第50話 招待された王と常識にないヨルムンガンド。
フリムには悪いことをしていると思う。
俺にもっと力があれば、伯父上が強欲でなければ、他国が攻めこようとしてこなければ、貴族にまとまりがあれば、兄様たちが生きていれば…………きっともっと彼女は平和に生きることが出来ただろう。
褒美として爵位と屋敷と金を渡し……想定以上にフリムのもとには人が集まってくれている。しかし一度望むものは何かを聞いた時には「平和に命を脅かされずに生きたいです」なんて言っていた。
―――どう考えても無理だ。
轟音を立てて視界全てが燃えたあの時、騎士団が目撃し――――噂は広まった。隠しようもなくなってしまった。
あれだけ名のある暗殺者を揃えられるのはライアーム伯父上ぐらいだろうし俺が保護すればより危険となるかも知れない。……が、何もなしに放り出すのも危険すぎた。
そうしてフリムに派閥をもたせることで無理矢理にフリムの望むように最も命を脅かされないようにしてはみた。
彼女は俺の加護のせいか歳不相応に賢く、それでいて桁違いの魔力を持つ。おそらく賢人の霊でもついているのだろう。
本人が何も言わないのは……やはり「幽霊が見える」とか言うと危ないというのをわかってあえて隠しているのだろうな。光の神殿になど知られてしまえば狂人扱いされるやも知れない。
リヴァイアスの屋敷に入れるのは良かったが掌握は出来ていないようでエールから酷くこき下ろされた。使えないなら使えないでフリムが「水の名家の屋敷を所有している」だけで王都外の貴族にはよく聞こえるかも知れない。これも一つの手助けになればとも思ったが………まさか精霊に懐かれてか体を痛めていたとは。
「わざわざこれ以上苦難を与えるつもりですか!?フリム様の小さなお体のことを考えてください!!」って、そう言われても………。
まだ5つほどなのに、礼儀作法に魔法……普通なら倒れてもおかしくない勉強をしている。
屋敷のお披露目には真っ先に出向くことにした。フリムの派閥は王派閥とは一応は別だが、親しく見えるぐらいは良いだろう。完全に俺の派閥と見られるのは良くはないのかも知れない。
しかし、それでも俺がいることで罵詈雑言に晒されるようなことはないはずだ。過去には料理や借金、床の形が悪いなど難癖をつけて決闘した貴族もいる。王族の前での決闘は流石に法的に許されはしないし、騎士団がいれば流石に手を出すものはいまい。
出迎えてくれたフリムの笑顔が固まった気もするが今日こそ悪意に晒されないように護ってやろう!!
新たな勢力であれば伝統もないしもっと味気ない料理や対応かと思いきや……なかなかに素晴らしかった。「たると」というものはいくつも種類があって洗練されていた。
「これはこれは……!」
「美味い!」
「ほほう、美味美味」
肉のたるとはいくらでも食べれそうなほど美味かったし、うちの人間もいつも以上に食べていた。食い過ぎだし料理が足りなかったらどうすると思うが………俺がここで止めたらフリムの不手際を指摘するようになってしまう。
「こちらもフリム様の考案で作られたものです。美味しいでしょう?」
「ははは、とても美味だ!」
エールから「お前どうにかしろよ」という皮肉が来た。しかし無理だと視線で伝える。
フリムはよく働いている。挨拶に家のものへの指示に派閥当主の出迎え……やはり普通の子供ではないな。
「 がフレー ふん」
「ライアーム派閥の のだろう」
「 んと下品な、これだか 下賤の 」
「何処の生まれかも 」
本人は気がついているかは分からないが侮蔑の目や敵意にも晒されている。
こういう場でできるだけ貴族の本音を聞いておきたい。風の魔法を使わせて耳元に貴族の言を聞きとる。雑音も多いし聞き取りきれない部分もある。……そもそも派閥の仲間がいるから本人の意志ではなく少し強く言ってしまっているだけの可能性もある。何処までが正しいことやら。
「料理はうまいがそれだけだな」
「マハー ン様 変わらずお美しい」
「 導具の開発に成功したらしいな、先を越してやったぞ!」
「王の愛人 れとはな、道理で王も普通の令嬢に興味がない だ」
「少女趣味か?いや、幼女趣 流石に下衆で 」
