新しい闘封字 試行錯誤
今後は、週三回くらいの更新頻度になるかと思います。
少し斜面を登っていく。この山はあまり登山道なども整備されていない。異生物が小さいとはいえ多発地域でもあるし、この山がある一帯を書字士会が買い上げてしまっているので私有地にもなっているからだ。
だから無造作に生えてしまっている灌木や茂みなどをかき分けながら進まなければならない場所がある。明日以降の鍛錬のためにも、一応の山道に支障のないよう切り拓きながら進んでいく。
そうしているうちに二体の異生物が現れた。一体はわずかではあるが少しずつ瘴気を散らしている。これは早めに封殺した方がいいだろうと二人でアイコンタクトをしながらお互い少し離れた場所に位置を変えた。
読真は再び新しい闘字を書く。「穿刺放擲」の闘字が、先ほどよりは少し歪みの少ない状態で浮かび上がった。集中力を切らさないようにしながら祈念する。そして一体の異生物に投げつけた。闘字は少し崩れはしたが、そのまま異生物の身体を刺し貫いてからめとった。第一段階を突破した、と思いながらも祈念を続ける。そして手を振り上げ、飛ばしたい方向へ向けてサッと振り抜いた。と、からめとられていた異生物が思った方向へひゅんと飛ばされた。飛距離は稼げなかったが、とりあえず「からめとって遠くへ飛ばす」という目的は達せられたと思う。
真秀はその様子を見て、声をかけた。
「読真、あと一体を反対方向へ飛ばしてみてくれ!広域の陣を張ってみたい」
「わかった」
短く返事をしてもう一度闘字を書き出す。
「穿刺放擲」
三回目となってようやく歪みのかなり少ない闘字が浮かび上がった。色も薄い乳白色になって強さが見える。その姿に少し安心しながらも祈念してもう一体の方に闘字を飛ばす。先ほどよりも素早く飛んだ闘字は、異生物の身体の中心を刺し貫いてがっちりとその身体をからめとった。そのまま手を振り抜いて逆方向へ飛ばす。先ほどの異生物は10mほどしか飛ばなかったが、今回は姿が見えないほどに飛んでいった。
「字通、すまん異生物の姿が確認できなくなった」
だが、真秀は異生物の行方を、集中してみていたのでおおよその目測は立てられた。
「大丈夫、いける」
そう言って闘筆を噛んだ。
「総域留置横拡陣」
真秀の書く封字は、読真の書く闘字よりも柔らかく繊細な字だ。だがその分鋭さも見える字である。空に浮かんだ封字は、少しきらきらとしたものを纏っていた。それに向かって弓字幹を構えて手早く祈念し、身矢を形成する。乳白色の身矢をつがえ、別方向に飛ばされた二体の異生物をカバーできるよう、中心に落ちるよう狙って空へ放った。身矢はひゅうと鋭い音を立てて光をまき散らしながら飛び、放物線を描いて地面に突き刺さった。ぶわ、と地面に封字陣が浮かび上がる。
真秀はそれを確認してから地面に手をついて祈念した。やはり、広域に展開すると全体の形が歪む。本来、刺さった身矢を中心に綺麗な円形に展開するはずの陣は、いびつな形になっていた。だが何とか二体の位置には届いていたのでとりあえず良しとする。
口の中で封字を繰り返し唱えながら祈念を続ける。広域の陣は、祈念するごとに体力と気力を削っていく。しかも午前になかなかの運動量をこなしているから削られる速度が速いのが自分でもわかった。
(くそ、やっぱり体力が足りない)
そう思いながらも必死に祈念する。するとふわ、という白い光が手に集まるのを感じた。昇結した。
「封字昇結」
異生物に祈念を飛ばし続けていた読真も、真秀のその声を聞いて目を合わせた。
「闘封」
光がふわっと広がった。それを見て強く真秀は強く祈念した。
「封殺!」
しゅん、という音とともに異生物は消え去った。
ふう、と息を吐いて額の汗をぬぐう。本当に基礎体力をつけなければ、広域の陣は張れない、ということを痛感させられた。だが、この先異生物と戦っていくならば広域の陣を張れる能力はもっていたい。
「字通、陣は上手く張れていたように見えました」
そう言ってくれる読真に対して、苦笑いで返した。
「いや、形も歪んでたしあんな小さな異生物相手に時間がかかりすぎてる。こないだ錬地で遭った異生物だったら陣を張った瞬間にほどかれてたと思う。‥やっぱ基礎体力だな。読真の穿刺放擲は二回目三回目は結構うまくいってなかったか?」
読真は読真で、ぎゅと眉根を寄せて顔を顰めた。
「いや‥俺も字通と同じですね。相手が小さかったから何とかなりましたけど‥俺のやつもこないだの錬地の異生物なら、身体に刺さったとすぐにほどけて抜けちゃってると思います」
二人で難しい顔をしながらうーんと唸り合う。しばらく考えていたが、真秀がパン、と自分の両頬を平手でたたいて顔を上げた。
「いや、そんなに急にうまくはなんないよな!とりあえずあと一か月あるんだから、地道に回数をこなそうぜ。デカい異生物は出ないっぽいから、回数で鍛錬を重ねるしかないよ」
そう明るく言ってのける真秀を見て、読真もふっと身体から力を抜いた。
「そうですね。‥とにかくもう少し歩き回って封殺していきましょうか。目標としては、今日は後二十体を目指しましょう」
読真の言葉を聞いて真秀は目を剝いた。
「えっ、二十、って読真、体力‥持つ‥?」
読真は眼鏡をくっと上げてニヤリと笑った。
「まあ、もたなくても死ぬような目に遭う強い異生物はいませんから。限界まで追い込んでいきましょう」
そう言ってまた茂みを切り払いながら進む読真の後ろ姿を、真秀は恨めしそうに眺めた。
「あいつ絶対、マゾっけあるよな‥」
ぐいぐい進んでいく読真に小走りで追いつき、自分も弓字幹で低木や茂みを切り払った。
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