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第34話 王位を得た不審者には気になる少女がいる。


あの戦いは様々なものを奪い去った。


そもそも王位継承権に臣下が口出しすること自体が間違っているのだが父上の病に伯父上の暴走、権力を求めた貴族共の欲望、他国からの調略……果ては精霊に竜まで関与して因果が複雑に絡み合ってあらゆる人が不幸となった。



王家の人間は全ての人間が王位を与えられても良いように教育を受ける。大人でも子供でも、男でも女でも関係ない。王が死ねばある日王位は授けられる。


王位は人格でも、魔力の量でも、高貴な血筋でもなく、突然高位精霊の加護を授かることによって決まる。


王家には王家の役割がある。王となれば国で唯一、人と精霊の契りを結ばせることができる祭祀となる。


王が誕生すれば王は別け隔てなく臣下と精霊に縁を結ばせるが、やはり「王を支持した家は格別に精霊の寵愛を受ける」などという言葉が広まっている。


何も知らない貴族にとって誰に王冠が与えられるかわからない椅子取り合戦だが……それでも家格をかけて後援する人物を決める。


この国は精霊と人が共に歩んで発展してきたが強い魔法を使えるものは精霊の加護を授かり崇拝されている。誰もがそうありたいと望む。



次代の王となる資格を持つ王家の人間は一人を除いて皆優秀で支持が割れてしまった。



立派な王になるという教育を兄弟の誰もが受けるが全員が王とは成れない。椅子は一つだ。王になれなかったものは殺し合うし、予め競争相手を減らそうとするかも知れない。しかし、誰が次代の王となるのかは誰にもわからない。この仕組みは王家の秘密となっているが大家ともなれば知っているものもいる。


父上の病で完全に歯止めが効かなくなってしまった。



―――――精霊はこの起こるべくして起こる争いを一体どう思っているのだろうか?



俺はずっと王位なんて嫌だと公言して派閥も持たなかったから兄弟からも可愛がられていて……なぜか地獄のような権力闘争の末に生き残ってしまった。


最低限つけられた護衛達と毎日入る訃報に心を痛め、戦いを止めるように訴え続けた。


しかし、それは無駄で、貴族の悪意はこの身を穿った。



大好きな兄様や姉様達も恨みあって殺し合ったのではなく、当然のことだと胸を張って散っていった。


俺は、僕は、兄様たちがなんとか生きさせようとしてくれて、王宮の地下迷宮の奥、精霊も寄り付かない錆びた鉄の茨で囲まれた闇の中に放り込まれた。誰かが王位を授かったら出てくるように言われ、何ヶ月も光の入らないそこにいた。


魔法に縛られた奴隷が世話をしてくれて………ある日、闇の中で王位を授かった。授かってしまった。


すぐさま地上に出て、争いを止めるようにしたが兄様達は既に死んでいた。


自分は産まれてすぐ適性がないと言われていたが兄様達は適正がありすぎた。昔からかっこよくて、何でもわかってるという……何処か浮世離れしていた兄弟達。完璧な彼らと比べてなんと平凡かと貴族も自分も思っていた。


兄様達は『こんな人が王になれば全てうまくいくだろう』と一目でわかる。そんな人たちだった。



後に謝罪の手紙が届いたのだが、何を謝ることがあったのだろうか?



精霊は大嫌いで、兄様達も大嫌いだ。




闇の精霊の加護を授かって国王となったが貴族の支持がなかった自分がまともな王とはなれないことは彼らは理解していたのだろうか?支持だけで言えばまだ父上に代わって国務を取り仕切っていた無欲な叔母上の方が多い。いや、王位を争っていた強欲な伯父上の方がまだ……。


精霊も人間も滅んでしまえとも心の底から思うと同時に……それでも優しさはどこにでもあると知っていて、亡くなった兄様たちの望むままに王となった。俺の役割だったからだ。



ムカつく伯父上はきっと世の理や精霊の考えなんて何も知らずに生き残って攻撃してくる。俺も兄様たちがなんであんな事をしたのか今でも理解できないが……伯父上に殺されてたまるか。


精霊の加護は才能のない自分では持て余すことも多いがそれでも生きてこられた。


立場も「出涸らしのパッとしない殿下」と違って「特別な闇の加護を授かった陛下」では大きく異なって貴族たちも今のところ大人しく従ってくれている。



ある日、やけに綺麗な掃除ができるものに城の清掃を頼んだ。汚れが面白いほどとれているのも興味深かったが、強い水の力の残滓が見てとれた。


いつものように政務をこなしていると王宮の何処かから水の力が騒いでいることに気がついた。髪と目の色を変え、目立たぬ衣を着て見に行くと不思議と目を引く少女がいた。年齢からまだ契約はしていないはずだがその強い力を肌で感じた。


