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第42話 親分さんに突如持ち込まれた大案件。


「だって、あぶねーだろうが」


「バーサー……それは俺に力がねぇって言いたいのか?」


「………そうだ、下町では通じても王宮じゃ通じねぇってことだよ!」



親分さんに胸ぐらをつかまれたバーサル様。



「殴られてぇのか!!」


「ドゥッガの身体強化は認めてるが、あそこじゃどれだけ力があっても足りねぇんだよ!!クソつえぇフォーブリンの兄貴だって騎士団じゃ下っ端だ。悔しいがこんな負ける賭けにお前まで乗らなくていいって言ってんだ!!」



体格も良くて怖い顔で掴み合う二人は迫力満点だ。でもたしかにそうだよね……私だって王様にリップサービスというか騙されてる感がしないでもない。


私は旗、親分さんは基礎的な土台……そしてそこにどれだけ魔法が使える人がどれだけ集まってくるのかがポイントとなってくる。王様はもしかしたら私を使って人を集めて自分たちの盾にするかも知れない。だからこそのあの好待遇だったということもありうる。そこから察するに――――賭け以前に騙されてるだけの可能性だってあるということだ。



「なっ?!」


「俺まで引き合いに出すことはなかろうに……たしかにそうだが」



一触即発だ。大人の喧嘩の近くに子供はいない方が良い。私はもう虫になりたい。もしくは貝。


……フォーブリン様は二人を止めるでもなく頬をかいている。慣れているのだろうか?男同士の昔からの付き合いとはこんなものなのだろうか?



「俺はドゥッガにあぶねぇ事はしてほしくねぇんだ!分かるだろ!!」


「………ちっ、少し考える。てめぇら賭場にでもいろ」



バーサル様を軽く突き飛ばした親分さん。親分さんにとっても命の危機である。考えることも多いだろう。



「俺には二度と無い良い案だと思うんだがなぁ……ドゥーに任せる」


「……貴族になったからって良いことばっかじゃねえぞ?よく考えるんだな」


「………」



バーサル様にさっさと行けと手をひらひらとさせる親分さん。私も一緒に部屋から――――


「フリムは残れ」


「はい」



残ることになった。できればフォーブリン様とバーサル様に続いて自然と部屋を出たかったのだが……私が話の大本だし仕方ないか。



「フリム。おめぇはどう思うんだ?」


「わかんないです!」


「あ”ぁ”ん”!!?」



わざと元気良く答えると親分さんはすごい声を出した。正直怖い。



「わかんないので!わかりそうな親分さんを頼っています!」



現代だったら情報は様々なソースで調べ、考え、推察が出来る。スマホひとつあれば公然の事実がそこそこわかる。更に本や論文を調べれば専門家の研究が知れる。更に更に深く調べようとするのなら研究所に行って最先端のデータを調べる必要がある。


経済の情報を調べる仕事はそうやって情報を調べ、それまでのコスト、導入時における金額にリスク、メリット、デメリット……私の仕事は様々なデータを解析して政治家にもわかるようにするものだった。



「私は貴族のことはわかりません」



しかしここでは情報はスマホで集められないし、まともに本も読めない。まとめられた本ですら情報が古いのは当たり前。


なら何を信じて情報を集めるのか?人の目を見るのが大切だと私は思う。



「この国のことも世界の事も、魔法のこともわかりません」



訝しげな親分さんだが自分の思いをしっかり伝えないといけない。


人生でなにかを選択する上で自分一人ではできない時には誰かを巻き込んでしまうことはよくある話だ。そんな時、絶対に嘘だけはついてはいけない。


ましてや私や親分さん、それにここで働く人の命もかかってくる。もしかしたらワタ知らない想定もできない人の命もかかってくるかも知れない。



「だから分かる人の、親分さんの目を信じてみようと思います」


「――――……っ!」



ちょっと良いように言っているが結局親分さん次第なのだ。勝ち目があるのか、まったくないのか。フォーブリン様とバーサル様でも意見が割れている。


皆が絶対無理と考えているような選択肢なら私だって逃げる前提で考えるけど……バーサル様も反対はしているがここに来るまでに私を襲うこともなく、親分さんを説得するように反対するってことは完全に無理な話ではないのだと思う。


親分さんに追い出されることも覚悟しているが……やはり色々考えると私が生きる道で、最も正しい道なのはこれなのだと思う。


『誰にも迷惑をかけ無い』ことだけを考えて正しく生きようと思うなら、来るかもわからない暗殺者に怯えながらどこかで一人で生活することが良いのかも知れない。


何をしても『とにかく生きる』だけを考えるならライなんとか殿下さんの元に行って忠誠を誓うのが良いかも知れない。政争が終わったとはいってもこの国で最大勢力だそうだしね。


でもそれは嫌な道だろう。私と知り合って、私が助けて、親と仲が良かったらしい王様の敵に回って……きっとなにかしろと命令されてしまう。私とも縁ができてしまったあの人達に卑劣な手段を使う人の元にはいたくはない。



