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第27話 魔法使いらしくなった?


「いいか、杖と人には相性がある。なくても使えるもんはいるが合うものがあったら段違いだ」



これでもないこれでもないと小箱から杖を選んでいる親分さん。渡されるとすぐに魔力を通していくがどれも全然だ。


水道の蛇口とホースのように魔力を通すのだが通した途端に抵抗があって詰まる感じがする。



「どれか魔力を通して使えそうなのがあれば良いんだが……。」


「これは?」



細い杖や1メートルはありそうな金色の杖、ボロな杖、先端に石の付いた杖。血痕付きで折れている杖……どれもピンとこなかった。


1つだけ箱のままだったものを出してみる。



「ん?それは……闇属性の杖だな」



箱をあけてみると真っ黒な杖が入っていた。全体が小さく、握りも細くて持ちやすい。



「これだけほんの少し通りが良い気がします」


「……それは、暗殺者のやつだな。微妙すぎるが……いや、むしろ持ってないほうが………。しかし何も持ってないのは流石に侮られすぎるし……まぁ良い、持ってろ、曰く付きだが無いよりかは良いだろ」


「え、あ、はい」



なんだか微妙な杖である。


色々渡されて部屋を出た。この杖は暗殺者が隠し持っていたという問題のある杖らしい。しかも特殊な属性である闇属性である。フリムちゃんは水しか出せないんだが……杖を持っているというのは一応ありであるらしい。



「『師から受け継いだ杖』とでも言っておけ、杖を持ってる魔法使いと持っていない魔法使いじゃ扱いがぜんぜん違うからな」


「わかりました」


「ちなみに水の出はどうだ?あと闇も試してみろ」



「<水よ。出ろ>」



杖に魔力を通すというのは難しい。他の杖であれば多分全く出なかったと感覚的に思う。それだけ抵抗があった。


この杖も使いやすいかというと……


「半分ぐらいしか出ませんね」


「闇は?」


「<闇よ。出ろ>」


「出た!?ちょっとだが」


「いえ、なんか杖に残ってただけみたいです」



水は素手で使うよりも悪化した。闇はなんか出たが私の力というよりも杖に残っていた気がする。


黒い靄が出た壁を触ってみるが何も変わっていない。煤のように壁になにか残ってるかと思ったが何も残っていないのは不思議である。水と違って何も残らないのか?


それにしても闇ってなんだろ?照らされた光が遮蔽物によって生まれる影?光が照らされていない暗い状態?



―――――……見せかけだけだがとにかくフリムちゃんは杖を手に入れた!



バーサル様が夜に蹴り出されるように帰っていった。いつどこでどうするかなどを聞かねば困るが……できる対策をしていく。


私が入りそうなぐらいの背負い鞄に掃除道具をいっぱい。お客の貴族が賭場で殴り合って忘れられた魔法使いっぽいローブ、雨でも掃除するためのつばの広いとんがり帽子……「ちょっとは見れるワンピース」に「掃除用防護服」そして「エセ魔法使いっぽい服装」もちゃんと準備する。新調された大きな箒で空は飛べなかった。


今更礼儀作法とか言われても無理だな。虫になる選択肢は残ったままだ。


その日、水の魔導書を2冊とも読み耽って少し練習し、そのまま寝落ちした。



「今回はほんとに悪いな」


「事情は分かったが無事に連れて帰れよ」


「すまんが約束はできねぇよ」


「そこは気概だけでも必ず帰すっていうところだろうがクソ兄貴がっ!」


「いてぇ!!?」


「ドゥッガ親分、着替えさせるので出ていってくだ―――



なんか夢の中でも親分さんたちが喧嘩している気がした。


濃い顔で暑苦しいぞおっさん共………気がつけば荷物ごと馬車に乗っていた。



「あれ?!誘拐!??親分さん!」


「起きたか?俺はバーサルでドゥッガではない……今回の件はすまんな。なにせ仕事先は――――……こういうことだ」



馬車のカーテンが開けられると、王都のどこからでも見えていた立派な建物がすごく近くに見える。大阪城の6倍ぐらいは大きいかな?



「お上からの命令だからな、どうしようもねぇよ」


「起きました。どうすれば良いんですか?」


「お声がかかるまで待つだけだ」



―――そうして王城の中で待つ事となった。



待つのも仕事らしく…………もう4日も部屋で待っている。


前世でこんなに別の会社の人間を強制的に待たせるなんてあり得ないが……貴族社会だなぁ。



「そういやお前はどこで行儀作法を身につけたんだ?」


「わかりません、いつの間にかです」


「良いところの出なのかもしれねぇな。髪の色も魔力もそうだ」


「どうしてそう思ったんですか?」



青い髪は確かにそう思うが行儀作法なんてものは大して学んでいない。仕事も経済産業を膨大なデータから研究して提出していただけで基本的にマナーなんてなっちゃいない。


職場で服が黄ばんでも数字とにらめっこしてる男どもと比べるとまだ身綺麗だったとは思うが……なにか特別目立つ事はあったか?