「聞こえ ぞ」
「やは 士団への予算は 」
「や テリーオフ殿下のような輝きはない」
「モルディヴァ 爵、久しいですな!!」
「灯 の魔導具すら無 か?」
「新興派 金が無 うよ」
何だか俺への謂れ無い侮蔑もあった気もするが……仕方ないか。もう少し国情を安定させねば女人となにか出来るはずもないと遠ざけているのに高待遇している女性がいるとなれば言いたくもなるのだろう。関係のない話も多いが別の派閥にも風の使い手はいるし、不自然にならない程度に言葉を読み取り合う。外だからいつもよりも聞き取りにくい。
せめてフリムの援護はしようとフリムが揉めそうになれば俺が料理を催促して呼びつける。王の料理を家の主人が切り分けるのなんて当たり前だからな。………腹がはち切れそうになるがこの場で俺がわがままを言って呼びつけることで事を起こしそうな馬鹿からフリムを引き剥がそう。
そのうち暗くなってきたが灯りの魔導具ではなく松明での灯り。金が足りなかったかそれとも魔導具の予備がなかったかとエールに聞くとなにかの演出のようだ。
更にフリムが歩き回って魔法を使うと氷が作り出されていく。これも演出の一環なのだろうか?フリムが会場を動く度にいくつもの氷の柱が出来上がってきた。
「……ほう」
「まさか五属性だと!!?」
「なっ!?」
なるほど、炎に照らされた氷がキラキラと美しい。フリムは氷の属性まで持っていたのか?たしかに希少属性の披露は効果的である。
―――――しかし、これは演出の一端でしかなかった。
「お集まりの皆様!この度はお越しいただきありがとうございます!」
フリムが笑顔で満座となった会場の前に出てきた。
既に重要な貴族相手には挨拶をしていたし後は魔法を見せるだけ。派閥の長として自分の魔法を見せるのか、それとも派閥の魔法使い達の魔法を見せるのか……ルカリムの娘が来てまだ食べているのだが良いのか?いや、まだ他にも食べているものはいるにはいるが………いかんせん来るのが遅かったのが悪いな。それとなく喧嘩を売っているようなものであるが彼女が来る前からフリムは何かを準備していたし。
「ぜひ私の魔法を見ていってください<水よ!龍となれ!!>」
巨大な何かがでてきた。
――――『ヨルムンガンド』それは国を飲み込む災害であり『世界蛇』ともいわれる伝説の蛇、世界よりも大きく、己の尻尾を噛むほどの円環の蛇……そんな旧い伝説がある。
フリムからそれが作られて―――蛇が宙を舞う。
巨大な蛇であるがただの蛇ではない。鱗に鬣、立派な角、大きな牙に眼光、なにかの玉を咥えているようだが……水でできているとわかっているのに、なんという重厚感と威圧か。文献でしか見たことがなかったがこのようなものだったのか?なんと見事な。
どの属性でも精霊や生き物を形作る攻撃魔法はあるがここまで巨大なものはそうはない。貴族たちの衝撃は計り知れないものだろう、間近に見た貴族は腰が抜けている者もいる。
水の属性の操作で出来る倍の範囲は動かしている。何も知らない貴族たちは風の属性もあるのかと口々に呟いている。フリムの出したヨルムンガンドは会場に乱立する松明と氷の柱の合間を舞い、炎の煌めきが氷と水の体で乱反射して実に幻想的だ。
そしてヨルムンガンドは高く設置された松明に向かって――――業火を空に吐いた。
「キャッ!?」
「これは精霊様の御業ではないか??!」
「これが王家の加護か!」
「フレーミス嬢ー!!」
あまりの炎に会場は騒然とした。
ルーラの加護の効果なのかは分からないが、これはやりすぎだ。
なんで水属性しか使えないと言っていたのにあれだけの炎を水から作れるのだろうか?
爺も歳の割にうまいうまいと喜んでたるとを食べてご機嫌だったがもう渋い顔で熟考して動かなくなってしまっている。
自信満々のフリムだが……俺の想像を遥かに超えた事をしでかしてくれた。目標である「フリムの命を護る」「国内の政情を安定させる」どころか……本家ルカリムの大家としての地位まで奪いかねないやもしれんな。
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