政治も、戦争も、貴族も………私にはわからないことばかりである。―――――なら自分よりも事情に詳しい人の見る目を頼るのだ。



日本でも歳をとってる先生のほうが頼りになる場合が多い。お医者さんの言うことや専門家の意見というものには説得力がある。


そりゃ何も知らない人よりも長く生きているだけでもなにかしらの経験はしているように見えるし、専門家であれば事情に詳しく見える。もちろんそういう人はピンからキリまで居て、的はずれなことばかり言う人や自分の所属する団体や国に利益をもたらそうと良い事ばかり言う人もいる。


それでもわざわざ発言しているのだから彼らの意見は判断する材料になる。


フリムちゃんは前世の記憶によって考察は出来るが私の常識に基づいたものでしか出来ない。こちらの世界の経験は皆無だ。私なりに礼儀正しく王城では過ごせたが貴族の常識なんて全く分からなかった。


この世界で色んな人を見てきたが、スラムでのし上がってきたという親分さんは実績もある。近くで見てきて計算高くて思慮深くもあるように見えた。暴力はよろしく無いが楽しいからと人を殺すようなタイプではない。


親分さんはマフィアだしちょっとは裁かれろと思うこともあるがここの常識では普通かもだし……もしも私が親分さんの上司になれるなら、これからここで起こる不幸は少しは減らせる……かもしれない。



親分さんが「逃げたほうが良い」と言うなら逃げるしやめておけというのならそうしよう。



「お前はほんと俺をのせるのが上手いな……だが、今回のことは良く考えなくちゃならねぇ。知ってる限りのことは全部話せ。それで決める」


「わかりました」



王様の様子から何から何まで伝えた。


勢力は分からないが王様やエールという人にはよろしくしてもらえたことや貴族様たちには大量に貢物が届いたことも何から何まで全部。



「王様にはどう話していいか困ってたら好きに話してもいいって証文となんか渡されました」



私の持ち物から王様のサインされたものと私の名前らしきものがはいった証文を出して見せる。なんとなくで理解できている元々のフリムちゃんのこちらの言語知識では言い回しが難しすぎて何書いてるかわからないがなにか効力があるものと信じたい。


それと城を出る時に家門付きのナイフを一緒にもらった。城で良く見たマークのものだからきっとこの国の旗とか王家の家紋的なものだと思う。印籠とかじゃなくてわざわざナイフにするあたり物騒だ。銃刀法とか無いのかよとも頭をよぎったがこちらの風習なのかも知れない。


小ぶりだが装飾が国宝みたいなナイフを親分さんに渡すと……親分さんが少し緊張して両手で受け取ってくれた。



「はぁ……本物じゃねぇか」



「親分さんはどう思います?親分さんの考えも聞きたいです」


「俺は、そうだな。………悪い賭けだと思う」


「じゃあ逃げますか?」


「それもなぁ、水」


「はい」


「この国の頭がどうなろうと知ったこっちゃねぇとは思ってるんだが、この国は今すげぇ危うい。シャルトルかライアームか、それとも別の国が勝つのか。どうなるかは分からねぇが、この賭場がうまくいってるのはバーサーとフォーブの兄貴の力もある。もしも今の王が倒れられれば王都のドゥラッゲンは排除されるしその頃にはフォーブの兄貴も死んじまってるだろう。二人とも生き残ったとして。どうなっても賭場に二人ぐらいは守れるように金を集めてたが今回の暗殺騒動だろ?この国はかなり危ねぇ。そこにお前が水の大家の力をごっそり引き抜ければライアームの勢力は確実に減る。だがそこまでやっちまったら完全に俺はライアームと敵対することになるが……バーサーが城にお前を連れて行った段階でもう敵対は決まっちまっているか?なんでこんなことに………いや、俺が掃除の人夫にお前を使ったからか。水」


「はい」



天を仰ぐように天井を見ながらブツブツ言い始めた親分さんだがかなり考えているようだ。



「だからってシャルトルの勢力は弱い。やっと王権をとって騎士団も掌握したが全体を見りゃ死んじまった他の勢力の取り込みはライアームが勝っちまってる。だがこのまま何もしなけりゃフォーブの兄貴もバーサーも戦争が始まれば最前線送りか?クソが……いや、今ならまだ、しかし………」



親分さんが飲みきったコップに水を注いで、部屋の隅の水瓶にも水を補充していく。


親分さんの計算次第では襲われるかも知れない。……少し怖くもあるが王様からの証を見せた上でそんな短慮を起こすような人物ではない。



「まて、洗うから」 


「はい」



親分さんが大きな水瓶を持ち上げて窓際で洗う。私がいない間一度も洗ってなかったのか少し水が濁っている。



「ったく……」



いつかと同じようにガシュガシュと水瓶を洗う親分さん。


考えているようだけど……どうするかは決まったかな?


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