……いや、幼女がまともに受け答えするだけでも目立つか。



「見ててわかるだろ?路地裏出のやつは手づかみが当たり前だが、お前屋敷で魚を丁寧に食ってただろ?あんなに綺麗に食えるやつは貴族でもなかなか見ない」



そこ!?いや、食べ物は残したくないし不味くても食べきらないと勿体ないというか。魚を綺麗に食べるって楽しいから………逆に汚く食べるなんて無意識にでも出来ないわ。それも手づかみとか皿から直食いとかムリムリムリ!



「そ、そうなんですかね」


「まぁ出身を偽るやつなんて珍しくはないが――――やべーことになるなら言えよ」



ジロリと睨まれた……多分何かを疑われている。


きっと親分さんのように貴族の家から追い出されたとでも思っているのだろうか?もしもそうだとすればこの城の何処かでその厄介ごとの種が、私にとって危険な相手がいる。そう懸念しているのだろうか。



「………私、は」



フリムちゃんの頭の中にも確かにまともな生活をしていたという記憶はうっすらある。けど――――



「私は気がついたら路地裏で寝てて、いつの間にか親分さんのところでお世話になってました。それ以前のことはほとんど覚えてないです」



嘘は言っていない。以前の住所も名前も知らない。電話番号は……こっちに電話はないか。そもそも幼稚園児みたいな体の年齢って幼児健忘がどうとかってあまり覚えられないんじゃなかったかな?



「………そうか」



渋い顔のバーサル様だが逆の立場ならどう考えたって怪しいよね、フリムちゃんは。


更に従者ばかりの部屋にいて数日。別室のバーサル様が見に来てくれるが未だに呼び出しはかからない。


ご飯はちゃんと数皿出てくるし美味しいが帰りたい。タラリネ達どうしてるかな?皆で一緒に仕事できればよかったのに……。


待たされているストレスもあってか、空いてるスペースで魔導書を読むか魔法の練習に没頭するのは楽しい。水の魔法は杖を使うと効果は半減だけどむしろ操作の訓練になる。


貴族には魔法で成り上がるものもいる。それはドゥラッゲンの家で分かる。だから魔法使いは一定の評価を受けるはずだが……私の場合『魔法使い』ではなく『下働きの掃除人』とでも思われているかも知れない。



私も大人、社会において理不尽なことを言われたり出くわすのも当たり前だと理解している。大事なのはそこからどうやってその問題に対処するかだ。


今の状況は別の会社に行って重役と合うのに何時間も待たされているようなもので……微動だにせず動かずにいるのも正解かも知れないし、自己啓発本でも読んで待つのが正しいかも知れない。


ここでは私以外にも呼び出しを待つ人は多くいて、それぞれ何かで時間を潰しているようだ。同じように有意義に時間を潰す。



「<水刃!>」



掃除でもしたいところだが、掃除をするという仕事のために来てるし勝手なことをするなと言われるのはよろしく無い。


触媒も魔法陣も読めない詠唱も精霊もなしに使う攻撃魔法。ただ勢いも切れ味もない。多分水風船をぶつけるぐらいの威力しか無い。



「<水球よ。我を囲め!>」



暇つぶしに練習していたがそれでも周りの目が変わってきたように思う。



「でかい掃除道具を背負わされている幼女の下民」から「どこの魔法使い様だ!?」ぐらいにはなってると思う。


今はワンピースに魔法使いのローブで練習しているしね。


待機個室に入る時、流石に貴族であるバーサル様に荷物をもたせるわけにもいかなくて全身の筋肉がプルプルしながら歩いたもんな……。


同時に出せる水を増やし、一個ずつ無意識にでも動くようにする。


フヨフヨと浮く水は結構綺麗で面白い。体の周りに10ほどの水球を作り出し、一つ消し一つ増やし、ゆっくり動かしたり早く動かしたり……楽しいのは楽しいがかなり操作が難しい。出すだけの高圧洗浄よりも難しいなこれ。



「フリムちゃーん、水ちょーだーい」


「はーい!」


「おー!」

「ありがとー!」

「器用だな」

「いつもありがとう、美味しいよ!」



待機所と元々この城で働く世話係の人に飲み水を出すぐらいは良いだろう。一週間も居れば慣れたものでコップを差し出されるからそれに水を注いでいく。


評価やコメントなど、ぜひぜひよろしくお願いします✨


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