とても興味が出て、ついつい話してしまった。平民の子供なんて話したことがなかったのに。


彼女が特別な魔法を使っているとすぐに分かったが怪しかった。珍しい闇属性の杖を持って、持っているのに使わずに水を操る少女。刺客にしてはあまりにも幼いがそういう種族かも知れない。遠方にはそうした特徴のものもいると聞く。



――――人目のない今なら始末できるがまだ敵とは限らない。



友好的に接したはずだが邪魔が入って会話は打ち切られた。どうも危ない人に思われてしまったようで私の化けた特徴と一致する不審者がいるとすぐに耳に届いた。


しかしそれでも彼女が気になり、見に行ったが明らかに警戒されていて……名前を聞かれて思いついた名前を答えてしまい、更に大騒ぎになってしまった。宰相には酷く説教を受けた後に「どうせなので間者を始末しましょう。最近ブンブンうるさいですし」なんていう一言で宰相は毒で倒れたということにして間者の掃除をすることになった。


思った以上に間者は見つかった。「どうしようもないなこの国は」なんて考えていたのだけど自分の化けた姿絵が回ってきた。


このままではこの絵姿のものが見つかるまで終わらないとわかり、善良な似た人間が捕まって処刑されたらマズすぎて……似た背格好の間者を精霊に探してもらって目と髪を少しの間変化させた。色は黒にしか出来ないがそれでもなんとかなった。


あの少女、フリムには怖い思いをさせてしまったのかも知れない。これで安心してくれると良いのだが……。



――――それにしても何かが引っかかる。あの少女、あんな力を持つものが平民にいるわけがない。何故かは分からないが心がざわついてならない。



「恋では?おぉ陛下もついに色恋を知る歳に……!!」


「馬鹿を言うな、相手は幼女だ。………なんか引っかかるんだよな」


「それは精霊的な感覚ではないでしょうか?精霊に聞いてみては?」


「<ルーラ、どうなの?>」



頭に記憶が、思い出の残像が奔る。


水魔法を使える夫婦。地下に閉じ込められる前からの護衛である。彼らは加護を授かってしばらくして死んでしまっている。――――………いつのまにか忘れてしまっていた。


記憶が見せられるがなんの関係がある?なんなんだ?



「よくわからない力ですか?」


「あぁ、試そうにも何が起こるかわからん。闇だからな」


「なら私共の子にお願いしてもよろしいでしょうか?」



声も聞こえてきた。過去の記憶……段々と思い出してきた。


今はいない、子供の頃からずっと知っていたあの二人はもういない。人間味のない兄様達と違って温かみのある家族のような護衛であった。


毎日顔を合わせていたというのに……いや、だからこそ忘れようとしていたのかも知れない。


彼らの死に報いるだけの人間にならないと、思い返すだけでも罪な気がする。



「子?子がいるのか?」



腹も大きくはなかった。それに自分に付き従ってくれていて、子供がいる様子もなかったが……自分につけられる前に産んだ子がいたのか?なんて当時は少し不思議だった。



「今お腹の中にいまして」


「おめでとう?」


「ありがとうございます。それはそれとして子を授かってから一度毒で倒れたのでこのままでは産まれてこないかも知れません。なので試しに私の子にお願いしたいのですがいかがでしょうか?」


「しかし、良いのか?何が起こるかわからんぞ?」



加護の魔法は何が起こるのかはわからない魔法だ。ルーラは饒舌な精霊ではないし、いきなり使える魔法が増えても意味が分からなかった。しかし、それを使いこなさないといざという場面もあるかも知れないと練習していた。


人と精霊を繋ぐ儀式と違って、何が起こるかよくわからない加護の魔法。


王家や大家の行う誰かへの加護は人を害することはない。しかし唯一謎の深い属性である闇だけはその効果が定かではない。火であれば火に強くなる。水であれば水の中で呼吸ができる。光であればその身から光を発するなど様々だが闇は効果がわからない。夜目がきくようになったというものもいれば死者の声が聞けるようになったなどという不吉なものもいたはずだ。


四大属性の精霊の加護を授かった王の加護は特別なもので……。少し良い効果が出るだけなら良いが「水を見る度にその水を通して彼らの姿を見る事となってしまった」などの微妙な効果のものも記録には残っている。


それでも少しだけではあるが「魔力の増加」「毒への耐性」「僅かな健康増進」の効果も確認されている。



「王家の加護で体が悪くなった事例はありませんし、このまま何もしないよりも殿下の加護があれば心強いです」


「責任は取れんぞ?」


「かまいません。我が子のためにできることをするのが親というものです……畏れ多くも陛下の加護を授かるには不敬かも知れませんが」



子のため、か。病で逝った父上も元気な頃はよくかわいがってくれていたな。


それに何が起こるかわからない魔法などいざという時に困るし申し出てくれて助かる。ずっと護衛としてついてくれている彼らは第二の家族と心の内で思っているし、使うのに躊躇いはない。



「――……そうか、名前はなんとする?」


「――――――」




記憶が終わる。これがルーラの答えということだろう。


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