにしたがって飛んでいき異生物に絡みついた。だが異生物の個体数が多すぎて、数体にしか絡んでいかない。しかも、こんなに小さく力のなさそうな異生物だというのに(異生物の強さは大体大きさに比例する)、何体かは読真の闘字からするりと抜け出た。
「!?」
その異常さに気づいた読真が、また別の闘字を書いていく。その隙にざざざざっと異生物の団体が二人をめがけて向かってきた!
「読真!」
「‥くそっ」
闘字を身刀にのせられない。結ばれることなくしゅんと消えた闘字に苛つきながら、読真は身体を跳ね動かして異生物を避けた。
真秀はまだ先ほどの砕躯浄空域を張り続けているので、真秀の近くに寄った異生物はしゅうしゅうと煙のような靄を立ち上げ、すぐにそこから避けていった。それを見て、読真は真秀の陣の中に入って身闘字を書こうと思い真秀の傍に駆け寄ろうとした。
そこを異生物の塊が、地面すれすれにまで低く移動して読真の足に絡みつこうとする。間一髪、大きくジャンプして避けることができたが着地の際に足を捻ってしまった。
(‥チッ)
鈍い痛みに耐えながらも何とか真秀の陣にまで移動する。そこで闘字を書き始めた。
「鋼網削刃線!」
字柄を握って差し出し、闘字を身刀に形成していく。白く輝く刀身が出来上がり、読真はそれを祈念しながら両手で握りしめた。
真秀が読真に声をかける。
「広域の陣を張る!悪いができるだけ削ってくれ!ちょっと時間がかかる!」
「了解!」
真秀は今の陣を維持しながら、もう一つの封字を書いて陣を形成し始める。
「総域留置横拡陣!」
もともとあった砕躯浄空域の陣の上に、新しい広域封殺陣がゆっくりと広がりじわじわと形成されている。多少速度は速くなっているようだが、やはり時間がかかるようだ。額に汗を浮かべながら真秀が必死に祈念しているのを見て、読真は身刀を構え異生物の群れに斬りかかっていった。固まっているところをどんどん斬りはらっていくが、ばらばらと小さな個体に分かれて読真の身刀を避けようとする動きが見える。
(‥連携、している‥?)
ふとそのような違和感を覚えたが、今までそういう例を聞いた事がない。気を取り直して再び祈念し、鋼網削刃線ののった身刀を振るい、広範囲にダメージを与えエネルギーを削っていく。
身刀に触れた異生物は、しゅうしゅうと靄をあげてその大きさを縮めていく。真秀が封字陣を全て張り終わるまでにできうる限り削っておきたい。その方が封殺しやすくなるからだ。
可能な限り広範囲に字柄身刀を振るい、多くの異生物をからめとるようにしていく。
はじめ大きな一つの塊に見えていた異生物はすっかりばらばらの小さな異生物に変わり、読真の周りで蠢いている。真秀の周りではまだ砕躯浄空域の封字陣が効いているらしく、異生物は真秀に触れることはできないでいるようだ。真秀の足元にはかなり大きな陣が少しずつ出来上がりつつあった。あの大きさなら、今ここにいる異生物はすべてカバーできるだろう。
そう思ったとき。読真の前に、小さな異生物が整然と一列に並んだ。今まで見たことのない異生物のその動きに、思わず足が止まった。
すると異生物たちの身体から一斉に10cmほどの鋭い針が無数に発射され、読真の身体を貫いた!
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