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第81話 学園政治とフリムの水販売。


ちょっぴり研究棟が盛り上がって騒ぎにはなった。これまでこの国の金属はそれなり程度で品質は良くない。高品質なものは他国からの輸入で最高品質のものは精霊の気まぐれで手に入る。


普通の鉱石もあるにはあるがこの国の風潮として精霊信仰が強く『自然からの恵みはあまり加工することなく消費することが素晴らしい』というような文化がある。


果物なんかはそこそこ豊富にあるし、親分さんが食べ物を常備していたのもそんな風潮もあったからかもしれないな。



皆バラバラの講義になって環境がガラッと変わった。昼には一緒に食事をするからわかるがみんな結構お疲れのようだ。


私の授業予定のうち半分はギレーネの礼儀作法の時間だが参加していない。偶にちらっと廊下で見かけるとすごい形相で睨みつけてくるが、大人だった私には「相容れない人はどこにでもいる」とわかっているので耐えられる。普通の5歳だったら泣いてしまうかもしれないがフリムちゃんは普通の5歳じゃない。何なら睨み返す。


礼儀作法の授業が空いた分は「賢者」としての権利を使って空き教室を借りてエール先生にまともな礼儀作法の授業をしてもらう。疲れたら水を飲んで自分の家の事務作業も行う。


大学の講義のようにある程度自由に動いて良いのは結構好きだ。リーザリーや教室の子と少し談笑するのも良いが、あまり集団で居続けるのは好きではない。こちらの常識がわからずに空気を壊してしまうこともある。


エール先生も私を構いすぎないし、私の行動を尊重してくれる距離感を保ってくれるのが嬉しい。



「おはよう、御機嫌いかが?」


「……………クラルス先生、なんでベッドに入ろうとしてるんですか?水を買いに来たんですか?」



深夜にクラルス先生がやってきた。エール先生は彼女の横で困り顔になっている。



「今日はちょっと違うわね。ちょっとお話があって……ごめんね。寝てたのに」


「いえ、支度をするのでちょっと待ってください。あ、エール先生、携帯食料をクラルス先生に出してください」


「わかりました」



この二人は仲がいいのかもしれない。こんなに深夜に来たというのにエール先生はクラルス先生に対して警戒していない。


それよりも「こんなに深夜じゃないと話せないことがある」って……なんだろうか?



「なにか緊急ですか?」



上着を着て一応杖を手に取る。流石に平和ボケしている部分がある私も用心しておくべきだと分かる。



「いえ、急ではないわね……多分だけど……なに、これ美味しいわね!素朴に良い歯ごたえでほんのりした甘み!単純だけどこの別の味のやつがあるから!いくら!でも!食べられ!そう!だわ!!」


「お水もどうぞ」



ひょいぱくゴリゴリと瓦せんべいのように堅い堅焼きクッキーを食べているクラルス先生。


以前豆を砂糖で固めたようなカロリーバーを彼女から渡されて、そこから発想を得たものだったし機会があれば食べてもらおうと考えていた。


残念ながらクラルス先生のものと違って材料を幾つも組み合わせると失敗しそうだった。ちょっと粗めの小麦をよく挽いて水分を減らし、癖のある砂糖を厳選して作ったお菓子。


日持ちもするし、小腹が空いた時も気軽に食べられる一品だ。大学でもお菓子をいつも持ち歩いている子が居たけどこの世界では現代のようにお菓子は発達していないし当然ながら売っていない。


……だいたい前世のお菓子って「美味しくて」「溶けずに」「個包装されて」「安くて」「どこでも買える」「毒も異物も気にしなくて良い」なんて、本当に凄い世界だと思う。指にもベタつかないとかどうやって作ってるんだ……?お菓子も人並みには作れたけど企業努力や歴史の積み重ねを当たり前に享受できていた現代って本当に贅沢だったんだなぁ。



こちらの世界もお菓子はそれなりに別の発展をしているみたいだけどやっぱり物足りない。チョコ食べたい。抹茶チョコとかアイスも……。



「んくっ!ありがとう、ギレーネが悪評を言い回ってるみたいよ。ルカリムの悪魔の子だとか成り上がりものだとか……「あの子は悪魔よ!杖を向けられたわ!」「もう少しで殺されるところだったわ!!」とかね」


「それは、大丈夫なのですか?ギレーネ女史はあんなのでもこの学園内では学園長の妻であり政治的に……。」



声真似なのかちょっと声色を変えて話すクラルス先生。


そこまで言われているのか……杖を向けたのは確かだけど脅迫じゃなくて助けるためだったんだけど。



「この学園内では王宮と違って学術派閥や魔導師派の方が今は力があるわね。政争前にも色々あったけど、そうね、エールはその前に卒業したもの……」


「学園長は今何を?」


「事実確認の調査を依頼はしているわ、でも忙しい人だからね。だけど一応騎士科が動くかもしれないから気をつけてね?」


「騎士ではなく騎士科、ですか」



人が3人集まれば派閥がうまれるというし、この学園内も色々あるようだ。後でエール先生に聞こう。



「それはそれとして、大事なのはこっちね。はい!」


「なんてところから出すんですか貴女は!!?」


「結構便利よ?」



クラルス先生はローブでわかりにくい……いや、一目でわかるわかりやすいナイスバデーである。まさか胸の谷間に手紙を挟んでくるとは………。


真っ赤なエール先生が私が受け取る前に手紙を奪い取った。


なんか興味本位だけど手紙に触ってみたい気もしたが大事なのは内容だ。



「私も中は知らないけど読んでも良いって言ってたわ」



ユース老先生からの手紙だった。直接話してもいいが秘匿性の高い話のようだし、ユース老先生の周りには常に人がいるからお使いにクラルス先生が来たようだ。


女子寮だしね、クラルス先生じゃないと問題だよね。



「なるほどね」


「やってみてはいかがです?」


「えー……」



―――手紙の内容は杖に関することだった。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




それはそれとしてクラルス先生は良い話も持ってきてくれた。


クラルス先生は薬品に精通していて、この学園内にも商店を持っている。


そこで私の水を売ってくれないか?という打診だった。


私もそれは大賛成だ。「転売と横流し禁止」と「販売者名と販売量を控えること」を公表すること。そして「販売するかどうかはこちらで決める」という条件のもとにクラルス先生の薬局で販売することが決まった。


こちらも私を攻撃してくる人に「戦略物資フリムちゃん水」を売るのは避けたい。


怪我の治りもほんのり早くなり、魔力の回復にも多分使える。美容や健康にもちょっと効果のある謎の水だ。


私の水は私の思っている以上に価値が高く、商品として取り扱ってもらうのにいくら払えば良いのかと思ったがむしろお金を払うとまで言われた。



「ちょっと不思議なんですが私が出した水でなんで私の怪我が治るんでしょうか?」


「水にも等級があってね、そのあたりの川や井戸の水にも水質ってのがあって……えーっとどう説明したら良いかしら」


「山の水源の水は飲めるけど、山の下流の水は途中土で汚れたり獣が触れたり糞尿で汚れるから飲めない、みたいな話ですかね?」


「そう!そうなの!!それでね、水の魔法をつかって出すとその人の力だけじゃなくて精霊の力も追加されてるからその分効能が出るのよ!だから契約している精霊によっては使えなくなったりもするんだけど……こんなに力強い水はなかなかないわよ!」


「精霊によっては?私は契約していませんが……王様の元で大人になったら契約する機会を与えられるんですよね?」


「そうね、でも貴族はそのお父さんやお母さんが契約していてその力の名残があったり、精霊と接する事もあったはずだから気に入られているのかもしれないわね」


「なる、ほど」


「大人になって何処かの精霊様と契約するとこんなに良い水じゃなくなるかもしれないから今のうちに売って欲しいわ!!」



契約してしまえばそれまでの力を振るえない人もいるのだとか。


アーダルム先生も本当は人と変わらない大きさの金属製ゴーレムの使い手だったが沼の精霊との契約によって大きな泥のゴーレムを呼び出せるようになったそうだ。


私の水には、私の魔力にプラスして精霊がなにか作用しているのかもしれない。


このあたりは学説があって「自然に存在している精霊がなにかやっている説」や「精霊が契約ではないなにかをしてくれている」のだとかとは考えや定説がコロコロ変わっているのだとか。


とにかく私は精霊とちゃんと契約している人よりもとても良い水を出しているらしい。ついつい杖を見てしまう。


なにか法則性があるのかもしれないとクラルス先生は調べているそうで細かい違いなんかの研究を聞いているうちに盛り上がって朝になった。


そのまま一緒にお店に行こうと思ったが――


「寮長に見つかると殺されるかもしれないから私は裏から出ていくわ」


「えぇ……」



そう言って天井を触るとそこから消えて行ってしまった。…………今、一瞬見えたけど天井裏に人いたよね!?


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